第四十八話 療養と見送り
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ブラックキャッツとの戦いから二日が経過した。
現在、俺達はシェイクの家に泊まらせてもらっている。
あの戦いの後、俺とシャーロットは急いでユリアの元へ急いだ。
その道中は生きた心地がしなかった。
心配で胸のざわめきが止まらないし、頼むから無事であってくれと願うだけだった。
そして、ユリアの元へ着くとそこにはシェイクがいた。
その姿に俺は少し安心したが、ユリアがすぐ傍で横になっているのを見て血の気が引いた。
まさか…………。
そう思ったら体が勝手に走り出していた。
俺はユリアへ駆け寄ると、その手をとった。
すると、温かかった。
俺はひとまず安心した。
それからシェイクに色々と話を聞いた。
まずは、俺がキャッツの言っていたことをそのまま伝え、その後にシェイクからユリアのことを聞いた。
すると、シェイクが到着した時、ユリアはまだ起きていたそうだ。
だが、解毒魔法を自分に唱えたら状態が悪化したと、それだけ伝えて気を失ってしまったらしい。
そこからシェイクは解毒魔法は逆効果なのではという仮説を立て、これからの施術を考えていたらしい。
そこに俺達がきたということらしかった。
と、そんなことがあって現在。
ユリアは横になったきり目を覚ましていない。
熱もそこそこあるようでジブリエルが色々看病してくれている。
俺とシャーロットもできるだけその手伝いをしてユリアの回復を祈っている状態だ。
今回の毒は特殊らしく、解毒魔法が使えない為、今はジブリエルが栽培している薬草を調合して様子を見ている。
「ユリア…大丈夫かしら…」
「シェイクも安静にしていれば大丈夫だろうって言ってたし、大丈夫だよ」
一階の椅子に腰を掛けながら、二人でユリアの回復を待っている。
というのも、今回村の人間を襲ったのはシャーロットの姿をしたキャッツだ。
なので、村の人達からすればシャーロットは今回の騒動の犯人ということになる。
しかも、自分が魔人であることを隠し、騙してまでことに及んだ狡猾な女という最悪な印象を持たれてしまった。
幸い、シェイクが村の人達に説明をして村にいることはできているのだが、正直言って居心地が悪い。
シャーロットが魔人であることを隠していたのは事実だし、ここが襲われる可能性がないとは言い切れない。
「二人して顔が暗いわよ」
「ジブリエル…」
上から降りてきたジブリエルが言う。
俺達そんな暗い顔してたのか。
「シャーロットは少し自分のことを責めすぎね。もう少し気楽に考えなさい」
「……分かってるけど…」
「ユリアは回復傾向にあるわ。もう少しで目が覚めるわよ」
「うん」
「はあ…あなたは優しいわね」
と、その時、ドアが開いた。
「ただいま。全員いるね」
シェイクが帰ってきた。
彼は族長の仕事とキャッツに刺された者の回診等でとても忙しそうにしている。
「みんなに聞いて欲しいことがある。良い知らせと悪い知らせ、どちらもあるがどっちから聞きたい?」
「良い知らせから聞こうかしら」
「分かった。良い知らせは話し合いの結果、ユリアさんはこのまま体調がよくなるまで村に居させていいということだ。これまでの話し合いの件もこのまま協力するということで纏まった。それとキャッツに刺された村人の中に目を覚ました者が一人だけでた」
「本当か?!」
「ああ。やはり、あの毒は解毒しようと魔力を込めるとそれに反応して毒が強力になる不思議な毒みたいだ。知らない毒だから正しい対処までは分からなかったけど、薬草で症状を軽くできるからそこが救いかな」
「ええ。薬草の知識があってよかったわ」
「そうだね。でも、この毒は逆に言えば絶対に相手の動きを止められる最強の毒だ。毒に冒されたら二、三日は動けなくなるからね。まあ、何故か効き目がない人もいるみたいだけど」
そう言うと、シェイクは俺に視線を向ける。
俺も一応、キャッツに刺されたんだよな。なんともないけど。
「俺だってなんで毒が効かないか分からない。俺自身がかなり特殊だからそれが原因だとは思うけど」
「まあ、特になんともなかったのならいいさ。でだ」
「悪い知らせ、でしょ?」
「うん。僕も色々と善処したんだけどね。シャーロットさんはこの村から出て行ってもらうことになった」
「シャーロットが?!一人だけか?」
俺は思わず大きな声で聞く。
「ああ。魔人をこの村に入れておくわけにはいかないと聞かなくてな。すぐに追い出さないだけでも最大の配慮だ、ということだった」
「だったら俺も…」
「いいのよ。これに関しては私が悪いわ。そもそも私はこの村に入らずに外で待っている方が問題も少なくて良いと思っていたし。たまたまジブリエルに会ったからすんなり入れただけで、今までこの村に居られたのが奇跡みたいなもんだったのよ」
「そんな…」
「僕も色々努力したんだけどね。すまない」
「あんたが謝ることじゃ…」
「私、ちょっと文句言ってくるわ」
シャーロットの言葉を遮ってジブリエルが言う。
「姉さん」
「大丈夫よ。言ってることは分かるから。ただ、ユリアが起きてこの村を出られるようになるまでこの村に居られるように説得するだけよ」
「ジブリエル……」
「フフ。私に任せなさい。昔から悪知恵を働かせて困らせていたから」
「はぁ……あまり面倒にしないでくれよ?」
「分かってるわよ。さて、何時間で根を上げるかしら」
そう言うと、悪い顔をしたジブリエルは家を出て行った。
「あの顔の姉さんは本当に面倒臭いからな」
「そう、なのか?」
「ああ。何度泣きを見たことか…」
そう語るシェイクの顔はとても疲れた顔をしていた。
「……私、ジブリエルの代わりにユリアの傍にいるわ」
「分かった」
「そうしてあげて。きっと喜ぶよ」
「うん」
それからシャーロットはユリアのところへ行った。
「さてと、僕はご飯の用意でもしようかな」
「ああ、手伝うよ」
「悪いね。三人分でいいから」
「ん?なんで三人分?」
「晩御飯までに帰ってくるとは思えない。明日の朝ご飯も要らないだろうな」
「え?」
それからジブリエルが家に帰ってきたのは次の日の昼頃だった。
シャーロットが村に居てもいいようにずっと抗議をしていたらしい。
その結果、ユリアの体調が回復するまでは居てもいいようになったそうだ。
この報告をした時のジブリエルの勝ち誇ったドヤ顔を俺は忘れないだろう。
ユリアが目を覚ましたのはキャッツの事件があってから三日目の夜だった。
その時、シャーロットは嬉しさのあまりユリアに抱き付いて困らせていた。
それからユリアには何があったのかを話した。
ユリアは話を聞くとほっとした表情をし、上手く収まってよかったと言っていた。
シェイクの話だと後四日ぐらいは安静にした方がいいということだったのでもう少しこの村には滞在することになった。
その間、俺は魔法の練習をしたり、ユリアの傍にいたりと適当に時間を過ごしていたのだが、俺は心残りがあった。
それはシャーロットのことについて。
俺はシャーロットのことを疑ってしまった。
この村の人を刺したと聞いた時、そんなことはないと思った。
だが、俺は信じきれなかった。
絶対にシャーロットはそんなことをしないと分かっていても心の中には心配があった。
俺はそのことがずっと気になっていた。
だから、俺はシャーロットと少し話そうと思い、二人で少し話をしようと伝えて家の外に来ている。
「悪いな。呼び出したりして」
「別に?今更特になんとも思わないけど、どうしたの?改まって」
「ああ。ちょっと、今回の件でシャーロットに謝りたくてな」
「謝る?」
シャーロットは不思議そうな顔をして俺の言葉を待つ。
「シャーロットが村の人を刺したって聞いた時、俺はそんなことはないと思った。でも、心のどこかで不安というか、心配というか、そういう気持ちがあったんだ…」
「ふ〜ん。つまり、私のことを疑ってたってわけね?」
「いや…」
俺は反射的に否定しようとして、止まった。
俺はシャーロットを疑った。それは間違いないことだ。
俺はシャーロットを信じきれなかったということだ。
「はぁ……最低ね」
「……ごめん」
俺は下に目線を逸らして言うことしかできなかった。
申し訳ない気持ちで一杯だった。
「なんて、冗談よ」
「え…?」
俺はぽかんとした顔をしていたと思う。
そんな俺の顔を見てかシャーロットは微笑みながら、
「疑われたのは少し悲しいけど、仕方がないわ。私と特徴が同じ人が刺して回ってるって聞いたら疑いもするでしょう」
シャーロットは優しい口調で俺に言う。
俺のことを励ましてくれているんだろうか。
「というか、何かあった時に疑うのは普通のことよ。警戒してるってことだしね。私は気にしてないわ」
「シャーロット…」
そう言ってもらえると心が軽くなる。
「ちょっとしたミスぐらい許すのが仲間でしょ?」
そう言うと、シャーロットは笑顔で俺に聞いてきた。
「ああ、そうだな」
俺も自然と笑顔で返した。
「でも、そうね……これは貸し一つかしら」
「えっ?」
「ふふん。いつか返してもらう時まで、色々してもらおうかな〜」
シャーロットは楽しそうな表情をしながら言う。
「聞いてた話と違う気が…」
「え〜?私はとても傷付いたのに…そんなこと言うんだ……しくしく」
わざとらしく泣いたふりをするシャーロット。
まあ、今回は俺が悪いから仕方ないな。
「分かったよ。何なりとお申し付け下さい」
「チッ、チッ、チッ。甘いわね」
「……」
シャーロットは指まで使ってお前はまだまだだと言ってくる。
「貸しがある状態を長く維持するのがいいのよ」
「ああ…そうですか。分かりました。お好きにして下さい」
「うむ。それでよいのだ」
俺はとても楽しそうなシャーロットの顔を見てこれから色々扱き使われることを覚悟した。
「お手柔らかに頼む」
この村に来て一週間が経った。
ユリアの体調も回復し、今は次の目的地へ旅の準備をしている。
「私の所為で思ったより長居しちゃったね」
「何言ってんのよ。ユリアが無事だったんだからいいのよ」
「そうそう」
「ありがとね」
「おっ、そろそろ行くのかい?」
俺達の部屋にシェイクが入ってきた。
彼にもかなりお世話になった。
この部屋も貸してもらったし、ユリアの様子を見てもらったり、シャーロットのことや協力関係のことまで色々してもらった。
「はい」
「そうか。少し寂しくなるね」
「シェイクにはずっと世話になった。ありがとう」
「いや、気にしないでくれ」
俺とシェイクはかなり仲良くなった。
もう友達って感じだ。
別れるのは少し名残惜しいがあまりのんびりもしてられない。
「私も、あんたには色々迷惑を掛けたわ。ありがとね」
「いや、僕は当然のことをしたまでだ。それに…」
シェイクはそこで微笑むと、
「姉さんが信頼してる人達だからね」
「随分、ジブリエルを信頼してるな」
「まあ、姉さんは心の声が聞こえるからってのもある。でも、それ抜きにして姉さんは信頼してるよ」
「そうか」
「で、その姉さんはどこにいるの?私達もう出ようと思ってるんだけど」
「そういえば、ジブリエルさん見てないね」
「大丈夫。必ず来るから」
「ふ〜ん。それじゃあ、行こうか」
「ああ」
「うん…」
「僕が出口まで案内するよ」
それから俺達はシェイクの家を出た。
そして、シェイクに案内され村の外まで移動した。
が、ジブリエルはどこにも見当たらない。
シェイクは来ると自信満々に言っていたが本当に来るんだろうか。
「あら?遅かったわね」
そう思っていた矢先、俺達の前方にジブリエルがいた。
それも背中に大きめのバックを背負っている。
「ね?いたでしょ?」
「何よ。私が思い通りの動きをしたことがそんなに嬉しいの?」
「いや、違うよ」
「そう。ならいいわ」
そう言うと、ジブリエルはシェイクから俺達へ目線を移動し、
「私、あなた達の旅に付いて行くことにしたわ。だから、私を仲間に入れて欲しんだけど…」
そう言われて、俺達は顔を合わせた。
そして、満場一致で、
「「「もちろん!!!」」」
「…!!!よろしくね」
「こちらこそよろしく頼むよ」
「少し賑やかになりそうね」
「これで四人パーティーだね」
「ソラ、姉さんのことをよろしく頼む」
「ああ」
「それと、姉さんはあまり迷惑を掛けないように」
「私が迷惑を掛けるわけないでしょ」
「……だといいけど…」
シェイクは半ば諦めているらしい。
そんな感じが伝わってくる。
「あ、そうそう。私が帰って来れるように村の人達を説得しといてね?」
「はい?!」
「いや、はい?!って、姉が帰って来れる場所がないと困るでしょ」
「いや、でも姉さんは一度会議で決定して追い出された…」
「ああ、はいはい。私は面倒なことはしたくないから、全部お願いね」
「えっ、ちょっと、姉さん!」
止めるシェイクのことなど気にせず、ジブリエルはどんどん歩いていく。
俺達もその後を追うのだが、
「なあ、こんな感じの別れでよかったのか?」
「ん?…それもそうね」
俺の言ったことに何か思うところがあったのかジブリエルは振り返ると、
「シェイクー!!!」
「?」
「行ってきまーす!!!」
「……はぁ……行ってらっしゃい!!!」
二人の姉弟は笑顔で別れを告げた。
「それじゃあ、行きましょうか」
「そうですね」
「ユリア、これからは一緒に旅をする仲間なんだから堅苦しい言い方は無しよ」
「ああ…うん。分かったよ、ジブリエル。よろしくね」
「ええ。ソラもシャーロットもよろしくね」
「よろしく」
「ああ、よろしく頼む」
「これからの予定は決まってるの?」
「一応、セレナロイグに寄ってみようと思ってる」
「人族最大の国だっけ?」
「ああ。魔王がどこに向かったか分からないから情報が集まりそうなセレナロイグがいいだろうってな」
「なるほど」
「ここから一ヶ月掛からないぐらいの旅路みたい」
「そっか」
「まあ、道中はお互いのことを話しながら向かいましょう」
「それ、良いわね」
ここから俺、ユリア、シャーロット、ジブリエルの四人旅が始まった。
ソラ達の冒険はここで一区切りです。
これから二話、間話を投稿しようと思います。
見てくれてありがとうございます。
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