間話 ”忍耐”と王子と冒険者
サミフロッグ王国。
ソラ達がここを旅立ってから二週間程が経過した現在、この国ではセレナロイグ・ハートとサミフロッグ・クラシエール・ダイヤの話題で持ち切りだった。
その内容は国民の間で噂になっているとあること。
「なあ、聞いたか?」
「ああ、なんかハート様が来てから心を入れ替えたように誠実になったって話だろ?」
「なんでも二人で今までの被害者に謝りに行ってるらしいぞ」
「王族が謝罪か…またなんか始まるんじゃないだろうな」
「さあな」
そんなこそこそ話を素通りしながら街中を歩く二人。
「今までのおいたが自分に返ってきてますね」
「……どうして毎回付いてくるんだ」
護衛を後ろに付けながら話すのは今話題のセレナロイグ・ハートとサミフロッグ・クラシエール・ダイヤだ。
「わたくしはあなたの妻ですもの。夫の不始末はわたくしも責任があると思いまして」
「お前は関係ないと言っているだろう?全く……それに、俺が自分の妻を連れて謝っていると誤解されるとややこしいんだよ。なんと思われるか…」
「ですが、誠意は伝わっていると思いますわ」
「はあ……だといいがな…」
と、そんな会話をする二人に近づく者達。
「ハート様!お久しぶりです!」
「あら?ルビーじゃありませんの!」
「お元気そうで何よりです」
「貴方達も元気そうですね」
ハートはルビーの後ろにいたパーティーメンバーを見て言った。
ルビーの後ろにはカリム、ティサナ、トレサ、アーダンがいた。
「ん?その荷物の量は、もしかして…」
「ええ。私達、次の目的地へ旅に出ようと思いまして。お別れの挨拶をしに参りました」
「そうでしたの。貴方達にはとてもお世話になりました」
「いや、俺達は任務を遂行しただけですよ」
「それでもとても助かりました」
「ハート様、お元気で」
「少しの間だったけど楽しかったにゃ!」
「オデもこんなに長い間の護衛は初めてだったから楽しかったど」
「トレサ、ティサナ、アーダン。貴方達にも迷惑を掛けましたね」
「いえ、お気になさらず」
と、そんな会話をするところにダイヤが近づき、
「私の妻を護衛して頂き誠にありがとうございます」
そう言って、軽く頭を下げる。
「こりゃ驚いた。まじで別人みたいだな」
「コラ。失礼でしょ?最悪極刑よ?」
「う……」
「貴方達は大丈夫でしょう」
「ハート様」
「失礼。でも、お別れですか。寂しくなりますね。ルビー、カリム、トレサ、ティサナ、アーダン。貴方方五人のことは決して忘れません。何か困ったことがあったらいつでもわたくしに相談してきてくださいな」
「「はい」」
「はいにゃ」
「うす」
「それじゃあ、夫婦円満の秘訣でも聞きたいですね」
「あ?」
カリムの言葉にルビーがイライラしながら睨み付ける。
「あら?二人とも仲がいいではありませんの」
「ハート様…本当にそう見えますか?」
「ええ、わたくしにはラブラブに見えますよ」
「ラブラブって…」
「いつも喧嘩ばっかりなんだけどな…」
「大体、カリムが悪いにゃ」
「それはオデもそう思う」
「私も」
「おい!」
「そうですね……どうせだったら子供を作って色々と責任をとらせるのが色々手っ取り早いと思いますけど?」
「えっ!?子供って……」
ルビーは顔を赤らめる。
「ハート。少し品に欠けてるぞ」
「これは失礼しました。でも、本当のことなんですもの。わたくし達だって実際に…」
「よし、もう何も言うな。ややこしくなる」
「……分かりましたわ」
「まあ、そこら辺のことはちゃんと考えてますよ」
そう言って、ルビーに肩を回すカリム。
「本当かしらね」
ルビーはそんなカリムをジト目で見る。
と、その時、大きな音がなった。
「なんだ!?」
音のした方を向くと、大きな砂煙が舞っていた。
「あれは東門の方か…お前達、俺に付いてこい!一人は城に行ってこのことを父上に伝えろ。増援を寄越してくれとな」
そう言うと、その瞬間、砂埃から何かが飛び出た。
そして、それは街を出鱈目に壊しながら、砂埃をあげる。
それによって街からは悲鳴が上がっていた。
「おいおい、なんだってんだよ」
「こっちに来るよ」
トレサがそう言うと、出鱈目な動きをしていた何かが建物を壊し、カリム達の前に現れた。
「う”お”お”お”お”お”お”!!!」
大気が震える程の咆哮。
全身を黒いモヤで覆われたそれは頭から枝分かれした大きな角を二つ生やしていた。
そして、全長六メートル程の人型の両手には一本の戦斧らしき武器を握っていた。
「なんだこいつ!?」
「知らないわよ。でも…」
カリム達は自然と陣形をとる。
前衛にカリム、アーダンの二人。中衛にティサナ。後衛にルビーとトレサという並び。
前衛が攻撃を防ぎ、ティサナが攻撃し、ルビーが援護、トレサは状況を見ながら動くという予め決めてある陣形。
長い間、この並びで戦っているカリム達だからこそ自然と陣形を変えられた。
それから少し遅れつつも乱れることなくサミフロッグの兵士達が陣形を組む。
「……ハート、俺から絶対離れるなよ」
「分かりましたわ…」
兵士の中心にいるダイヤはハートを不安にさせまいと声を掛けた。
「そこのお前、父上に今の状況を伝えてきてくれ」
「は!」
一人のサミフロッグ兵が陣から離れていく。
が、それを見た黒いモヤが動いた。
その巨体からは想像できないほどの俊敏な動きで移動し、戦斧を離れようとした兵士に向かって振り下ろした。
「ひっ!?」
悲鳴を漏らす兵士。が、
「ギリギリ間に合ったど」
アーダンが大盾を使ってそれを防いだ。
「支援魔法が間に合ってよかったわ」
「完璧なタイミングだったど」
そう言うと、アーダンは大盾で戦斧を押し返し、腰からメイスを抜いた。
それと同時にカリムとティサナがそれぞれ黒いモヤの足に攻撃を仕掛けた。
カリムの剣は左足に深い傷を負わせ、ティサナのハンマーは右足をぐらつかせ体勢を崩した。
すると、今度はアーダンがメイスで頭に一撃を食らわし、トレサが短剣で戦斧を持っていた指を攻撃した。
「『テラフレイム!』」
最後にルビーの超上級炎魔法が大きな背中に放たれた。
カリム達の連携のとれた一連の攻撃。
話し合わなくてもできる長年の付き合いだからこそのその攻撃に隙はなかった。
しかし、
「俺は”忍耐”のグリーンボルア。魔王様の為に命を捧げて戦う者なり」
「魔王だと…?!」
「貴様らの攻撃は俺の餌だ。俺は餌を食い、ただ暴れるだけ。細かいことは他の奴に任せればいい」
そう言うと、ボルアの体から白い煙が発生した。
すると、体はどんどん大きくなり、その体は今までと比べて一回り大きくなった。
そして、その巨体で戦斧を薙ぎ払った。
「くっ……」
「にゃ?!」
「おおっ!?」
「力がさっきより増してるど!」
戦斧によってボルアの周りから人がいなくなる。
「気をつけて!そいつの体に応じて斧も大きくなってる!」
「確かに…どういう原理だ…?」
「そんなことより、あいつどうするの?」
「……」
今まで攻撃した箇所には何も傷が残っていなかった。
それを見たカリムは色々と作戦を考えるが何をしていいのか、効果があるのか分からず行動に移せずにいた。
「来ないのか?なら…」
と、動き出そうとしたボルアに斬り掛かる者が一人いた。
「ここは俺達の国なんだ。好きにはさせない」
「ハハ」
ダイヤの剣とボルアの斧が打つかる。
が、ダイヤはボルアの力で強引に体ごと飛ばされた。
「っ……と…」
受け身をとったダイヤはすぐさま剣を構える。
「その剣、ただの剣ではないな。昔、戦った奴と似たようなものを感じる」
「これは特別な剣でな。魔法具と呼ばれている物の一つだ」
「魔法具…そうか、今はそう呼ばれているのか」
「この剣でお前の息の根を止めてやろう」
「ハハ…そう言ってきた奴は全員死んだぞ」
「では、やってみようか」
そう言うと、ダイヤは距離を詰めてボルアの目の前で止まった。
「なんのつもりだ!」
ボルアはすかさず止まったダイヤへ戦斧を振り下ろす。
ダイヤはそれを剣で受け止めた。
「ん?!なにをした?!」
「今分かる。『バニッシュカウンター!』」
そう言うと、ダイヤの剣が白く光だす。
そして、次の瞬間、ボルアの戦斧を空中に弾き飛ばすと、がら空きのボルアに向けて袈裟斬りをした。
「これは、俺の能力と似ているな」
「フン。そうかもな」
ボルアを前に、してやった顔で言うダイヤ。
そんな彼を見てかボルアは少し笑うと、
「どっちが先にダメになるか、根比べだ」
「いいだろう」
睨み合う二人。
それを見た兵士がハートへ近づくと、
「ハート様!我々がお供致しますので今の内に安全な場所へ避難致しましょう」
「…………」
ハートは兵士の提案に迷っていた。
このまま自分だけが逃げていいのかと。
もちろん、自分が戦えるわけではないので逃げるのが最善なのは間違いない。
だが、それによってここにいる戦力が削られてしまう。
それがハートにとって引っ掛かった。
そして、ハートがここに残る一番の理由。
それは自分の夫が「俺から絶対に離れるな」と言ったこと。
ハートにとって夫の言うことは絶対だった。
多少の融通を聞かせることはできるが、今回は少し違った。
ハートにとって、ダイヤのこの言葉は自分のことを考えて言ってくれた言葉だった。
まだ出会ってから日が浅い二人の関係において、それは特別な言葉だった。
だから、ハートは決めた。
「カリム!わたくしの護衛をお願いします!」
「はい?!」
ハートの突然のお願いにカリムは素っ頓狂な声を出す。
「今回が最後の依頼ですわ。仲間の好みでタダで受けてくださいな」
「ハート様…分かりました!カリム!みんなも、そういうことだから!」
「分かった」
「はいにゃ!」
「うす」
「ん……分かったよ!」
それからカリム達はハートを守るように陣形を組む。
「ハート様、困ります。我々は貴方様を守る義務が…」
「これは命令です。ダイヤに加勢して少しでも被害を少なく、最小限に抑えなさい」
「……はっ!!!全員、戦闘体勢!」
それから兵士達はボルアを囲むように並び、逃げ道を塞いだ。
「フン。貴様らでは俺を止められないぞ?」
「俺もいるから大丈夫だ。それに、今は…」
そう言って、ハートとカリム達に目線をやるダイヤ。
その口元は少し口角が上がっていた。
「信頼できる仲間がいるらしいからな」
「ハハハ。では、その信頼できる仲間とやらで掛かってくるといい。敵は多ければ多いほど、強ければ強いほど、俺は力を増す」
「でも、それにも限界がある筈だ。じゃなきゃお前は最強だ」
「さて、それはやってみれば分かることだ」
「フッ、そうだな」
そこでダイヤは腰を低くし、戦闘体勢になる。
「で、俺達はどうすんだ?」
「わたくし達はとにかく攻撃ですわ。ダイヤのカウンターがアレを倒す鍵になる筈です。それをやり易くする為、そして、持久戦に持ち込ませない為にダイヤの邪魔にならないように攻撃し続けるんですの」
「そもそも無限に攻撃を受けられるなら攻撃を全て喰らう筈です。でも、最初にダイヤが斬り掛かった時はそれを防いだ。なら、何か条件か限界があると考えた方が自然ですわ」
「なるほどな。確かに…」
「わたくしはダイヤの後ろで支援魔法を唱えて支援しますから、みんなはアレを囲むようにして隙を見て攻撃してください」
「じゃあ、私はカリムの後ろで攻撃魔法を唱えるわ」
「分かった、必ず守る。惚れ直すなよ?」
「どうかしらね?」
「ウチはアーダンと一緒に戦うにゃ」
「うす」
「私はハート様の…いや、自由に動くよ」
「分かりましたわ」
全員の動きを決め、それぞれが動こうとした時、ハートに不思議な感覚が襲った。
自分がダイヤの背中を見ている視点が見えたのだ。
「これは……前の…」
ハートがこの感覚に襲われたのは初めてではなかった。
ここまでハッキリと見えたのは初めてだったが、前に王城でシャーロットをとある部屋から見つけた時、少しだけその場面が見えていた。
気になったハートは見えた場面を探して王城を歩いていた。
すると、本当にシャーロットがその部屋にいたのだ。
自分に何が起こっているかは分からないが、特別な何かが起こっているという自覚はあった。
それが今も起こった。
「ハート様?」
「いえ、大丈夫ですわ。では、始めましょうか」
「作戦会議は終わりか。では、暴れるとしよう」
そう言うと、ボルアは自分の影から二本の戦斧を取り出した。
それを左右に持ち、構える。
そして、全身から白い煙を出すと、体を膨張させる。
それと同時に二本の戦斧も大きくなる。
「ここからが本当の戦いだな」
「いかにも」
全長は最初の二倍以上になり、そこにいるだけで圧があった。
が、ダイヤは少しも怖気付かない。
その姿は一国の王子として、そして、戦士として、誰が見ても立派な姿だった。
と、そんなダイヤの元にハートがやってきた。
カリム達も準備万端だ。
「ダイヤ。わたくしは戦えないけど、それでも貴方の為にできる限りのことはしますわ。わたくしの我が儘を許してくださいな」
「フッ。俺は『俺から絶対に離れるな』と言った筈だぞ?そんなこと気にするな。自分の妻ぐらい守ってみせる」
「っ……はい…」
と、会話をしている二人を余所にボルアが戦斧を構えると、
「まずは、煩わしい兵士どもからだ。『斬首!』」
薙ぎ払われた戦斧はボルアの周りから人を容易に吹き飛ばす程の威力があった。
しかし、
「『バニッシュカウンター!』」
「『受け流し!』」
「『盾流し!』」
ダイヤが戦斧を一本弾き、カリムとアーダンでもう一本を受け流して軌道を変えた。
「んん……面倒な…」
ボルアは体のバランスを崩す。
その隙を見て、
「『テラフレイム!』」
「『パワーハンマー!』」
「『削ぎ切り!』」
ルビー、ティサナ、トレサが攻撃を仕掛けた。
「『スピードウェイト!』『パワーウェイト!』『ガーディアンボディー!』ダイヤ、わたくしができる支援魔法はこのぐらいです」
「十分だ」
「う”お”お”お”お”お”!!!」
ボルアが咆哮する。
「面倒くせえ!!!お前ら纏めて吹き飛ばす!!!」
ボルアが初めて構えらしい構えをした。
その様子を見たダイヤは剣を構える。
そして、
「『バニッシュ…』」
「!!?」
その時、ハートの目にはダイヤが真っ二つに斬られ、ここにいる殆どの者が死ぬのが見えた。
周りの建物は破壊され、何も残っていない場面。
最悪の場面。
ハートはこの時初めて気づいた。
自分が見ているのは未来だと。
そして、それと同時になんとかしなければと思った。
が、これは少し先に起こる未来。
今からできることは殆どないだろう。
が、ハートは諦めたくなかった。
「後ろへ、距離をとって!!!みんな死にます!!!」
「なに?!」
「っ…?!」
ハートの声に戸惑いながらも各々が行動に移した。
カリムはルビーを庇い、アーダンは盾を構えてティサナを守り、トレサはとにかく距離をとり、ダイヤはハートの目の前で剣を構えた。
「『地均し!!!』」
ボルアは構えた戦斧を使ってその場で高速で数回転した。
すると、それによって出来たかまいたちがボルアを中心に離れるように飛んでいく。
と、その時、ハートはまた未来を見た。
それはダイヤがボロボロになりながらも自分に背を向ける場面だった。
未来が変わった。
が、ダイヤの様子はとても無事とは思えない様だった。
「ダイヤ!!!」
自然と口から彼の名前が出ていた。
不安の籠った言葉。
しかし、それを聞いたダイヤはハートを見て言った。
「まかせろ」
その言葉はハートを安心させるには十分な言葉だった。
何か理由があるわけではない。
ただ、なんとなくその言葉を聞けたハートは安心した。
「『フルカウンター!!!」
ダイヤが叫ぶと剣が呼応するように白い光を放った。
そして、ボルア目掛けて剣を振り下ろした。
すると、白い光の斬撃がボルアに向かって飛んでいった。
「んぐっ?!!」
それはボルアの作り出したかまいたちと打つかるも勢いそのままボルアの体まで届いた。
それと同時にかまいたちがその場にいた者達を襲った。
「くそ…」
「重すぎるど…」
が、それだけに止まらず、かまいたちは周囲の建物にまで及び、ここら一帯を吹き飛ばした。
辺りは砂埃が舞い、視界が悪い。
どうなったのか分かったのは少し経って風が吹いた頃。
「っ!?周りの建物が…」
ハートが目にしたのは何もない更地だった。
ついさっきまであった建物は押し流されたように向こうの方で瓦礫の山になっていた。
そして、もう一つ、ハートが目にしたもの。
それはダイヤの姿。
が、ダイヤはボロボロの姿で立っているのがやっとという感じだった。
「ダイヤ!!!」
ハートは急いで駆け寄ろうとする。
しかし、
「ハート!!!まだだ。まだ、終わってない」
「っ?!!ですが…」
「そこにいろ。お前は絶対守る」
「……ダイヤ…」
「うう〜……中々やるな。俺の腕を斬るなんてな」
砂埃から姿を現したボルアが言う。
が、その体には左腕がなかった。
「くっ……」
ダイヤは苦しそうな表情を浮かべる。
「だが、これで終わりだな。あの冒険者どもはしばらく戦えないだろう」
「俺がまだいる…」
「そんなボロボロな体で剣を構えて言われてもな…お前らはここで終わりだ。まあ、これからこの国を滅ぼすつもりだから先か、後かの違いだがな」
「…………!?」
二人の間に入り、ダイヤを庇うように手を広げる一人の女性。
「なんだ?女?」
「ハート!!!下がれ!!!死にたいのか!?」
「わたくしはどうせ死ぬならダイヤを庇って死にます」
「何バカなこと言ってる!いいから下がれ!!!」
「わたくし、これでもダイヤのこと、本気で愛しているんですのよ?」
ダイヤに視線を向けながら言うハートの顔は覚悟を決めた者の顔をしていた。
「ハハハ。面白い。人間は実に面白い。魔人や使い魔にはない行動だ。これが”愛”というやつか。だが、そんなもの、簡単に壊せる!!!」
ボルアが戦斧をハートに振り下ろした。
「ハート!!!」
ダイヤの体は勝手に動いていた。
ボロボロの体とは思えない程俊敏な動き。
ダイヤはなんとかハートを助けようと手を伸ばす。
ハートもそれに気が付いて手を伸ばす。
しかし、ボルアの戦斧は早かった。
「終わりだ!」
後少しで二人の手が繋がれるという瞬間、戦斧が先にハートの体に届く。
が、戦斧がハートの体を切り裂くことはなかった。
「んおっ?!!なんだこれは?!」
ボルアの体に緑色の蔓のようなものが巻き付き、その動きを完全に止めたのだ。
「ハート!!!」
「ダイヤ!!!」
二人は手を繋ぎ、ダイヤの勢い余って抱き締め合う。
「遅れて申し訳ございません。私は戦いがからきしで、臆病なもので…」
嘴のある黒い仮面を付け、ゆっくりと歩きながらそう言う白髪の男。
「誰だ、お前は!?」
「私は少し商売上手なただの商人ですよ」
「商人だと?!ふざけた野郎だ…」
「ふざけてなどいませんよ」
と、そこでボルアは力で蔓を引きちぎろうとする。
が、鶴はびくともしない。
それどころか暴れるだけ成長していく。
「この草、普通じゃないな?」
「ええ。私が色々苦労して作った魔力や力なんかを養分に急激に成長する蔦です。つまり、貴方にとって最悪の代物になっております」
「お前、人間じゃないな?」
「ハハ…それはどうでしょうね。さて、そろそろお別れの時間ですね」
そう言うと、ボルアに巻き付いていた蔦は見る見るうちに成長していく。
「今回はこれでお終いか。だが、お前のことは覚えたぞ?」
「それは光栄です。”忍耐”のグリーンボルア。またのご来店をお待ちしております」
「…………フハハハハ」
ボルアが笑うとその体はどこかに消えていった。
「ハート、怪我はないか?」
「ええ。わたくしはなんとも。それよりダイヤは?」
「俺は回復魔法でなんとかなる。問題は他のやつらだな」
ダイヤは変わり果てた周りを見渡す。
その表情は暗かった。
と、その時、
「ルビー、大丈夫か?」
「ええ」
カリムとルビーの会話がどこからか聞こえてきた。
「どうやらなんとかなったらしいな」
「なんとかはなったかもしれないけど…」
ルビーが立ち上がりながら周りを見て言う。
「カリム、ルビー、無事でしたか」
「ああ」
「はい。ハート様もご無事で何よりです」
「トレサ達や兵士の奴らはどうなってるんだ?」
「それは…」
と、ハートが言葉を詰まらせた時、
「私は無事よ」
「オデもティサナも無事だど」
「気が付いたら周りがとんでもないことになってたにゃ」
トレサ、アーダン、ティサナが歩いてハート達のところへ近づいてきた。
「これから巻き込まれた者の救助を行う。お前達には悪いがもう少し手を貸してくれると助かる」
「それはもちろんだ」
「私達もそのつもりだしね」
「ええ」
「うす」
「んにゃ」
「そうか。後でそれなりの礼はしよう。ただ、この有り様だからあまり期待はしないでくれ」
「礼なんかいらねぇよ。それより、そんな体で大丈夫か?」
「フン。これぐらい、愛してる者を守れたと思えば安いものだ」
「!!!ダイヤ…」
「さっ…早くしよう。できるだけ多くの命を救うんだ」
「ああ」
「…はい!わたくしも協力しますわ」
と、全員で意気込んでいるところにジークが近付いてきて、
「私も手伝いますよ。こういう時に私は役に立ちますからね」
「お前はこの間の…分かった。重ね重ねすまない」
「いえいえ。それより急ぎましょう」
「ああ」
それからダイヤを中心に懸命な救助活動が行われた。
今回のサミフロッグ襲撃事件は世界に広まり、やがてソラ達の耳にも入るのだがそれはもう少し先のお話。
そして、サミフロッグの事件がきっかけで世界中に魔王の使い魔達が現れたことが広まる。
それは世界中の人を不安にさせるものだった。
見てくれてありがとうございます。
気軽に感想や評価、ブックマーク等をして下さい。嬉しいので。
一旦、ここでこの作品を完結済みにしようと思います。
続きは他の作品をある程度まで書いたらまた書き始めようと思うので、五月頃に始められたらいいなと思っています。
ソラ達がもう少し旅をしたらとある人と会うかもしれないですね?誰だろう?




