第六十七話 再会と後悔
ユリアの光魔法で照らしながら隠し階段を下へと降りていく俺達。
「まさかこの街にこんな地下があるとは思いませんでした」
「俺もだ」
砂が多い場所だから地下は作りづらいと勝手に思っていたが意外にもしっかりした土だ。
「結構下がってるわよね?」
「そうね。地上に戻るのは少し大変かもしれないわ」
「何かあってもしばらくは戻れないか…みんな警戒して行こう」
「うん」
「「ええ」」
「はい」
この先には一体何があるんだろうか。
ダリウス・フィールに関係している何かだとは思うんだが…。
「そうでした。これから忙しくなる前にユリア」
「はい?」
「わたくしのことは仲間だと思ってください。なので敬語は必要ありません」
「でも、ヒルダさんは敬語じゃないですか」
「わたくしは昔からこういう話し方なんです。許してください」
「許すなんてそんな…」
「とにかく。ユリアはこれからわたくしに敬語を使ってはいけません」
「……分かりま…分かった」
「ありがとうございます。気軽にヒルダと呼んでくださいね」
「うん」
ユリアの『うん』が既にぎこちない感じだな。
ヒルダは彼女なりに仲良くなろうと接してくれているのだろう。
慣れたらこのぎこちない感じともおさらばだから今だけだな。
そういえば、俺にも最初は敬語だったっけ。
懐かしいな。
いつからか敬語じゃなくなったけどいつだっけ?
自然と今の話し方になってたから分からんな。
そんなことを考えてたらすぐに階段が終わった。
「どこかに繋がっているみたいですね」
「行ってみよう」
それから注意しながら先へ進んでいく。
周りを見ると土が見えている。
歩くのに苦労しないぐらい道は広いし高さもあるが周りが土なのが崩れそうで少し怖い。
まるで洞窟の中を歩いているみたいだ。
まあ、崩れる心配ないだろうけどな。
「誰か来るわ!」
「「「!?」」」
全員が警戒する。
「相手は十人以上いるわね。どうやらあの倒した奴の中に連絡役がいたみたいね。不審に思ってこっちに来てるわ」
「どうする?」
「ここではあんまり魔法は使いたくないわね。崩れかねないし」
「では、わたくしが」
「俺もやるよ」
「じゃあ、今のうちに支援魔法を」
「それじゃあ私も」
こちらに向かってくる敵とは俺とヒルダが戦うことにした。
攻撃魔法を使って天井でも崩れようものなら生き埋めになりかねない。
「もうすぐそこまで来てるわ」
「任せてください」
「狭いから青い炎はなしだな」
「気をつけてね」
「ああ」
「来ました」
ヒルダが言う。
確かにたくさんの足音がこちらに近付いてくる。
「行くぞ」
「はい」
俺とヒルダが駆け出す。
すると、前方に敵が見えた。
「侵入者だ!」
「殺せ!」
相手も俺達に気が付いたらしい。
「私が道を開けるので余りは任せます」
そう言うとヒルダは腰を下げる。
「『居合・紫電猛進』」
その瞬間、彼女の体が紫色に光ったかと思うと姿が消えた。
かと思えば視界の奥、敵の最後尾にいつの間にかいた。
「!? なんだ?!」
「ひっ!?」
彼女が通ったであろう場所にいた相手が真っ二つに斬れている。
「はあああああ!!!」
俺は動揺している相手に容赦なく攻撃する。
一人、また一人と敵の数を減らす。
「くそっ…なんで俺がこんな目に…!」
最後の一人が逃げようとする。
が、すぐ後ろにいたヒルダに打つかり尻もちをつく。
「あっ……あっ…こ、殺さないでくれ……!」
男の必死な命乞い。
こんな悲惨な現状になれば誰だってああなるだろう。
もし俺が同じ立場だったら同じことをすると思う。
「ダメです。残念ですがここで死んでください」
「ああ……」
男はヒルダの刀が振り上げられていくをただ見ることしかできない。
絶体絶命。
男は自分の死を悟ったのかピクリとも動かなくなった。
「ちょっと待って! 私に考えがあるの!」
シャーロットが言う。
振り返ると顔色が悪そうなシャーロットがそこにいた。
彼女は人を殺せないからな。
人の死体が転がっているこの現状が辛いのも仕方がない。
斯く言う俺もあまりいい気分ではないからな。
「なんでしょうか?」
「そいつにここを案内させるわ」
「っ…!? する! 案内以外もなんでもする! だから助けてくれ!」
「……分かりました」
そう言うとヒルダの刀が鞘へ収まっていく。
「あんた、今なんでもするって言ったわよね?」
「ああ。だから殺さないでくれ!」
「いいわ。でも、あなたの意思は要らないわ」
「へ?」
困惑する男。
と、その時、シャーロットが翼と尻尾を生やした。
「なっ…!? なんなんだそれは!?」
驚く男。
まあ、いきなり翼とか生えたらこういう反応になるわな。
「目を見なさい」
「あんたら一体!? …………はい」
男の様子が変わった。
「これからあなたは私の言うことを絶対聞くのよ?」
「はい、必ず」
「よし」
どうやら『魔性』の力を使ったらしい。
久々に見たな。
今までは人目を気にして使わないことが多かったがここなら誰かにバレるという心配はいらない。
「へえ…こんな感じになるのね?」
「うん…そうだね」
ジブリエルは興味深そうにしているが、ユリアは自分がこうなったことがあるからか少し緊張しているように見える。
「さてと。それじゃあ、今のうちに敵の数とかここのこととかを聞こうかしら」
「はい、何なりと」
それからシャーロットが色々と情報を聞き出した。
まず敵の数は大体二千人はいるらしい。
かなり多いが情報を主に集める者達もいたりするので戦闘員はもう少し少ないらしい。
それと敵といえば、戦闘に特化した戦いのエリートが七人いるらしい。
そのエリート集団は七武衆と呼ばれているとのこと。
できれば戦いたくないがそうも言ってられないだろうな。
それからダリウス・フィールについても聞いた。
が、これに関しては知らなかったらしく何も情報を得られなかった。
もしかしたら組織の上の方しか知らない情報なのかもしれない。
「とりあえずこんなところかしら。後は案内してもらおうかしら」
「はい」
「誰にも見つからなそうな道であんた達のボスのところまで行けそうな道はないの?」
「私の知る限りではございません」
「でしょうね。それじゃあできるだけ敵に見つからずにボスのところまで行ける道を案内して」
「かしこまりました」
「それじゃあ行きましょうか」
ということで男に案内をさせて先へと進んだ。
ここの道は自分達で造ったわけではなく元からあった道を少し改良して造ったらしい。
なんでそんなものがあったのかは知らないが昔に誰かがこの道を造ったりしたんだろうか。
でもそれだとかなり大変な作業だと思うんだけどな。
「また誰か来るわ」
「流石に数が多いだけあるな」
「先程と同様に」
「分かった」
それからまたやってきた奴らを俺とヒルダで倒した。
俺は素手だから相手は生きていると思うがヒルダは刀なので多分死んでいると思う。
ヒルダは容赦なく相手を斬るからな。
「ここの道を進んだら上へと繋がっている階段があります」
男が三つある分かれ道の一つを指差しながら言う。
「その階段はどこに繋がってるの?」
「このストライドに昔からある宮殿みたいな建物です。そこの一番上にボスがいる筈です」
「宮殿が今やこいつらの根城になってるなんてね」
「ここからは更に注意しないといけませんね」
「そうだな」
「うん」
と、その時、
「待って。誰か居るわ」
「どこだ?」
「こっちからだわ」
そう言って左の道の方を見るジブリエル。
「何人だ?」
「五人ね。ん? これって…」
「……どうやら人族以外もいますね」
匂いを嗅いだヒルダが警戒しながら刀をゆっくりと抜く。
「待って。多分敵じゃないわ」
「敵じゃない?」
「どういうこと?」
俺達は不思議そうにジブリエルを見る。
と、その時、道の先から声が聞こえてきた。
「大丈夫にゃ。ウチの鼻が間違ったことはないにゃ!」
どこかで聞いたことがある声が聞こえる。
「そうだけど…」
「なんかあったらオデが守るど」
「ここはティサナを信じましょうよ」
「「「!?」」」
段々と見えてきたその者達には見覚えがあった。
サミフロッグで会った冒険者。
そこに居たのはカリム達だった。
「おお! マジじゃねえか!?」
「だから言ったにゃ!」
ティサナが自慢げにしている。
「どうしてあんた達がここにいんのよ!?」
「俺達はここで少しやることがあってな」
「やること? なんだそれ?」
「……」
カリムは何も言わない。
なんからしくない態度だ。
カリムといえばいつも元気なお調子者って感じだったんだが、今の彼にはそれがない。
「ねえ、カリム。これも何かの運命だと思ってユリア達に話したら? それにここにいるってことはどっちにしろ一緒に行動することになるだろうしね」
「…………そうだな。分かった」
重い雰囲気のカリム。
余程大事なことなのだろう。
「実はな、俺達はとある事件について調べててな。それで色々分かっていくうちにここストライドにその事件の首謀者がいるってことが分かったんだよ」
「その事件というのは?」
ユリアが聞く。
「今から十年ぐらい前の話だ。バスクホロウの貴族の家で火事があった。その火事によって長男以外が全員死んだ」
「だが、これはただの火事じゃなかった。何者かによって仕組まれたものだったんだよ」
「これって…」
「……ああ」
聞いたことのある話。
俺が初めて聞いたのはアイツの死に際だった。
「俺とその生き残った長男とは親戚でな。それでこの話を知った。まあ、これを聞いたのは火事があってから大分経った頃だったが」
「まあ、とにかく、俺はアイツに頼まれたんだよ。一緒にその火事を起こした何者かの情報を探してくれってな」
「その生き残った長男ってダリウス・フィールだろ?」
「!!! お前、どうしてそれを…」
「俺達がここにいる理由。それはダリウス・フィールだ」
「なんだと?! あいつ今どこで何してる? 連絡がなくなったんだ!」
そう言って俺の肩を強く掴むカリム。
「……ダリウス・フィールは、死んだ…」
「っ…!?」
カリムが信じられないという顔をする。
「最後に言われたんだ。ここに俺の家族を殺した奴がいるって。別に代わりに行ってくれと言われたわけじゃない」
「でも、アイツの最後のあの言葉…行ってくれとそう言われた気がしたんだ」
「…………そうか」
「……カリム」
下を向くカリムの肩にそっと触れるルビー。
「何があったのか話してくれる?」
「分かった」
それからバスクホロウでのことを話した。
フィールとどういう経緯で出会い、そして、どういう最後を迎えたのか。
俺が知っているダリウス・フィールのことを。
「そうだったの…あなた達には辛く怖い思いをさせてしまったのね。ごめんなさい」
ルビーが頭を下げる。
「いえ」
「俺もアイツを止めようと思っていたんだがなかなかそれができなかった。アイツの気持ちを思うとどうしても止めきれなかったんだ」
「自分が悪人の道に行ってまで成し遂げようとしたアイツを。……いや、これは言い訳だな。無理にでも止めるべきだった。すまない」
「別にカリムが悪いってわけじゃない」
「私達は手紙でフィールとやりとりしてたの。でも最近その手紙が来なくなったから心配してたんだけど…まさかそんなことになってたなんてね」
「ああ」
落ち込むカリムとルビー。
「どうしてあんた達がこの街にいるのかは分かったんだけど、なんでこんなところにいるの? ここにそのダリウス家を襲った奴がいるってこと?」
シャーロットが聞く。
「そういうことだ。俺達はここのボスが怪しいと睨んでる。まあ、多分殺しを依頼した奴は別だろうけどな」
「それってどうなの?」
「そこら辺は聞いてみればいい。一から探すのは骨が折れるからな」
「なるほどね」
「そういえば、シャーロット達はどうやってここがフィールの家を襲った奴らだって分かったの?」
「ん? まあ、分かってたわけじゃないんだけど…彼女が強引にね」
そう言ってシャーロットはジブリエルのことを手で指す。
「そういえば、知らない奴が何人も……」
カリムがそこで言葉を詰まらせる。
「この男、随分スケベね」
「邪な視線を感じます」
ジブリエルとヒルダが言う。
そういえば、カリムと初めてあった時もこんな感じだったような気がする。
あの時はユリアだったか?
てことは、今回はヒルダだな。
間違いない。
この男の視線と顔がそう言っている。
「ん”ん”っ。何を言うんだ。言い掛かりはよしてくれ」
咳払いをし、自分の潔白を主張するカリム。
でもな、カリム。
それ意味ないんだよな…。
「なんて胸のデカさだ。ルビーの二倍はあるんじゃないか? もし俺が彼女を抱けたならまずはそのむ…」
「だあああ〜〜〜!!!」
大声を出しながら光の速さでジブリエルの口を塞ぐカリム。
それもう自白と一緒だぞ?
「おい」
「……」
「何黙ってんだ?」
ルビーさんがそれはそれは怒りの眼差しで見てますわ。
「違う! 俺は何も言ってないだろ?」
「じゃあなんで彼女の口を塞いだのか教えてごらんなさいよ?」
「それは…」
明らかにばつの悪そうなカリム。
「女性があんな言葉を言っちゃダメってことだよ」
「ふ〜ん。で?」
あ〜あ。これはキレてるな。
早く謝っちゃえよ。
「あの…ごめん!」
「いつもいつも。こういうことがあれば、ごめん、すまん、もうしないって…はあ……」
ルビーが大きなため息を吐く。
「本当にその…愛してるのはルビーだけなんだよ。な?」
「それもどうだかねー」
「それは本当よ」
と、ジブリエルが言う。
「ん? そうなの?」
「ええ。私は心の声が聞こえるからどういう風に思っているか分かるもの」
「へ、へぇ〜」
ルビーの顔が少し赤くなる。
「な? だから言ったろ? 俺が愛してるのはルビーだけなんだよ」
「う、うん…」
どうやら丸く収まったらしい。
「これを言えばルビーはなんとかなるからな。危なかったぜ」
「ちょっ!? 何言ってんだよ!?」
「だって本当のことだし」
そう言ってそっぽを向くジブリエル。
「そっか、そっか。カリム。あんた一回死になさい…」
「怖いって。その笑顔が怖いってば」
「ちくしょう! こうなったらここにいる女全員の胸を揉むしかない!」
「おい! 今のは思ってねえぞ!?」
「さっきのは思ってたんかい!!!」
カリムの顔にルビーの拳が当たった。
すると、カリムが地面へ倒れる。
「あらら。少し遊び過ぎたかしら」
「いいのよ。このぐらいしないと分かんないんだから。それより、私はルビーよ」
「私はジブリエル。妖精族よ」
「妖精族!? 初めて見たかも…」
興味深そうにジブリエルを見るルビー。
と、そんな彼女の為にジブリエルが透明な羽を見せた。
「へえ〜!!! 妖精族には羽があるって御伽話は本当だったんだ!」
「喜んでくれたのならよかったわ」
「うん! ありがとう! と、そういえばあなたは…」
「私はヒルダと言います。鬼族です」
「へえ〜鬼族も初めて見たよ」
「あまり外には出ない種族ですからね」
「そうなんだ…あっ、私達も自己紹介しないとね」
「ウチは獣人族のティサナにゃ! ソラ達の匂いと知らない匂いがあったから不思議だったけど新しく仲間が増えてたなら納得にゃ」
「オデはアーダンだ」
「私はトレサよ」
「で、このアホがカリムね」
「誰が…アホだ…」
地面からゆっくりと立ち上がりながら言うカリム。
まるでゾンビだ。
「ったく…少しは手加減しろよな」
「自業自得よ」
「まさかここでカリム達に会うとは思わなかったけど、目的が一緒でよかったわね」
「ああ」
「うん」
全部で十人。
数は少ないがカリム達とは前に一緒に戦ったこともあるし心強い。
「じゃあ、行きますか。上へ」
「そうだな」
「ここから先は臨機応変に行きましょう。何があるか分かりません」
「ああ」
それから俺達十人は上の建物へと向かうのであった。
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