第三十三話 別れと出立
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王城のとある部屋。
そこには俺達三人とハート王女様。そして、カリム達五人がいた。
ハート王女様が少し話がしたいということで集まったのだ。
「改めて、この度はわたくしの命を守っていただき、ありがとうございます」
「い、いえ、そんな」
「お互い様よ」
頭を下げるハート王女様に二人がそれぞれの反応をする。
「特に、ソラさんはわたくしの為に無茶をしたと聞いておりました」
「あ、いや、別に…」
俺は頭の後ろを掻きながら、返答に困った。
確かに無茶をしたかもしれないが、当然のことをしたと思っていたからだ。
「ティサナのことも助けてもらったみたいで、貴方には感謝してもしきれません」
「そのことは俺も感謝してる。マジでありがとな、ソラ」
「ああ」
「助かったにゃ」
「ありがとう」
「感謝するだど」
「ありがとね」
「お、おお」
なんかみんなに感謝されると照れるな。
でも、良い気分だ。
「それで、貴方にはできる限り手を貸したいのです。これを」
「?」
それは指輪だった。
サイズが俺には合わないが、ハート王女様にはピッタリだろう。
要は女性用ってことだ。
しかし、これをどうして俺なんかに渡すんだ?
「これはセレナロイグの王族だけが持つ特別な指輪です」
「はい?!」
特に宝石とかもないからなんだろうと思っていたら、そんな貴重な物だったのか!?
てか、そんな物貰っちゃだめだろ?!
最悪、俺が襲って奪い取ったってことになりそうだ。
「もし、セレナロイグに行くことがあったら、これと一緒に指輪を見せて下さい」
そう言って、手紙を渡された。
「いやいや、こんな大事な物受け取れないですよ!」
「わたくしにはもう不要な物ですから」
「だからって……」
とんでもないものを受け取ってしまった。
旅の途中でセレナロイグには寄るだろうけども、これで更に面倒なことになるんじゃなかろうか?
なんとなくそんな気がするのは俺だけか?
なんて思って二人の方を見ると、ユリアは少し困惑気味な顔をしていた。
俺と似たようなことを考えているのかもしれない。
しかし、もう一人は違った。
「あら、よかったじゃない。要らないなら貰っておきましょうよ」
「…………」
シャーロットは俺達二人とは違うらしい。
「わたくしはセレナロイグに戻るつもりはありませんから」
「この国で生きていくつもりなのね」
「ええ。少しダイヤ様と話しましたが、上手くやっていけそうですし」
「そう。まあ、あんたも頑張りなさい」
「はい。まずは彼に付いて行き、今までの被害者を尋ねるつもりです」
「あなたも一緒に?」
「ええ。断られるでしょうけど、無理矢理付いて行きますわ。夫のことは妻が支えるものですから」
「…………そう」
と、ハート王女様はシャーロットへ近付き、耳元で何かを囁いた。
手で隠しながら何かを囁いているところを見るに秘密の会話なのだろう。
「なっ…!?」
「フフッ…」
悪い笑みを浮かべるハート王女様は悪戯好きな小悪魔に見える。
そんな小悪魔に何かを言われた魔性の小悪魔は赤面して彼女を睨んでいる。
すると、ハート小悪魔が今度はユリアに目線をやると、片目でウィンクをした。
ユリアはそれを不思議そうな顔のまま見ていた。
「では、わたくしはこれで」
そう言うと、彼女は俺の片手を持って、手の甲にキスをした。
「ちょっ…?!」
「「っ……!?」」
「それでは」
そう言って、ハート王女様は部屋から出て行った。
何が起こったのか分からない俺達三人の顔は同じ表情をしていただろう。
「これから妻になるって人がやる行動か?あれは?」
「あんたが言うな」
カリムはルビーから軽いチョップを頭に受けていた。
この日の晩。
俺達は夕食をカリム達と一緒にとり、『猫の気まぐれ亭』へと戻ってきていた。
荷物もあるし、宿代はタダだ。
明日の朝、王城へと寄って、その後に馬車へと向かう。
そういう予定にしたのだが、現在、ユリアとシャーロットが部屋で何やらコソコソと話し合いをしている。
シャーロットの誘拐事件があったので一緒の部屋で寝ることになったのだが、俺が床で寝ると言ったら反対された。
それからずっと二人で話をしているのだが、何をそんなに話すことがあるのだろうか。
「よし、決まったわ」
「おお」
「私とシャーロットが一緒のベッドを使うことにしました」
「ああ……はい」
なにを当たり前のこと言ってるんだろうか。
俺が床に寝ないならそうなるだろう。
「じゃあ、もう寝ましょうか。明日も色々と忙しいし」
「でも、本当にジークさんに挨拶しなくてもよかったの?」
ジークのところに行こうという話がでたのだが、シャーロットが大丈夫だと言ったので行かなかった。
「どうせ、明日になったら会えるわよ。前に別れた時も不意に現れたから」
「ならいいけど…」
ユリアはこのままお礼も言わずに行くのが嫌らしい。
俺もあまりいい気持ちはしないが、明日になったら会えるというのであれば明日でいいだろう。
しかし、俺は一つ、やり残したことがある。
とても大事なことだ。
「なあ、ユリア」
「ん?どうしたの?」
「俺はユリアに謝らなければいけないことがある。シャーロットが誘拐された時、俺はユリアに強い口調で言ってしまった。動揺してたってのもあるけど……本当にごめん」
俺は深く頭を下げた。
あの時、自分でも不思議なぐらい荒々しく言ってしまった。
あんな言い方は二度としちゃいけない。
あの王様が言っていたように、人は失敗する。だが、その失敗したから学び、同じ過ちをしないようにする。
それが成長なのだろう。
あの王子がそれを理解し、行動に移したように、俺もそうしなければならない。
「いいの。いいんだよ。ソラがどんなに私達のことを思っていたのか分かったから」
「…………うん」
「ねぇ、なんのこと?」
俺達の会話を不思議そうな顔で聞いていたシャーロットが言った。
「うんとね…」
そこからユリアはシャーロットへ、何があったのかを説明した。
結局、俺達は夜遅くまで話をしていた。
やっぱり、三人で会話をするこの時間はいいな。
安心する。
次の日の朝。
俺達は王城へと向かい、王様から幾つか貰い物を受け取った。
旅に必要になりそうな物資と身分証明になるペンダントだそうだ。
俺達はお礼を言った後、カリム達に挨拶してから城を出ようと思ったのだが、どこかに出掛けたらしい。
居ないなら仕方がないのでそのまま城を出ることにした。
ミント大橋行きの馬車に乗る為、俺達は移動したのだが、そこには俺達の見知った顔がいた。
ジーク、ハート王女様に王子、カリム達もいる。
この街で出会った人達が勢揃いだ。
「おっ、来たか」
「城にいないと思ったら、ここにいたのか」
「見送りぐらいしようと思ってな」
「そうか」
「シャーロット様、ご無事なようでなによりです」
「ジーク。貴方にも迷惑を掛けたわね」
「いえ、私は戦いがからきしですからね。その他の部分でお手伝いをしようとしたまでですよ。赤い光は目立ちますからね」
「あの光はジークさんのだったんですか?」
「ええ。暗闇を消すには光が必要です。今回は魔法であの光を作りましたが、場合によってはもっと大掛かりなことになっていたかもしれませんね」
「とにかくありがとね、ジーク」
「はい。このぐらいはお安いご用です」
そこでジークは腕を胸に当てた。
と、今度はハート王女様が近付いてきて、
「またいつかお会いできるのを楽しみにしていますわ」
「はい。ハート王女様もお元気で」
「ええ、ソラさんも。あまり女の子を泣かせてはいけませんわよ」
「ユリアとシャーロットのことですか?」
「はい。女の子は思っているより繊細で、寂しがりやなんですの。気に掛けてあげてくださいな」
「はい…分かりました」
あの二人に限ってそんなことはないと思うけどな。
でも、そうだな。もう少し会話をしながら旅をするのもありかもしれないな。
俺は今回の件で自分が思っていたより二人のことを大事な仲間だと思っていると分かったし。
「それじゃあ、そろそろ出発しますんで、準備を」
「分かりました」
それから俺達は馬車に荷物を乗せた。
「それじゃあ、またどこかで会ったらよろしくな」
「ああ。カリム達はこれからどうするんだ?」
「私達はもう少しだけここに残るつもり」
「ずっと護衛をしてたからにゃ。ちょっと休憩にゃ」
「また、直ぐに忙しくなるしね」
「たまの息抜きは大事だど」
「そうか」
どうやらカリム達はもう少しここに残るらしい。
冒険者だったらこの先、どこかで会うこともあるかもな。
「じゃあ、ジーク、またね」
「はい。シャーロット様達の旅が良いものになるよう願っております」
「どうも。それじゃあね」
シャーロットの言葉にジークは頭を下げて礼をした。
「ハートさんもお元気で」
「ええ。貴方達も」
「……ダイヤ様にもお元気でとそうお伝えください」
「ああ……分かりましたわ」
王子は少し離れたところで俺達の様子を見ていた。
挨拶は要らない。そんな雰囲気だ。
「次会う時は、きっと二人で挨拶を」
「はい」
「それでは、ミント大橋行き!出発しますよ!」
「それじゃあ、みんな、またどこかで」
「じゃあね」
「また会いましょう」
俺達三人はそう言って、みんなと別れた。
〜馬車の中にて〜
「なんだか、あっという間だったな」
「そうね」
「うん」
「結局、みんなに会えてよかった」
「みんな、私達を快く見送ってくれたね」
「まあ、一人だけ離れてる人がいたけどね」
「まあまあ、彼もきっと反省してるよ。居づらかっただけじゃない?」
「そうかもね」
シャーロットは少し複雑かもな。
無理もないけど。
でも、特に何もなくて本当によかった。
ユリアとは喧嘩したけど、仲直りできたし。
シャーロットは無事だった。
あ、そういえば……。
「シャーロット、これ」
「ああ……」
俺の手には黒いリボンが二つ握られていた。
「ソラが持ってたのね」
「ごめん。色々忙しくて忘れてた」
「そっか……二人とも、私の為に頑張ってくれたんだもんね……」
シャーロットは胸に手を当てながら、少し深刻そうな顔をした。
しかし、直ぐにいつもの調子に戻った。
「ねぇ、ソラが私の髪を結んでよ」
「はいっ?!俺、やったことないぞ?」
「いいから、いいから」
なんでそんなことを言うのか分からんが、俺はできる限りの努力をした。
「……流石に下手ね」
「……だから言ったろ?なに当たり前のこと言ってるんだよ」
リボンはなんとか髪を束ねているという感じで綺麗というには無理がある。
ていうか、さっきからユリアが頬を膨らませて機嫌が悪そうなんだが。
「じゃあ、次はユリアにお願いしようかな」
「えっ、私?」
「そう。お願い」
「分かった…」
ユリアは戸惑いながら髪を結ぶ。
やはり、俺のでは満足しなかったってことだろう。
最初からユリアに頼めばいいのに。
現にユリアは綺麗に髪を束ねている。
「はい、できたよ」
「ありがと。…………仲間に頼るって、なんかいいね」
「……うん」
「そうだな」
シャーロットが何を考えているのか分からんが、この言葉はとても温かく感じられた。
ミント大橋へは馬車で約三週間ぐらいだという。
また馬車の旅だ。
特に何事もないことを祈る。
馬車に乗っている間は魔法の練習でもしながら、二人とのんびり話でもしようと思う。
そんなことを思いながら、馬車に揺られるのだった。
〜カリム達視点〜
「行ってしまいましたね」
「また、会えるかにゃ?」
「多分ね」
「オデもそんな気がするど」
「そうだな。また、どこかで」
「みんな、あの三人のこと気に入ってるんだね」
「そういうルビーだって、楽しそうにしてたにゃ」
「まあね」
「俺達も次の旅に向けて、まずは休息だな」
「そうね。たまにはいいこと言うじゃない」
「一言多いんだよ。全く…」
「あはは…つい…」
「フフン」
「フッ」
「……」
それは微笑ましい仲間達の会話だった。
それを見聞きしながら、こういう関係もいいなとダイヤは思っていた。
この頃から彼の悪い噂は一切聞かなくなり、後に立派な王様として、このサミフロッグ王国の国王として君臨することになる。
一説には、妻に迎えたセレナロイグ・ハートの存在が大きかったのではないかと言われている。
しかし、そんな話はまだまだ先の話。
今を生きる者達には知り得ない話だ。
「ハート姫、話は終わったか」
「ええ」
「そうか」
「ダイヤ様、わたくしのことはハートと呼んで下さいまし」
「……分かった。なら、俺のことはダイヤと呼べ。これから一緒に暮らしていくんだ」
「……っ!畏まりました。では、ダイヤと」
「うむ」
と、そこで微風がその場にいた者達を撫でた。
と同時に、一人の男が顔を顰めながら言葉を漏らした。
「…………少し、この国がきな臭くなりそうですね」
その男は空を見上げながら、そう呟くのだった。
見てくれてありがとうございます。
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