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第七十六話 教皇と執行官

 特に何事もなく宿に着いた俺達は部屋を借りて荷物を置いた後、冒険者ギルドへ向かっていた。


「さっきから同じ服を着た人とすれ違うけどアレがクライシス教の制服みたいね」


「ええ。昔からあの格好よ」


 クライシス教の制服は青を基調とした服で男性なら黒のズボン、女性なら白のスカートを履いている。

 あの制服を見ているとバスクホロウのエマを思い出す。

 彼女には世話になったな。

 今も元気にしているだろうか。

 ミーシャ達のことも少し気になる。

 世界各地で魔王の使い魔が現れたって話だし。

 何事もないといいんだが。


「私よく知らないんだけどクライシス教ってどういう宗教なの?」


 ジブリエルが聞く。


「私も詳しくは知らないけど遥か大昔にこの世界を窮地から救った『再生』の神、クライシスを崇拝する宗教みたいよ」

「毎日祈りを神に捧げたり、定期的に集会を開いて神への理解を深めたりとかもするみたい」


「へえ〜そんなのよく知ってるな」


「昔からある宗教だし、私はそれなりに長く生きてるからね」


「ふ〜ん」


 そういうもんか。


「でも、奴隷を追い出そうとしてるなんて聞いたことないんだけど…」


「もしかしたら、これに悪人には厳しい罰を与えよって書いてあるからこの国での犯罪とか悪人の牽制の為なのかも」


 俺が渡した本を開きながらジブリエルが言う。


「牽制ね。確かに犯罪や悪人が減るのはいいことだけど、それによって私達が苦労しなきゃダメなんだから困ったもんよね」


「悪人には厳しい罰を与えよ。そうすることによって人は学び、そして、改心する機会を得ることができる。しかし、この機会を逃すならばその者には無慈悲の鉄槌を与えよ。それが唯一の救いなのだから」

「これを見る感じ悪人には結構厳しい感じなのかしら? 悪人は殺しても問題ないみたいに受け取れなくもないんだけど」


「それは流石にやり過ぎじゃない?」


 ユリアが言う。


「わたくしも流石にやり過ぎだとは思いますが、教えというのは時に恐ろしいものですからね。本当のところは宗徒にしか分かりません」


「……」


「さっ、そろそろ冒険者ギルドに着く筈です。行きましょう」




 それから俺達は冒険者ギルドへ。

 冒険者ギルドはこの国で一番目立つ教会の向かえに立っている。

 なので教会を目印に歩けばいいだけなので道に迷うことはない。


「着きましたね」


「ここはヒカリも入れるって話だからみんなで一緒に入るか」


「これでやっとヴァイオレッドさんにヒカリちゃんのことを伝えられるね」


「ああ」


「後は魔王について何か情報がないかも聞かないといけないわね」


「そうね。さっさと入りましょう」


 俺達は冒険者ギルドの中へ入る。


「じゃあ、俺はヒカリのことを伝えてもらえるように話してくるよ」


「私も行く」


「それじゃあ、私達は魔王について情報でも集めましょうか。その方が効率いいし」


「はい」


「そうね」


「じゃあ、またすぐ後で」


 ということで俺とユリアとヒカリ、ジブリエルとシャーロットとヒルダの二手に分かれることに。


「すいません」


「はい。どうかされましたか?」


 俺達は受付嬢に話し掛ける。


「実は…」


 俺は事の経緯を説明する。


「なるほど。分かりました。私達の方からバスクホロウのヴァイオレッドさんへ責任を持って情報を伝えますね」


「はい」


「ありがとうございます」


 これでヒカリのことも一段落ついたな。


「良かったね」


 と、受付嬢がヒカリヘ話し掛ける。

 が、勿論ヒカリは何も反応しない。


「ん?」


「ああ…実は人が怖いみたいで」


「そうなんですか…色々大変な思いをして疲れてしまったんですね。このこともヴァイオレッドさんへお伝えしますか?」


「う〜ん…どう思う?」


 俺はユリアに聞いてみる。


「ん〜…伝えた方がいいとは思うけど、変に心配させちゃうかな…」


「まあ、そうだよな」


 どうしようか。

 俺も伝えた方がいいとは思う。

 ヴァイオレッドがヒカリにあった時にこの様子だったら心配するだろうしな。

 でも、伝えたら伝えたで余計に心配させてしまうのではとも思う。


 と、そんな感じに思っていると、


「でしたら、私達から心配はそれほどしなくても大丈夫そうだという旨を伝えますよ」


「そうですか、分かりました。では、お願いします」


「はい」


 冒険者ギルドの計らいで何とかなった。

 俺はふとヒカリを見てみる。

 すると、いつも通りの真顔で俺を見てくる。

 一応、お前のことを話してたんだけどな。


「上手くことが進んだぞ」


「……」


「あっ、そうだ。セレナロイグにいるフィーベルにも伝えた方がいいよね」


「ああ、そうだったな」


  忘れるところだった。危ない危ない。


  それから受付嬢にフィーベルにも伝えてもらえるように話をした。


「よし。それじゃあ、シャーロット達と合流しようか」


「ああ」


 それから俺達はシャーロット達を探した。

 すると、すぐに見つかった。

 ヒルダがローブを着けていないからすぐに分かる。


「ああ、ヴァイオレッドの件は大丈夫でしたか?」


 俺達に気が付いたヒルダが話し掛けてくる。


「うん。伝えてくれるって」


「そうですか。それはよかったです」


「そっちは何かめぼしい情報はあったか?」


「特に無さそうね。使い魔が世界各地で暴れてからの情報がないわ」


「魔王様、どこに向かってるのかしら…」


「ふむ」


 魔王がどこに向かってるかか…。

 多分、北の大陸へは行けないと思うから東か南に行っていると思うんだが、こればかりは分からないからな。


「もうここでやれることは済んだので行きましょうか」


「次はどうする? 東方面へ向かう馬車があるかどうかと食料の買い出しだろ?」


「ええ。ですが、ヒカリがいると自由に動けない可能性があります」


「そうなんだよな…」


 困ったもんだ。

 仕方ないが俺がいるとヒカリが付いてくるから一足先に宿に戻ってるか。


「じゃあ、俺とヒカリは先に宿に戻って…」


 と、その時、近くで大きな鐘の音がした。


「これは…」


「そこの教会の鐘みたいね」


 俺達は冒険者ギルドを出て教会の方を見る。

 すると、何かが終わったのか多くのクライシス信徒がこちらの方へ歩いてくる。


「何かが丁度終わった時になる鐘の音だったんでしょうか?」


「そうみたいね」


 しかし、こうやって見るとかなりの人がいるな。

 確か世界で一番信徒が多い宗教だっけか。


 と、そんなことを考えていると、人混みが二つに分かれて道を作った。

 その道を堂々と二人の女性が歩く。


 一人は紫色の髪に所々青のメッシュが入った長髪、紫色の目が特徴的な女性。

 腰には剣を携えており、服が黒を基調としたスーツのような格好で周りと違う為よく目立つ。


 もう一人は長い金髪を縦にロールさせた髪型、空色の目が特徴的な女性。

 彼女もまた周りとは違い白を基調とした法衣を身に付けているため目立っている。


 周りの二人に対する反応から察するに多分身分がそれなりにある人達なのは間違いないだろう。


「綺麗な人達だね…」


 だんだん出入り口のあるこっちに近付いてきた二人のことを見てユリアが言う。

 確かに綺麗な人達だ。

 整った顔立ちに男が寄ってきそうな体付き。

 容姿端麗って言葉が似合っている。


「あれが教皇なのね…」


「え?」


 ジブリエルが気になることを言う。

 今、教皇とか言ったか?

 もしかして、あの二人のどっちかが教皇なのか?


「ヴァルキュリー姉さん。また行かれるのですか?」


 透き通った耳に残る声で金髪の女性が言う。

 すると、


「これも私の仕事だ」


 紫髪の彼女がクールな声で返す。


「ですが、最近物騒な事件が立て続けに起こっていると聞いています」


「だからだよ。私の仕事はそういう奴を捕まえることだ」


「……そうですけど…私、心配です…」


 金髪の女性は不安そうな表情で言う。

 なんか今にも泣き出してしまいそうな感じだ。

 しかし、そんな彼女を見たヴァルキュリーと呼ばれていた女性は彼女の肩に手を触れると、


「クラリス、そんな顔をするな。大丈夫だ。私は必ず戻ってくるよ」


「……はい」


「それでは、また後で」


 そう言うとヴァルキュリーは歩き出した。

 話を聞いていた感じ、あの二人は姉妹っぽいな。

 紫色の髪をしたヴァルキュリーが姉で金髪のクラリスと呼ばれていた女性が妹だろう。


 と、そんなことを考えているとヴァルキュリーがこちらの方を向いた。

 すると、すぐにこちらに向かって歩いてくる。


 なんでだ? どうかしたのか?


 そう思っていると、


「失礼。そちらの女性の首に付けている首輪。もしかして彼女は奴隷ですか?」


 ヴァルキュリーがヒカリの首輪を見て話し掛けてきたらしい。

 一応この街の入り口で奴隷が居ても問題ないと聞いていたんだが大丈夫だよな?

 ヒカリの見た目は奴隷じゃないというには少し無理があるからな。

 不安だが…、

 

「いえ、元は奴隷でしたが今は違います」


「ふむ…」


 ヴァルキュリーが目を細めてヒカリのことを見つめる。


「あの…」


 ユリアが何も言わない彼女へ話し掛ける。


「いえ、失礼。疑うことも仕事なもので。特に目立った外傷もないし、この国にも入れてるので問題ないでしょう。お手数をお掛けして申し訳ありません」


「ああ…いえ」


 いきなり頭を下げられてユリアが戸惑っている。


「最近は物騒な事件も起こっているので気を付けてくれ。特に夜は一人で出歩かないように」


「物騒な事件とは何でしょうか?」


 ヒルダが聞く。


「最近、この国で無差別殺人が立て続けに起こっている」


「殺人ですか…」


「物騒ね」


「うん…」


「犯人の目撃情報が無くて調査に難航していてな。どの殺人も深夜帯に起こっているという共通点はあるんだが、それ以上の情報は何も掴めていないというのが現状だ」


 そんなことがあったとはな。

 夜はできるだけ出歩かないようにしよう。

 といっても、夜に街を歩くなんてシャーロットが攫われた時ぐらいだ。

 心配いらないだろう。


「もし何か見たりしたら教会か冒険者ギルドへ伝えてくれ。それでは私は仕事があるので失礼する」


 そう言うとヴァルキュリーは離れていった。


「無差別殺人事件なんて怖いわね」


 ジブリエルが言う。


「うん」


「では、暗くなる前に馬車の有無と食料の買い出しを済ませてしまいましょう」


「そうだな。それじゃあ、俺とヒカリは居てもしょうがないだろうから先に宿に戻ってるよ」


「分かりました。では、わたくしは東へ向かう馬車の有無を調べてきます」


「私も付いていこうか? なんか物騒だし」


 ジブリエルが言う。

 しかし、


「わたくしは一人でも心配いりませんよ。もしその無差別殺人を起こしている犯人に会ったら返り討ちにします」


 ヒルダなら本当にやりそうだな。


「そう。でも気を付けてね。それじゃあ、私達は食料の買い出しね」


「うん」


「そうね」


「それじゃあ、また宿でな」


「ソラも気を付けてね」


「ああ」




 それからみんなと別れて俺とヒカリは宿へと戻った。

 戻ったのだが、


「あっ…」


「えっ…?」


 自分達の部屋の扉を開けると知らない銀髪の女性と目が合った。

 その女性は右目が赤色で左目が灰色のオッドアイだった。

 顔立ちはスカーフで隠れているので分からないが若いように見える。


「ヤベっ!」


 そう言うと慌てた様子で開いていた窓から外へ逃げようとする。


「おい!」


 こいつ盗賊だ!


 俺は窓から逃げていく彼女の背中を見つめる。

 何か盗まれてるかもしれないし追い掛けるしかない。


「ヒカリ、走るぞ!」


「……」


 俺達は慌てて部屋から飛び出してあの盗賊の後を追った。

 幸いすぐに後を追い掛けたのでギリギリ見失いはしなかった。

 が、盗賊なので走り慣れているのか距離が縮まらない。

 入り組んだ道を行くからこのままだとどこかで見失ってしまう。


 俺はそうならないように走る。

 たまにヒカリが付いてきているか後ろを確認しながら。

 ここでヒカリと逸れたら大変だからな。


 と、前を走っている盗賊が角を曲がった。

 早く行かないと見失ってしまう。

 俺は急いで後を追う。

 が、その時、


「きゃああああ!!!」


 盗賊の曲がった道の先から悲鳴が聞こえてきた。

 もしかしたら盗賊が何かしたのか?


 俺はやっと角を曲がり悲鳴が聞こえた方へ目をやる。

 すると、そこにはあの銀髪の盗賊が尻餅をついていた。

 もしかしたらさっきの悲鳴はこの盗賊の悲鳴なのか?


 と、そんな彼女のすぐ傍には一人の男が立っていた。

 金髪の背が高い男で後ろを向いているから顔は見えない。


「おい、お前! やっと追い付いたぞ!」


 俺は盗賊へ声を掛ける。

 と、その時、俺は気が付いた。

 二人の目線の先にあるものに。

 そこには赤黒い水溜りの上に倒れる一人の男性がいたのだ。


「これは…?!」


 倒れている男は動かない。

 というかこれは死んでいる。

 と、その時、


「これは違う。僕ではない」


 振り返った男が手を前に出しながら訴える。

 が、この男の指には血が付いている。


「お願い…! 殺さないで…!」


 盗賊が必死に言う。

 と、その時、ピーという笛のような甲高い音が聞こえる。


「…だから僕がこれをやったわけでは…」


 男はそう言うが手に血も付いているし説得力がない。


「そこのお前達! 動くな!」


 と、俺達の後ろから声がする。

 振り返ると、ヴァルキュリーと似た黒い服を着た女性が走って近付いてくる。


「これは…!? お前達には詳しく話を聞かせてもらうぞ」


「私の運もここまでか……」


「……」


 それから俺は教会まで連れて行かれ審問されることになった。

見てくれてありがとうございます。

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