第五十五話 男の戦い
〜ソラ視点〜
図書館を出た。
『恋』に関係ありそうな書物はそれなりに見たと思う。
その上でだ。
俺は多分、ユリアに恋をしているのではないかと思う。
色々な本を見てみて俺のこの状態が恋をしている時に起こる症状によく似ている。
特定の人と話していると緊張したり、楽しかったり、ドキドキしたりする。
それは俺でいうユリアに当たるだろう。
しかし、機械の俺が恋なんてするんだろうか。
未だに信じ難い。
でも、そうか。俺はユリアに恋をしているのか。
長く一緒にいるのが要因なのだろうか。
それとも他に何か理由でも合っただろうか。
と、思い返してみればユリアとは色んな経験をした。
自分が機械であると初めて打ち明けたのもユリアだ。
色々な魔法を教わったのもユリア。
初めて喧嘩したのも、仲直りしたのもユリアだった。
こうやって考えると確かに俺がユリアに恋をするという要因はある気がする。
恋か。どうしよう。ユリアに言った方がいいのか?
いや、俺がそんなこと言ったってどうする。
俺達は魔王を封印する為に旅をしている。
それで好きですって伝えてどうなるっていうだ。
俺は機械だし。
ユリアも困るだろう。
告白された奴がずっと側にいるってのも嫌だろうし。
答えは最初から決まっている。
黙っていよう。
黙っていれば特に問題になることもない。
強いていうなら、一番黙っていなさそうなジブリエルにこのことがバレているということだが大丈夫だろう。
秘密にしてあげるって言ってたし。
頼むぞ、ジブリエル。
「あっ、ソラ」
俺が考えながら歩いているとどうやら約束していた噴水まで歩いていたらしい。
ユリアが俺に気付いて手を小さく振っている。
可愛いからやめてくれ。
「これで全員揃ったわね」
「そうね」
俺が一番最後だったらしい。
「もしかして、待ったか?」
「ううん」
「私達も少し前にここに来たから丁度よかったわ」
「そうか」
「それじゃあ、この後はどうする?」
「そうね…あっ、そうだ」
ユリアが何かを思い出したのか着ていたローブから何かを取り出した。
「これ、忘れないうちにジブリエルに渡しておくわ」
「これ…もしかして私に?」
「そう。髪飾り似合うかなと思って」
「ありがとう! とても嬉しいわ! 大事にするわね!」
「うん」
頭のローブをとり、ジブリエルはとても嬉しそうにユリアから貰った髪飾りを付ける。
「どう?」
「うん、似合ってる」
「ええ、いい感じね」
「そっか。ソラは?」
「俺?」
なんで俺にまで聞くのか分からんが、そうだな。
確かに似合ってる。
主張し過ぎず、しなさ過ぎず、ジブリエルにいい感じに合ってるな。
「いいと思うぞ。よかったな」
「そう? 後で鏡で確認しよう」
余程嬉しかったのかジブリエルのテンションが上がっている。
「で、この後どうするの? 晩御飯には少し早いと思うけど?」
「そうだね…一回宿まで戻ってそれから考えようか。思ったより気に入ってくれたみたいだし」
「それはいい考えね。これからどこで何を食べるか決めましょう」
「じゃあ、とりあえず宿まで戻るか」
ということで、それから俺達は宿まで戻ることにした。
宿に戻ると早速ジブリエルが鏡で自分のことを見ていた。
「我ながら似合ってるわね」
「自分で言うか」
「ふう…やっぱりベッドはいいわね…」
ベッドに倒れ込んだシャーロットが言う。
「それで、晩御飯はどうする? 誰か案はある?」
椅子に座ったユリアが言う。
「それなんだけど、冒険者ギルドの三階にご飯を食べられる場所があったのよ」
「へえ」
「だから、そこでもいいかなって思ってたんだけどどう?」
「俺はそれでいいぞ」
「うん。私もいいよ」
「私もそれでいいわよ」
「なら、決まりね。少し休憩したら行きましょうか」
「ああ」
ということで、それから宿で少し休憩した俺達は再び冒険者ギルドへ来ていた。
流石に昼間に来た時より人の数は少ないように見える。
「それじゃあ、三階まで行きましょうか」
「ああ」
ジブリエルを先頭に階段を上がっていく。
三階に着くと席には多くの人がいた。
武器や防具を身に付けている人も多いので冒険者の人が多いのかもしれない。
「いらっしゃいませ。お好きな席へお座りください」
「じゃあ、適当に座りましょうか」
「そうだね」
俺達は空いている席に座った。
丸型のテーブルに椅子が五つ。
「何を食べようかな〜」
シャーロットが楽しみなのか嬉しそうな顔で料理のメニューを見ている。
それからすぐに各々食べたい料理を頼み待っていたのだが、
「ああ…最近ついてねえぜ…」
「また女に振られたか?」
隣の席からそんな声が聞こえた。
「またってなんだよ、またって」
銀髪の男が酒を呑みながら言う。
「だってこの間も女に話し掛けて断られてただろ?」
と、黒髪の男が言う。
「うるせえ! 俺はこれでもモテるんだよ!」
「本当かよ…」
「あんたの日頃の行いの所為ね」
と、一緒の席に座っていた桃色の髪の女からも言われている。
パッと見た感じ銀髪の男は顔が整っている気がするが…。
「ほう…そこまで言うなら見てろよ…」
そう言って男が席を立つ。
「ユリア、何を言われても無視でいいわよ」
「?」
ジブリエルがユリアに言うがなんのことか分からない。
そう思っていると銀髪の男が俺達に、というかユリアに近付いて来た。
すると、ユリアとシャーロットの間の空いている席に腰を掛ける。
「なあ、あんた、これから俺と一緒に酒でも呑まねえか?」
いきなり座ってきて何言ってんだと言いたくなるが、ジブリエルの言っていた意味が分かった。
これあれだ。俗に言うナンパってやつだ。
「いや…」
「なあ、いいだろ? 少しぐらいさ」
明らかにユリアは困っているが男はそれでも話し掛ける。
「さっきチラッとあんたの顔が見えたんだ。すげぇ綺麗だった」
「……」
「お金も俺が全額出すからさ?」
「……」
これ以上は見てられない。
この男のことはどうでもいいがユリアが可哀想だ。
そう思ったら俺は椅子から立ち上がっていた。
「な? …ん?」
男が不思議そうに俺を見る。
「困ってるだろ?」
「なんだお前? やんのか?」
そう言って鋭い視線を俺に向けてくる。
こいつ、ここまでやっても食い下がらないのか。
「俺の仲間なんだ。これ以上続けるなら許さん」
「あ? んだと?! 俺がいつ彼女を困らせたんだよ!」
「今だよ。酔っ払いはそんなことも分からないのか?」
「こいつ…よし、いいぜ! お前表出ろ!」
「ちょっと、ソラ!」
「いいんだよ!」
こうなったらこいつに痛い思いをさせて分からせてやる。
「おっ、なんか面白そうなことになってんな! 頑張れよ、マルシラック!」
「あれ、止めた方がいいんじゃないの?」
「そうだな」
銀髪が居た席からそんな声が聞こえてきた。
と、その時、この場にいた周りの連中から「おっ、頑張れよにいちゃん!」とか「怪我すんなよ!」とヤジが飛んでくる。
「おい、マルシラック。その辺にしておけ」
「あ? うるせえ」
赤髪の男が銀髪の男に言うがそんなことはお構いなしって感じだ。
「君も、怪我をする前にこんなことは止めておけ。こちらが悪いんだ」
なんで俺が怪我をする前提なんだよ。
そんなこと言われたら食い下がりたくないんだが。
「フフ。きっと大丈夫よ。ソラならいい勝負できるわ」
と、ジブリエルが根拠もないことを言う。
「ほう…言うじゃねえか…それは楽しみだな。来いよ!」
「…おう」
俺は銀髪の男に付いていく。
「あっ…おい! 全く…君、マルシラックは…」
「大丈夫よ。私達は強いもの」
「……おい、アッシュ! イルミナ! 行くぞ!」
「おう! 楽しみだな」
「なんで私まで…」
「ソラ、大丈夫かな?」
「大丈夫よ」
「まあ、なんとかするでしょ」
「……」
それから俺はこのマルシラックとかいうやつと一騎討ちする為に冒険者ギルドの入り口前まで移動した。
周りには俺達を見ようと人集りができていた。
「ルールは殺し無し。先に相手を傷付けるか、参ったと言わせるかだ」
「分かった」
マルシラックは体を伸ばしながら言う。
見た感じこいつの武器は槍らしい。
銀色の高そうな槍だ。
攻撃の範囲には気を付けないとな。
「…本当にいいのか?」
「ああ」
赤髪の男が俺に聞いてくる。
「マルシラック…分かってると思うが…」
「フォイ! お前は黙って審判してればいいんだよ」
「……どうなっても知らんぞ…」
赤髪のフォイと呼ばれている男が呆れ気味に言う。
「お前、名前は?」
「ソラだ」
「そうか。俺はマルシラック。この国の冒険者ギルドを拠点にしているSランク冒険者だ」
「Sランク?!」
「なんだ? ビビったのか?」
冒険者のSランクは確か一番上のランクだった筈だ。
だとすれば、こいつはかなり強いってことだ。
本気で行かないとヤバいかもな。
でも、負けるわけにはいかない。
ユリアが困ってるのにしつこく絡んでくるこいつには。
「いや、倒し甲斐がある」
「へえ…いい根性してやがるぜ」
「それでは、両者の決闘……始め!」
開始の合図だ。
俺は腰を下げて相手の出方を窺う。
だが、マルシラックは何もしてこない。
不気味な笑みを浮かべて俺を見ている。
「なんだ? 来ないのか?」
「……」
挑発なのか?
「じゃあ、俺から行くぞ!!!」
その瞬間、マルシラックの姿がブレた。
「あぶね!」
気付けば相手の槍が自分に向かって突かれていた。
俺はなんとかそれを躱した。
もう少し遅れてたら槍が肩に突き刺さっていただろう。
「よく避けたな」
「っ…」
次、また次とマルシラックは槍の攻撃を止めない。
このまま守ってるだけだとダメだ。
俺は槍を避けるだけでなく受け流すことにした。
躱した瞬間、拳を使って槍を殴る。
すると、体勢が少し崩れたマルシラックは攻撃の手を緩めて体勢を戻そうとする。
その少しの隙を狙って一気に相手の近くへ踏み込む。
「こいつ?!」
俺は右拳に力を入れて思いっきり殴り付けた。
が、マルシラックはその攻撃を槍を使って上手く防いだ。
しかし、体は後ろの方まで飛ばされて受け身をとってまた槍を構えた。
流石に強いな…これがSランク冒険者か。
「おっ、あのにいちゃん思ったよりやるな!」
「おいおい、マルシラック頼むぜ! お前に賭けてるんだからよ!」
周りからそんな声が聞こえる。
「勝手に俺を賭け事で利用すんな! ったく…お前、冒険者ギルドに居たってことは冒険者なんだろ? ランクは?」
「? いきなりなんだよ?」
「いいから教えろ!」
「…」
確か、こないだ作ったばっかりだから…。
「Fランクだ」
「Fランク? まさか、お前偽造か?」
「んなわけないだろ?! なんで偽造しなきゃダメなんだよ!?」
「……冗談だろ…」
マルシラックはそう言いながら再び槍を俺に向ける。
姿勢を落とし構えるその姿から今までとは少し雰囲気が変わった気がする。
この攻撃で勝負が決まる。
俺はなんとなくそう思った。
「ふう…」
深呼吸をして集中する。
「ソラ! 頑張って!」
ユリアの声が聞こえた。
次の瞬間、マルシラックが動いた。
さっきまでと明らかに動きが違う。
速くキレのある動きだ。
俺は自分に向かってくるひと突きに集中する。
「これで終わりだ!」
マルシラックが叫ぶ。
「ここだ!」
俺は自分に突かれた槍をギリギリで躱すとその槍目掛けて思いっきり拳を殴り付けた。
すると、槍は空中へ回転しながら飛んでいく。
「くそっ…」
槍を飛ばされたマルシラックが距離をとろうとする。
が、俺は動かれる前にマルシラックの鳩尾に拳をいれた。
「ぐっ…!?」
「そこまで!!!」
俺の目の前でマルシラックが膝をつく。
決闘が終わった。
なんとか勝てた。
「おいおい、マジかよ!?」
「すげえな?!」
周りからそんな声が聞こえる。
「俺が勝ったんだからユリアに一言謝ってもらうぞ」
「分かったよ…」
そう言うと立ち上がりユリアの方へ歩く。
「悪かったな」
「い、いえ」
「まさかマルシラックが負けるとはな」
「ええ。あの子強いわね」
黒髪の男と桃色の女がそんなことを言う。
すると、なぜかジブリエルが得意げな顔をしている。
戦ったのは俺なんだが。
「君達には迷惑を掛けた。すまないね」
赤髪の男が俺に近付いて言う。
「いえ、もう大丈夫です」
「マルシラック! これに懲りたら少しは落ち着きを覚えろ!」
「分かってるよ…」
マルシラックが槍を拾いながら言う。
「ソラ、怪我とかない?」
「ああ」
ユリアが俺の心配をして来てくれた。
「なかなかいい勝負だったわね」
「私の予想通りね」
シャーロットとジブリエルも近付いてきた。
「結構ギリギリだったぞ」
「あら? そうなの?」
「まあ、でも勝てたんだからよかったじゃない」
「それはそうだが…」
「あんなに向になるなんて…ほんとにどうなるかと思ったよ」
「はい…」
ユリアに言われると少しへこむな…。
「まあまあ。なんとか事が治ったんだからいいじゃない。戻ってご飯でも食べましょうよ」
「ああ…そういえばまだだったな」
ご飯のことをすっかり忘れていた。
と、その時、カンカンカンといきなり大きな鐘の音が鳴った。
「なんだ!?」
「「「?!」」」
「これは緊急事態の時の鐘の音!?」
俺達が驚いていると赤髪の男がそんなことを言う。
「すいません!!! 冒険者の皆さん!!!」
と、ギルドの方から受付のお姉さんが慌てた様子で走ってくる。
「緊急事態です! この街の東方向からドラゴンが来て暴れています!」
「ドラゴン?!」
俺達はいきなりのことで困惑するのだった。
見てくれてありがとうございます。
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