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第七十八話 追跡

「すまない。あの盗賊に逃げられてしまった」


 ジュリーとディーべの家で楽しく食事をした翌日、俺達の宿にやってきたヴァルキュリーが言う。

 あの盗賊というのは俺達の部屋で盗みを働いたあの盗賊のことだよな。

 その彼女が逃げ出したというのは一体どういうことだ?


「何があったのですか?」


 ヒルダが聞く。

 すると、ヴァルキュリーは申し訳なさそうに、


「実は彼女を捕らえていた檻が強引に曲げられていたんだ」


「自力でそれをやったということですか?」


「いえ、恐らくですが本人以外に誰か居たと思います。彼女にそんな怪力があったようには思えませんでした」


 だとすると、彼女を逃した犯人がいる筈だ。

 しかも、教会の監視されている檻から彼女を逃したということは犯人は教会に出入りができる人間ということだ。


「そこで我々は犯人が教会の中の人間と考えています」


 やっぱりそうだよな。


「なるほど。確かにその可能性が高いですね。ですが、どうしてそれをわたくし達に話したんですか?」


「あなた達が一番信頼できて、尚且つあの盗賊、ロスティーナのことを知っているからです」


「確かに俺はロスティーナ? のことを知っているがみんなは知らないし、それにどうして信頼できるなんて言えるんだ?」


「あなた達はこの街に来て間もない。無差別殺人の犯人である可能性は限りなく低い。そして、教会の人間が犯人である以上私の知り合いはどうしても頼りにできない。そうなったら、他に頼れそうな人はあなた達しかいなかった」


 この街に住んでいて教会の知り合い以外に誰も知人がいないなんて、彼女は普段どういう生活を送っていたんだろうか。

 確か、妹のクラリスが教皇様って話だったから彼女も結構人との関わりが制限されていたのかもしれないが。


「そこまで言われたら仕方ないわね。馬車は明日の昼に出るらしいからそれまでだったらこのジブリエル様が手伝ってあげてもいいわよ?」


 得意げに言うジブリエル。

 随分と上から目線で物を言うな。


「あの…失礼だがあなたは?」


「私は妖精族のジブリエル。人の心の言葉を聞ける者よ」


 そう言うと訝しげな表情をジブリエルへ向ける。

 すると、


「あら? 怪しいなんて酷いわね」


 そう言うとヴァルキュリーが少し驚いた表情をする。


「そうよ。あなたの心の声が聞こえるから一方的に自分が考えたことを話してもらって本当に心の声が聞こえるのかどうかを試すことだってできるわ」


「……どうやら本物のようだな」


 ヴァルキュリーは戸惑いながら言う。


「分かった。では、改めてジブリエル殿、あなたにロスティーナを逃した犯人と無差別殺人の犯人。この二つのことで協力をお願いしたい」


「勿論。任せておきなさい!」


 自信満々に言うジブリエル。


「じゃあ、今日は教会に行きましょうか」


「そうだね」


「ええ」


「ああ」


「ご協力感謝します」




 それから俺達はヴァルキュリーに案内されて教会まで移動した。


「私が直接案内するので大きな問題にはならないと思いますが、一応私から離れないように。教会を隅々まで案内します」


「分かったわ。任せてちょうだい!」


 自分が役に立つのが嬉しいのかジブリエルがやる気のようだ。


「教会の中に入るのは流石に抵抗があるわね…」


 シャーロットが言う。

 多分、魔人はクライシス教の敵だろうからな。

 教会に入るのには抵抗があるか。


「大丈夫?」


「うん…」


「何かあったらわたくしが必ず助けますよ」


「ありがとう」


「それでは付いてきてください」


 ということで俺達は教会の中へと入る。


 まず教会の両開きの扉を開けて見えるのは何百人も入りそうな礼拝堂だ。

 ここにも既に何十人ものクライシス信徒がいる。


「ジブリエル、どうだ?」


「ん〜人の数が多いからなんとも言えないわね。その二つの事件の犯人について聞いてくれたら嫌でも思い浮かべるだろうから聞いて回るのが一番いいかも」


「ふむ」


「では、私がみんなに聞いて回ろう」


 それからヴァルキュリーが聞いて周り、それを俺達がずっと付き添っているという側から見たらよく分からないことをした。


「どうでしたか?」


「ここに知っている人はいないみたい」


「そうですか。では、次の場所へ向かいましょう」




 ということで、それから食堂、図書室、みんなの寝室に俺のいた審問室がある場所など一先ず行けるところは全て行った。


「残すは私とクラリスぐらいだが…」


 ヴァルキュリーが少し深刻そうな顔をする。

 そりゃあ自分か自分の妹しかもう容疑者がいないかもしれないとなればこんな顔もするだろう。

 と、そんな彼女に負けないぐらい深刻そうな顔をしている者が一名。


「私はできるだけのことはやったんだから大丈夫。問題ないわ…」


 どうやらジブリエルが今まで何も手掛かりを見つけられていないことを気にしているらしい。

 あの自慢げな顔をしていた妖精族のジブリエルさんはどこに行ったんだよ。


「行きましょう。どんな結果になろうと私は自分の仕事を全うするだけです」


 覚悟が決まったのかヴァルキュリーの表情はキリッとしていた。


 それから俺達はヴァルキュリーに連れられて教皇がいるという部屋へと向かう。


「クラリス…居ますか?」


 大きな両開きの扉をノックしながら言うヴァルキュリー。

 その声は緊張しているのが伝わってくる。


「はい!」


 前に聞いたことのある透き通った声が聞こえた。

 すると、すぐに扉が開いた。


「ヴァルキュリー様!? 失礼しました! すぐに出て行きますね!」


 扉から出てきたのは教皇ではなく見たことのないクライシス信徒の制服を着た少女。

 銀髪のショートヘアーで澄んだ空色の瞳をしている。


「待て」


 部屋を出て行こうとする少女を止めるヴァルキュリー。


「そう慌てなくてもいい。せっかくだから君も中で話を聞いてくれ」


「…? 分かりました」


 もしかしたらヴァルキュリーは彼女のことを疑っているのかもしれない。

 もう話を聞いていないのは彼女と教皇ぐらいだからな。


「どうしたんですか? ヴァルキュリー姉さん」


 中から教皇のクラリスが近付いてきた。


「まあ、話は中でしよう」


「…?」


 不思議そうなクラリス。

 と、その時、ヴァルキュリーがジブリエルへ目配せをする。

 すると、ジブリエルは意味を理解して首をコクリと縦に動かして返事をした。

見てくれてありがとうございます。

気軽に感想や評価、ブックマーク等をして下さい。嬉しいので。

今週は連休があるので金、土、日、月曜日の四話投稿予定です。

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