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第四十五話 化け猫

現在、21時毎日投稿中。

 シェイクの家へ走って向かっている道中、俺の頭の中はシャーロットのことで一杯だった。

 聞いた話を鵜呑みにするならシャーロットがこの村の住人を刺して回っているということになる。

 あのシャーロットがそんなことをするとは思えない。

 いや、する筈がない。何かの間違いだ。

 そうに違いない。


 俺はそんなことをずっと考えていた。

 頼むから間違いであってくれと。


「あれは!?」


 シェイクの声で我に返り、前を見た。

 そこにはいつもの通りの彼女がいた。


「シャーロット!!!」


 俺達は立ち止まり、様子を見る。


 どうしてシャーロットがここに?一人なのか?ユリア達は?


 そんなことを考えていると、


「……ああ、ソラ……来ちゃったんだ……」


 その場に立ったまま下の方を向き、どんよりとした暗い声音で言うシャーロット。


「そっか…思ったより早かったわね」


「……なあ、シャーロット…」


 俺は喉の渇きを感じながら声を出す。

 ふわふわした感覚が全身を包んで心臓の音が聞こえそうな感じだ。


「この村の人を襲ってるって話…あれは、嘘だよな?」


 嘘であってくれ。そう願わずにはいられない。

 が、シャーロットは淡々と、


「ううん。私がやったの。この手で何人も」


「…っ!?どうして!!?」


「いつかはやらないとって思ってた。ただ、それが今だっただけ」


「いつかはって…」


「あなた達と旅をしている時、私はずっと嘘をつきながら過ごしてた」


「……」


「ここぞという時が来るまで待って、それであなた達を陥れる為に。でも、ちょっと一緒にいる時間が長過ぎたかな」


 そう語るシャーロットの顔はとても辛そうだった。

 俺はその顔を見て余計にこれが現実なんだなと実感した。

 その反応は俺達と一緒に過ごしてきたからこその反応だったからだ。


「ねえ、私は……どうするべきだったのかな。これでよかったのかな」


「…………」


 俺の拳に自然と力が入る。  

 分かってる。分かってるけど、辛い。


「こんなこと言っても仕方ないよね」


 そう言うシャーロットの目元には涙が溜まっていた。

 頼むからそんな顔をしないでくれよ。迷いが生じてしまう。


「本当は私だってこんなことしたくないのに……」


 顔を手で隠しながらその場に崩れ落ちるシャーロット。


「ねえ……ソラ…私を助けて……」


 泣きながら言うシャーロットの声は震えていた。

 何がシャーロットをこうさせたのかは分からない。

 魔王の所為なのか、それとも別の者によるものなのか。

 だが、どちらにしろ、俺は、俺の仲間を助けてやりたい。


「なあ、シャーロット。何があったのか教えてくれないか?どうしてこんなことをしたのか」


「ソラさん?!本気ですか?!」


「シャーロットは俺の、俺達の仲間なんだ。話を聞きたい」


「……僕はこの村の族長として、彼女の行いを許すことはできないですよ」


「……分かった。でも、今は少しだけ、シャーロットと話をさせてくれ」


「……」


 シェイクは納得していない顔をしていた。

 が、俺の頭にあったのはシャーロットのことだ。

 彼女に何があったのか。

 どうしてこんなことをしたのか。

 彼女の口から聞いて、それで判断したい。


「というわけで、シャーロット。何があったか話してくれないか?」


「……分かった。少し話しましょう」


 涙を手で拭きながら言うシャーロット。


「少しこっちに来て」


 そう言われて、俺はシャーロットへ近づく。

 今までのシャーロットとの思い出を振り返りながら一歩づつ。


「ほら…」


 と、彼女へ近付いていく中で俺は違和感を覚える。


 なんだろう。何かが、何かが違う。


 そんなちょっとした違和感。心がざわざわする感覚。


 何かを忘れているような…………。


 と、その時、空から聞き慣れた声が聞こえた。


「ソラ!!!離れて!!!」


「シャーロット!?!?」


 空にはシャーロットがいた。

 そう、シャーロットがいたのだ。

 つまり、ここにはシャーロットが二人いる。


「そいつは偽物よ!!!」


 シャーロットの直ぐ後ろにいたジブリエルの声。


 偽物?今、偽物って言ったか?


 俺は今まで話していたシャーロットに視線を向き直す。

 すると、シャーロットの右手には短剣が握られ、俺に向かって突き刺そうとしているところだった。


「バレちゃったか」


 ヤバい!


 そう思ったが、反応が遅れた。

 シャーロットの短剣が俺の左の脇腹に突き刺さった。


「お前は、一体……」


「アハハ。もう演技をする必要もないか」


 そう言うと、シャーロットから黒い煙が溢れ出た。

 そして、その煙が消えると、そこには黒いモヤで覆われた者が立っていた。


「もう少しで最高のフィナーレだったのににゃ」


 黒いモヤで顔や輪郭等がよく分からないが、ハットに近い帽子を着けた人型の何かだということは分かった。

 いや、これに近い奴に俺は会っている。


 魔王の使い魔だ。


「ソラ!!!」


 シャーロットが空から地面へと降り、心配した声音で言う。


「シェイク!今すぐに家に戻ってユリアさんに解毒魔法を掛けてあげて!」


「解毒魔法?まさか、刺されたのか?!」


「ええ、だから早く行って」


「分かった!」


 それからシェイクは透明な羽を背中から生やし、空へと飛び立った。


「ふむ。せっかちな奴らだにゃ。もう少しオイラの話を聞いていけばいいのに」


 俺から短剣を抜きながら言う黒いモヤの男。


「どうせ、解毒魔法は意味ないにゃ」


「どういう…ことだ」


「ん?オイラの短剣に塗ってる毒は特殊だからにゃ。何もしないのが吉にゃ」


 そう言う男の声音は実に楽しそうだ。


「あんた、魔王様の使い魔の”腹黒”のブラックキャッツね」


「おっ、”裏切り者”のシャーロットじゃにゃいか。レミーとモーを倒した後、ここに来るだろうと予想してたけど当たりだったにゃ」


「よくも私の大切な仲間を…あんただけは許さないわよ」


 これ程怒っているシャーロットを見たのは初めてかもしれない。

 それほど俺達を大切に思ってくれてるってことだろう。

 なのに俺は……。


「ああ、はいはい。お熱い仲間ごっこね。なんか昔からそんな感じの変人だって噂だったからにゃ。不思議じゃにゃいが…」


「そういうあんたは性格が最悪だって噂を聞いたわよ。だから、”腹黒”って異名が付いたってね」


「にゃはは。そんな褒めるにゃよ。俺は人で遊ぶのが最高に楽しいからにゃ。そういうことしてる時が一番の幸せにゃ」


「最っ低ね!」


「今もお前の姿で色々と遊んでたところにゃ。丁度、お前の姿でこいつを刺したところにお前が来たからにゃ。もう少し早かったら刺せずに終わるところだったにゃ。そんなの泣き損にゃ。いや、よかったよかった」


「よくないっての……本当にイラつかせるのが好きみたいね。あんたはディドゥルより嫌いだわ」


「ディドゥル?ああ、あの石化させる魔人のことか。あいつはもう少し楽しみ方ってのを知るべきにゃ。いつまでも終わらない恐怖と苦痛を与えるのが楽しいのに、石化なんてしたら勿体ないにゃ」


「もういいわ。あんたと話してるとおかしくなりそう」


「元から変なのににゃ…………あれ?ここは笑うところにゃんだけど?」


「センスないんじゃないの?」


「にゃはは。言われてしまったにゃ」


「大丈夫?」


 俺に近付いてきたジブリエルが声を掛けてくれた。


「ああ、今のところな」


「ん?おかしいにゃ。俺の毒は刺された瞬間から効果を発揮する筈にゃんだが。まあ、あのユリアとかいうエルフには効いたからこいつが特殊なだけかにゃ」


「あなたはここで安静にしてて。私とシャーロットであいつを倒すから」


「いや、俺も戦う。仲間を馬鹿にされて、仲間が戦っていて、そんな時にただただ黙っているなんてできない」


「でも…」


「大丈夫。三人で協力してあいつを倒そう」


「…………分かったわ」


「さてと…」


 俺は体に青い炎を纏う。

 刺された傷を治す為に『ロード・コアドライブ』を使う。


「なるほど。それが青い炎ってやつか。初めて見るにゃ」


 刺された傷は跡形もなく消えた。

 そして、今度は『カオス・コアドライブ』を発動する。


「ふむ。図らず最適な行動をとるにゃ。やっぱりにゃ…」


「…?どういうことだ」


「ん?いや、今頃はどうなってるかにゃ。最悪死んでるかもにゃ」


「!?ユリアのことを言ってるの?!」


「ん?いやぁ〜それはどうかにゃ」


 わざとらしい反応。

 キャッツはこの状況を実に楽しんできるようだ。


「なあ、ユリアもあの短剣に刺されたんだよな?」


「ええ。彼女は逃げたあいつを追ってと言って一人残ったのよ」


「……心配だな」


「そうね」


「心配そうだにゃ?そんなにあのエルフが大事にゃのか?」


「当たり前でしょ!」


「当たり前だ!」


 俺とシャーロットが同時に即答する。

 と、顔の表情が分かりづらい筈のこいつの顔がニヤリと笑った。


「そうか。だったら、今すぐに会わせてやるにゃ」


 そう言うと、黒い煙がキャッツの全身を包んだ。

 そして、その煙がなくなると、


「これでいいかしら?会いたかったんでしょ?ユリアちゃんだっけ?」


 そこにはユリアがいた。

 顔や声はもちろん、背丈や服装なんかも完璧に同じだ。


「……どこまで人を馬鹿にすれば気が済むのよ」


「私の気が済むことはないわ」


 怒りを露わにするシャーロットに対して、実に楽しそうに言うキャッツ。

 その姿、声がユリアなのが不思議な感じだ。


「にしても、この女少し胸の部分がデカいわね…」


「ふざけんじゃないわよ!!!」


 そう言って、シャーロットが黒い稲妻を放つ。


「きゃあああ!」


 と、キャッツはシャーロットの攻撃を演技っぽく躱す。


「酷いよ。シャーロット!私達は仲間でしょ?こんな酷いことしないで」


「…っ!?何が仲間よ!私の仲間の姿でそんなこと言うんじゃないわよ!」


「私…シャーロットのこと信じてたのに…」


 ユリアの姿で言われるとどうも敵対心が薄れる。

 これがこいつの作戦なのだろう。

 厄介な能力だ。


 ここから俺達三人とブラックキャッツとの本格的な戦いが始まった。

見てくれてありがとうございます。

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