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第七十七話 魔人の子

 教会の中にある一室。

 そこに俺とヒカリはいた。

 最初はヒカリと別の部屋になりそうだったんだが、割と無理を言って同じ部屋にしてもらった。


 今はあの状況を説明してもう少しで返してもらえるらしい。


「失礼する」


 俺達の部屋に誰かが入ってきた。

 見ると少し前に会ったヴァルキュリーだ。


「やはり君達のことだったか。聞いた特徴が同じだったからまさかとは思ったが」


「どうも」


「この国に来てそうそうこんなことになるとはついてなかったな」


「そうですね」


「こんなことが無いように我々も警戒はしているんだがな。面目無い」


「いえ」


 この人達もやれることはやってくれているんだから強くは言えない。

 しかし、どうしてあんなところで人が死んでいたんだろうか。

 例の無差別殺人なんだろうか。


「今回の件は言っていた無差別殺人と何か関係が?」


 俺は気になり聞いてみる。


「ああ。まだ調査している途中だから何とも言えないが恐らくな」


 やっぱりか。


「私も現場を見てきたが恐らくあれは死んでからしばらく時間が経過している。あそこら辺はあまり人も通らないから発見が遅れたといった感じだろう」


「そうですか」


「やはり犯人は深夜に犯行を行っている。そして、凶器は必ず金槌のような鈍器などを使っている」


「鈍器…」


 無差別殺人とはいうけど何か法則とかこだわりがあるのかもしれない。

 と、その時、


「失礼します。彼の仲間だという方達が参られました」


「そうですか。彼からは話を聞き終わったのでもう帰ってもらってもいいでしょう」


「分かりました。では、私が案内しますね」


 どうやらユリア達が迎えに来てくれたらしい。


「それじゃあ、気を付けて帰ってくれ」


「はい」


 それから俺とヒカリは女性に案内されて部屋を出た。

 すると、丁度隣の部屋からあの場にいた男が出てきた。


「あっ」


「…あなたはさっきの」


 ヴァルキュリーが今回の殺人は無差別殺人の犯人と同じだろうと言っていたし、部屋から出てきたってことは彼はあの殺人の犯人ではないということだろう。


 しかし、こうやってしっかり彼の顔を見たのは初めてだが顔立ちが整っていてイケメンだ。

 どうしてあんなところに立っていたんだろうか。

 そういえば、あそこにはあの盗賊も居たけどどうなってるんだろう。


「お互い、身の潔白が証明できたようですね」


「そうですね」


「僕はたまたまあそこを通りかかっただけなのにこんなことになってしまって、全く勘弁して欲しいですよ」


「俺も似たような感じです」


「悪いが、話をするならここを出てからにしてくれ」


 と、彼の側にいた男性が言う。

 恐らく彼を審問していたここの者だろう。


「これは失礼。それじゃあ、とりあえず歩きましょうか」




 ということで、それから案内されてこの教会の出口へと向かう。

 俺がいた部屋が審問をする為の部屋だからか建物のかなり奥の方でそれなりに歩いた。

 たまにある窓から月明かりが漏れているところを見るとそれなりに時間は経ってるみたいだ。

 みんなには心配させてしまったな。


 そんなことを考えながら歩いているとすぐに教会の出口まで着いた。


「あっ、来たわよ!」


 両開きの大きな扉を開けるとジブリエルがすぐに俺に気が付いた。


「…! ソラ! ヒカリちゃん!」


 みんな揃って俺達を待ってくれていたみたいだ。


「お迎えがいるというのはいいことですね」


「ええ、まあ」


「では、私達これで」


「気を付けて帰ってくれよ」


「はい」


「分かりました」


 それから俺達を案内してくれた二人が中へ戻っていく。


「おや?」


「ん? どうかしましたか?」


「ふむ。いえ、とりあえず仲間の元へ行かれては?」


「はい。…?」


 俺は少し気になったが彼に言われた通りみんなの元へ向かう。


「心配したのよ? 戻ったら二人とも居ないし。物が少し荒らされてたし」


「悪いな。実は俺達の荷物を漁ってた盗賊とばったり会ってな。それでその盗賊が逃げ出したから後を追ってたんだよ。そしたら、殺人現場に着いたみたいで」


「色々とついてないわね」


「でも、二人とも無事で良かったよ。私はてっきり襲われたのかと思ったから」


「俺もヒカリも怪我はないよ。なっ」


「……」


 ヒカリは相変わらず何も言わない。


「しかし、たまたま死体を見つけるとは本当に大変でしたね」


「まあな」


 色々トラブルには巻き込まれたが特に何事もなくてよかった。

 強いて言うならあの盗賊が何かを盗んだかどうかだが、貴重品とかは自分達で持つようにしてるからそんなに深刻に考えなくてもよさそうだ。

 それに何かを盗んだって言うならここの人が俺達に教えてくれるだろう。


 と、そんなことを考えていると、


「失礼。あなたはもしかして、パルデティア・シャーロット様ではありませんか?」


 後ろにいた彼がそう言う。

 どうしてシャーロットの名前を知っているんだ?

 もしかして、


「えっ…?! あっ…いや、そんなことは……」


 シャーロットは誤魔化そうとしているみたいだが急に言われて動揺を隠せていない。

 てっきり知り合いかと思ったんだがそうではなかったらしい。


「実は私の母が昔、あなたに助けられたとよく話してくれて。その話してくれた容姿とあなたがそっくりだったのでもしかしてと」


「母…?」


「ええ、私の母は魔人ですから」


 母親が魔人。だからシャーロットのことを知ってたってことか。

 でも、そうだとしてもよく分かったな。


「へえ…」


 ジブリエルが興味深そうに彼を見る。


「もしよかったら私の家まできて母に会ってはいただけませんか? お礼がしたいといつも言っていたので」


「う〜ん…」


 シャーロットの反応は微妙な感じだ。

 すると、


「うちになら晩御飯もあるので、皆さんもどうですか?」


「そういえば、まだご飯を食べていませんでしたね」


「でも今から行って迷惑じゃない?」


 ユリアが聞く。


「いえ、母ならきっと喜んでくれますよ」


「てことらしいわよ? どうするの?」


「分かったわよ。できるだけ魔人同士では合わないようにしてたんだけど」


「よかった。では、案内します」




 ということで俺達はこの男の家に行くことに。

 彼の名前はディーべというらしい。

 人と魔人の間に生まれ、本人曰く人間の血の方が濃いとのこと。

 そもそも彼の母親も外見は人間に近いみたいなのでそのおかげもあるだろうと言っていた。


 しかし、こんなところで魔人に会うとはな。

 一応、この国は神様を慕う人が多い国の筈なんだが、灯台下暗しというやつだろうか。

 意外とバレないのかもしれない。


「ここです」


 そう言って案内されたのはあの死体が発見された場所から少し離れた至って普通の家。

 こんなところにまさか魔人が住んでいるとは誰も思わないだろう。


「ただいま」


 そう言って扉を開けるディーべ。


「あら? 今日は随分と遅かったのね」


「ちょっと色々あってね。それより母さんに会わせたい人がいるんだ」


「会わせたい人…? っ……!? ちょっと待ってて。私、着替えてくるから!」


「あっ…いや、なんで?」


 まだ顔を見てないからなんとも言えないが忙しない感じがする。


「はあ…すみません。もう上がってもらっていいですよ」


「大丈夫?」


 ユリアが聞く。


「ええ、いつもこんな感じですから」


 俺達はディーべの家へ上がる。

 すると、部屋は綺麗に掃除されていてご飯のいい匂いもする。

 特に辺なところもないし、この家に魔人が住んでいるとは到底思えない。


 と、そんなことを考えていると、


「お待たせしました。それで誰かな〜ディーべが私に紹介…したい……っ…!?」


 奥の部屋から出てきたのは少し青白い肌に薄い紫色の少し癖のある長髪の女性。

 耳はエルフ族よりほんの少し短いだろうか。

 後は水色の目をしていて、一番特徴的なのは彼女の胸だろうか。

 多分ヒルダよりも大きい。

 正直目のやり場に困る。


「シャーロット様!? どうしてこんなところに!?」


 驚いた様子でシャーロットの方へ駆け寄ってくる。


「あなただったのね。なんとなくそんな気がしていたけど」


「お久しぶりです。私のような者を覚えていてくださったんですね」


「覚えてるわよ。結構印象的だったしね」


 一体何があったんだろうか。

 確かシャーロットに助けられたとか言っていたよな。


「それにしてもまさか子供ができているとはね。もしかして…」


「はい。あの時の彼です!」


「そう。よかったわね」


 何があったか気になるな。

 と、そう思っていると、


「それで? 一体何があったの?」


 ジブリエルが聞く。


「えっとね〜…」


「とりあえず座りませんか?」


 ディーべに言われて俺達は椅子へ座った。




 彼の母の名は『会話』のジュリーと言うらしい。

 彼女とシャーロットが出会ったのは今から半世紀ほど前のこと。

 ここクライシス神聖国の周辺でジュリーがドラゴンに襲われていたらしい。

 その時、たまたまのちのジュリーの夫になるトパスと遭遇。

 トパスは突然のことに戸惑いながらなんとかドラゴンを退けようとする。

 が、ドラゴンはしつこくジュリーとトパスを攻撃してきた。

 二人はもうダメだと思い諦めたという。

 が、その時、天より大きな黒い球状のものがドラゴンへ直撃した。

 そう、シャーロットの神級魔法、『ダークエンペラー』だ。

 それに気が付いたジュリーはお礼を言おうとシャーロットに話し掛けようとしたが、その時にはどこかへ言ってしまったという。


「じゃあ、シャーロットはその時ジュリーとトパスを助けたってこと?」


「そうよ」


「あの時は本当にダメかと思いました」


「赤竜は必要以上に追ってくるからね。私がたまたま通り掛かってよかったわね」


「はい! それであの後、私はシャーロット様のことを彼に聞かれて嘘を吐けなくて…」


「うっ…」


 おい、姿見られて困らせてるじゃねえか。


「それでどうしたんですか?」


 ユリアが聞く。


「私の正体だったりを正直に彼へ話しました。彼は異端審問官の格好をしていて尚更嘘は吐けなかったので」


 それなら無理もないか。


「そうしたら彼がこのことは何もなかったことにする、と言ってくれたんです」


「それは運がよかったわね」


 ジブリエルが言う。


「はい。でも運がよかったのはそれだけじゃなかったんです」


「というと?」


 ヒルダが聞く。

 なんだかんだ女性陣はこの話に興味を持っている気がする。

 人間の男性と魔人の女性の話は貴重だからだろうか。


「その時、彼、トパスが『一目惚れだ。私と結婚して欲しい』と言ってくれたんです」


「それでそれで?」


 ジブリエルは食い気味に聞く。


「実は私もその時トパスに一目惚れをしていて…それで…よろしくお願いします、って言ったんですー!!!」


 照れながら話してる間にジュリーのテンションがおかしなことになっている。

 すると、


「母さん! 恥ずかしいから僕の前ではもう少しちゃんとしてくれよ」


「ええ〜あなたが生まれることになったきっかけの話なのよ〜?」


「もう何百回も聞いたよ…!」


 ディーべがめんどくさそうにジュリーへ言う。

 こうやって聞いてると母と子って感じの会話だな。


「そういえば、夫のトパスさんは?」


「あ……」


 ジブリエルが聞くとジュリーが少し悲しそうな顔をする。

 確かジュリーとトパスが初めて出会ったのは五十年ほど前って話だ。

 もしかして、既に…、


 俺達の雰囲気が重くなる。

 しかし、


「父は夜勤です。まだ生きてますのでご安心ください」


 生きてるんかい!


「母さん、紛らわしい態度をしないでくれよ」


「だって寂しい…」


 乙女か!


「ここ最近、殺人が立て続けに起きてるから一応見張りが必要だって…でも、わざわざトパスじゃなくてもいいじゃない! あと何年一緒に居られるかも分からないのに…」


 魔人と人間じゃ寿命が全然違うからな。

 そういう不満が出るのも分からなくない。


「そういえば、僕が帰ってくるのが遅れたのはその殺人事件の所為みたいなんだよね」


「何かあったの?」


 心配そうに息子へ聞くジュリー。


「いや。ただ、犯人が殺した人の死体を僕が発見してその時のことを教会に行って話してたんだよ」


「そう、それで…」


 ジュリーは少し難しい顔をする。

 と、


「あっ! ご飯! すっかり忘れてたわ! ごめんね。今から温め直すから。シャーロット様達もぜひ食べて行ってください」


「ああ…ありがとう」


 いきなりだな。

 まあ、ありがたいんだけど。


 それから少し時間が経って、


「それにしてもなかなかロマンチックな出会いだと思わない?」


 ジブリエルがそう言う。


「逃げた先にたまたま異性がいて、そして、その異性と二人で逃げることになって。なんとかしようと抵抗するけどやっぱりダメで。でも、絶対絶命って時に助かる。ドキドキしちゃいそう」


「ジブリエルがそんなことを言うなんて珍しいですね?」


 ヒルダが言う。


「私だってまだまだ乙女なんです。そう言うヒルダはどうなの?」


 そう言うとヒルダはクスッと笑う。


「わたくしに乙女やロマンチックなんて言葉は似合いませんし、ありませんよ」


「ええ〜そんなことないと思うわよ?」


「そうですか? んん〜そうですね、強いて言うなら戦場で背中を預けながら戦い、その戦いが終わったら自分の気持ちに気付く…とかですか?」


「なかなかいいじゃないの」


「あくまで妄想の話でこんなことはありえませんよ」


「そうかしら。意外とヒルダはちょろかったりしてね」


「わたくしはちょろくありません」


 ヒルダが少し不貞腐れながら言う。


「さてと。それじゃあ、ヒルダで遊ぶのはこの辺にして、次はユリアとシャーロットね」


「私?」


「ええ〜」


 次の標的が決まったようだ。


「二人のロマンチックな出会いはどんなのがいいの?」


「ロマンチックな…」


「出会いか…」


 二人が考える。

 すると、ジブリエルは大変満足そうな笑みを浮かべた。

見てくれてありがとうございます。

気軽に感想や評価、ブックマーク等をして下さい。嬉しいので。

今週は連休があるので金、土、日、月曜日の四話投稿予定です。

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