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第六十四話 演舞

 次の日の正午。

 俺達は約束していた通り冒険者ギルドの前に来ていた。


「あの後からずっと寝てるのかしら」


「さあ、どうでしょうね」


「それより昨日考えがあるって言ってたけどなんだよ?」


「それは秘密よ」


「なんでだよ」


 こんな感じで何をしようとしているのかジブリエルに聞いても教えてくれない。

 変なことをしなければいいのだが…。


「ジブリエルには考えがあるみたいだし、任せて大丈夫だと思う」


「本当かよ…」


 ユリアがジブリエルの肩を持つがやはり心配だ。

 あの時の彼女の顔は何か面倒なことが起きる気がするんだよな。


 そんなことを考えながらしばらく待っていたのだが一向にヒルダが来ない。

 見た目は完全に廃墟だが冒険者ギルドはここしかない筈なので場所はあっている。

 時間も正午と言っていたからあっているはずだ。

 となると遅刻か。

 まあ仕方ないな。

 もしかしたら鬼族〈オーガ〉は時間に無頓着なのかもしれないし。


「ん?」


 ジブリエルが何かに気が付いたような反応をする。


「どうかした?」


「いえ、そういうことね」


「?」


 ジブリエルが一人で納得している。

 何がそういうことなんだろうか。

 と、その時、冒険者ギルドの扉が開いた。


「悪いな…どうやら寝過ぎてしまったらしい…」


 中から眠そうな顔をしながら低い声のヒルダが出てきた。


「「えっ?!」」


「ヒルダさん?! どうして中から?!」


「ん? どうしてって俺はここで寝泊まりしてるからな」


「なんで? 宿は?」


 シャーロットが聞く。


「宿? 別に必要ない。屋根があれば寝るには十分だ。まあ、壁があれば尚いい。布があれば最高だな」


「……信じられない…」


「文化の違いなのかしら」


「…まあ、とにかく集まれたわけだしよかったね…」


 ユリアが困惑しながらも言う。


「それで今日は何か予定は決まってるのか?」


「まあね。ここら辺で人が集まりそうな広場みたいな場所はないかしら?」


「広場……そういえば、魔王の使い魔が踏んでいった場所が更地になったらしいからそこなら人も居て条件と合いそうだが…」


「なるほど…分かったわ。じゃあ、そこまで案内して頂戴」


「分かった」


「「「???」」」


 俺とユリアとシャーロットは何をするか分からず顔を合わせた。




 それからヒルダを先頭に街を歩く。

 すると、どうだろう。

 背が高いからだろうか、それとも和服だからだろうか。

 やっぱり胸がデカいからだろうか。

 やたらと視線を感じる。


「随分と人気があるのね」


「こんな人気は要りません!」


 目が覚めたのか優しそうな声で言って腕を前に組む。

 すると、周りから声が漏れる。

 こいつら呆れるほど正直だな…。


 まあ、確かにヒルダは美人だと思う。

 長い黒髪に長身。すらっとした体型で着物がそれを更に際立たせている気がする。

 そして、何より男が好きそうな体型をしているというのだろうか。

 アレだ。俗に言うボン、キュッ、ボンってやつだな。


 なんて思っていると前を歩いていたヒルダがこちらをチラリと見た。


 ど、どうしてこっちを見たんだ…。


 俺は汗を垂らす。

 気の所為だ。きっとたまたまだろう。

 一旦、落ち着こう。

 深呼吸だ。


「ふう……」


 落ち着いてきた。

 別に悪いことはしてないんだ。

 堂々としていればいい。


 と、そんなことを考えていたのだがふと気になったことがある。

 それはヒルダの着ている着物だ。

 黒の生地と赤の帯が印象的で所々に桜が描かれており、ヒルダの髪色と赤い目がよく似合っている。

 知識では知っていたが実際に見たのは初めてだ。


「ヒルダ…さん。気になったことを聞いてもいいですか?」


「なんでしょう? というか堅苦しい話し方はしなくていいですよ」


「分かった。ヒルダのその着物ってどこで手に入れたんだ?」


「これですか? 職人にお願いして作ってもらった物なんです。私達鬼族に伝わる伝統ある服なんですよ? よくこれが着物だと分かりましたね」


「ああ…まあ」


 よく分かった、と言うってことはやはり一般的ではないのか。

 今まで見たことなかったもんな。

 でも、そんなものまで知ってるなんて俺を作ったやつは知識を片っ端から俺に詰め込んだらしい。


「そういえば鬼ヶ島を出る時に着ていた服はすぐにキツくなって新しく着物を作るとなった時は苦労しましたね…」


「へえ」


「作り方が分からないからと何件も断られました」


「確かに鬼族以外がそれを着ているところ見たことないかも」


「そうでしょうね。普通の服とは少し違いますから」


「それって中はどうなってるの?」


「中は晒しを巻いています。これが結構大変…んん。まあ、気になれば後で教えます」


「ああ…分かったわ」


 どうやら俺がいるから話を止めたらしい。

 男に話す話ではないか。

 ていうか晒巻いてそれなの?!



 それからしばらく歩いた俺達は街の中心から離れた場所まで着ていた。


「これは…思ったより酷いわね」


 そこには不自然な更地があった。

 建物が並んでいるのにここだけぽっかりと穴が空いてるみたいだ。


「実は使い魔は二体いたんです」


「二人もいたってこと?」


「はい。でも、一体はそのままどこかへ行ってしまいました」


「因みに特徴は?」


 シャーロットが尋ねる。


「地面を跳ねて移動していたと思います」


「ということは…”陽炎”のオレンジ・ラビッツね」


「そうなんですか? 詳しいですね?」


「あ〜…まあ、後で話すわ。でも、その時に斬らないでね?」


「斬る? シャーロットをですか? そんなことしませんよ?」


「そうだと願うわ」


「?」


 ヒルダは不思議そうにシャーロットを見てる。


「まあ、ともかく今から作戦開始よ!」


「作戦開始って……」


「何すんのよ?」


「そうだよ? 私達何も聞かされてないし」


 意気揚々と言うジブリエルに総突っ込みする俺達。

 と、そんな俺達に指を振りながら、


「全部私に任せなさい! なんとかしてみせるわ」


 そう言うとローブを脱いで俺に渡してきた。

 そして、何もないここの中心へ進む。

 すると、瓦礫などを運んでいた人達がそれに気が付いて手を止めていた。

 多分、何してんだって感じだろうな。


「ふう…」


 ジブリエルが深呼吸をする。

 と、次の瞬間、背中から透明な羽を生やす。

 すると、周りからは驚きの声が上がった。


 ジブリエルはその様子を見て少し笑うと宙に舞い上がり、演舞を始める。


「ジブリエルは妖精族だったんですね…」


 ヒルダがジブリエルの舞を見ながら言う。

 彼女にはまだ俺達のこと説明しきれてないからな。

 後で話す時間を作ろう。


 と、そんなことを考えているとジブリエルの体から白い光の粒が溢れ出る。


 何をする気なんだろう。


 そう思っているとその白い光の粒がここら一帯に広がった。

 そして、次の瞬間、白い光の粒が色々な生き物へと姿を変えた。

 見える範囲で蝶、鳥、鹿、兎など色々な種類がいる。

 それを見た子供達は楽しそうにそれを追い掛けたり、興味深そうに見ている。


 この様子を見る限りジブリエルの言う作戦とやら成功したのではないのだろうか。

 そう思える程の反応だ。


 と、今度はその光の生き物達がジブリエルのように宙を自由自在に舞い始めた。

 それと同時にジブリエルもより激しく、より可憐に舞う。


 そして、次の瞬間、自由に宙を舞っていた生き物達が一斉にジブリエルの方へ集まっていく。

 すると、集まった生き物達と一緒にジブリエルが踊り始めた。

 その様子は幻想的で不思議な感じがした。


「凄いね!」


 ユリアが楽しそうに言ってくる。


「そうだな」


「踊りは上手いってシェイクに褒められてたもんね」


「本当に素敵です」


 どうやら俺達はジブリエルに心を奪われてしまったらしい。

 どういう作戦だったのかは分からないが後で良かったと伝えよう。


 と、宙を舞っていたジブリエルが止まり、祈るように手を自分の前で組んだ。

 すると、一緒に踊っていた生き物達が一斉に離れ始める。

 その時、生き物達が強く光り始めた。

 そして、次の瞬間、生き物達が白い光の粒になって弾け飛んだ。

 宙を白い光の粒子が舞う。

 その様子は俺の知っている知識だとまるで花火のようだった。


「綺麗…」


「素敵ね…」


「ええ…」


 地面へ光の粒が落ちるとジブリエルが宙で一礼した。

 すると、周りから自然と拍手や歓声があがる。

 もちろん俺達もその内の一つだ。


「ありがとう〜!」


 そう言って手を振りながらゆっくりと降りてくるジブリエル。

 と、彼女の元へ子供達が駆け寄って行く。


「お姉ちゃん凄〜い!!!」


「どうやってやったの!?」


 そんな子供達に遅れて大人達も集まってくる。

 ジブリエルの周りには人集りが出来ていた。


「すっかり人気者ね」


「あんな素敵なものを見せてくれたんですから当然ですよ」


「少しでも喜んでくれたら嬉しいわ」


 人集りの中心でジブリエルが言う。

 と、その時、


「よかったら私達、なんでも屋の”ダリウス・フィール”をよろしくね!」


「えっ?!」


「ちょっ!?」


 何故かジブリエルがここでダリウス・フィールの名前を出したのだ。


「お姉ちゃん、なんでも屋なの?」


「じゃあ、またさっきのやって〜!!!」


 子供達がジブリエルにおねだりをしている。


「ん〜どうしようかな〜…あっ…ごめん。私の仲間が迎えに来ちゃったみたい」


「「「ええ〜〜〜!!!」」」


「ごめんね〜!」


 ジブリエルはそう言って人集りから抜けてこちらに向かってきた。


「急いで。走るわよ!」


「はい?」


 いきなりダリウス・フィールの名前を出したかと思えば、今度は走るとか言い出した。


「いいから! 見失うわ」


 そう言って俺から自分のローブを奪い取ると走り出すジブリエル。


「おい!」


「ジブリエル待って!」


「何か分かったのかも」


「付いて行きましょう」 


 ということでそれから俺達はジブリエルの後を付いて行くのだった。

見てくれてありがとうございます。

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