第六十話 セレナロイグ出立
次の日の朝。
俺達は宿を出て城の城門前まで来ていた。
「来たか」
「お待たせしました」
着くとフィーベルが高そうな馬車を止めて待っていた。
「それじゃあ、早速だが行こうか」
「お願いします」
それから俺達は馬車に乗る。
「そういえば四人はどうやって知り合ったんだ?」
「そうですね…」
馬車で揺られながらフィーベルに俺達の出会いを簡単に話した。
「そうか。じゃあ、何年も一緒に旅をしているというわけではないのか」
「はい」
「仲が良さそうに見えたから長いこと一緒にいると思っていたよ」
「そういえば、前にもジブリエルに似たようなことを言われたな。俺達ってそんなに仲が良さそうに見えるもんなのか?」
「なんというか信頼感があるのよ。それがなんとなく伝わるの」
「へえ…」
自分達ではよく分からん。
「まあ、一緒に旅をして、死戦を乗り越えれば自然とできてくるものなのだろう」
「そういうものですか…」
「そういうものさ」
信頼は障害を乗り越えてきた証ってことかな。
その後も雑談は続いた。
馬車を走らせてからしばらく経った頃。
「これからストライドへ向かうなら気温には注意した方がいい」
「気温?」
「ストライドは周りをビビ砂漠という砂漠で覆われている。砂嵐や旱魃などもあるから気を付けた方がいい」
「大変そうね」
「あの辺りは暑いからな。水分を多めに摂ることを勧めるよ」
そういえば前に北の方は暖かい気候だとか言ってたな。
「はあ…行きたくないわね…」
「シャーロットは行ったことあるの?」
「ん〜…昔に行ってみようと思って少しだけね。でも、暑すぎてすぐに引き返したからあそこら辺は私も行ったことがないわ」
「そうなんだ」
「私もストライド周辺へはあまり行きたくない。昔暑さでやられかけたことがあってな」
「聞いてるだけで行きたくなくなってきたんだけど…」
「とにかく水だ。水を上手く使わないと辛い旅になるぞ」
「水か…」
幸いなことに俺達は全員魔法を使える。
水がなくて困るみたいなことはない…と思いたい。
「旅といえば、私も少しの間この国を空けることになってな」
「フィーベルさんが?」
「親衛隊隊長とか言ってなかったっけ? いいの?」
「国王直々の命令だ。先日のドラゴンの残党の行方。場合によっては討伐。それとここら一帯の安全確認」
「なんか大変そうね」
「ああ、大変だよ。これに加えて、リバイロックを軽く調査しなくちゃいけなくなってな」
「リバイロックって、確かドラゴンの巣窟になっているっていうあの?」
「ああ。危険が伴うから何か異変がないかの軽い調査だ」
「へえ」
なんか聞いてると俺達よりも大変そうだな。
「最近、やけにおかしなことが続いていた。何もないといいんだがな…」
「おかしなことというのは?」
「ああ…そういえば、魔王の封印の為に旅をしているんだったな。だとしたら伝えておいた方がいいか」
「ドラゴンの件の少し前、黒いモヤで覆われた者と戦ってな」
「黒いモヤ…魔王の使い魔か」
「ああ。奴は自分を”天地”のサニー・イエローと言っていた。能力は恐らく重力に関するものだと思う」
「重力?」
「ああ。奴の周囲は物が浮いたり、逆に沈んたり出鱈目だった。私は弓を使うから苦労してな。魔法を使うことを余儀なくされた」
「それで、その時はどうしたんですか?」
「その時は兵士と冒険者達でなんとか倒したよ。幸い、発見が早かったから街や民には被害がなかった」
「それはよかったです」
「そういえば、あの時も東門からだったな……まあ、行けば分かるか」
「止めておいた方がいいかもしれないわよ」
シャーロットが言う。
「聞いてて思ったけど、もしかしたら魔王…はリバイロックに居たかもしれないわ」
「魔王がリバイロックに?!」
「私の勘だけどね。使い魔を召喚したのはもしかしたらそこかもしれないわ」
「……」
「まあ、もういない可能性の方が高いから行っても何もないとは思うけど、命の保証はできないわよ」
「…そうか。忠告ありがとう」
「でも、だとしたら俺達もリバイロックに行った方がいいんじゃないか?」
「ん……悩むところね。さっきも言ったけど今からリバイロックに行ってもいない可能性が高いわ」
「わざわざ自分の居場所を知らせるような場所に長居する意味はないしね」
「だとしたら私達は少しでも先回りできる可能性がある龍人族の元へ行った方がいいと思う」
「なるほど…まあ、確かに」
「それに魔王に会えたとして、今の私達だけじゃ返り討ちに合う気がするわ。せめて後三人ぐらいは強力な協力者がいないと」
ジブリエルが言う。
やはり魔王本人を見ているからか具体的な仲間の数だな。
「今はルーンを守る為に全力を尽くした方が良さそうだね」
「ああ」
今はストライドへ向かった方がよさそうだ。
魔王の居場所が分かっているならまだしも、今はどこにいるか分からないのにわざわざリバイロックへ行くのはよくないだろう。
「フィーベル様! まもなく北門です」
「分かった! 話していたらすぐだったな」
「今のうちにヒカリのことをお願いしたら?」
「うん。そうだね」
「?」
「実は…」
それからヒカリのことをフィーベルへ話した。
「なるほど…分かった。該当する者がいるかどうか調べてみよう。もし、見つけたら冒険者ギルドを通して伝えよう」
「ありがとうございます」
それからすぐに馬車が止まった。
俺達は馬車から降りる。
「みんな気を付けてな」
「はい。フィーベルさんもお気を付けて」
「うむ」
「それじゃあ、行きますか」
「そうね」
「ああ」
「うん」
「あの…! ユリア…」
「ん?」
フィーベルが唐突に話し掛けてくる。
「その…最後に…あの…抱き締めてもいいだろうか…?」
声を上擦らせながら言うフィーベル。
「……うん」
最初は少し迷っていたようだったがユリアはフィーベルのお願いを承諾した。
「…………すまない。少し寂しくなってしまって…」
「ううん。このぐらいのことならいいよ」
これだと抱き締め合ってる母親と子供みたいだな。
でも、なんか心が落ち着く。
穏やかな気持ちというのはこういうことをいうのかもしれないな。
「もう大丈夫だ」
「そう? もう少ししてもいいんだよ?」
少し揶揄うようにユリアが言う。
「本当に大丈夫だ…!」
照れながら言うフィーベル。
「では、元気でな」
「うん。元気でね!」
こうして俺達はフィーベルに見送られながらセレナロイグ王国を出立し、ストライドへ向かった。
見てくれてありがとうございます。
気軽に感想や評価、ブックマーク等をして下さい。嬉しいので。




