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第四十四話 裏切り

現在、21時毎日投稿中。

 シェイクの案内の下、族長の家へと向かっていた俺達は今までの旅の話をしていた。

 内容はユリアが自分の村で起こったことだったり、それからここに来るまでの旅の話だ。

 ユリアから改めて俺達の旅の話を聞くと、本当に長い間一緒に旅をしてきたんだなと感じる。

 数ヶ月の間だけだが、朝から晩まで一日中一緒に旅をしているから自然とそう感じるのだろう。


「なるほど。それは大変でしたね」


「ええ」


 今、ユリアがエルフの村に戻った時のことを話している。

 誰もいなく、なにも無くなってしまったユリアの故郷。

 あの寂しい感じとあの時のユリアのことをよく覚えている。

 もうあんなことにはさせたくない。

 いつでも帰ることのできる故郷、思い出の場所を守る。

 その為にも魔王の封印を急がないとな。


 そういえば、俺にとっての故郷って何処なんだろう。

 やっぱりバスクホロウだろうか。

 それとも俺が作られたであろう何処かになるんだろうか。

 まあ、個人的にはミーシャやユリアとの思い出があるバスクホロウが故郷という感じがするが。


「で、その時に会ったのが彼女、シャーロットなんです」


「へえ…」


「彼女が私達に協力してくれたからなんとかなったんですよ」


「そうですか」


「まあね。あのぐらいは朝飯前よ」


 どうやら俺とユリアとシャーロットで蒼龍と戦った時の話をしているらしい。

 その時のことをユリアに褒められたシャーロットは照れながらも嬉しそうにしている。


「それで、そんなシャーロットさんにはどんな秘密があるんですか?」


「ああ……それは……」


 シェイクの質問にシャーロットが言葉を詰まらせる。

 が、そんな様子を見てジブリエルが即座に、


「私から説明した方がいいわ」


「……」


「彼女は…人魔大戦の時代から存在する魔人よ」


「魔人?!」


 シェイクが驚愕する。

 まあ、当たり前の反応だろう。


「私も驚いたわ。魔人に会うのは初めてだったし、存在しているのかすら分からなかったから」


「……魔人である彼女がどうして魔王を封印しようとするあなた達と一緒に旅をしてるんだ?」


「それは、私も魔王様を封印することに肯定的だからよ」


「でも、魔人は魔王の配下。そして、魔人は残虐的だと聞いているけど?」


「私は普通の魔人とは違う考えなのよ」


「……」


 シェイクは疑いの眼差しをシャーロットに向ける。


「シェイク、彼女は大丈夫よ。私が保証するわ」


「…………姉さんが言うなら、そうなんだろう。俺も彼女と話していて悪い印象はない」


 そう言うと、場の雰囲気が少し和やかになる。


「だけど、村の連中はそうではないだろう」


 その言葉で場の雰囲気は暗くなった。


「人によっては魔人というだけで嫌悪する者もいるだろう。特に長く生きている者はね」


「それは、そうでしょうね」


 妖精族の寿命がどのぐらいなのかは知らないが色々思うところがある者も多いのではないだろうか。

 長寿であればあるほど、魔人の印象はよくないだろう。

 遺恨みたいなものがある者もいるかもしれない。


「どうしたものか…………」


 そう言うと、シェイクはしばらく悩んだ。

 彼自身はシャーロットに悪い印象は持っていないようなだが、彼は族長だ。

 自分勝手に行動はできない。

 そのことで色々と考えているんだろう。

 族長も大変だな。


「ふむ。シャーロットさん、あなたはこの村では魔人であることを隠してくれ。とりあえず、今から行く族長の家にいる人達には内緒だ」


「……私はいいけど」


「それだとバレた時に色々言われるんじゃない?」


「まあね。でも、魔人だと言うことがバレたら協力は難しくなると思う。魔人が一緒にいるというだけで、村を追い出される可能性だってある」


「……」


「そうかもしれないけど、困ったものね」


 この場にいる全員、困った顔をしていたと思う。

 どうやら魔人はこの村では歓迎されていないらしい。

 仕方がないといえばそれまでなんだが、シャーロットのことを知っているからな。

 今までの魔人の印象でシャーロットのことを決めつけて欲しくないと思ってしまう。


「とにかく、シャーロットさんのことは秘密だ。これはこれからの協力関係に関わることだ。理解してくれ」


「……分かりました」


「仕方ないわね」


「そうだな」


 妖精族が協力してくれるというのは単純に仲間が増えるというだけではない。

 信頼できる者であるという証として、他の種族に協力を求める時の力になる筈だ。


「よし。もう少しで着くからそのつもりで」


「はい」




 それから少し歩いて、族長の家に着いた。

 なぜシェイクの家ではなく族長の家と言っているのか不思議だったが、住んでいるわけではなく族長の仕事をする場所として使っているからなんだそうだ。


「おお、やっときたか」


「あなた達がこの村に来たエルフとその仲間か」


 大きな大樹を利用して作られた家の中に入ると、妖精族の人達が数人いた。

 見た目は少年少女という感じだが俺よりもずっと年上だろう。

 妖精族は若い時の見た目のまま歳をとるみたいだ。


「少し寄り道をしてから来たからね。紹介するよ。こちらのエルフはユリアさん。そして、その隣がシャーロットさん。その隣がソラさんだ」


「ふむ」


「なんとなく話は聞いていると思うけど、彼女達は魔王を封印する為に旅をしている。ここに寄ったのはそのことに協力して欲しいとお願いをする為わざわざ来たんだそうだ」


「そうか。まあ、とりあえず席に座るといい」


「そうだね。さあ、座って」


 俺達はシェイクに進められるまま木で作られた椅子へ座る。

 この部屋は木の椅子と大きな木のテーブルだけのシンプルな部屋だ。

 会議専用の部屋って感じだな。


「色々と話し合いを始める前に少し。ジブリエル、どうしてお前がここにいる。我々は話し合いでお前をこの村から追放した筈だが」


「そうね。私もこの村にまた入れるとは思わなかったわ」


「……外で何があった」


「特に何もないわ。ただ、たまたまユリア達と会って、そしたら困ってるって言うから私がその手助けをしたってだけよ」


「話し合いで決めたのに村に入れていいのか?」


「よくはない」


「じゃあ、どうする?また追い出すか?」


「私は反対よ。そもそもジブリエルがいなかったら私達は全滅してたのよ?」


「俺達はルーンを何百年と守ってきた。その使命を忘れてはいけない」


 なんだか言い合いが始まってしまった。

 ジブリエルのことは村の中でも未だに意見が対立しているらしい。


「まあまあ、その辺にして。今はお客さんもいる訳だし。とりあえず、ジブリエルはここまで彼女達の案内をしてくれたんだ。少しぐらいの滞在は許すことにしよう。彼女の処分についてはもう少し話し合った方がいいかもね」


「……今はそれで許そう。お前も座るれ」


「どうも」


 そう言うと、ジブリエルが俺の隣に座った。


「じゃあ、早速話し合いを始めようか」




 それから俺達は話し合いを始めた。

 一つ目の議題は俺達が魔王を封印するからそれに協力して欲しいというものだ。

 俺達が復活したであろう魔王を封印し、完全復活を阻止する。

 しかし、俺達だけでは限界がある。

 そこで危険を伴うが俺達と一緒に旅をできる者が欲しい。


 このことを伝えると、難しい顔をしながら誰がいいだろうかと悩んでいた。

 一応、断られる可能性もあると思っていたが、その心配は要らないみたいだ。

 が、結局、今直ぐには決められないので一日しっかり話し合ってから決めるということだった。

 いつ、何があるか分からないからな。慎重になるのも無理ないだろう。

 逆にそのぐらいしてもらわないとな。


 二つ目の議題は魔王に対抗できる組織を作って欲しいということ。

 これは連合軍のようなものを考えている。

 これから巨人族、魚人族、龍人族のところにも行くことになる。

 その時に協力を仰ぎ、もしもの時に備えて欲しいというものだ。

 これには直ぐに首を縦に振ってもらえた。

 いつ魔王が完全復活するか分からない今、協力することは自分達を守るという意味でもすべきだろうとのことだった。


 俺達が協力して欲しいという要望はかなりいい感じに話が進みそうだ。

 これを後三回はしなくちゃならないと考えると先は長い。


「私達からのお願いは以上です」


「うむ。魔王復活…大変なことになったな」


「なぜ、今復活したのかは分からないが、色々と策を考えておかないとな」


「ああ、もう昔を知っている者はいないからね」


「人魔大戦は二千年も前の話だからね」


「これから忙しくなりそうだ」


 シェイクがそう言うと、なんだかこの会議が終わりそうな雰囲気が漂った。

 ふと窓を見ると、すっかり暗くなっていた。

 それなりの時間話をしていたらしい。

 と、ここで大きな音が鳴った。

 ぐうという音を出したその者は下を向き、真紅の目と同じぐらい耳まで赤くしている。


「今日はこれで終わりにしようか。明日、もう一度話し合いをしよう」


「そうですね。二人もいいよね?」


「ああ」


「え、ええ」


「これからは僕達だけでもう少し話し合いだ」


「そうだな」


「うむ」


「とりあえず、今日は僕の家に来るといい。部屋は余ってるからね」


「分かりました。ありがとうございます」


「分からないことは姉さんに聞いてくれ。なんでも知ってる筈だから」


「はい」


「それじゃあ、私達は行きましょうか」


「ああ、ソラさん。ちょっとだけいいかな?」


「ん?はい…」


 シェイクが俺を止めてきた。なんだろう。


「少しだけ話があるんだ。二人で話せるかい?」


「分かりました。それじゃあ…」


「……私達は先に戻ってましょうか」


「ああ。ソラさんは僕が後で送るよ」


「そう」


 それからジブリエルがユリアとシャーロットを連れて出て行った。

 俺はシェイクに連れられ、部屋を出て直ぐのところまで歩いた。


「悪いね。君だけ残ってもらって」


「いえ、それは全然いいんですけど」


 どうしたんだろうか。

 なんか悪いことでもしたか?

 例えば妖精族に伝わる禁忌を破ってしまったとか。

 そうでなくても、何か気に触ることを言ってしまっていたとか。

 分からん。心当たりがなさすぎる。

 というか、妖精族の掟みたいなの知らないからどうしようもなくないか?


「昔から僕と姉さんは一緒にいたんだけどね。少し前に喧嘩別れみたいになっちゃって」


「ああ、はい。なんとなくは聞きました」


 ジブリエルがそんな感じなことを喋っていた気がする。


「少し後悔してたんだよ。言い過ぎたかなってね。このまま喧嘩別れでいいのかってさ。だから、姉さんが村に戻ってきた時、驚きもあったけど嬉しかったんだよ」


「……」


 姉弟喧嘩ってやつか。

 俺は兄弟姉妹がいないからよく分からないけど、喧嘩みたいなのはサミフロッグ王国でユリアとしたからな。

 まあ、あれは俺が悪かった気がするけど。


「それで、僕は姉さんとずっと一緒にいるからなんとなく分かる。これは僕からの勝手なお願いなんだけど、姉さんを…ジブリエルを君達の旅に連れて行ってはもらえないだろうか」


「ジブリエルを?」


 俺は構わないけど、本人がそれは嫌だと言えばそれまでだ。無理強いはできない。


「多分、姉さんはこの村にいるより世界を回った方が性に合ってると思うんだ。それに……」


「それに?」


「姉さんは君達のことが気に入ってると思うんだ」


「そう、なのか?」


「ああ、なんとなく分かるんだよ。姉さんのことはね」


 シェイクはどこか懐かしむような、嬉しそうな、そんな顔をしていた。


「無理にとは言わない。これは僕が勝手に言ってることだ。誰かが嫌だと言えばそれまでだ。でも、僕は君達なら姉さんを任せられると思ってる」


「そ、そうか」


 なんか期待されてるんだろうか。

 俺達とは少ない時間しか会ってないんだがな。

 やっぱりジブリエルの表情とか、些細な違いとかで伝わるものがあるんだろうか。


「まあ、僕が言いたいのは姉さんのことを前向きに考えてくれってことだ」


「ああ、分かった」


「うん。話はそれだけだ。誰かに聞かれると恥ずかしかったからね。わざわざこんな形で悪いね」


「いや、大丈夫だ」


「まあ、姉さんには全部バレてると思うけどね」


「どうして?」


「姉さんは人の心を読めるからね。考えてることは筒抜けなんだよ」


「そういえばそうだった」


 不思議な能力もあるもんだ。

 便利なことに違いないだろうけど心が読めるってのは場合によっては傷付いたりするだろうから大変そうだよな。


「僕のこれは大きなお世話と思ってるかもね」


「そうかな?嬉しいんじゃないかな。きっと」


「そうだといいけどね。さあ、そろそろ行こう。あんまり遅くなってもいけない」


「ああ」


 それから俺はシェイクに案内されながら彼の家に向かった。

 なんかシェイクとあんな会話をするとは思わなかった。

 きっとシェイクはジブリエルのことが好きなんだろう。

 それが伝わってくる。

 そして、きっとジブリエルも同じようにシェイクが好きだと思う。

 姉弟の絆みたいなものだろう。

 なんかいいな。そういう関係。


「あっ!!!族長!!!」


 慌てた様子で空を飛んでいる妖精族の男。

 背中の透明な羽を使い近くに着地すると、駆け足でこちらに向かってくる。

 何かあったのはその様子から分かる。


「どうした?何かあったか?」


「それが、村の何人かが刺されたみたいで…」


「刺された?!どういうことだ?」


「何人もナイフみたいなので刺されてるみたいで、しかも、それには毒も塗られてるみたいで重症だ。このままだと死んでしまうかもしれない」


「そんな!?回復魔法は何人か扱える者がいるが、解毒魔法を扱えるのは僕と姉さんの薬ぐらいか…とりあえず、刺された人達のところへ今すぐ向かう」


「解毒魔法だったらユリアも使える筈だ」


「本当か?!だとすると、姉さんとユリアさんを呼んで解毒しよう。でも、どうしてこんなことになってる?」


「俺も詳しくは分からないんだが、なんとか話ができる奴に聞いたら、今日この村に来たツインテールの女がいきなり刺してきたらしい」


「は???」


 今日この村に来たツインテールの女って……。


「なんか背中から翼が生えてて、人間じゃないって言ってた。族長、村の連中に今すぐ知らせた方がいい」


「どういうことだ……いや、今はやるべきことをやろう。急いで族長の家にいる人達にそのことを伝えてくれ。村の警戒レベルは最大だ。僕は今から自分の家に行ってユリアさんと一緒に刺された人の解毒をする」


「分かりました」


「……ソラさん。僕も信じたくはありませんが、特徴を聞くに…」


 シャーロットがやったってことか?

 この村の人を刺して、ナイフには毒を塗って。

 シャーロットがそれをやったってのかよ。

 何がどうなってるんだよ。シャーロット……。

 俺は自分の拳を強く握った。

見てくれてありがとうございます。

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