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第二十九話 梟(前編)

「何者だ!」


 トレサの言葉が戦闘開始の合図となった。

 梟と名乗る男は一瞬で王女様のところまで移動し、剣を振り下ろした。


「ぐっ…!?」


 トレサが男の剣を受けようとして、しかし、間に合わず左腕が床に落ちた。

 更に男はトレサに蹴りを入れ、王女様から距離を離す。


「死ね!」


 男は剣を振り下ろして、しかし、間一髪、それを防いだ。

 ティサナがハンマーで受け止めたのだ。


「ふむ」


 男は力を込めるが、ティサナは一歩も引かなかった。


「コアドライブ!」


 ティサナが男を止めている今がチャンスだ。

 そう思い、俺は全身を青い炎で包んだ。

 そして、自分が得意な炎の魔法を両腕に纏い、男の脇腹目掛けて殴り付けた。


「青い炎…ワシが見たことのない魔法か…はたまた別の何かか…」


 男は俺の攻撃を躱す為、俺達から距離をとった。


 攻撃はできなかったが、一旦、体勢を立て直そう。

 現状は俺とティサナと王女様が無傷。

 トレサは片腕をやられ、シャーロットは肩をやられた。

 対して梟と名乗る男は無傷。

 数的にはこちらが有利だが、この男は、強い。

 恐らく、俺が会ったことがある者の中で武術等の接近戦は一、二を争うだろう。


「『ダークライトニング・アロー』」


「これは…!」


 俺の後方から放たれた黒の矢。

 何本かは防いだらしいが、一本の黒の矢が男の肩を貫いた。


「舐めんじゃないわよ」


 シャーロットは肩を抑えながら言う。血を抑える為だろう。


 俺の為に……。


「……早いな」


 男は自分の肩を抑えながら言う。

 二人とも左肩だ。


「ワシの知らん奴が二人。しかも、どちらもなかなか腕が立つようだ。四対一では分が悪いな」


「王女様、私から離れないでください」


「ですが、あなた、その傷……」


「大丈夫ですよ。生きていれば腕は繋げられます」


「……分かりましたわ」


「みんな!コイツ、妙な技で姿を消せるから注意するにゃ!」


「ああ」


「ええ」


 こいつはいきなり俺達の前に現れた。

 唐突にだ。

 どういう原理かは知らないが、何かの魔法か、特別な何かを持っているのだろう。

 警戒しよう。


「ふむ。ワシがなぜ姿を消せるか、教えてやろう」

「ワシのこのローブは魔法具でな。姿を消すことができる」


 男は淡々と語る。


「魔法具は世界に幾つかある魔力溜まり、ダンジョンと呼ばれる場所で手に入る」

「このローブもそこで見つけたらしい。ダンジョンで放置するだけで不思議な効果が付与されるというわけだ。世界にはまだ知らない謎が多い」

「しかもわざと魔法具を作ろうとすると、その魔力溜まりが消えてダンジョンではなくなるという話だ。まるで意思を持っているかのようにな」


「『ダークライトニングボルト!』」


 シャーロットの魔法。

 しかし、男は華麗にそれを避ける。


「老耄の話は聞く者だぞ?」


「あら?私からしたらまだまだ若造よ?」


「お主がワシより老耄だと?そのようには見えんが?」


「褒めてくれてるのかしら?」


「……」


「……」


 二人が睨み合いながら向かい合っている。

 が、男が先に口を開いた。


「そろそろ時間だな」


「トレサ!!!」


 王女の声の方を見ると、トレサが青い顔をして床に倒れていた。

 呼吸も荒く、一目で異常だと分かる。


「トレサ!」


 ティサナが慌てた様子で近づく。


「クンクン……この匂い…毒だにゃ!」


「早く対処しなければ命はない。この剣に塗られた毒は呼吸困難を引き起こし、やがて死に至る」


「てことは、シャーロットも!」


「私はまだ大丈夫よ…」


「どうやらこの毒に耐性があるようだな。だが、完璧ではないようだ。その汗の量、立っているだけで精一杯であろう」


「……どうかしらね」


 まずい。トレサも倒れて、シャーロットも毒に冒されている。

 まともに戦えるのは俺とティサナだけだ。

 二対一だと流石に厳しい。

 俺は毒に耐性があると思うが、それも完璧ではない可能性がある。

 ティサナは毒への耐性はないだろう。

 だとすると、俺が前衛をやって攻撃を受けるしかない。


「俺が攻撃を受けるからティサナはその隙を狙って攻撃してくれ」


「で、でもお前、毒が…」


「俺は大丈夫だ。多分、耐性がある」


「多分って……分かったにゃ」


「これで三対一。しかも、一人は手負い。後はじわじわ時間を掛けて戦力を削ぎたいが、時間に余裕はあまりないのでな」


 そう言うと、男は腰を落とした。

 戦闘体勢だ。


「ハート!あなた、下に行って仲間を呼んできて」


「ですが…」


「大丈夫よ!私がなんとかしてみせるわ!」


「……分かりましたわ!」


 そう言うと、王女様は下へと降りる階段へと走り出した。


「そうはさせん!」


「あんたは私達と戦うのよ、梟…だっけ?」


 男が王女様を追おうとして、しかし、シャーロットがその前に立ち塞がり、男は止まった。


「面倒なことを……まずは確実に、貴様からだ」


「そうはさせない!お前は俺が止める」


「ソラ、二人でみんなが来るまで時間を稼ぐわよ」


「ああ」


 俺は駆け出した。

 トレサはティサナが守っているので俺がやるべきことはこの梟を足止めして、ユリア達が来るまで持ち堪えることだ。


「隠せ」


 そう言うと、梟の姿が消えた。


「クソ…またか…」


 周りをよく見るが、どこにも姿が見えない。

 やはり視認は無理か…。


「『ストーンダスト』」


 シャーロットの魔法。

 辺りに砂埃が舞った。

 すると、不自然に砂埃が動く場所があった。


「そこか!」


 俺はそこに目掛けて走り出し、そして、右手に魔力を込めた。

 赤い炎が俺の右手に宿り、そこにいるであろう者に向けて殴り付けた。


「くっ…頭が回るようだな、小娘」


「どーも」


 梟は腕で俺の攻撃を防いだらしい。

 腕に焦げた跡がある。


「もう時間がないな。次で最後だ」


「あら?もう終わり?」


「足音が多い」


 ということは、王女様がユリア達を呼んで来てくれたってことか。

 一応、コイツの嘘って可能性もあるが。

 さっきも俺達にペラペラと語っていたのは毒の効力が出始めるのを待っていたし。


「隠せ」


 またも姿が消える。


「砂埃であんたの位置は分かるわ。隠れても無駄よ!」


「いかにも。なので、剣の早さで勝負することとする」


「……」


 警戒するシャーロット。

 もちろん、俺もティサナも警戒している。

 が、しかし、この梟の言動は引っ掛かる。

 なんの意味もなく、剣の早さで勝負などというだろうか。

 砂埃に動きはない。

 動いていないのか。それとも何か対策を見つけたのか。

 考えろ。俺だったらどうする。

 相手の立場だったら、この状況をどうしたい。

 近づいてくる敵。動けない状況。

 俺なら、俺ならまず、この砂埃をどうにかするだろう。

 そして、その次は逃げる準備だ。

 だとすると、相手の最適な行動は砂埃をどうにかしつつ、脱出の道を作ること。

 なら、逃げられる前に叩く。


「バーニング・インパクト」


 右手に炎を圧縮し、梟がいるであろう場所に向けて殴り付ける。


「一閃・回転斬り」


 姿を現した梟の剣と俺の拳が打つかる。

 次の瞬間、俺と梟は反発し合うように吹き飛ばされた。

 俺は床を転がり壁まで飛ばされ、やっと止まった。

 梟は吹き飛ばされた勢いで壁を突き破り、外へと飛ばされたようだ。


「いてっ…」


 頭を抑えながら立ち上がる。

 壁を見ると、剣の太刀筋で切られていた。

 凄まじい威力だ。

 もし、俺が止めなければ剣の太刀筋で一周して、この建物がズレ落ちたかもしれない。


「ソラ、大丈夫?!」


「ああ、今のところ。でも、あの男を、梟を追わないとまた何をしてくるか分からない」


「私も行くわ」


「ダメだ。シャーロットは毒で辛いだろ?ユリアが来たら治してくれる。そしたら、追ってきてくれ。みんなで」


「で、でも…」


 シャーロットの心配そうな顔。

 俺が彼女のこんな顔を見たのは初めてかもしれない。


「だったら、ウチが代わりについていくにゃ。みんなの匂いも近付いてるし、直ぐに追い付ける筈にゃ。今は、ウチとソラで追うしかないにゃ」


「ああ、分かった」


「……絶対、死なないでね」


「もちろん」


 俺は微笑んで答えた。


「行こう」


「はいにゃ!」


 俺とティサナは梟が突き破った穴から外へと飛び降りた。

 王城の屋根に一人、男は立っていた。


「お主、人間ではないな」


「……」


「あの斬撃を拳だけで受けるのは不可能だ。それにあの青い炎。普通ではない」


「確かに、俺は人間じゃない。でも、俺は心は人間のつもりだ。あんたよりよっぽど人間らしいと思うが」


「フン。ワシは生まれた時から闇と生きてきた。人を殺すことが全て。人間らしさなど、必要ない。それは自分を滅ぼすものだ」


 梟の鋭い視線が俺を捉える。

 こいつは本当にそう思っているのだろう。

 どういう人生を送ってきたらそう考えるのだろうか。

 多分、俺には耐え難いものというのは簡単に想像できるが。


「……なぜ、あの王女様を狙うんだ」


「そういう依頼だ」


「そうか。ちなみに誰からだ?」


「それは言えぬ」


 やっぱりか。だが、依頼をした奴がいるってだけでも知れてよかったと思おう。

 元を絶たないとまたこんなことになりかねないからな。


「さて、潮時だ。今回は失敗に終わったが、予期せぬ邪魔がいた。仕方ないと割り切ろう。……して、どうする。来るか?」


「もちろん、お前を捕まえる」


「観念するにゃ」


「フンッ、甘いな」


 そう言うと、梟は走り出した。

 俺とティサナも一瞬遅れてそれを追う。

 一体、どこに行くつもりか知らないが、ここで見逃せばまたハート王女様に危険が迫るということだ。

 それは阻止しなければならない。


「あいつ、早いな」


「ここ、三階にゃ」


 梟が屋根から飛び降りた。

 俺はティサナを持ち上げる。


「おいおい、どうするにゃ!」


「大丈夫、魔法でなんとかするから」


「にゃ〜!まだ死にたくないにゃ!」


 俺は梟を見失わないようにできるだけ急いで後を追うのだった。

のんびり書いていきたい。

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今週は金、土、日曜日に投稿します。

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