第二十六話 魔人と王子と妖艶
〜シャーロット視点〜
「ん…?あれ…?」
目が覚めたら、視界が真っ暗だった。
何か布のような物が目を覆っている?どういうこと?
そう思い、布を取ろうと手を動かす。
しかし、ガシャッという音がし、上手く動かせない。
「えっ…!?何これ!?」
ここで初めて自分が手錠のような物で腕を拘束されていることに気が付いた。
なんで?
そう思った。
昨日は確か、早めに寝ることにして、それからは起きていない筈。
ということは、ユリアかソラがこんなことを?
いや、それは無い。二人がこんなことする筈がない。
でも、だとすると、この状況はどういう……。
と、思っていたら、近くで扉が開く音がした。
足音は三人分。
二人は重そうな足音。鎧でも着ているのかしら?
もう一人はもう少し軽い靴の音がする。革靴?
「やっと起きたか?」
私の近くで止まった革靴の音。
その場所からは若めの声でそう発せられた。
「あなた、誰?ここはどこよ!」
「フン。いいだろう。教えてやろう。俺はこの国の第一王子、サミフロッグ・クラシエール・ダイヤだ。ここは王城の中だ」
「第一王子…?王城…?」
どうして私がそんな場所に?まさか!魔人だということがバレた!?だとすると、ソラ達が危ない。
「そう心配するな。明日の朝にでも帰してやる」
「……どうしてこんなことをするのよ」
相手の目的が分からない。会話から察するに、別に私が魔人だとバレたわけではなさそうね。
「ふむ。俺は今、同じぐらいの歳の女に凝っていてな」
「は、はぁ……?」
どういうこと?
「端的に言えば、俺はお前のことを気に入った。だから、俺と交われ」
「はぁ!?!?」
何言ってのこいつ!?私を馬鹿にしてるわけ!?
「お前を昨日見た時、決めたのだ。次はお前にしようと」
「次…?あっ!」
そう言われて私は思い出した。この国の王子の噂話を。
確か、侍女と結ばれてから取っ替え引っ替え、女遊びをしているんだっけ?この王子。
てか、私に決めたって言った?
てことは何?もしかして、こいつ、私に発情したってこと?
ちょ、ちょっと、待ちなさいよ……嘘でしょ……私の純潔をこんな形で奪われるなんてごめんよ!?
「お前は俺が抱いてきた女の中でも一番綺麗だ」
なんで、もう抱かれたことになってんのよ!
と、その時、私の視界に光が差した。
「……っ!あんた……」
私の目には勝ち誇った王子の顔が映った。
「ふむ。やはり、綺麗だ。その真紅の目もよく似合っている」
「……あんたに言われても嬉しくないわよ!」
「気が強い女だな」
とにかく、魔人ということはバレていないようね。
だとすると、なんとかして逃げ出さないと。
「おやおや、悪い子だ。逃げ出そうと考えているのか?」
「…当たり前よ」
「そうだろうね。みんなそういう顔をするから、流石に分かってきたよ」
こいつ、何人の女性をこんな目にあわせてるのよ。
「でも、無駄だよ?その手錠は特別な素材でできているからね。それにここは王城の中だ。逃げられはしないよ」
「随分と余裕そうね?」
「ああ、もちろん」
へえ。でも、これぐらいの手錠なら魔法で溶かせばいつでも逃げれるわ。
それに、私は魔人。力は人より何倍も強い。壊せる。
そして、『魔性』の力もある。
今は使えないけど、いざという時は、使うのも辞さないわ。
「ハハ。そんな顔をされるとつい、虐めたくなっちゃうな」
「……」
私がどんな顔をしてたかは知らないけど、こいつらがいなくなったら直ぐにでも逃げてやるわ。
「まあ、夜を楽しみにしよう。それじゃあね」
そう言うと、王子は二人の護衛と一緒に部屋から出て行った。
「フンッ!舐めんじゃないわよ!こんな手錠!」
私は指の先に魔力を込める。
「あ、あれっ…!?」
が、しかし、上手く魔力が集まらない。
「ま、まあ、これは想定の範囲内よ。うん。大丈夫」
自分に言い聞かせるように言う。
「魔法がダメなら、力尽くで壊すだけよ。ほっ!!!」
手錠を引きちぎろうと力を込めた。
しかし、これもびくともしない。
「へ、へぇ……まあ…特別な素材でできていると言うだけあるじゃない。でも、我の本気はこんなもんじゃないわ。はっ!!!」
それからどれぐらいの時間が経っただろうか。
私はいまだにこの何の変哲も無い手錠を外せないでいた。
「ど、ど、ど、どうしよう……このままだと、私…アイツと一晩を過ごすことに……」
部屋のベッドに腰掛け、一人でそんなことを考えていた。
と、その時、女性と男性が何か会話をしているのが聞こえた。
「あの、申し訳ありませんが、ヒールが壊れてしまいましたの。替えの靴を持ってきては頂けませんこと?」
「あ、あなたは!?ですが、私はここの警備を…」
「やはり、ダメですか…そうですよね…いくらわたくしの願いでも警備を怠るわけにはいきませんものね。このままでは足首を捻ってしまいますわ。ですので、裸足で歩いて帰りますわ……では……」
「お、お待ちを!直ぐに替えの靴を持って参りますので」
「あら?いいんですの?お優しい方ですね?」
「…では、ここで待っていてください」
「はい、かしこまりましたわ」
それから急いでここから離れていく足音が聞こえた。
すると、扉をコンコンとノックする音が鳴った。
「どなたかいらっしゃいませんこと?」
「……この声って、どこかで…」
私はノックされた扉を開けた。
そこには金髪をロールさせ、赤と青のオッドアイ、豪華なドレスに身を包んだ女性が立っていた。
「あら?シャーロットさん…ではありませんか?こんなところで奇遇ですね」
「あなた…確か、ハートさん?」
「あら?覚えていてくれたんですの?」
「まあ、昨日会ったばっかだしね…」
なんで彼女がここに?もうわけ分かんないわよ……。
「でも、どうしてあなたがここにいるんですの?」
「どうしてって……」
それからはハートに今までのことを簡潔に話した。
「なるほど……思ったより手強いですわ」
「ん…?」
何が手強いのかな?
「では、シャーロットさんは今、誘拐されているということですね?」
「ええ、まあ」
「分かりました。では、一緒に参りましょうか」
「一緒に参りましょう?」
「この部屋から逃げ出すんですの」
「逃げ出すって…どうやってよ?直ぐにバレちゃうわよ?」
「フフ。わたくしに考えがあるんですの。任せてくださいまし」
「う、うん」
なんで彼女がここにいるのか分からないけど、ひとまず、彼女の考えとやらに頼るしかなさそうね。
それから私とハートの脱出が始まった。
のんびり書いていきたい。
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今週は金、土、日曜日に投稿します。




