第六十六話 地下へ
今夜の作戦会議を終えた俺達は今のうちに晩御飯を済ませておこうと言うことになり昨日と同じ酒場へ来ていた。
「やっぱりここのご飯は美味しいわね」
「うん」
「これから忙しくなりますからご飯を食べて力をつけておかなければいけません」
「そうね」
「どのぐらいの人がいるんだろうな…」
「それは中に入ってみないと分からないわね」
敵の数は未知数だ。
どのぐらいの数で、どのぐらいの強さの敵がいるのか分からないというのはやはり不安だ。
「阻む者は斬る。ただそれだけです」
ヒルダが冷静に言う。
「ヒルダは随分落ち着いているんだな」
「そうですね。このようなことは今まで何度もありますから」
「へえ」
今までどれだけの死戦を潜り抜けてきたんだろうか。
そう思わせる程ヒルダは落ち着いている。
「ん?」
「どうかしたの?」
何かに気が付いた反応のジブリエルにユリアが聞く。
「どうやら先手を取られたみたいね」
「敵ですか?」
「ええ。どうやら私達を殺すつもりみたい。かなりの数がここを囲むように居るわね」
「ヤバいじゃない」
「どうする?」
「……みんなで戦うしかないだろう」
「いえ、ここはわたくしが出ます」
そう言って自分の刀を持って外へと向かうヒルダ。
「おい、一人で行く気か?」
「そのつもりです。魔力は温存しておいた方がいいでしょ?」
「確かにそうだけど…」
かなりの数がいるんだろ?
それをたった一人で相手するってことか?
流石にヒルダでも無茶だろ…。
「大丈夫ですよ。わたくしの実力をあなた達に見せられるいい機会です」
「「「……」」」
俺とユリアとシャーロットは顔を合わせる。
本当に大丈夫なのだろうか。心配だ。
が、ジブリエルだけは違った。
「そこまで言うなら見せてもらおうじゃない。あなたの実力」
「フフ。望むところです」
少し口角を上げながら見つめ合う二人。
「でも、もしもの時の為に私達も援護するわ。これは絶対よ」
「分かりました。それで大丈夫です。では、行きましょうか」
「大丈夫かしら…」
「うん…」
「本人が大丈夫と言ってるんだから信じてみよう」
それから俺達は外へと出た。
「隠れているつもりですか? 殺気が漏れていますよ?」
ヒルダが誰もいないのに大きく響くような声で言う。
「……出てこないわね…」
「うん…」
「警戒して。見えないだけでかなりの数よ」
「……」
俺達は注意深く周りを見る。
と、その時、ヒルダに三本の弓矢が三方向から飛んできた。
「ヒル…」
俺がそれを認識してヒルダに教えようと声に出そうとした瞬間、
「『居合・紫電一閃』」
ヒルダの体が紫色に一瞬光ると、飛んできていた筈の弓矢が消えた。
「今のは…?!」
「出てこないのであればこちらから行きます!」
何が起きたのか分からず驚いているとヒルダがそう言って刀を鞘から抜いた。
すると、月明かりに照らされてその夜色の刀身が見えた。
「『紫電放電』」
そう言うとヒルダが全身に紫色のオーラのようなものを纏う。
「これは一体…」
「紫色の電気…?」
ユリアとシャーロットの困惑した声が聞こえる。
が、そんなことは気にしないとヒルダは腰を落として刀を構える。
「魔法剣、雷刀『刹那の太刀』」
そう言うと、夜色の刀身が紫色のオーラで染まっていく。
「参ります!!!」
その瞬間、紫色が視界から消えた。
そして、
「う”ぁ”あ”あ”あ”あ”あ”〜!!!」
「おい…!?」
「やめっ?!」
「誰か…!!!」
「ひいいい!!!」
「バケモ…!?」
姿が見えない何者かの悲鳴があちこちから聞こえてくる。
「っ…………」
俺はただ息を呑むことしかできなかった。
何が起こっているのか認識できないのだ。
唯一分かるのはヒルダがここにいる何者かを斬っているということだけ。
「……終わったみたいね…」
どのぐらいの時間が経ったのだろうか。
一分は経っただろうか。
それともほんの数秒だろうか。
分からないがジブリエルがそう言った。
ということは敵を殲滅したということだろう。
「ふう…敵は全員斬りました」
向こうから紫色のオーラを纏い、歩きながら言うヒルダ。
「『紫電帯電』」
そう言うとヒルダの体から紫色のオーラが消える。
「まさかここまでとはね」
「わたくしの実力は如何でしたでしょうか?」
「何が起こってるのかよく分かりませんでした」
「俺も、あんなに速く動ける人がいるだなんて…」
「そう言って頂けると日々の修行も意味があると言うものです」
優しく笑いながら言うヒルダ。
と、そんな彼女にシャーロットが、
「ねえ、あなたのあの紫色の光。もしかして電気を自分の体に帯びさせてるの?」
「よく分かりましたね。その通りです」
「……」
シャーロットは心配そうな顔をする。
「電気を体に帯びさせるなんて普通は体が悲鳴を上げてボロボロになるはず。でも、なんの問題もなさそうにしてる。一体どれだけの時間を費やしたらあんなことが出来るの?」
もしアレが電気だとすれば、俺の魔力を色んな属性の魔法に変えて体に纏わせるというのに近いかと思ったが、俺は青い炎の上から纏わせている。
でも、ヒルダは体に直接纏わせているらしい。
だとすると、俺とヒルダでは似ているようで体への負担がまるで違うってことだ。
「これはわたくしが師匠と会った時からずっとです。わたくしは常に電気を体に帯びています。いつでも戦闘態勢になれるようにと」
「いくらあなたが鬼族だからって危険よ」
「心配してくれているのですか? ありがとうございます」
ヒルダは微笑み、軽く頭を下げる。
「ですが、わたくしが強くなろうと思ったらこれぐらいしないといけないんです」
「……」
ヒルダのその言葉とシャーロットを見つめる真っ直ぐな赤い目には覚悟が感じられた。
「大丈夫ですよ。無理をしているわけではありませんから」
「…分かったわよ」
「それよりもこれからどうしますか? 襲われたということはこの街のどこにいても危険ということです。今からあの家へ向かいますか?」
「う〜ん…そうね、みんなはどう思う?」
ジブリエルが聞いてくる。
「いいんじゃないか? 予定が少し早まったってだけだ。どうせ戦うことにはなってただろうしな」
「こうなったら速くけりをつけた方がいいわね」
「私もそう思う」
「なら決まりね。行きましょうか。あの家に」
ということで俺達は予定より速く昼間に見つけた家へ向かうことになった。
その道中も警戒は怠らない。
どこで誰が狙っているか分からないからな。
だが、街中だからか奴らの気配は無い。
良いことなんだが何か企んでいるんじゃないかと思ってしまう。
「見張りがいるわね」
例の家に近付くとジブリエルが言った。
「何人ですか?」
「昼間と同じぐらいね。多分表に一人と中に四人じゃないかしら」
「では、表の敵はわたくしがやります。中の敵はお願いします」
「分かった」
それから例の家に着いた俺達は見張りの様子を見る。
確かに一人いるな。
「それじゃあ、行きます」
ヒルダに俺達は無言で首を縦に振る。
「はあ……うっ…」
ヒルダが体を伸ばしていた見張りに不意打ちをした。
これで気付かれずに近付ける。
「行こう」
俺達は素早く家の入り口まで移動する。
そして、みんなと顔を合わせると勢いよく扉を開けた。
「ん?」
「なん!?」
俺達に気付いた敵が立ち上がる。
中にはジブリエルが予想した通り四人いた。
が、立ち上がるまでに手前の二人を蹴り飛ばして気絶させた。
「噂のやつはコイツらか!」
奥の奴が腰から短剣を抜いて俺に斬り掛かってくる。
が、これぐらいはどうってことない。
ひらりと躱して顔面に拳を入れてやった。
「ちきしょう!」
もう一人も今の奴と同様、短剣で斬り掛かってきたので同じように拳を入れた。
「よし。これで全部だな」
「ええ。その筈よ」
「結局全部ソラが倒しちゃったわね」
「怪我とかしてない?」
「ああ、大丈夫だ」
「この短剣…どうやら毒が塗ってありますね」
「面倒ね」
「私が解毒魔法を使えますからもしも毒に冒された時は教えてください」
「そうでしたか。頼りになります」
「多分、ここら辺に……あったわ」
ジブリエルが下へと続く隠し階段を見つけた。
「これ、どこに続いてると思う?」
ユリアが聞いてくる。
「どこだろうな…」
「この先に行けば自ずと分かるわよ」
「そうですね」
「……行こう」
「ええ」
「ああ」
それから俺達は隠し階段を進んで行った。
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