第三十八話 ”泥沼”
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〜ユリア視点〜
「さてと。あの人間はモーに任せるとして、私はあなた達の相手です」
「……」
シャーロットがレミーを睨み付ける。
「あなたは昔から変わった魔人でした。他の魔人とは明らかに違う考えを持っていた。それは魔人ではなく、人間に近いものだ。不思議ですね」
「あなたの家族、お兄さんは特にそのような方ではなかったのですが…あなただけは違った。さぞ、生きづらかったでしょう」
「あんたにとやかく言われる筋合いはないわ!」
「それはそうですが、しかし、あなたはパルデティアの魔人だ。あなたの行動はパルデティアを、ひいては魔王様を貶すことになる」
「……」
「あなたはもう子供ではない。そのぐらいの分別はできるでしょう。今ならまだ間に合いますよ?そんなお仲間ごっこはお辞めなさい」
「……」
シャーロットは下を向いて何も喋らない。
でも、その手は力強く握られていた。
私はシャーロットと一緒に旅をして、彼女のことを色々と知れた。
美味しそうに食べ物を食べるとか、寝起きが悪かったり、身だしなみには気を付けていたり。
少ない時間だけど、シャーロットと一緒に旅をしてみて彼女の優しさにも触れた。
思いやりの心を持っている彼女が梟を殺してしまって苦しそうにしている時、私はシャーロットは本当に心の優しい持ち主なんだと思った。
そんな彼女が、私の仲間が、今困っている。
だったら、助けてあげたい。
「私は、シャーロットのこと、仲間だと思ってるよ」
「っ…!!ユリア……」
「フン。そのような上辺だけの言葉など、口では何とでも言える。人は口が上手いからな」
「きっと、ソラも私と同じように思ってると思うよ」
「……そうね」
「まさか、本当にそのような者達の仲間だとでも言うのですか?!」
「そうよ!あんたにとってはどうでもいい奴に見えるのかも知れないけど、私にとっては大切な唯一無二の仲間だもの」
「っ…!!!うん!」
シャーロットは私に優しい笑みを見せてくれた。
それは信頼の証のように思えた。
「ふむ。やはりダメでしたか……私はできる限りのことはしましたよ」
「余計なお世話よ。私は私の信じた道を行くわ」
「では、もうお喋りは終わりです!『マッドフィールド』」
レミーの唱えた魔法は錫杖の下から徐々に地面全域へ広がるように泥の沼へと変えた。
それは私達の足元にまで及んだ。
が、レミーは少し不思議そうに首を傾げた。
「これは…どうやらこの地面と私は相性が最悪のようだ」
「底無しの泥沼を作り、生き埋めにするブラウンレミーがそんな弱気でいいのかしら?」
「少しやり辛いですが、仕方ありません。私も完全な状態ではないのでこれが限界でしょう。ただ、あなた達を相手するぐらいはできます。『マッドショッド』」
「『ライトニングアロー!』」
レミーが作り出した泥の弾と私の光の矢が空中で打つかり相殺した。
その間にレミーは後ろに飛び、私達から距離をとると同時に魔法を唱えた。
「『マッドゴーレム』」
「『ダークライトニングボルト!』」
シャーロットの黒い稲妻がレミーに向かって放たれる。
が、泥沼の中から這い出てきた泥の手によってそれは防がれた。
「『マッドランス』」
「あれは、ユリア!泥からの攻撃に気を付けて!」
「っ…!!」
私はシャーロットの助言のおかげで済んでのところで泥で作られた槍を躱した。
「使う魔法が知られているとやり辛いですね」
「ユリア、大丈夫だった?」
私のところに駆け寄ってきたシャーロットが心配そうにしながら聞いてきた。
「ええ、なんとか」
「よかった」
「時間稼ぎはゴーレムに任せるとして…」
そう言うと、レミーが錫杖を天に掲げた。
「何する気よ」
「早く倒さないとまずいかも」
「そうね。でも、まずはこのマッドゴーレムをなんとかしないと…」
私達の前には泥で作られたゴーレムが三体。
体が家ぐらいある大きさが一体と人間サイズが二体だ。
「形振り構ってらんないわね」
シャーロットがそう言うと、背中から黒い翼が生え、腰の辺りからも尻尾が生えた。
「ここからはスピード勝負よ」
「分かった」
「ああ。何か違和感があると思ったら翼と尻尾がありませんでしたね。もしかしたら、モーはそれで気が付かなかったのかも……」
そこでレミーの口が止まった。
何かを言おうとして、しかし、それを止めたという感じだ。
「ほう……」
「あら?何かあったのかしら?」
「いえ、まあ、些細なことです。ですが、あの青年がここまでやるとは」
「っ…!ソラに何かあったんじゃ…!?」
「大丈夫よ。あの反応から察するにね」
「まあ、いいでしょう。私の役目ももうすぐ終わりです。やりなさい」
レミーの言葉が合図となってゴーレム達が一斉に動き出した。
地面が沼なことなど諸共せず勢いよくこちらに向かってくる。
「フン」
それを見て、シャーロットは空高くへ飛び上がった。
そして、ゴーレム達に掌を向けて、
「ユリア!水の範囲魔法をお願い!」
「っ!!!分かった!」
どうやらシャーロットには何か狙いがあるらしい。
なら、私はそれに応えるだけ。
「『アクアブラスト!』」
私の水魔法が前方、ゴーレム達のいる方目掛けて勢いよく放たれた。
それから少しタイミングを遅らせて、シャーロットが魔法を唱えた。
「『エターナルブリザード!』」
私の唱えた水魔法はゴーレム達に当たると、その体を不安定にさせた。
水の比率が増えた分、体が不安定になったらしい。
どろっとした見た目になった。
その後、直ぐにシャーロットの氷魔法がゴーレム達を直撃。
水分が多くなった体は一瞬にして凍った。
「ダークライトニングボルト!」
シャーロットが直ちに追撃し、復活する隙を与えない。
これで後はレミーただ一人となった。
「さてと。それでは、私はここら辺でお暇するとしましょう」
「っ!逃げるつもり!?」
「逃げる?いいえ、私は帰るんですよ。次に呼ばれるまでね」
「『ライトニングボルト!』」
「『マッドハンド』」
私の攻撃は地面から生えた泥の手によって防がれた。
「ふむ。では、シャーロット殿。次に会う機会があれば、その時は真面目に本気でやりますので」
「待ちなさい!」
シャーロットがレミーに向かって勢いよく急降下した。
「我心臓を捧げる。天からの裁きを『メティオ!』」
その時、レミーの体にヒビが入った。
そして、そのヒビは更に細かく体全体に広がるとガラスのように砕け散った。
「っ…!?間に合わなかった…」
下に降りてきたシャーロットがレミーのいた場所に立つとそう呟いた。
「シャーロット!」
「ユリア…」
私が彼女の元に近寄ると、深刻そうな顔をしていた。
その顔からは何か嫌な予感を感じた。
「……シャーロット、どうしたの?」
「……”泥沼”のレミー。泥の土魔法を使うからその名が付いたと思っている人も多かった。でも、本当は違うの」
「……?どういうこと?」
「使い魔は一度の召喚で一回の命。だから、何回も無限に召喚はできない。本来、召喚は代償がいるの。より強力な召喚をするなら尚更ね。でも、それは魔王様ならどうにでもなる」
「つまり…」
「レミーは死ぬことを前提にした魔法を作り出した。”泥沼”は何があっても相手を殺すという粘り強さ、殺意の強さと、何度でも蘇ってくるという特徴から付けられた名前」
「……」
「あれをなんとかしないと、ここら辺にいる人や物は全部消えるわ」
「そんなっ!!!」
シャーロットの目線の先。
私が空を見上げると、そこには赤い炎に包まれた隕石がこちらに向かって落ちてきていた。
「当たればこの橋は半壊。私達は全滅よ。ここにいる人達と一緒にね」
「でも、あれを止めるの…?」
私は今もなお接近する隕石を見つめる。
「そうよ。あれを止めるの」
「……」
私が隕石を見つめる顔とシャーロットが隕石を見つめる顔は違った。
私は多分、怖がっていると思う。
それが顔に出ていると思う。
でも、彼女は違った。
彼女はただ、隕石を見つめるだけ。
それだけだった。
私のように恐怖を感じている顔ではない。
「怖く…ないの?」
シャーロットは私を一瞥すると、少しだけ笑い、
「怖いわよ。でも、仲間がいるもの。信じられる仲間が」
そっか。だから、シャーロットはこんなに平然としていられるんだ。
「うん。そうだね」
覚悟を決めよう。
仲間を信じよう。
自分を信じよう。
仲間が信じてくれた自分自身を。
「お〜い!!!二人とも!!!」
「「!!!」」
心が安心する。
ほっとする声が聞こえた。
「無事だったか?!」
「ええ」
「うん」
「そうか、よかった」
ソラは安堵の息を吐いた。
「それで、あれは?」
「あれをなんとかしないといけなくなったわ」
「……あれをか」
ソラは空から迫る隕石を見る。
「みんなの最大火力で一点に攻撃しましょう。隕石がこの橋に落ちなければ周りは海だから平気な筈よ」
「…………分かった。やろう!みんなで」
「うん」
「そうこなくっちゃね」
私達三人が協力してあの隕石を阻止する。
思い返せば、三人同時に攻撃するのは初めてかもしれない。
「チャンスは一回よ。遠すぎても、近すぎてもダメ。私が合図したら、その瞬間に最大火力で攻撃をする。いいわね」
「分かった」
「うん」
「それじゃあ、それぞれ準備して」
それぞれ距離を少しとり、お互いの邪魔にならないようにする。
シャーロットは闇魔法を。
ソラは青い炎を。
私は雷魔法をそれぞれ溜める。
「…………一応、言っておこうかしら」
「……」
「どうしたの?」
「最悪の場合、私がなんとかするから」
「シャーロット…」
彼女の声音からは覚悟が感じられた。
何か策でもあるんだろうか。
「大丈夫。俺達ならできる」
「ソラ…」
「……そうね。一応、緊張し過ぎない為に言っただけよ」
「そうか」
ソラは少し口元を緩ませながら言った。
シャーロットがいつも通りの口調だったからかもしれない。
でも、そんな様子を見て、私の緊張が少し解けた。
「さあ。そろそろ時間よ!みんな準備はいい?」
「ああ」
「大丈夫!」
「それじゃあ、行くわよ…………今!『ダークエンペラ!!!』」
「『カオス・ロストハート!!!』」
「『ライトニングボルト!!!』」
迫り来る隕石に向けて私達三人が一斉に最大火力を放った。
できるだけ魔力を使い、威力を上げた。
これでダメだったら仕方がない。
私達の放ったそれは迫り来る隕石の一点に集中して当たった。
物凄い風と音が辺りを包み、そして、次の瞬間、隕石に亀裂が走った。
すると、隕石は綺麗に真っ二つに分かれて勢いを少し落とすと、左右に分かれた海に向かって落ちていった。
「な?なんとかなっただろ?」
ソラは満足そうな顔でシャーロットにそう言った。
「そうね。本当になんとかなったわ」
と、その時、海に落ちた隕石の音が鳴った。
次の瞬間、それによって打ち上げられた海の水が豪雨のように降った。
「お互いが信じられる仲間だったからかもね」
「……そうだな。きっと…」
そう言うと、ソラは仰向けに倒れた。
「っ…!?」
「ソラ!?」
「大丈夫だ。疲れただけだ」
「はぁ……」
「なんだ……」
私とシャーロットは安堵の息を吐く。
「ご飯、食べに行こう」
「……フフ。そうね。お腹空いたわね」
「晩御飯、食べられなかったからね。お店、開いてるかな?」
「開いてないと困るう”っ!!!」
ソラの顔に魚が当たった。
さっきので魚も打ち上げられたのかもしれない。
それにしても……。
「……プッ…ハハハハハ」
「……アハハハハハ」
私とシャーロットは唐突の出来事に笑いが止まらなかった。
「…そんなに笑わなくても……」
「だって……あんた…魚が…プッ」
「ちょっと、不意打ちすぎて…アハハ」
「…………二人が笑ってくれるならいいか…」
ソラは複雑そうな表情を浮かべながらも何も言わずにただただ私とシャーロットが笑っているのを見ていた。
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