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第五十六話 緊急依頼

「どういうことですか? 一体、何が起きてるんですか?」


 慌てた様子のフォイがギルドの受付嬢に聞く。


「実は今、数体のドラゴンが街まで飛んで来まして。それでそのドラゴン達が東区で暴れてるんですよ」


「そんな事が…しかし、どうしてドラゴンがわざわざここセレナロイグまで…」


「それは私達にも分かりません。ですが、このままでは東区がドラゴンに破壊されてしまいます。放っておくとそれから更に被害が広がる可能性もあります」

「なので、我々冒険者ギルドから緊急依頼ということでここにいる冒険者達にドラゴンの討伐、もしくは撃退をお願いしたいんです」


「なるほど…」


「なんか大変なことになってるわね」


「そうだな」


「特にSランク冒険者のフォイさん達には協力を強くお願いしたいのですが…」


「分かりました。その依頼、受けましょう。マルシラック、アッシュ、イルミナ、いいな」


「ああ」


「おっけ〜」


「分かったわ」


「よし。となれば早速準備だ。急ぐぞ」


 そう言うと冒険者ギルドの方へ走って行ってしまった。


「では、皆さんにもできる限り協力をお願いします。ですが、相手はドラゴンですので無理だけはしないようにお願いします」


「ドラゴンか…」


 前に蒼龍と戦ったことはあるが、あの時は苦戦したのを覚えている。

 今回はどの種類のドラゴンなのか分からないがドラゴンという名前が付くからには強いだろう。

 できれば戦いたくないが街が襲われている以上そうも言ってられない。


「俺は行こうと思う。みんなはどうする?」


「私も行く。もしかしたら逃げ遅れたり、怪我をしている人もいるかもしれないし」


「私も行くわ。本気は出せないけど、放ってはおけないもの」


「そうね。私も同意見よ」


「そうか。じゃあ、みんなで行こう」


「うん」


「「ええ」」


 それから俺達は冒険者ギルドが用意した馬車に乗ってこの街の東区と呼ばれる場所まで移動した。

 馬車は俺達の他にも冒険者が何人も乗っており、その人達の話題はどうしてドラゴンがこんなところまで来たのかというので持ち切りだった。

 しかし、本当にどうしてだろうか。

 確かこのシレジット大陸の中心にはリバイロックと呼ばれるドラゴンが住んでいる山脈があった。

 ドラゴンが来たとするなら多分そこからだとは思うんだがここからはかなり離れている。

 わざわざここまで飛んできたとするとかなり物好きというか、変な感じはする。


「皆さん!もう少しで着きます。準備をしてください」


「三人とも気を付けてな」


「うん」


「ええ」


「あんたもね」


 そんな会話をしてすぐ馬車が止まった。

 俺達は馬車から降りる。

 すると、もうとっくに夜の筈だがやけに明るい。


「かなり広い範囲で火事見たいね」


「火事か…急ごう」


「皆さん、どうかお気を付けて!」


 ギルドの受付嬢に送り出された俺達は燃えているであろう場所を目掛けて走る。


 しばらく走っているとどんどん暑くなってきた。

 燃えている場所に近付いているからだろう。

 と、その時、グガアアアアという何者かの咆哮が聞こえた。


「これは…」


「ドラゴンね。近くにいるみたい。行きましょう」


「ああ」


 俺達はさっきの咆哮を頼りに走る。

 すると、開けた場所、壊れた建物の上に立つ一匹の黄色い龍。

 大きさは蒼龍より大きいだろう。ここら辺の家といい勝負かもしれない。

 威圧感がある。


「あれは黄龍だわ」


「黄龍?」


「黄龍は黄色の鱗が魔法を吸収するから魔術師の天敵として恐れられている龍よ」


「吸収?! 効かないってことか?!」


 おいおいマジかよ。

 魔法が効かないとすると俺達の中で戦えるのは俺しかいないぞ。

 しかも、俺の青い炎は魔法に近いものな筈だ。

 だとしたら吸収されるって可能性もある。

 もしかして、俺達にとって天敵かもしれない。


「直接魔法で攻撃しても意味がないわね。でも、土魔法で地面を尖らせたりとか氷魔法で一瞬足止めしたりはできるから…その…頑張って!」


「頑張ってって……」


 今までこれほど嬉しくない頑張ってがあっただろうか。

 さっきのユリアの頑張っては嬉しかったのに……。


「仕方ないでしょ? この厄介な能力のお陰で討伐される数が少ないから黄龍は別名、金龍って呼ばれてたりして鱗だけでも高く売れるぐらい価値がある強いドラゴンなのよ」

「私達も出来るだけ支援するから。無理そうだったら逃げて人が来るのを待ちましょう。黄龍は魔法を吸収するから守りは強いけど、攻めはそうでもないからなんとかなるわ」


「本当にそんな感じの案で大丈夫なのか?」


「ここで私達が少しでも足止めをすることで誰かを助けると思ったらやるしかないでしょ?」


「……」


 不安で聞いたがそう言われたら何も言えない。

 確かにそうだ。

 ここで俺達がこの黄龍と戦うことで結果的に誰かを救うことになるかもしれない。

 だとしたら、


「分かった。やろう」


「うん」


「それで、具体的な作戦はどうする?」


「私もそれを聞きたいわね」


「そうね……じゃあ…」




 それから俺達は少し作戦会議をした。


「『スピードウェイト』『パワーウェイト』『ガーディアンボディー』」


「『ラッキーラック』『ライオンハート』」


「じゃあ、後は任せたわよ」


「分かった」


 作戦はこうだ。


「おーい!!! こっち! こっち!」


 まずはユリアとジブリエルに支援魔法を掛けてもらった俺がわざと黄龍に見つかる。


「グガアアア!!!」


 黄龍が俺に気付いて咆哮する。

 最初はただただ逃げ回って時間を稼ぐ。

 その間に相手の攻撃種類を見たりして注意を引く。


 案の定、黄龍は俺に狙いを定めて口から炎を吐いて攻撃してくる。

 それを走ったり、飛んだりしながら躱す。

 とりあえず、作戦は上手くいっている。

 すると、痺れを切らしたのか黄龍は翼をパタつかせる。


「よし、そろそろだな」


 黄龍が空へ飛ぼうと足に力を込めた。

 次の瞬間、黄龍の足元が凍る。

 と、同時に地面から二つ柱が飛び出し、それが黄龍の翼を貫いた。


「グガアアアアアア!!!」


 今までの比にならない程の大きな声で黄龍が叫ぶ。

 まさかここまで上手くいくとはな。


 作戦的にはユリアが氷魔法で足元を凍らせる。

 黄龍の魔法吸収は唯一足だけが遅いらしく、一瞬だけだが凍るらしい。

 その一瞬の隙にシャーロットとジブリエルが土魔法で地面を操り、創り出した柱を翼目掛けて突き出す。

 一から創り出した魔法での攻撃はすぐに吸収してしまうが、元からある地面を利用した魔法の使い方だと魔法の効果がなくなるまでに時間が掛かるため有効らしい。

 これで上手くいけば翼を使えなくできるという作戦だった。


「さてと、ここからは俺の出番だな」


 ここからは俺が作戦の要だ。

 飛べなくなった黄龍は俺を完全に敵と見做して襲ってくる。

 ユリア達は隠れているため俺と黄龍の殴り合いだ。


 今までは支援魔法のお陰である程度楽に動けたが、黄龍に触れた瞬間その支援魔法の効果も吸収されて無くなってしまう。

 しかも、俺の青い炎も吸収される可能性もある。

 こればかりは黄龍に触れるまで分からないので運だ。


「グガアア!」


 黄龍が俺に向かって突進してくる。


 どうなるか…これで分かる!


 黄龍が噛みつこうと口を開いて首を伸ばす。

 俺はそれを躱して黄龍の顔目掛けて思いっきり右拳を殴り付けた。

 その瞬間、俺の拳の青い炎が少し揺らいだ。


 もしかして、吸収されるか?


 吸収された場合はこれ以上の戦闘は無理と判断して逃げることになっている。

 が、どうやら吸収はされないらしい。

 揺らぎはしたがそれ以上は何もなかった。

 やはり俺のこの青い炎は普通とは少し違うらしい。


 と、そんなことを思っていると黄龍が胸を張っている。

 これは何度も見たことがある。

 蒼龍もこうやっていた。

 炎のブレスだ。


 それを見た俺は躱そうと横に飛ぶ。

 と、その瞬間、どこからか飛んできた弓矢が黄龍の右目に突き刺さった。


「ガアア!!!」


 黄龍は暴れ回る。

 一体、何が起こったんだ。

 誰がこんなことを…。


 俺は周りを見る。

 が、近くには誰もいない。

 しかし、そう思っているとまた何処からか黄龍に弓矢が飛んでくる。

 それが正確に顔に当たるのだ。

 物凄い腕だ。


「グガアアア!!!」


 黄龍が咆哮後、炎のブレスを吐く。

 どこに敵がいるかも分からず適当にだ。

 軽いパニック状態のように見える。


 これはチャンスだな。


 俺は黄龍に向かって走る。

 そして、飛び上がると右手に力を込める。

 すると、青い炎が右手で大きく燃え上がる。


「カオス・インパクト!」


 次の瞬間、俺の全身全ての青い炎を右拳に集めて黄龍の頭目掛けて殴り付けた。

 バーーーンという地面に黄龍の頭が打つかる大きな音が響く。


「よし…」


 割れた地面の上に血を流した黄龍がぐったりしている。

 これで生きていたら不死身なのかと疑う。


「ソラ!」


 ユリア達がそれぞれ別の方向から走ってきた。


「大丈夫だった?」


「ああ」


 ユリアが声を掛けてくれた。


「上手く行ったわね」


「でも、途中の弓矢はなんだったのかしら」


「それは俺も気になってた」


 あの弓矢は一体……。


「そこの四人とも! 怪我はないか?」


 と、少し離れたところから駆け寄ってくる人がいた。

 その人は銀色の鎧を身に付け、手には金色の弓を持っていた。

 この人がさっきの…ていうか、この人……。


「フィーベルさん!? どうしてここに?」


 やっぱりそうか。

 何処かで聞いたことのある声だと思った。


「ドラゴンが東区で暴れていると聞いてきたんだ」


「そうだったんですか」


「まさか、君達もここにきているとはな。すまない。助かるよ」


「いえ」


「しかし、ソラと言ったか? 君は私が思っていたより幼い感じだな」


「ん? そうですか?」


 ローブを外した俺の素顔を見たフィーベルが言う。

 そういえば、しっかりと顔を見せたことは無かったか。


「もしかして、みんな私が思っているより若いのか…?」


「レディーはいつでも若いものよ」


「ハハハ。なるほどな」


「年齢なんて関係ないわよ」


「……まあ、とにかく感謝する。が、悪いんだがまだドラゴンが暴れているらしくてな。手伝って欲しい」


「分かりました」


「うむ。では、急ごう」


「はい」


 それから俺達はフィーベルと一緒に他のドラゴンの元へ向かうことにした。

見てくれてありがとうございます。

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