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第五十三話 気持ち

 城門から離れた俺達は少し歩いた場所にある噴水へと来ていた。


「どうしてハートが指輪まで渡してきたのか少し不思議に思ったけど、ああやって言われるとなるほどって感じね」


「うん」


 ここに来ても話はハート王女様の話で持ち切りだ。


「でも、信頼してくれてるなら少しぐらい言ってくれたっていいのに」


「まあな。恥ずかしくて言いづらかったんじゃないか?」


「ん〜、そうなのかな」


 シャーロットが腕を組み考える。


「まっ、信頼してくれてるんだからいいじゃない」


「それはそうだけど」


「それよりあのフィーベルって人、かなり王女様とは仲がいいみたいよ」


「なんでそんなの分かるんだ?」


「私は心の声が聞こえるからね。王女様の話をしていた時の彼女の声はとても懐かしそうな優しい感じがしたわ。それに、ハート様って言ってたけど二人だけの時は呼び捨てで話すぐらい仲がいいみたい」


「へえ〜、なんかいいね」


「そうだな」


 恐らく公的な場では様を付けているんだろう。

 でも、二人だけの時は気兼ねなく話をするほど仲がいいみたいな感じか。


「最初は何かトラブルに巻き込まれでもするかと思ったけど、取り越し苦労だったみたいね」


「そうだね。変に誤解されなくてよかったよ」


「全くだ」


「それで? 何もなかったわけだけど、この後どうするの?」


「うーん…本来は城に行って時間が掛かる予定だったから特に決めてないんだよね」


「せっかくセレナロイグに来たんだし。各々自由時間にする?」


「私はそれでもいいわよ。人の街がどんな感じなのか興味あるし」


「私もみんないいならそれでいいよ。ソラは?」


「俺? う〜ん」


 自由時間か…何か用事はあっただろうか。

 いや、特に無い。

 というか、今までこういう自由な時間というのが少なかったから何をすればいいのか分からん。


 と、それまではそう思っていたのだがふと思い付いたことがあった。


「俺も気になることがある。たまには自由行動するのも良いんじゃないか」


「なら決まり。これから日が落ちるまで各々自由時間よ」


「分かった」


「分かったわ」


「ああ」




 ということで、それからみんなと別れた。 

 日が落ちる頃、さっきの噴水に集合ということになったのでそれまでは自由時間だ。

 いつもだったら特にすることもなく、魔法の練習とかをしてただろう。

 それかせっかくセレナロイグに来たんだからと街を散歩していたかもしれない。

 だが、今の俺には予定がある。

 明確に行きたい場所があるのだ。


「ここか…」


 俺が辿り着いた場所。

 それは図書館だ。

 セレナロイグ王立図書館。

 建物は大きく、多くの書物があるであろうこの場所に用がある。

 といっても、そんな大した用じゃないんだがな。

 だが、気になることがあるから調べたい。


 俺は図書館の中へと入る。

 すると、すぐに本棚が目に入った。

 本がぎっしりと並べられて隙間がない本棚。それが何十、何百とある。

 流石は人族最大の国の図書館といったところだろうか。

 壮観だ。


「ようこそ、セレナロイグ王立図書館へ」


「どうも」


 受付の女性が俺に挨拶をしてきたので軽く会釈する。

 それから俺は中へと進んで行く。

 横を見るとどうやらこの辺りは児童向けの書物が置かれているらしい。

 可愛らしい表紙や分かりやすい題名が目に付く。


 更に奥へと進むと今までの児童向けより少し大人向けの書物へと変わった。

 年齢でいうなら十歳ぐらいが対象だろう。

 となると俺が気になることが書いてある書物はもう少し奥か。


 そう思い、更に奥の方へと歩いていく。

 左右の本の題名を見ながら、自分が探していることに関する本が無いかを探す。

 と、ふと気になる題名を見つけた。


「『感情とは』ここら辺か?」


 俺は気になりこの辺りを探してみることに。

 すると、


「あった」


 俺は自分が気になっていたことが書かれてある本を手に取った。

 その本の題名は『恋』。


 少し前から気になっていたことがあった。

 それは”恋”とはどういうものなのだろうということだ。

 知識としては知っていてもなんかこう、分からない。

 実は俺は恋というものをしているのではと思うことがある。

 機械が? と思うかもしれないが、それは俺も思っている。

 だから、分からない。

 機械が恋をするというのは聞いたことがない。

 だからこそ気になったのだ。


 そもそもなんでこんなことを思ったのか。

 それはユリアと話している時だ。

 彼女と話していると、なんだか変に緊張する気がする。

 今まで一番長く居る筈のユリアにだ。

 普通に考えればおかしい。

 俺はユリアのことが嫌いではないし、寧ろ好きだ。

 だが、だとすれば、この感覚はなんなのだろう。

 と、そう思った。

 しかし、この感覚を説明するのに適しているものがある。

 それが恋だ。恋愛感情。

 そう考えれば一応辻褄が合う。


 ということは、俺はユリアに恋をしている、のだろうか。


 気になる。

 ユリアへの気持ちはジブリエルへの気持ちとは少し違う気がする。

 シャーロットへの気持ちは似ている気がするがやはり少し違う気がする。

 ユリアは俺にとって少し違う何か特別な感じがするんだ。


 これが恋なのか?


 俺はそれを知る為に手に取った本を捲る。

 これで分かればいいんだが。


 俺は本を読み進めていく。


 何か手掛かりはないか。


 そう思いながら本を捲る。

 と、俺はここで違和感に気が付いた。


 なんだろう、誰かが居るような……。


 そう思い、俺は徐に横へ視線を向ける。

 すると、そこには一番こういうことを知られたくない妖精族の少女が立っていた。


「おわっ?!」


「おおっ!?」


 何故か俺の横にジブリエルが立っていた。


「ちょっと、びっくりさせないでよ」


「いや、それはこっちのセリフだ。どうしてここに居るんだよ?」


「面白そうな予感がしたからよ」


「……」


 勘弁してくれ。

 一番秘密を知られてはいけないやつに秘密がバレた気がする。

 もしかして、俺、終わった?

 これからシャーロットに続いてジブリエルにもこき使われるのか?


「何よ、その人を疑っている顔は」


「いや…?」


 どうやら顔に出ていたらしい。

 今度から気を付けよう。


「それにしても、そんな本を読むなんてどういうことかな?」


 ジブリエルがニヤニヤしながら聞いてくる。

 こいつ、俺で楽しんでるな。


「別に。少し気になった本を手に取っただけだよ」


「あら、そうなの? あんなにこの辺りを探していたのに?」


「……」


 見てたのか……どうする? 適当に言い訳するか?

 と、俺が返答に困っていると、


「別にどうこうしようってわけじゃないわよ。そんなに私は信用できないのかしら?」


「そんなニヤニヤした顔で言われたら信用しようにもできないだろ」


「あら、それは失礼」


 そう言って咳払いをする。


「それで? 誰なの? どっちなの?」


 ニヤニヤはしなくなったが目を輝かせながら楽しそうに聞いてくるジブリエル。

 まあ、この状況を見られたら今更言い訳は無理か…。


「……これはあくまで気になっただけだ。いいな? 二人には内緒だぞ?」


「分かったわ」


 本当に分かったのか?

 俺は半信半疑ながらも言うことにした。


「ふう……俺は、おれは……ユリアのことが好き……な気がする…」


 緊張からか唇や喉が乾燥している。

 こうやって口に出すってのはこうも緊張するものなのか。


「ふ〜ん。そうなんだ」


 ジブリエルは少し口角を上げる。

 それは今までのニヤニヤした感じとか楽しいとかそんな感じの雰囲気ではなかった。

 話をしっかり聞いてあげる姉、みたいな感じだった。


「どうしてそう思ったの?」


「どうして…それは俺にもよく分からない。ただ、ユリアが少し特別な気がしたんだ」


「そう。特別か……」


 そう言うと、ジブリエルは目を閉じる。

 何を考えているのだろうか。

 そう思っていると彼女はパッと目を開けた。


「私はどうなろうと応援するわ」


「応援?」


「そうよ。応援」


 つまり、俺がユリアのことを好きかもしれないということを秘密にしてくれるということだろうか。


「それにしても、まさか機械のあなたがね…」


「それは俺も不思議に思ってる」


「本当、不思議よ。さてと、じゃあ、私はこれから街を歩くから」


「お、おう」


「このことは仕方ないから秘密にしておいてあげるわ」


「……どうも」


 それからジブリエルはどこかへ行った。

 別れ際の彼女のニヤニヤした顔は今までと少し違う感じがした。


 ていうか、何しに来たんだ?

 本当に俺の後を付いてきただけなのか?

見てくれてありがとうございます。

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