第五十話 セレナロイグ王国
シレジット大陸の中央に聳える山脈、リバイロック。
ここには多くの種類のドラゴンが住み着いていることから別名、ドラゴンロードとも呼ばれ恐れられている。
そんなリバイロックから北西に位置する場所。
そこに人族最大の国とされるセレナロイグ王国があった。
「ここがセレナロイグか」
「やっと着いたわね」
目の前には大きな壁が街を囲むように向こうまで続いていて終わりが見えない。
これだけでもここがかなり大きな街だということが分かる。
が、それだけではない。
街と外を行き来できる大きな門。
そこを行き来する人の数。
間違いなく俺が見てきた街で一番人の出入りが多い。
流石、人族最大の国と言われてるだけはあるって感じだ。
「ふ〜ん、ここがセレナロイグなのね」
ジブリエルが興味深そうに周りを見ながら言う。
「中に入ったらまずは宿を探さないとね」
「そうだな」
「ここは広いから出来るだけ街の中心に近い方が便利だと思うわよ」
「まあ、とりあえず中に入りましょう」
「それもそうね」
「うん」
「ああ」
それから俺達四人は門番と少し話をした後、街の中へと入った。
「おお…」
大通りであろう道を行き来する人々。
そのすぐ横には露店を出している人もおり、そこに人だかりができている。
「凄いな…」
俺は溢れ返る人々にそんな言葉が漏れた。
「こんなに人がいるの、私初めてかも…」
ユリアが言う。
「私もよ。ここまで人が多いとごちゃごちゃしてるわね」
ユリアに同意したジブリエルが言う。
「ここはいつの時代も人で一杯ね」
と、俺達の中で唯一シャーロットがいつも通りといった感じで言う。
「シャーロットはここに来たことあるんだっけ?」
「まあ、何回かね。でも、あまり長くいたことはないかも」
「へえ」
「ここは人が多い分トラブルになったり、兵士に見つかる可能性があったから出来るだけ長く居ないようにしてたの」
「なるほどね」
「さあ、とりあえず歩きましょう。ここは人が多くて大変だわ」
「それもそうだね」
「じゃあ、行きましょうか」
「おお」
それから俺達は入り口から真っ直ぐ街の中心の方へと歩いた。
街並みは他の国と変わらない。
少し店が多い気がするぐらいだ。
でも、やっぱり人は多い。
人がいないところを探す方が難しい。
「これから宿を探すとして、その後はどうするの?」
歩いていると、ジブリエルが聞いてきた。
「まずは冒険者ギルドかな。そこで色々と情報を集めて、その後は特に決まってないけど…」
「魔王のこととヒカリちゃんだっけ? 何か情報があるといいけど」
「これだけ人がいるんだから何かしら情報があると信じたいけど、そう簡単にいかないのよね〜」
シャーロットがやれやれといった反応をする。
「こればかりは仕方がないからね。何か分かることを祈るしかないね」
「そうだな。あっ、そういえば、ここに来たら手紙を渡してくれってハート王女様に頼まれてたんだった。後で城に行ってみよう」
「ああ、そうだね」
「手紙?」
ジブリエルが不思議そうに聞く。
「この国の王女様から渡されてたんだ」
「へえ。話で聞いてたあの王女様? ハート様だっけ?」
「うん。色々お世話になったからそのお礼も兼ねて行こうか」
「ああ」
「分かったわ。結構予定が決まってきたわね」
「ハートか…今頃上手くやってるのかしら…」
シャーロットがポツリと呟く。
「多分、大丈夫よ。ハート様、しっかりしてるから」
「そうかな…?」
シャーロットが怪訝そうな顔で言う。
「あなた…結構大変な目にあったみたいね…」
と、ジブリエルがシャーロットに同情するように言う。
すると、
「あっ!? 今、私の考えたこと聞いたのね?!」
慌ててシャーロットがジブリエルに詰める。
「さあ? 何のこと?」
「あんたね……」
恍けるジブリエルに呆れるシャーロット。
が、ジブリエルはニヤリと口元を歪ませると、
「私は王女様にベッドに押し倒されてドキドキしてたことなんて知らないわ」
「なぁっ…?!」
「「え?」」
俺とユリアは驚き、同時にシャーロットの方を向いた。
すると、シャーロットは顔を少し赤らめて体を固まらせていた。
「あっ…これ言っちゃいけなかった…」
そう言うと、ジブリエルはそそくさと俺達から離れて行く。
というか、主にシャーロットから離れて行ってる気がする。
「まっ、待ちなさいよ!? 別にドキドキしてないから! 訂正しなさい!」
そう言って、シャーロットがジブリエルの後を追い掛ける。
「私は本当のことを言ってしまっただけよ」
それに呼応するようにジブリエルの足が速くなり、二人の追いかけっこが始まった。
「ああ、二人とも!」
「おい! ユリア!」
二人を追う為に今度はユリアまで走り出してしまった。
街中だからフードをしているとはいえ、これは流石に目立つ。
というか、前も街に着いたら追いかけっこしなかったっけ?
そういうお約束にでもなったのだろうか。
そんなことを思いながら三人の後を追った。
それから俺達は息を整えながら泊まる宿を決めた。
場所は話していた通り出来るだけ街の中心に近い方がいいだろうということで該当する宿にした。
その時、俺と俺以外で部屋を分けようかと提案したのだがシャーロットとユリアから猛反対を喰らった。
サミフロッグでのことがあるからだろうが正直肩身が狭い。
男一人が女三人と同じ部屋で過ごすというのはやはり抵抗がある。
今までの旅は外で野宿だったからそこまで意識はしなかったが、こうやって部屋をとって一緒に眠るとなると変に意識してしまう。
男だ。男の仲間が欲しい。
この肩身が狭い思いから脱却するんだ。
「荷物も置いたし、これから冒険者ギルドに行こうか」
「えっ? お、おう」
男の仲間が欲しいなと考えていると、向かえに座っていたユリアが俺に話し掛けて来た。
「その後は城に行って王様に手紙を渡したいけど…いきなり行って会えるかな?」
「う〜ん…どうだろうな。まあ、今日がダメでも明日とかなら会えるかもしれないし、一回行ってみよう」
「うん。そうだね」
それじゃあ、まずは冒険者ギルドだな。
俺は椅子から立ち上がる。
それに呼応するようにユリアも椅子から立ち上がった。
すると、
「ちょっと、二人とも? いつまでそうやってるの?」
「シャーロッロがはらさないろよ!」
「あんらろせいれしょうが!」
ベッドの上で頬を引っ張りあっているジブリエルとシャーロットがこちらを向きながらしょうがないと訴える。
まだ少しの間しか一緒にいない筈なんだがこうやってアホみたいなことをやっているところを見ると随分仲良くなったものだ。
「ほら、もう行くから準備して」
そんな二人を見ながらユリアが仕方がないというような母の顔で言う。
「……しょうがないわね」
「ふう……」
ユリアに言われシャーロットが頬を引っ張るのを止めるとジブリエルも同様に止めた。
「二人とも頬が赤くなってるよ?」
「そりゃ、あんだけ引っ張ったら赤くもなるわよ」
「せっかくの可愛い顔が台無しだわ…」
「全くよ…」
腕を組みながら言う二人はまるで姉妹のように感じた。
見てくれてありがとうございます。
気軽に感想や評価、ブックマーク等をして下さい。嬉しいので。




