第四十七話 ”腹黒”
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〜ソラ視点〜
こちら側は俺とシャーロット、ジブリエルの三人。
対して、相手はブラックキャッツとかいう魔王の使い魔ただ一人。
状況的にはこちら側がかなり有利だろう。
だが、このキャッツはかなり厄介だ。
というのも、俺達の目の前にいるのはユリアの姿、声をしたキャッツだからだ。
いくらユリア本人じゃないとはいえ、攻撃する時に躊躇いができる。
「全く、ふざけた能力だわ」
「酷い…こんなに面白い能力なのに…」
「とにかく、大事なのは落ち着くことよ。焦ればこいつの思う壺だわ」
「そうだな」
「ええ」
「まあ、そんな怖い顔をしないでよ。私は楽しみたいんだから」
「そりゃ、あんたはそうでしょうけど、私達はあんたのそのお遊びに付き合ってる暇はないの。何より、不愉快極まりないわ」
「それを楽しむのがいいのに。私が教えてあげようか?手取り足取り、あなたの魔人としての本能を目覚めさせてあげるわよ?」
「結構よ」
「あら、残念」
「三人で一斉に攻撃しましょう。休む暇を与えないように適度に攻撃しながら隙を作るのよ」
「分かった」
「ええ」
「う〜ん…三対一は困っちゃったな…もう少し遊びたいのに」
「遊びはここまでってことよ。『ダークライトニングボルト!』」
「『ウィンドカッター』」
シャーロットとジブリエルの魔法がキャッツに向かっていく。
「ふ〜ん。『マジックバリア』」
それをキャッツは守護魔法で防いだ。
透かさず俺が近距離攻撃を仕掛ける。
「そういえば、あなたは近距離が得意なんだったっけ」
「だったらどうした!」
キャッツは俺の攻撃を躱したり、腕で防ぎながら俺に話し掛けてくる。
「ねえ、ソラお願い。私を逃して。そしたらなんでも言うことを聞くから」
「そんな手に乗るかよ!」
「今、私は完全にユリアと一緒の体なの。だから、何したって私が我慢すれば…」
「何言ってんのよ!」
シャーロットの黒い稲妻がキャッツを襲うが、そんなことお見通しだと言わんばかりに華麗に躱した。
「もう、気が早いんだから。そんなに彼のことを取られたくないの?あっ、もしかして、彼に気があったり?」
「別に、そんなんじゃないわよ」
「あれ?もしかして、図星だった?」
「『サイクロン!』」
「おっと…!」
ジブリエルの風魔法がキャッツの頬を掠り、傷を付けた。
「あんまり下品だと、いつか痛い目を見るわよ?」
「私は別に楽しければそれでいいのよ。シャーロットが逃してくれるって言うんだったら、ソラになって色々してあげることもできるのよ?」
「あんたは私でもユリアでもソラでもジブリエルでも無い。見た目は同じかもしれないけど、中身は、心が違う。それじゃあ、全然違う。似てるようで似てない。似て非なるものよ」
「う〜ん。私には分からないわね」
「心が大切ってことよ。あなたには理解し難いことみたいだけどね」
「ふ〜ん。面白いね。見た目じゃなくて中身が大切か。少し興味が湧いたかも」
「あら、それは意外ね。あなたのような者が内心部分に興味を持つなんて」
「フフ。少し遊びをしたくなったわ」
「何する気だ!」
「お遊びよ!」
そう言うと、キャッツは再び黒い煙で姿を消した。
が、今回は姿だけでなく、ここら一体に広がるほどの黒い煙を発生させた。
「みんな、大丈夫か?」
「私は問題ないわ」
「私も大丈夫よ」
「私も大丈夫よ」
「「「「!?」」」」
またシャーロットが二人いた。
どうやらキャッツはユリアからシャーロットへ変身したらしい。
「面倒なことになったわね」
「どっちかが本物でどっちかが偽物…」
見た目はどちらも同じ。違いはない。
「私が本物よ」
「何言ってんのよ、私が本物よ」
二人のシャーロットはどちらも自分が本物だと主張する。
まあ、当たり前のことなんだが、しかし、面倒なことになった。
これだと攻撃をするにもどちらを攻撃していいか分からない。
「はぁ…どうしようかしらね」
「見た目は同じだからな」
「いっそ、私達二人をどっちも捕まえたらいいんじゃない?」
「でも、それだと逃げられない?わざわざ捕まるまで黙っている必要なんてないんだし」
「そりゃあ、あんたはそうだろうけど私は捕まってもいいし。それとも捕まったら困るのかしら?」
「そんなわけないでしょ?!全く。逃げられるって話をしてんのよ。話聞いてなかったの?」
シャーロット同士で会話をしているのが不思議な感じだが、言っていることは分かる。
捕まえるのが楽だが、それだとキャッツは逃げてしまうだろう。
「そうね。だったらこうしましょう。今からゲームをしましょうか」
「「「ゲーム?」」」
「仲間を信じるだけの単純なゲームよ。好きでしょ?ゲーム」
「具体的には何するんだ?」
「ソラには二人のシャーロットに向かって攻撃をしてもらうわ」
「はい?」
「シャーロットには悪いけど攻撃をくらってもらうわ。私は回復魔法が使えるから」
「いやいや、待ってくれ。本物のシャーロットがいるんだぞ?」
ジブリエルは何を考えてるんだ?
「分かってるわよ。だからやるのよ。キャッツはその瞬間攻撃を避ける筈。わざわざ攻撃を食いたくないからね」
「いや、だから、それだとシャーロットが…」
「大丈夫よ。私はそのジブリエルの案に乗るわ」
「は?」
「ちょっと、本気で言ってるの?」
「ええ、もちろん」
「フフ。これは仲間を信じるゲーム。こういうのが好きそうなキャッツには丁度いいわ」
「私は反対よ。それこそ今すぐに逃げ出しそうじゃない」
「俺も今回は賛成できない。仲間に向かって攻撃するなんて……」
「ソラが攻撃しないなら私が攻撃するわ。手加減はするつもりだけど私は魔人がどれぐらい頑丈なのか分からないから威力が強いかもしれないけど、そしたらごめんなさいね」
「ちょっと待って!二人も反対してるのに強引に決行するなんてあんまりじゃない!」
「でも、これをすることによってキャッツの興味を惹いたものが少しでも分かるかもしれないわよ」
「だからって…」
「私は構わないわ。というか…」
そう言うと、シャーロットが俺のところまで寄って来た。
「私はソラに攻撃してもらった方がいい。信頼できる仲間だしね」
「……」
これは本物のシャーロットが言っていることなんだろうか。
それともキャッツが演じている偽物なんだろうか。
分からない。分からないけど、シャーロットぽい気がする。
「…………分かった。ジブリエルに任せるなら俺がやる」
「決まりね」
「そんな…ソラまでどうして」
「ふぅ〜……今から仲間との信頼関係ってやつを見せてやるわよ」
「……ソラ…」
シャーロットが困った顔で見てくる。
そんな顔で見られると心が揺らぐから正直やめてほしい。
「さ、二人とも横並びになりなさい」
渋々といった感じで並ぶシャーロット。
それとは対照的に堂々としているもう一人のシャーロット。
「私が合図を出したらソラが二人に向かって攻撃して。その時に、もし躱して距離をとったらそいつがキャッツだと判断して私が攻撃するわ」
「……分かった」
なにかジブリエルには策がありそうな感じだったが何を考えているんだろうか。
このまま俺がシャーロットを攻撃して二人とも避けなかったらこれはなんの意味もない行為になるわけだし。
まあ、でも、キャッツが攻撃を受ける理由はないからそれはないのか?
そもそも本物のシャーロットが攻撃を避ける可能性だってある。
これは正直言って意味不明な行動だぞ。
まさか、ジブリエルがキャッツ…なわけはないよな。
シャーロットが二人いるわけだし。
俺はこの行動に意味があると信じてやるしかないってことか。
仲間を信じて、ジブリエルを信じて。
「シャーロット、手加減するけど痛いと思うからそのつもりで」
「分かったわ」
「……」
堂々としているシャーロットと不安そうなシャーロット。
どっちが本物のシャーロットなのか分かればいいんだが。
俺はとりあえず全身を青い炎で覆う。
手加減はするが、当たればかなり痛い筈だ。
俺は本当にこの攻撃をシャーロットに向けて攻撃していいのか。
それでいいんだろうか。
「よし。準備ができたわ。ソラ、今よ!」
魔法の準備ができたジブリエルが俺に言ってきた。
「はあああああ!!!」
俺は全身の炎の勢いを増すと手加減しながら両拳をシャーロットに向けて殴り付ける。
だんだんとシャーロットの体に近付いていく俺の拳はゆっくりに見えた。
そこで俺は思った。
俺にはシャーロットを攻撃することはできないと。
そう思った途端、全身の青い炎は消え、拳からも力が抜ける。
「『テンペスト!!!』」
と、ジブリエルが魔法を唱えた声が聞こえた。
そして、俺の目の前には目を瞑り、固まっていたシャーロットが一人いた。
「シャーロット」
「……」
俺が彼女の名前を言うと、瞑っていた目をゆっくり開けた。
そして、安心した表情を浮かべると、
「ソラを信じてよかったわ」
「どうして俺が攻撃しないって思ったんだ?」
「それは、私達が仲間だからよ」
「!!!……そうだな」
俺は自然と笑みが溢れていた。
「作戦はとりあえず上手くいったわね」
「そうね」
「作戦?」
「そう。彼女は心の声が聞こえるって言ってたでしょ?だから、それを利用して私とジブリエルだけ作戦を立ててたってわけよ」
「だったら俺にも言ってくれよ!?」
「あの状況でキャッツに悟られずにするにはまず、仲間から騙さないとね」
「……」
そういえば、ジブリエルは心の声が聞こえるとか言ってたな。
シャーロットがこの村の人を襲っているというのが衝撃すぎてすっかり忘れていた。
「あの状況でどうして攻撃してこないと分かった。そいつが腰抜けだからか?」
ジブリエルの風魔法で吹き飛ばされていたキャッツがふらふらとした足取りでこちらに近づきながら言った。
どうやら変身は解かれたらしい。黒いモヤの状態になっている。
「違うわよ。これが私の言っていた仲間との信頼関係ってやつよ」
「フン。オイラ達には分からないことだな。だが、なるほどにゃ。少し面白かったにゃ。わざわざ残ってやった甲斐があった」
「わざと残ったのか」
「まあ、そこそこ楽しめたしにゃ。それに、そろそろ潮時にゃ」
「どういうことだ?」
「次に会ったら時のことをもう少し考えておくとするかにゃ」
「逃げるつもり?魔王様の使い魔なのに案外臆病なのね」
「にゃはは。単純に時間切れにゃ。オイラとしては思ったより遊べたから満足にゃ」
「時間切れ…?」
「お前は知らないだろうけどにゃ。こっちの話にゃ」
そう言うと、キャッツの体は火のついた紙のように徐々に消え始めた。
「キャッツ、私のゲームはどうだったかしら?」
「まあまあかにゃ」
「そう。でも、私達の勝ちみたいね」
「フンッ。まあ、今回は勝ちを譲ってやるにゃ」
「フフ。負け惜しみはカッコ悪いわよ」
そう言うと、ジブリエルは悪い顔をしながらキャッツに向かって舌を出して馬鹿にしていた。
「お前のことは忘れないにゃ……」
そう言い残してブラックキャッツは完全に姿を消した。
「いきなり姿を消したけど、なんかの能力か?」
「いいえ。多分、魔王様が使い魔の召喚をやめたんでしょう」
「何かあったのかもしれないわね」
「魔王にか?」
「う〜ん。なんとも言えないわね」
とりあえず、これでキャッツの件は一件落着……じゃない!!!
「早くユリアのところに行かないと!!!」
「っ!!!そうね。急ぎましょう!」
「私は族長の家に行って現状を伝えてから向かうわ。キャッツの言っていた特殊な毒ってのが気になるし」
「分かった」
「分かったわ」
「後で会いましょう」
それからジブリエルと別れて、俺とシャーロットはユリアのところまで急いだ。
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