第三十七話 ”返り血”
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モーが俺に向かって突進をしてきた。
俺はそれを正面から受け止める。
しかし、モーの怪力によってどんどんこの場から離される。
「中々根性のあるやつだな。これでも魔王様の使い魔の中では結構力がある方なんだが」
「そうかよ!」
俺は足を地面にめり込ませ、それを利用して力でモーを押し飛ばした。
二人から少し離されたか……でも、あの二人なら大丈夫だ。俺はこいつを倒すことに専念しよう。
「俺は細かいことが分からないからな。殺すか殺さないかぐらいしか判断できないんだ」
そう言うと、影から一本の戦斧が這い出てきた。
これはさっきのと同じ物だろう。
「早く二人のところに戻らないとな」
「それは俺も同じだ。レミーに加勢しないと後で怒られるからな」
俺達は向かい合い、今にも殺し合いが始まりそうな鋭い視線を向けていた。
「はあああああ!!!」
先に仕掛けたのはモーだった。
奴は走り出し一瞬で間合いを詰めると、手に持った戦斧を俺に向かって勢いよく振り下ろした。
それを済んでのところで回避し、その振り下ろされた腕を踏んで飛び上がると、右足に思いっきり力を込めて顔を蹴り飛ばした。
「うぐっ!!」
モーは体を回転させながら家の壁を突き破り、向こうまで飛んでいった。
これで終わりではないだろうが確実にダメージを与えた。
その手応えがあった。
「うう……レミーだったら気絶してたかもな」
「……」
家から出てきたのは黒い影。
ダメージを負っているのか見た目では分からないが、家の壁に手を触れているところを見るに効果はありそうだ。
「頑丈なんだな、お前」
「俺は接近戦が得意だからな。まあ、俺は二番目にだが…」
結構タフそうな感じだが、これで二番目なのか。
「完全な状態ならもう少し上手く体を動かせるんだけどな…魔王様自体が不完全な状態だったから仕方ないけど」
今で完全な状態じゃないっていうなら、こいつらの本来の力は一体どれ程のものか、考えたくないな。
「あんまり時間は掛けれないからな。俺もここからは最大限の力でお前を殺すとしよう」
「ここからが本番ってことか…?」
「そうだ」
俺は腰を落とし、警戒する。
そこで額から汗がすぅっと流れるのが分かった。
緊張しているのだろう。
「俺は”返り血”のレッドモー!戦場で殺した者の血を浴びた姿からその名がついた」
奴がそう言うと、体が少し肥大化した。
頭部から生えていた角も大きくなり、影でなければその姿はより禍々しいものになっていただろう。
しかし、俺を威圧させうるには十分だった。
奴の殺気もより濃くなっている。
「お前、名前は」
「……ソラだ」
「そうか。じゃあ、”蒼炎”のソラと記憶の片隅に覚えておこう」
モーは姿勢を落とし、今にも襲い掛かってきそうだ。
だが、負けるわけにはいかない。
ユリアとシャーロットの為にも。
そして、俺の為にも。
まだまだ三人で一緒に旅をしたい。
いろんな場所に行って、色んな物を見て、色んな人に会って、色んな物を食べて、そんな旅の終わりに俺は魔王を封印する。
だから、こんなところで死ぬわけにはいかない!
「……ふう……俺はお前を倒して、二人を助ける!」
深呼吸をし、落ち着かせ、体の青い炎を激しく燃やす。
「はあああああ!!!」
「はあああああ!!!」
俺の拳とモーの戦斧が打つかる。
その瞬間、俺の青い炎が燃え広がりモーの体を包み込んだ。
「この炎、ただの火じゃないな」
しかし、そんなことは関係ないとモーは戦斧に更に力を込めた。
俺の足元がドズンと音を立てて陥没する。
「なんてバカ力だよ!」
「お互い様だ!」
ジリジリと地面に沈んでいく。
このままじゃあ押し負けるな。
俺は一旦、モーから距離をとった。
奴の戦斧を上手く往なし、その隙に後ろへと飛んだ。
「っ…!器用だな。だが、逃がさん!」
「くっ…!!」
モーは図体の割に動きが機敏で、直ぐに俺に襲い掛かってきた。
一回、二回、三回と、奴の攻撃を躱す。
が、一向に攻めが終わることはない。
「逃げてばかりか!」
「分かってるよ!」
俺はモーの攻撃を躱す。
そこからカウンター気味に奴の左足に蹴りで攻撃する。
奴はふらっとするが、体勢を完全には崩さなかった。
が、俺が力を溜めるには十分だった。
右手に青い炎を集める。そして、その周りに赤い炎を纏わせる。
「『バーニング・インパクト!!!』」
モーの心臓部分に思いっきり拳を入れる。
「うぐっ…!!!」
が、奴は右足を後ろ伸ばし、この攻撃を受け止める。
普通の人間だったら貫通してもおかしくない一撃。
だが、相手は使い魔。人間ではない。
奴の体は硬く、頑丈だった。
「くっ…まだだぁぁあああ!!!」
俺は更に魔力を込める。
青い炎も激しさを増し、俺とモーは二つの炎で覆われていた。
「ぐっ…俺を炎で焼き切るつもりか!!!」
モーは自分の右手に持っていた戦斧で薙ぎ払った。
「くっ…!!!」
戦斧は俺の左腕に食い込んだ。
このままいけば俺の左腕は飛び、次は体に食い込むだろう。
その前にこいつを殺す!!!
「だあああああ!!!」
ありったけの魔力を右手に込める。
今までの比ではない程の炎の勢いで辺り一面炎の海となった。
しかし、モーも負けじとより一層、戦斧に力を込める。
「うおおあああ!!!」
自分の左腕がどんどん力に押され、骨の部分まで到達してるのが感覚で分かる。
しかし、興奮しているからか痛みはない。
俺は構わず自分の右手だけに集中した。
「ぐは”あ”っ…!!?」
そして、ようやっと俺の右手が奴を貫通したのが分かった。
その後、俺は勢い余って奴を押し倒しながら体勢を崩し、地面に倒れ込んだ。
俺は直ぐに体勢を戻そうとするが、奴の心臓部分には大きな穴が空いていた。
心臓がないとかでなければ確実に死ぬ程の大きな穴。
俺はそれを見て、ゆっくりと立ち上がろうとして、違和感に気付いた。
俺の左腕が無かった。
「…………うぐ……」
それに気が付いた瞬間、痛みがきた。
全身から冷や汗が流れる。
よく見ると、切られた部分から血がだらだらと垂れている。
早く止血しないと。
「次……」
俺はその声を聞いてビクリと体が震えた。
こいつ、まだ生きて……。
俺は急いで立ち上がり、モーから距離をとった。
「次があれば、完全な状態で殺し合おう…………」
そう言うと、モーの黒い影はその場から消えた。
「死んだ、のか…?」
俺は辺りを見渡しながら警戒する。
が、どこにも姿、気配はない。
「次か……」
俺は自分の左手を持ち上げる。
「できれば会いたくないな」
魔王の使い魔ならまた会うかもしれないが、戦いたくはない。
「『ロード・コアドライブ』」
俺は自分の左腕を元の位置に当てながら、『再生』の能力を使った。
初めて見たのだが、俺の骨の部分は鉄のような硬そうな物で作られていた。
ああいうのを見ると俺は本当に人間ではないんだと実感する。
でも、大事なのは心だ。
俺はそう言ってくれた人の元へと急いだ。
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