第四十一話 選択
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〜ジブリエル視点〜
「姉さん!またこんな所で寝てるのか?」
目を開けると、私の前には弟のシェイクスピアがいた。
寝ぼけながらも体を起こし、目を擦る。
「姉さんはここが好きだね」
「ええ」
妖精族の村にある一番高い木の上。
太い枝は私が寝るのには丁度よく、微風と葉から漏れる太陽の光が心地いい。
私のお気に入りの場所だ。
「これからティターニア祭に使う材料とか、食料とかの確認するから手伝ってくれ」
「嫌よ」
「……」
魔王から世界を救った英雄、妖精王ティターニア。
平和の証として、五年に一度開かれる英雄の名前が付けられた祭り。
内容は美味しいものを食べ、飲み、そして、踊る。
人族が毎年行っている祭りとほとんど変わらない。
祭りは嫌いではないし、どちらかというと好きな方だ。
しかし、私が嫌いな理由は他にある。
「はぁ……あのな、姉さん。族長の姉さんがしっかりしないから僕がこうやって苦労する羽目になっているんだぞ?もう少し族長としての自覚を持ってくれ」
「嫌よ、シェイクがやって」
先代族長が死ぬ少し前、次の族長を決めるからと村のみんなが集められた。
私はあまり興味なかったが族長の命令だからと思い、弟のシェイクに付いていった。
今思えば、なんでそんなことをしたんだろう。
自分らしくない。
そして、族長に集められたみんなが固唾を呑む中、私はシェイクと話をしていた。
内容は他愛のない話だ。
近くに薬草を見つけたとかそんな話だった気がする。
が、「次の族長はジブリエルとする」という声が聞こえて口が止まった。
確かに聞こえた。
次の族長はジブリエルだと。
その時の私は困惑し、思わず聞き返してしまったものだ。
あれからそこそこの時間が経った現在、いまだに何故私が族長に選ばれたのかは分からない。
嫌がらせかしら。
私が子供の頃はよく悪戯して怒られていた。
そして、その度にシェイクに罪を擦り付けていた。
「今日は手伝ってもらうよ!」
「……分かったわよ…はぁ…」
「ため息を吐くな!」
それからは色々と説教されながら村の中心へと向かった。
そこには木で作られた踊り場があった。
いつもは何もない場所だが、今はティターニア祭で使う為に用意している。
「あ!ジブリエル様だ!」
「本当だ!」
と、荷物を運んでいた子供達が私に走り寄ってきた。
私も昔はこうだったのかしらね。
「みんな手伝って偉いわね」
「うん!私、ティターニア祭が大好きだもん!」
「あ、俺も俺も」
「そう」
子供には人気みたいね。
昔はシェイクも楽しみにしてたっけ。
「私はジブリエル様の踊りが好き。綺麗だし」
「あら、ありがとう」
そう言ってもらえると嬉しいわね。
子供の頃に頑張った甲斐があったわ。
まあ、頑張らないといけなかったみたいな感じだったけど……。
「姉さんは踊りだけは上手いからな」
「……」
私は後ろに振り返り、シェイクの顔を見つめる。
このしてやったぜ顔は気に食わないわ。
「あら?シェイク、口元に何かついてるわよ?」
「なっ…!狡いぞ!?」
ふむふむ。なるほどね。
「昼にこっそり食べた林檎は美味しかった?」
「…いや」
「祭りの時に食べる予定だった林檎はどうだったって聞いてるんだけど?」
私はニコニコしながらシェイクに聞く。
「……悪かったよ。ごめんなさい……」
弟のごめんなさいという言葉を聞くと勝ったという気になれるわ。
でも、
「何か、文句がありそうね?」
「……いえ、別に」
「ふ〜ん。まっ、そういうことにしておいてあげる」
程々にしないと後で怖いからね。
「あら?」
私は少し離れた所に立っている子供を見つめる。
「……どうか、したの?」
「別に…」
近付き、目線を合わせる。
が、少し尖った態度の少年。
「フフ」
「…な、なんだよ!」
「いいえ、なんでもないわ。でも、中々可愛いわね」
そう言って、私は少年の頭を撫でる。
「ちょっ…!?な、なんなんだよ!?」
「照れちゃって」
少年の顔が赤くなり、慌てている。
「みんなと一緒に手伝ってくれてありがとう」
「べ、別にこれぐらいなんでもないし」
そう言うと、私から急いで離れて子供達がいるところまで行ってしまった。
「それじゃあ、ジブリエル様!またね!」
「ええ」
手を振る子供達に私も手を振り返す。
「姉さんのそう言う所は尊敬できるな」
「そうでしょ?」
私のどや顔にシェイクは苦笑いを浮かべた。
これで褒めてくれた分はちゃらね。
「さ、早く行こう。遅くなってしまう」
「分かったわ」
これから忙しくなるなぁ……だらだらしたいのに。
「今、だらだらしたいって考えてたでしょ」
「よく分かったわね」
「姉さんじゃないから完璧には無理だけど、このぐらいのことは分かるよ。ずっと一緒なんだから」
「……そうね」
と、その時、離れた位置からドーンと爆発音がした。
「「!?」」
音のした方を見ると、赤い炎と黒い煙が目に付いた。
「あれは西の方か!?」
「只事じゃないわね。シェイク、急いで人を集めて!子供達は例の場所に避難させて」
「分かった!姉さんは?」
「私は何があったか確かめるわ」
この嫌な感じは……もしかして……。
「その必要はない」
「「っ…!!?」」
声のした方に目を向けると、そこには黒いモヤで覆われた甲冑を身に付けた者がいた。
それは禍々しいオーラを放っていた。
私は一目でそれが普通の者ではないと分かった。
「ふむ。ここが妖精族の村か。随分、手間が掛かったわ」
「姉さん……」
「ええ…」
こいつは魔王だ。
この禍々しいオーラ、間違いない。
それに、
「上手く隠しているな。エルフの森はもう少し楽だったのだがな」
「この村には許可がなければ入れない筈よ。もし、無理矢理入れるのであれば、それは私の知る限り一人しかいない。あなたは魔王ね」
「いかにも。我が魔王ガラムーア。この世の全てを手にする者だ」
魔王は然も当然というように堂々と言い放った。
どうする?村に入られた今、私がとるべき最善の手は?この魔力、村のみんなで束になってかかってもどうすることもできない。
「くっ…どうやってこの村を見つけたのか知らないが、絶対にお前の思う通りにはさせないぞ!」
「フッ、貴様如きが我に立ち向かうとでもいうのか?笑止」
「っ…!」
「我の目的は一つだ。風のルーンを寄越せ」
そう言って、背中の大剣を抜く。
「そうすればこの村の者には手を出さんと誓おう」
「そんなの見え透いた嘘だ!!!」
「我は魔王。嘘は言わん」
「……」
「なあ、姉さん!こいつは嘘をついてるんだろ?」
「分からない」
「なっ…!?どうして?!」
「分からない。こんなの初めてよ」
こいつからは何も聞こえない。
何を考えているのか分からない。
「ほ〜お、どうやらお前はギフトを持っているようだな。神の恩寵……実に面倒なことだ」
「魔王に今までの常識は通用しないみたいね」
「そんな…」
「して、どうする?ここで皆死ぬか、それとも大人しく風のルーンを渡すか。どちらか選べ。無言の場合はこの村を消す」
「……私は」
「姉さん、こんな奴にルーンを渡しちゃダメだ。戦おう!!!それが僕達の使命だろ?!」
昔、魔王を封印した時、長耳族、妖精族、巨人族、魚人族、龍人族がそれぞれルーンを守るよう約束したらしい。
そして、約束は今まで二千年の間守られた。
だから、私達もルーンを守る為に戦うのが当たり前だし、そうするべきだ。
でも、そうすれば村のみんなは魔王に殺されてしまう。
私が弱いから。
族長なのに、みんなを守る力がないから。
私は選ばなければいけない。
二千年の約束を、ルーンを守ることを選び、みんなと一緒に死ぬか。
それとも、私の身勝手でルーンを渡すか。
正解は多分前者。
ルーンを守る為に戦い、みんなで力を合わせて魔王を止める。
きっと後悔はしない選択。
でも、私は、
「私は……」
その時、私の左手の甲が光を放った。
「ルーンを渡すわ」
「っ!?姉さん!どうして!?」
「ふむ。貴様も世界に選ばれたか」
「っ…!これは……?」
「今、それを我に見せるか……フハハハハ……面白い……約束は約束だ。我は嘘はつかん」
そう言って、魔王は堂々と歩き始める。
そして、私とシェイクの間を通り過ぎると振り返り、
「もう少し早ければ、問答無用で切り捨てた所だ」
そう言うと、一瞬にして姿を消した。
「どうして……」
「シェイク…」
「どうして戦わなかったんだ!!!」
「…………」
「俺達は風のルーンを守ることが使命なんじゃないのかよ!?」
「…そうね」
「なのに、戦いもせず、諦めるのか?!」
シェイクの怒気の籠った言葉。
私に対して滅多に怒らないシェイクが本気で怒っている。
そして、その時、悪いのは大体私だ。
「見損なったぞ……姉さん……」
「……シェイク。村のみんなを集めて」
「……」
「シェイクスピア、族長命令です。村のみんなを集めて」
「……分かったよ。ジブリエル」
それから少しして村のみんなが集まった頃、風のルーンが魔王によって破壊された。
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