第四十話 妖精族の少女
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ソレイユを出立してから二日が経過した。
俺達は妖精族〈フェアリー〉の少女がいたという場所に向けて旅をしている。
「聞いた話だともう少しで着く筈だよ」
「分かったわ」
「ここからは周りを注意深く見よう」
「うん」
「ええ」
周りには花しかない。
赤、青、白、ピンク、緑、黄色とパッと見るだけでも様々な色の花が咲いている。
が、他には何もない。
ここには俺達三人以外は全て花だ。
となれば、妖精族〈フェアリー〉の少女を見つけるのはそこまで難しくはない筈だ。
白い紙に黒のインクを垂らした目立つみたいな感じだ。
違和感を見つければ見つかる筈。
と、思っていたのだが、特に何も見つけることがないまま丸二日が経過した。
少女を見つけるどころか、蝶一匹見つからない。
「流石にこれ以上進んだら行きすぎちゃうし…」
「う〜ん…使い魔でも召喚しようかしら」
「シャーロットも使い魔を出せるのか?」
「少しね。流石にレミーやモーみたいなのは無理」
「そうか」
確か、サミフロッグで俺とティサナが梟を追っている時、後からシャーロットが使い魔を使って俺達を追ってきてくれたんだったか。
俺は気絶してたから後から聞いた話だけど。
「ん?」
「?どうかしたか?」
「それが、手の模様が…」
ユリアの左手の甲にある紋様が光を放っていた。
すっかり忘れていたが世界に選ばれたとかシャーロットが言っていたけど、結局なんなのかはよく分かっていない。
それが光を放っている。
「わあ!?」
と、ユリアの体から光を放つ球体が現れた。
エルフの森で見たやつと同じだ。
でも、あの時から今まで一度も現れなかった。
なのに、どうして今?
「ほんと、不思議な精霊ね」
腕を組み、光る精霊を見つめるシャーロット。
「そうだな」
「どうしたんだろう?」
精霊を見つめる俺達。
すると、精霊は俺達からどんどん離れていく。
「ああ、ちょっと待って!」
「追いましょう」
「分かった」
精霊の後を追い掛けるユリアを俺達が更に追い掛ける。
光る精霊は花ばかりのここではかなり目立つので見失いはしなかった。
というか、時々止まって俺達が追い付くのを待っているように思える。
導かれているのだろうか?
と、しばらくの間、精霊と追いかけっこをすると、ある所で精霊の動きが止まった。
そして、その場所で旋回し始めた。
「着いたってことか?」
「そうみたいね」
「……はぁ…………ふう」
ユリアは深呼吸をして、ゆっくりと精霊に近づく。
その後を俺とシャーロットは付いていく。
「どうしていきなり出てきたの?」
ユリアは精霊に話し掛ける。
会話ができるわけではない筈だが、一応、聞いているのだろう。
理解はできるみたいだし。
「んん……」
「っ!?なんだ?」
精霊の近くから声が聞こえた。
女性の声に聞こえる。
だが、ここからだと姿が見えない。
「あら?」
と、精霊の近く、花の中から姿を現したのは少女だった。
というか、横になっていたから花に隠れていただけかもしれない。
「精霊…?」
「ああ、あの…」
「ん…?」
と、ユリアと少女の目があった。
淡緑色の髪に白のワンピースを着た少女は不思議そうにユリアを見ている。
「エルフ?」
「そう…ですけど…大丈夫ですか?」
「ああ、寝ていただけだから」
「変な子ね」
「…それは失礼だぞ」
確かに変な子だけども。
わざわざ口にしなくてもいいことはあるんだよ。
「ん?」
と、少女は不思議そうな顔をしながらこちらに近付いてくる。
どんどん近付いてきて、俺の顔を不思議そうに、というか少し睨んでないか?
少女の翡翠色の目と紫色の目が俺を捉えている。オッドアイだ。
「どうかしましたか…?」
「…………そんなこともあるのね」
「はい?」
何が?どういうこと?
「それにしても、私と同じ紋様を持ってるエルフが現れるなんてね」
「っ!?それって」
「私と同じ」
少女の左手の甲にはユリアと同じ花弁のような紋様があった。
「あなたも世界に選ばれた者なのね」
「ええ。昔、この紋様を持っていたとされるティターニア様と同じ」
「ああ、確かそんな名前だったわね」
「ふーん。なるほどね。あなたはその時から生きてるのね」
「いや…その…」
シャーロットは目を逸らしている。
俺達と一緒にいるから自分の正体を隠すことを忘れていたのかもしれない。
俺達といる時は気を使っていないと考えると嬉しいが、今みたいな時にはそれが裏目になる。
「そう…あなた、魔人なのね」
「「「っ…!?」」」
バレた。今の会話だけで魔人だとバレるもんなのか。
少女はシャーロットを見つめる。
そのシャーロットは額から汗を垂らしている。
「な、なんのことかしら?」
どうやら白を切るつもりらしい。
「フフ。シャーロット、ソラ、ユリア、顔と名前は覚えたわよ」
「……」
少女はニヤリと笑い、実に楽しそうな表情を浮かべている。
「…………まあ、冗談だけどね。ちょっとイタズラしたくなっただけ」
「どういうことよ」
「あなた達、魔王をどうにかしたいんでしょ?」
「……どうしてそのことを?」
「話は歩きながらしましょうか。案内するわ。色々とあったから」
「……どうする?」
「どうって言われても…」
「あなたは、もしかして、妖精族〈フェアリー〉の方ですか?」
「ああ、自己紹介してなかったわね。私はジブリエル。妖精族の族長……だった者よ」
彼女は透明な羽を背中から生やし、証明するようにして言い放った。
「だった?」
「まあ、本当に色々あったのよ」
そう言うジブリエルの顔はとても悲しそうな表情だった。
「私達は魔王を封印する為に旅をしているの」
「みたいね」
「だから…」
「大丈夫よ。あなたが心配するようなことは無いわ」
「…?」
「今でも考えてしまう。あの時のことを」
「あの時?」
「どうやら何かあったみたいね」
ジブリエルの表情や言動から察するに何かあったのは間違いないだろう。
「それも歩きながら話すけど、そうね…簡単に言うと、私達の村が魔王に襲われたわ」
「っ!?」
「魔王に!?」
「……」
まさか、妖精族〈フェアリー〉の村まで破壊されたのか?!
俺達は自然と緊張した。
「そこで私は選択を迫られたの。村ごと全てを失うか、『風のルーン』を渡す代わりに村と村人の命だけは助かるか」
「それじゃあ…」
「私は村と民の命を守り、ルーンを差し出した」
「……」
ということは、『風のルーン』は既に破壊されているということだろう。
「とにかく行きましょう。付いてきて」
「行こう」
「ええ」
「ああ」
俺達はジブリエルの後を付いていくのだった。
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