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第六十五話 怪しい動き

 息を切らしながらジブリエルに付いて行く。


「なあ、どこに向かってるんだ?」


「それは私にも分からないわよ」


 ということは、誰かを追っているということか。

 あの舞を始めてから走り出すまでにジブリエルだけが気付く何かがあったのだろう。

 そして、それは多分人の心の声が聞けるという彼女の能力によるものな気がする。

 唐突にダリウス・フィールの名前を使ったのも気になるし。


「一体、どうしたのか説明しなさいよ」


「さっきダリウス・フィールの名前をだしたでしょ? もしその名前に聞き覚えがある人がいたら何かしら動きがあると思ったのよ」


「それでいきなりあんなことしたのね」


「そういうこと。案の定、この名前を知っている人が見つかったから今こうやって後を追ってるわけ」


「ここら辺は家が多いですから何か用事がないと来ることは少ないかもしれませんね」


「紛れるには打って付けってことね」


「でも、ダリウス・フィールってバスクホロウで会った人の名前なのにこうやってどこかに向かってるってことは何かを知っているってことだよね?」


「まあ、そういうことだろうな」


 ダリウス・フィールは最後にここに俺の妹を殺した奴がいるみたいなことを言っていた。

 だから、ここストライドに行って欲しいと。

 そして、今こうして何者かが奴の名前を聞いてどこかに走っている。

 とすると、どうやら奴の言っていたことは正しかったということだろう。

 つまり、奴の家族を殺し、家を燃やした何者かがこの街にいる。


「っ! 止まったわ!」


 そう言って走るのを止めるジブリエル。

 俺達もそれに合わせて走るのを止める。


「誰かと話してるわね。近付くわよ」


「バレないかな?」


「バレても街の中なら派手に動けないでしょうし、大丈夫よ」


 そう言って不安そうなユリアを励ますシャーロット。


「とにかく近付きましょう」


 それから俺達は歩いて何者かに近付く。


「よし、入れ」


 見張りっぽい住人と話をした黒いフードを被った奴がとある家へ入って行く。


「あの家に何かあるのか…」


 位置的には街の南東。

 比較的最近建てられた家の一つのような気がするが何か特別な感じもしないし、本当にただの家って感じだ。

 ここに何かあるようには思えないが…。


「どうやら中からどこかへ行けるらしいわね。中にも何人か人がいるわ」


「結構ちゃんとしてるのね」


「中に入りますか?」


「いえ、今揉め事を起こすのは止めておきましょう。ここに何かがあると分かっただけでも十分よ」


「じゃあ、これからどうするの?」


「とりあえず、今日中に情報収集を終わらせて夜になったらここに来ましょう」


「侵入するってことか」


「そういうこと」


「…分かった」


 これでダリウス家で何があったのか分かるかもしれないな。


「今は一旦ここを離れましょう」


 それから俺達は少し離れた場所まで移動した。


「とりあえず夜までに魔王のこと、ヒカリのこと、この火山灰の情報を集めましょう」


「そうだな」


「ヒカリとは?」


「ああ…そういえば言ってなかったわね」


「というか、私達のこともちゃんと言えてないわ」


「じゃあ、夜までにその辺りのことを話したいわね」


「そうだな」


 ヒルダとは会ったばかりでほとんど話せていない。

 お互いのことを知る為に話の場を設けるのはいいと思う。


「? よく分かりませんが後で教えてください」


「そうね」


「それとこの火山灰については知ってますよ」


「本当ですか?!」


「はい。しばらくここに滞在してますから」


 これは嬉しい誤算だ。

 聞く時間が減ってこれからのことを話す時間に当てられる。


「この火山灰はここから北の大陸、ホーラル大陸にある火山が噴火したことによってこうなっています」


「火山が噴火!?」


「それでここまで火山灰が降ってるのか」


「近くに火山がないから不思議に思ってたけどそういうことね」


「もう一週間は振り続けて非常に困っているとみんな言っています」


 火山灰って一週間も降るものなのか。

 余程大きな噴火だったんだろうか。


「それで今回の噴火は大きいみたいでホーラル大陸に戻れない人も出ているみたいです」


「戻れない?」


 その言葉を聞いて俺は嫌な予感がした。


「現在、ホーラル大陸はいつまた噴火が起きるか分からないということで行き来が禁止されてるんです」


「は”あ”〜!?!?」


 シャーロットが大きな声を出す。


「じゃあ、ホーラル大陸へは行けないんですか?!」


「そういうことになりますね」


「おいおい、どうすんだよ…」


 せっかくここまで来たのにホーラル大陸へは行けないだなんて。

 龍人族が守るルーンは諦めて他の種族が守るルーンまで行かなければならないってことだ。


「困ったわね。北に行けないとなると、東の巨人族〈ギガンテス〉か南の魚人族〈ウンディーネ〉のところまで移動しないと」


「……ここからだとどっちもあまり変わらないわね」


「それだったら、東へ向かうのはどうでしょうか? そっちの方面だとわたくしが案内できます」


「そういえば鬼ヶ島はここから東へ行ったところですもんね」


「はい」


「じゃあ、ホーラル大陸は諦めて東へ向かうか」


「それで決まりね。詳しい話は後でしましょう。今はさっきの広場に戻って情報を集めるわ。それが終わったら一度私達の宿に戻ってこれからの話をしましょう。もちろんヒルダもね」


「分かりました」


「とりあえず戻りましょうか」




 それからさっきの広場へと戻った俺達はジブリエルが中心となって情報を集めた。

 聞いた話は魔王のことについてとヒカリのことについてだ。


 まず魔王について。

 一応聞いてはみたのだがこれといって情報は得られなかった。

 逆に何も情報が得られなかったということはこっち方面には来ていない可能性がある。

 だとすると、ホーラル大陸へ行けない今の状況は好都合だ。

 もし、ここまで来て魔王が先にホーラル大陸へ行ったとしたら俺達には何もできない可能性がある。

 それならまだ魔王の妨害ができる可能性がある今の状況の方がいいだろう。

 物事はいい方向に考えるのことも必要だ。


 次はヒカリについてだ。

 獣人族の女の子を知らないかと尋ねてみたのだが、ここはそれなりに獣人族の子供がいるらしく数が絞りきれないって感じだった。

 この点はセレナロイグに似ている。

 が、セレナロイグと大きく違う点がある。

 それはここの獣人族は奴隷が多いということ。

 つまり、どこかで捕まえてきた獣人族の子供がいる可能性があるってことだ。

 もしかしたらここの街の何処かに奴隷としているかもしれない。

 流石にどこにいるかまでは分からないが今までで一番ヒカリが居る可能性のある場所だ。

 もう少し何か情報が欲しい。

 そう思っていたのだが時間が経って陽が落ちて来たので今日はこの辺で切り上げるということになった。


 因みに火山灰に関してはヒルダが教えてくれたし、ダリウス・フィールについては聞くのは危険だろうということになり聞かなかった。

 まあ、どちらにしろ時間が足りなくて聞けなかっただろうから問題はないだろう。




 こうして情報を集めた俺達は話し合いの為に宿へと戻ってきた。


「ああ…流石に疲れたわね…」


 ベッドに座りながら言うシャーロット。

 いつもならベッドに倒れ込んでいるが今日はヒルダがいるからかしないらしい。


「今日は走ったり、人に色々聞いて回ったからね。私も少し疲れたよ」


「そうね。みんなお疲れ様」


 ジブリエルが労いの言葉を言う。


「ジブリエルも演舞良かったぞ」


「あら、ありがとう」


「そういえばまだその話をしてなかったわね。中々あんたもやるじゃない」


「初めてあんな綺麗な舞を見たよ。凄かった」


「わたくしも感動しました」


「どうも。久々だったけど上手くいってよかったわ」


 褒められたジブリエルはなんだか嬉しそうだ。


「さてと。それじゃあ、早速だけどこれからのことについて話しましょうか」


「うん」


「その前に。私達のことをちゃんとヒルダに説明した方がいいわ」


「そういえば、前にもそんなことを言っていましたね」


「そうね…これからのことも考えてそれは大切かもしれないわね」


「……」


 ヒルダは不思議そうな表情をしている。

 何か始まるんだろうかって顔だ。


「じゃあ、まずは私からかしら。改めて、私は妖精族のジブリエルよ」


「はい。昼間の舞を見た時に気が付きました。背中の羽が見えていましたから」


「じゃあ、次は私が。私はエルフのユリアです」


「エルフ…匂いが人とは少し違ったので人ではないのかもと思っていましたがそういうことですか」


「えっ!? 私の匂い変ですか?!」


 慌てて聞くユリア。


「あっ、いえ、そういうことではありません。人族とは違うその種族特有の匂いがしたという意味です。そんなに心配しないでください」


「そうですか…よかった……」


 ユリア達はできる限り体を綺麗に保つようにしてるから匂いが変ってことはないだろう。

 寧ろいい匂いだと思う。

 そんな慌てるほど気にしているんだろうか。


「それじゃあ、次はソラね」


 何故かジブリエルがニヤニヤしている。


「ん? …俺はソラだ。一応、人間に限りなく近いけど機械だ」


「機械? あなたが?」


 不思議そうなヒルダ。


「詳しくは俺にも分からないんだ。記憶が所々なくてな」


「……こんなに精巧な機械があるのですね」


 彼女は興味深そうに俺を見る。

 と、何かを思い出したような反応をすると、


「言われてみれば、あなたからは人族特有の匂いがありませんね」


「匂い…か」


 気にしたことなかったな。

 いや、汗臭くならないようにとかは気にしてるんだけどね。


「生物としての匂いはあるようですが、種族的な特有の匂いがありません。不思議です」


「因みに臭くはないですよね?」


 匂い、匂いって言われると俺も気になる。

 ユリアもこんな気持ちだったんだろうか。


「大丈夫ですよ。少し汗の匂いがしますが、私ぐらいしか分からないですから」


「そうですか…」


 それってどうなの? 汗臭いってことじゃないの?


「匂いと言えば…シャーロットから少し気になる匂いがします」


 そう言われて俺達は自然と緊張したと思う。


「前に戦った魔王の使い魔。あの者と同じような独特の匂い…もしかして、シャーロット…あなたは」


 心なしかそう言うヒルダの声色も緊張しているように感じた。


「じゃあ、次は私ね。私はパルデティア・シャーロット。魔人よ」


「魔人…」


 俺達は自然と警戒していた。

 いきなりヒルダが攻撃してくる可能性があるからだ。

 が、ヒルダは特に何もしない。

 というか、何かを考えているように見える。


「魔人といえば、確か昔話に出てくるあの?」


「そうよ。私はこれでも二千年近く生きてるのよ」


「つまり、シャーロットはわたくしの敵…なんでしょうか?」


 ヒルダが確認するように聞く。

 すると、


「シャーロットは敵じゃない! 私達の大切な仲間なの!」


 ユリアが庇うようにシャーロットに抱き付く。


「ちょっと…」


「……分かりました。では、わたくしもシャーロットは敵ではないと認識しましょう」


 ヒルダがそう言うとユリアの顔から緊張が無くなった。

 とりあえず、今から戦いになるみたいなことはなさそうだ。

 ユリアがシャーロットから離れる。


「因みに、わたくしが知っている魔人の情報だと魔人は何かの能力を一つ持っているらしいのですが、シャーロットも何か能力を持っているんでしょうか?」


「そうね。教えるついでに元の姿になりますか」


 そう言うとシャーロットは翼と尻尾を生やす。


「これは…!? 驚きました。こんなことができるのですね」


「これができるのは世界で私ぐらいじゃないかしら。まあ、それはいいとして私の能力を教えるわ」

「私は『魔性』の能力を持っているの。この姿の時に人を操ることができる能力よ」


「ということは、わたくしも操れるのですか?」


「無理ね。魔力が多かったり、人以外の生き物だったり、そもそもこの姿じゃないとダメだし。まあ、色々と操れる条件があるわ」

「それで言うと、ヒルダはその左手の紋様があるから操れないわね」


「これですか?」


 そう言って自分の左手の甲を見せるヒルダ。


「そう。ユリアの時はそれで私の能力が効かなくなったし」


「ユリアの時…? もしかして、前に戦ったことがあるのですか?」


「一番最初に会った時にね。まあ、私達も色々あったのよ。今は仲がいいけどね」


「そうだったんですか。…分かりました。あなた達を信頼しましょう」


「どうも」


 シャーロットだけでなく、俺達と言ったのはそれだけ信頼を得られたということなのだろうか。

 まあ、何はともあれ何事もなくてよかった。


「ふう…」


 緊張が解けたのか翼と尻尾を戻してベッドへ座ったシャーロットが大きく息を吐く。


「因みに…」


 と、シャーロットが口を開くと、


「私って変な匂いじゃないわよね?」


「……ええ。大丈夫ですよ。気にしないでください」


「ならよかったわ」


 気になってたんだ。


「さてと。それじゃあ、自己紹介も済んだことだし簡単にこれからの予定を話し合いましょうか」


 それから俺達は今夜の作戦会議をした。




〜少し前のストライド某所〜


「それでそのダリウス・フィールの名を名乗った奴らはどうした?」


「発見してからすぐにここへ来たものでどうなったかは…」


「はあ……」


 ご主人様が大きなため息を吐いた。


「そいつらを野放しにしてるってことか」


「申し訳ございま…」


「バカ野郎が!!!」


「ひっ…」


 ご主人様が怒った…どうにかしないと…。


「あの野郎の家を消すのみどれだけ苦労したと思ってやがる!!!」


「も、申し訳ございません!」


「今すぐそいつらの動向と素性を洗い出せ」


「はっ!」


「チッ……ったく…今になってあいつの名を聞くとはな」


「ご主人様」


「ご主人様…」


「ウフ…」


「ご主人様」


「次は私が…」


「……クソっ!!!」


「うっ……」


 痛い……。


「誰だか知らねえがアイツの名前を知ってるやつがたまたまこの街でその名前を口にするわけがねぇ…消すしかねえな」


「ご主人様…」


「おお…悪いな。つい殴っちまった。お前にはお詫びをしないとな」


「お詫び…」


 嬉しい。


「そんなに尻尾を振って嬉しいか? よし、今から俺の部屋に来い」


「はい」


 また、あの部屋で可愛がってもらえる。

 そういえばいつからだっけ? 

 こうしてもらえるようになったのは。


「ほら、行くぞ」


「ご主人様…」


 どうでもいいか……。

見てくれてありがとうございます。

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