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第三十二話 国王と王子

 謁見の間。

 荘厳な雰囲気のある一室。

 床には赤の絨毯が敷かれ、この国で一番偉い者が座れる玉座へと続いている。

 その傍には鎧を身に纏った兵士が並んでいる。百は下らないだろう。

 壁はこの国の旗と思しきが国旗がズラリと並んでいる。

 俺達三人はそんなところを歩いていた。


「よくぞ参った」


 玉座に座る一人の男。

 長めの黒髪を後ろへと流し、口髭もある。

 その男は黒鎧を身に着けていた。

 その見た目は王というには少し違和感があった。

 どちらかというと、騎士団長とかに近い気がする。

 が、誰一人として、そのようなことは指摘しない。

 彼が正真正銘、この国の王だからだろうか。


「は、はい」


 俺は片膝を付きながら言う。

 礼儀なんて分からないので、なんとなくやっているだけだ。

 だが、ユリアとシャーロットも片膝を付いているので、強ち間違いではないのだろう。


「話は聞かせてもらった。色々と迷惑を掛けたようだな」


「いえ」


 なんのことを言っているのか分からないが、梟のことだろうか?

 それとも王子がシャーロットを誘拐した件についてだろうか?

 どちらにせよ、俺がこの王様を咎めることはない。

 彼は何も悪くないからな。

 悪いというなら、梟か王子だろう。

 でも、王子が悪いなんて言ったら首が飛びそうだから何も言わないでおくに限る。


「まずは礼を」


 そう言うと、男は頭を軽く下げた。

 一国の王が、俺みたいな奴に頭を下げるとは。

 これには驚いた。

 兵士達もざわざわしていることを考えると、異例のことなのだろう。


「我はサミフロッグ・クラシエール・ドボル。我が息子、ダイヤの件。そして、ハート姫を守ってくれた件。其方達には感謝している」


「いえ、別に大したことは何も」


 そういえば、ハート王女様を見てないな。

 どこかに居るんだろうか?


「ダイヤの件は我も困り果てていてな。それを解決すべく、知己に手紙を出したのだ」


「はあ」


 確かに、王子のことで困っていると聞いていたが、なんで今その話をするんだろうか?


「それからしばらく間が空いたのだが、その者から返事が来てな。そこには自分の娘を嫁に出すと書かれてあった」


 娘……ってそれがハート王女様ってことか!

 だとすると、手紙の相手はセレナロイグ王国の王様ってことか。


「それから何度か文通をし、今に至るというわけだ。ハート姫に何かあったでは、申し訳が立たん」


 なんとなく今のこの国で起きている状況が分かってきたな。

 王子の件は遅くなってしまったが、王様なりに動いてたってことだ。

 それでハート王女様がこの国に来ていたと。

 で、運悪く連れ去られたシャーロットが、ハート王女様と出会って色々と巻き込まれて今に至るって感じか?

 しかし、だとすると、色んなことが重なって今回の流れになったってことか。

 結局、梟のこともよく分からなかったしな。


「それでだ。それを防いでくれた其方達には何か褒美を渡そうと思うのだが、何か欲するものはあるか?」


 欲しいものか……。


「「「……」」」


 俺達は顔を合わせる。

 どうしようかという顔だ。


「なに、今直ぐにというわけではない」


「はい…」


 欲しいものか…正直、旅をしているので、あまり荷物になるものは欲しくない。

 だとすると、やはりお金だろうか。

 でも、お金くれって言うのはなんか違う気もしなくもない。

 それでも背に腹はかえられないからな。

 自分達の評価は二の次かな。


「あの」


 なんて思ってると、シャーロットが口を開いた。


「うむ」


「私達は今、旅をしています。なので、その旅に役立つものがいいのですが」


「ほう。旅に役立つものか…」


「色々な国へ行くつもりなので、その際に何か信頼を得られるような証明書のようなものが欲しいのですが」


「なるほど。何かあった時の為の保険というわけか…………」


 口髭を撫でながら何かを考えているようだ。

 少しの間そのままだったが、ふとユリアの方を見て、何か気が付いたような顔をすると、


「もしや、手紙に書いてあったソラとユリアというのは其方達のことか?」


「ええと、確かに、私はユリアと言う名前で、彼はソラという名前ですが……」


「なるほど。バスクホロウからの手紙に其方達の名前が書いてあってな。もし何かあれば、助けて欲しいと書かれてあった」


「バスクホロウ……もしかしたら、グラウスさんが色々お願いしてくれたのかも」


「ああ、そうかもな」


 ありがたいことだ。


「そういうことなら我も協力は惜しまぬ。よかろう。任せるがいい。直ぐに準備しよう」


「ありがとうございます」


 なんか上手くいきそうだな。よかった。


「うむ。して、いつここを発つのだ?」


「ええと、明日の朝に発つ予定です」


「ふむ。承知した」


 今が昼を過ぎた頃だからあまり時間がないのにありがたいことだ。

 と、会話をしている俺達の元に一人の兵士が横から王様へ話し掛けた。


「そうか。ならば、通せ」


「はっ!」


 兵士は急いで走っていく。

 通せってことは誰かがここに来るんだろうか。


「其方達に会わせたい者がいる」


「?」


「我が息子だ。本人からの謝罪がまだだからな。今、ハート姫と共にここに来る」


「ここに?」


 すると、後ろのドアが開く音がした。

 振り返ると、そこには二人を先頭にして入ってくる者達。

 先頭にはこの国の王子、サミフロッグ・クラシエール・ダイヤ。その横をセレナロイグ・ハートが歩いている。

 その後ろを、少し離れた位置から付いてくる集団。

 ハート王女様の従者だろうか。


「父上、連れて参りました」


「うむ」


 俺達の直ぐ後ろで止まり、そう告げる彼は堂々としていた。


「この度はお騒がせして申し訳ありません」


「いや、こちらの配慮が足りなかった。すまんな」


「いえ、わたくしが勝手にやったことですから。先程、そのことを爺やに叱られたばかりですし」


「そう言ってもらえるとありがたい。クロードには我から手紙を送ろう」


「分かりましたわ」


「それで。話は変わるが、我が息子、ダイヤよ。どうしてお前をここに呼んだか、分かるか?」


 息子に向けられたその視線は鋭く、咎める口調だ。


「……私の今までの行動を…ということでしょうか?」


 しかし、ダイヤはとても落ち着いているように見える。


「そうだ」


「お言葉ですが、父上にはキツく言われた覚えはありませんが」


「……そうだな。我のミスだ」


「……」


 これは、国王と王子の親子喧嘩という感じだろうか。

 ピリピリとした雰囲気だ。

 誰も一言も喋らない。

 まあ、喋れないというのもあるのだろうが。


「だが、我はミスをしても、それを反省し、同じ過ちを犯さぬよう尽力する」


「……」


「しかし、お前はどうだ?これからも過ちを繰り返すのか?」


「……それは」


 そう言って、王子は下を向き、黙ってしまった。


「息子よ。我は失敗するなとは言っていない。失敗した後のことを言っているのだ」


「…………分かりました」


 そう言うと、ダイヤは俺達の目の前で片膝を付き、頭を下げながら言った。


「この度は私の身勝手な行動により、貴方方に多大なご迷惑を掛けてしまい、誠に申し訳ない。こんな謝罪で気が済むとは思わないが、どうか寛大な処置を」


 この男の態度には誠実さがあった。

 心の底から言っていると思えた。

 これが演技だと言うのなら、彼は世界一の詐欺師にでもなれるんじゃないだろうか。


「そうね。確かに、貴方には迷惑を掛けられたわ」


 シャーロットは立ち上がり、いつもの威風堂々とした態度で言った。


「シャーロット殿には特に、恐怖を与えてしまったと自覚している」


「ええ、それはそれはもう、恐怖しました」


「……」


「でも、私はあなたを許します。その代わり、今までに同じ思いをさせてきた相手にも謝罪を求めるわ」


「無論です」


「なら、いいわ」


「寛大な処置、ありがとうございます」


 それは俺が想定していたよりあっさりとしたものだった。

 だが、本人がそれでいいと言うのだからいいのだろう。

 俺も色々と思うところはあるが、何も言うまい。


「ダイヤよ。我は確と聞いたぞ」


「はい」


 この後、俺達は謁見の間を後にした。

見てくれてありがとうございます。

気軽に感想や評価、ブックマーク等をして下さい。嬉しいので。

今日からできるだけ毎日21時に投稿していこうと思います。キリがいいところまで投稿できたら一旦完結済みにして、別の作品の続きを書こうと思います。

連載中が現在進行形で書いてる小説という感じにしようと思うのでそのつもりでお願いします。

できるだけこの作品も再開できるように頑張りたい。

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