第六十八話 侵入
案内人を除いて十人で先へと進んだ俺達は階段を登っていた。
「ここから先はいつ敵が来るか分からないわ。特に七武衆とかいうのもいるらしいから気を付けてね」
「七武衆? そんなのがいんのか」
「戦闘のエリートなんだそうだ」
「へえ。そりゃ面倒だな」
「私とヒルダもいるし、獣人族のティサナもいるからよっぽど不意打ちはされないと思うけど警戒はしてね」
「うん」
「ジブリエルさんは頼りになるわね」
「そうでしょ?」
「少しは自重しろよ」
「褒められたんだからいいでしょ」
「……」
ジブリエルと話しているとたまにシェイクの苦労が分かる時がある。
なんというか我儘な妹と会話してるみたいだ。
と、
「敵ね。ここから少し離れたところよ」
「階段の先か?」
「多分ね」
「わたくしが先頭を歩きます。ユリアはその後ろに」
「うん」
先頭で明かりを灯していたユリアがヒルダと位置を交換する。
「ねえねえ。ヒルダさんはお姉さんって感じだね」
「ん? まあ、確かにそうかもな」
ルビーに言われるまで特に考えなかったが確かにお姉さんって感じはある。
話し方とか佇まいとかそういうところも。
さっきのジブリエルとはまるで違うな。
「いつもあんな感じなの? なんかかっこいいね」
「かっこいいか…そうだな」
なんというかヒルダって付いてこいって感じだしな。
「はい。そこの二人。お喋りはその辺にして警戒してくださいね」
「「はい」」
ヒルダに言われて俺とルビーが返事をする。
これじゃあまるで先生と生徒だ。
まあ、確かにここからはこんな話もできないだろうからな。
警戒していこう。
それから少し歩くとすぐにどこかの部屋に着いた。
どうやら宮殿の中に入ったらしい。
昔からある建物だと聞いていたが中は思ったより綺麗だ。
人がここを利用しているからか分からないが床の白のタイルがピカピカだ。
壁も窓も綺麗にしてある。
「ここから出てすぐのところに二人いるわ。なんか聞こえる場所が変わってるから歩きながら見張っているのかも」
「そうですか。では、後ろを向いている時に攻撃したいですね」
「そうだけど、扉を開けた時に相手がどっちを向いているかは分からないわよ?」
「そこは仕方ありません。面倒になる前に斬ります」
「いや、待って。この案内人を使えばなんとかできると思うわ」
「確かに」
仲間が呼べば油断してこちらに来るだろうしな。
「じゃあこの人にここの部屋へ呼んでもらおうか」
「ええ。ということだから部屋出てすぐの見張り二人をこの部屋に連れてくるのよ」
「はい」
そう言うと男は扉を開けて小走りで出て行った。
「上手くいくかな」
「まあ、ダメだったら腹括って総力戦だな」
それから少しして、
「こっちだ。早く来てくれ」
案内していた男の声が聞こえる。
「入って来たらわたくしとソラで後ろから攻撃します」
「ああ」
そして、扉が勢いよく開いた。
最初は案内の男が入ってくる。
そのすぐ後ろに武装した男が二人入ってきた。
その瞬間、俺とヒルダで襲い気絶させた。
「上手くいきました」
ヒルダが珍しく手刀で攻撃したのだが、狭い場所だと刀は刀身が長くて扱いづらいのでこういう少し狭い部屋の中ではできるだけ使わないようにしているらしい。
因みに俺は拳を後ろから一発入れた。
「よし。上手く行ったわね」
「誰かに気付かれる前に行きましょう」
「そうね。ボスがいる部屋へ案内して」
「はい」
それから部屋を出た。
どこかの廊下に繋がっていたらしい。
バレないことを祈りながら先へと進む。
歩きながら周りを見るといくつも扉があるので部屋が並んでいる造りみたいだ。
「結構大きな建物ね」
「でも広い割に人が少ないにゃ」
「とりあえず使ってるみたいな感じなのかも」
ルビー、ティサナ、トレサがそんな会話をする。
確かに扉の数は多いがその割には人の数が少ない気がする。
「ねえ、ここら辺の部屋は普段何に使ってるの?」
シャーロットが案内の男へ聞く。
「一階は全て倉庫になってます。二階がここの掃除などの管理をする召使い。三階はボスのお気に入りの方々の部屋ですね。我々のような者は別館で暮らしています」
「へえ」
つまりここら辺に人がいる部屋はないってっことか。
不意に誰かに気付かれるみたいな心配がないのはいいな。
「因みにお気に入りっていうのは?」
「そうですね。七武衆の方々。後はボスが気に入った奴隷とかでしょうか」
「奴隷もいんのか?」
カリムが聞く。
「ボスは自分の気に入った奴隷を絶対服従させていつも自分の側に置いているという噂です」
「噂? 自分達のボスなのになんで噂なんだ?」
「ボスは基本的に部屋から出てきません。大体が七武衆の方々か連絡役の方が代わりに命令を出しています」
「自分は動かなくてもいいってわけか。随分偉いんだな」
「それはもう。一人でここストライドを大きくした人ですから」
「どうやら腕は確かみたいね」
たった一人で街を大きくしたって聞くと凄いが、それが公にできないことだから褒められないんだよな。
「話はここまでね。誰かいるわ」
「何人だ?」
「一人みたいね。場所が変だから階段かしら?」
「階段に人?」
見張りの一人だろうか。
「もう少しで二階へと上がる階段があります。そこに誰かいるのかと」
「注意して。今は気付かれてないけど不審に思ってるから」
「注意って言ってもそこを通らなきゃダメなんだからどうしようもないぞ?」
「それはそうだけど…もう、うるさいわね。いいから警戒しなさいってことよ」
「分かったよ」
それから少し歩くとすぐに上へと続く階段がある場所まで来た。
どうやらここはこの建物の入り口らしい。
一階と二階が吹き抜けになっていて開放感のある広い場所だ。
なのだが…。
「あ〜あ〜早くボスのところに戻りたいな……」
階段の見張りが邪魔でどうしようか困っていた。
「どうする? 強行突破してもいいけどその場合バレる可能性があるぞ」
「困ったわね」
「なんかいい方法ねえのか?」
「一応、私と目が合えば操れるけど一か八かね」
「なんか他に方法はないの?」
「ないにゃ」
「ない」
「あったらもうやってるど」
「だよね…」
「わたくしが斬るというのはどうでしょうか?」
「確かにヒルダは早いけど階段のところよ?」
「問題ありません。斬ってみせます」
「待って。さっきからなんか変なのよ。もしかしたら、メイドか奴隷の可能性があるわ」
「そうなのですか?」
「なんかずっとボスの部屋に戻りたいって繰り返してて、声も若い感じだから十代だと思うのよね」
「……奴隷はできれば斬りたくありませんね。命令されている可能性があります」
「ならシャーロットの『魔性』の力でなんとかするしかないわね。ダメだったらヤバいけど、いつまでもこうしてはいられないし」
「そうね。じゃあ、私が先行して出るからその少し後をついてきて。早過ぎたら視線が私から外れちゃうから注意して」
「分かったわ」
「みんなもこれから総力戦になるかもしれないから覚悟して」
「ああ」
「うん」
俺達が返事をして作戦開始だ。
まずはシャーロットが走り出す。
上手くいけば何事もないまま先へと進める。
どうだ……。
俺達も遅れて走り出す。
「どういうこと…?」
シャーロットの声が聞こえた。
「あれ? あなた達が侵入者? 思ったより少ないね」
階段の真ん中ら辺で座りながらそう言う金髪ボブの少女。
「まあ、早く終わるからクロエはいいけど」
ニヤリと笑いながら言うと次の瞬間、腰から鎖鎌を出して分銅の方を窓のある方へ投げた。
「伸び過ぎだろ!?」
どういう原理か分からないが鎖の部分が異常に伸びて窓を割った。
すると、バリンという音が響く。
と、その瞬間、ここの近くのどこかで鐘の音が鳴った。
「どうやらやられましたね」
周りが慌ただしくなってきた。
「これはかなりの数ね…」
「早く戻りたかったから」
少女は相変わらずニヤリと楽しそうに笑って俺達を見ている。
「クロエ、わざと私達を呼んだな」
と、そんな彼女に近付いてくる五人の女性達。
「だって私だけここにいるなんて不公平じゃん!」
「もう少しで私の番だったのに…」
「それを言うなら私だって…」
「ご主人様のお屋敷に侵入した悪い人達はこちらの方々ですか?」
「私も早く戻りたい」
全部で六人の女性達が階段を塞いだ。
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