第四十二話 妖精の森
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妖精族の村へ向かう途中、ジブリエルから何があったかを聞いた。
話によると、既に風のルーンは魔王によって破壊されている。
しかも、一ヶ月以上は前の話だ。
ということは、魔王は次のルーンに向けて動いていると考えていいだろう。
と、そこで俺はミント大橋のことを思い出した。
魔王が召喚したという使い魔、レッドモーとブラウンレミー。
確か、彼らは情報を共有できるという話を聞いた。
もしかしたら、魔王が使い魔を召喚したのは次のルーンを壊す為に必要な情報などを集めていたのではないだろうか。
例えば、ルーンの正確な位置や現在の世界の情報とか、あるいは邪魔になりそうな奴とか。
どちらにしろ、風のルーンは既に破壊されてしまった。
だとすると、次は火、土、水のルーンのどれかだ。
止めないといけない。
じゃないと世界が魔王によって支配されてしまう。
そうなれば、大量の血が流れる。
人魔大戦の再来だ。
「それで、魔王は何もせずに立ち去ったんですか?」
「ええ。嘘はつかないと言っていたしね」
「魔人はプライドが高くて嘘をつくことを嫌うから。魔王様がそう言ったんだったら約束は守る筈よ」
「へえ…」
ユリアが少し驚いたような反応をする。
「それにしても、どうして族長だったあんたがあんな所でねっ転がっていたわけ?村は?」
「私は村を追い出されちゃったのよ」
「追い出された?」
「今、村は二つに割れてしまっているの。私の行動を擁護する者と非難する者でね」
「……」
「ふ〜ん」
ユリアは少し複雑そうな顔をしている。
自分の村が滅ぼされたユリアにとって、それは複雑な感情になるんじゃないだろうか。
生きているだけ喜ばしいことじゃないかと思っているんじゃないだろうか。
本当はユリアだってエルフの村の人達に生きていて欲しかった筈だ。
こんな時に争っている場合じゃないと、そう思っているんじゃないだろうか。
「それで非難をする者の方が多かったから、責任をとらされて追い出されたってわけよ」
「なるほどな。そんなことが…」
「まあ、追い出されたことに関してはなんとも思っていないからいいんだけどね。でも、やっぱり村のみんなが心配で…なんとなく近くを彷徨っていたってわけよ」
「ジブリエルさんは、自分のした行動をどう思っていますか?」
「…………そうね、後悔が少しもないと言えば嘘になるけど、私はこれでよかったと思っているわ。あなた達にとってはよくない選択だったんでしょうけどね」
「いえ、そんなことは…」
「仲間の命か、ルーンか……難しいわね」
「ああ……」
俺だったらどうしただろうか。
仲間の命とルーン、どちらを選ぶんだろう。
「特に、村を滅ぼされたあなたにとってはとても難しい問題ね、ユリアさん」
「っ……!?」
「私は人の考えてることが分かるから……勝手にごめんなさいね」
「なるほど、それでか…」
一人、納得したような反応のシャーロット。
それに対し、俺とユリアは驚いたような、なんとも言えない反応をしていた。
人の考えが分かる。そんなことが出来るのかと。
「本当…どうして私なのかしらね…」
ジブリエルは空を見つめて言う。
その姿はどこか悲しい感じがした。
「さっ、行きましょう。もう少しで着くわ」
それから少し歩いた。
歩きながら、今度は俺達の話をした。
旅をしている理由とか、その旅で何があったのかとか、どうして魔人のシャーロットと一緒にいるのかとか、そんな感じのことを。
ジブリエルは俺達の話を聞きながら、たまに質問したりしてきた。
彼女にとって、俺達の旅の話はとても興味深い話だったらしい。
思いのほか興味を持ってくれたので少し意外だった。
なんというか、ジブリエルはあまり感情を表に出さない感じがしたからだ。
元々そういう性格なのか、それともそうしているのかは分からないが、まあ、思ったより楽しんでもらえたみたいでよかった。
「着いたわ」
先導していたジブリエルが振り返りそう言う。
が、周りを見渡しても一面花畑だ。村があるようには見えない。
「結界ですか?」
「ええ。村は人目に触れないように姿を隠してるのよ」
そういえば、エルフの村も結界で守ってたな。それと同じ感じか。
「こういうことは言っちゃいけないことになってるんだけど、まあ、あなた達なら大丈夫でしょう」
「随分と信頼されてるわね。私が裏切ったりするとか思わないの?」
「フフ。裏切るの?そうは思えないわよ。私は心の声が聞こえるし」
「ふ〜ん」
「それに、あなた達からはお互いを信頼しあっているのが伝わってくるもの」
「お互いを信頼か…」
「確かに、信頼はしてるけど…他の人からそう言われるとなんか恥ずかしいね」
「まあな」
でも、ジブリエルから見て俺達はそういう風に見えているのか。
特に意識している訳でもないから自然とそうなっているらしい。
なんだかんだずっと一緒に旅をしているしな。
仲が悪いよりいいだろう。
「さて、それじゃあ、行きましょうか。妖精族の村へ」
そう言うと、ジルリエルが両手を前に翳した。
すると、少しして、風が吹いた。
花弁が風で舞い、俺達の周りを囲む様に集まっていく。
「これは…?」
「これで村の中に入るのよ」
「へえ〜…」
「幻想的ね」
「フフ。そうね、幻想的ね」
「……何よ?」
シャーロットが不満そうに聞く。
「ううん。ただ、そういう感想を抱く魔人もいるんだなって思っただけ」
「いいじゃない。別に」
「攻めてるとかじゃないのよ?」
「フンッ」
「あらら…」
シャーロットがツンツンしてしまった。
が、そんなことを忘れてしまう程の光景が広がった。
「わあ……」
「ここが妖精族の…」
「そう。妖精族の村がある〈妖精の森〉よ」
紫の葉を持つ木や黄色い苔、赤い幹に青い草など多彩な木や花で視界を埋め尽くされていた。
「凄い場所だな」
俺は試しに自分の足元の黄色い草に触れてみる。
感触は普通だ。だが、この見た目が新鮮だ。
こういう景色は見たことがない。
「ええ。私達にとっては見慣れた風景だけどね。あなた達にとっては不思議な場所よね」
「ええ」
「綺麗な場所…」
「フフン。そうでしょう」
感動しているシャーロットとユリアの反応を見て、ジブリエルはとてもご機嫌のようだ。
「さ、行きましょうか」
「ああ」
「ああ、ちょっと…」
それから俺達はジブリエルに案内されて妖精族の村へ向かった。
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