第二十三話 妖艶と冒険者
「申し訳ございません」
「あっ、いえ、こちらこそ」
そう言って、お互いに手を引く二人。
シャーロットの前には金髪をロールさせ、豪華な感じのするドレスで身を包んだ、優雅な雰囲気のある女性が立っていた。
そして、そんな彼女は右目が赤、左目が青のオッドアイだった。
「わたくしとしたことが、気を遣わせてしまいました」
「いいえ…」
謝る女性にシャーロットが戸惑っているようだ。
しかし、こんなところにある露店に客が来るとは思わなかった。
正直、繁盛してるとはお世辞にも言えない見た目だからな。
にしても、オッドアイってやつだよな。初めて見た。
「この髪飾りが少し気になりましたの」
そう言って、女性は店に並べられていた髪飾りを一つ手に取った。
その髪飾りは赤い宝石のような物をハートの形に加工してある品だった。
「ですが、あなたもこれが欲しいようですし、お譲りしますわ」
そう言うと、女性は髪飾りをシャーロットに恭しく差し出した。
「いや、私はどうしても欲しいってわけじゃないですから、いいですよ」
手を使ってシャーロットも丁寧に返事をする。
「あら?そうですの?てっきり、そこの殿方の為と思っていましたのに」
そう言うと、女性は俺に目線を向けた。
かなり美人だ。
それに、この女性からは妖艶な感じがする。
なぜだろう。胸が大きいからか、それとも佇まいからそう感じるのか。
はたまた、このなんとも言えない香りの所為だろうか。
なんて思っていると、シャーロットが慌てた様子で、
「なっ…!?ち、違います!そういうわけじゃないです!」
顔を赤らめて言うシャーロット。
女性はそんな彼女を見て、微笑むと、
「そうなんですの?わたくしにはそうは見えませんけど?」
「……」
シャーロットが口を尖らせるようにして、そっぽを向いた。
「おいおい、お嬢様!探したぜ!」
と、向こうの方から走ってくる集団がいた。
「勘弁してくださいよ。俺達の責任になるんですから」
そう言うのは、銀髪を後ろに止めている男。
三十歳ぐらいだろうか?
どことなく、ダリウス・フィールを思い出す感じだ。
もしかしたら、銀髪の男を見ると自然と連想してしまうのかもしれないな。
「あらあら、申し訳ありません。気持ちが昂ってしまいました」
「はぁ……勘弁してくださいよ……」
男はため息を吐いた。
「そもそも、カリムがいきなりいい女がいたとか言って鼻の下を伸ばしてたからでしょ!」
そう言うのは、一緒にやって来た長い赤髪の女性。
彼女からは容姿、言動のどちらからもキツい感じがする。
「バカ!男はな、ここぞって時があるんだよ」
カリムと呼ばれていた銀髪の男が堂々と言い放つ。
「バカはアンタよ!私の前でなに言ってくれちゃってるわけ!」
そう言うと、女性は手に持っていた杖でポコポコとカリムを叩いていた。
よく見ると彼女の左手に指輪が嵌められていた。
そして、叩かれているカリムの左手にも嵌められている……と思ったが、籠手を着けていた為、分からない。
でも、言葉から察するにこの二人は結婚しているのだろう。
「分かった、分かった。悪かったよ。俺が愛してるのはルビー、お前だけだ」
「う……ほんと調子いいんだから」
ルビーと呼ばれた赤髪の女性は頬を赤らめ、杖で叩くのを止め、そっぽを向いた。
「ん?っ……!!!」
と、カリムが驚いたような反応をしたかと思ったら、俺の方に近寄ってきた。
そして、俺に肩を組むようにして、
「おい、お前、彼女と知り合いか?」
「え…?」
カリムが内緒話でもするように小さい声で言う。
馴れ馴れしいなコイツ。
ていうか、彼女って誰のことだ?
シャーロットのことか?それともユリアか?
「誰のことだ?」
「バカ、胸のデカい女の方に決まってるだろう?ちっぱいに興味はねえよ」
ユリアの方だったか。
ていうか、決まってるわけなくないか?
どっちも美人だぞ?
「ローブでよく見えないが、あれはめちゃくちゃ美人だ。男だったら、ここにくるだろ」
「ちょっ…!?」
カリムが俺の股の部分をパンと一回叩いてきた。
確かに、ユリアは美人だよ?
だが、俺は機械だ。知識として知ってはいるが、俺にそういう機能は無いんだよ。
「ねぇ……」
と、俺とカリムの近くで怒気の籠った声がした。
二人して、その声の方へ向く。
すると、それはそれはお怒りの表情を露わにしているルビーがいた。
俺はそっと逃げ出した。
「おい、アンタは本当に懲りないな?」
「い、いや……」
「問答無用。『ファイアボール!』」
「ちょっ、お前!街中だぞ?!」
「嫁の前なんだが!?それにちゃんと手加減してるから大丈夫よ。ですよね?ハートお嬢様?」
「そうですわね…建物や人に危害を加えなければ大丈夫だと思いますわ」
「て、ことなんで」
「マジかよ……」
カリムは青い顔をして、この場から逃げ出した。
「あっ、待ちなさいよ!」
ルビーは逃がすまいとカリムを追って消えていった。
「また、始まったにゃ」
そう言うのはピンクの髪色をした猫の耳と尻尾を持つ、獣人族の女の子。
しかし、背中には似つかわしくない、背丈と同じぐらいの大きさのハンマーを持っていた。
「いつも通りね」
金髪のショートヘアの女性が無愛想に言った。
彼女は武装はしているが、かなり軽装だ。
腰にダガーを挿しているところを見るにシーフという職業だろう。
情報収集や視察、罠の発見など器用にこなすパーティーに居ると重宝される職業という話だ。
「二人はいつも仲がいいど」
少し癖のある喋り方をする大男。
白鎧を身に着け、背中には大盾があり、腰にはメイスを挿している。
「お嬢様を置いて行くなんて護衛失格にゃ」
「オデがいるから守るだけなら問題ないど。それにここは街の中。心配は要らないど」
「アーダン、アンタのその油断がお嬢様を危険に晒す可能性があるってこと、ちゃんと理解してるの?」
「トレサは心配性だど」
「……」
「まあ、ウチらがいればなんとかなるにゃ」
「ティサナ……分かったわ…」
なんか話が纏まったらしい。
獣人族の子がティサナ。大男がアーダン。シーフがトレサって名前で、このお嬢様と呼ばれていたのがハートと。
ん?お嬢様?
と、そこで俺は疑問に思った。
もしかして、この立派なドレスといい、話し方や佇まいといい、位の高い人なのか?
「わたくしが無理を言ったばかりに、申し訳ないですわ」
「いえ、私達は護衛としてこの仕事を受けたので、お嬢様が行きたいというのならば、そこまで護衛します」
「そうですの?それは嬉しいですわ。でも、もう行かなければなりませんわね」
そう言うと、ハートはシャーロットへ向き直した。
「本当にこの髪飾りを譲って頂いてもいいんですの?」
「ええ。私は他のでいいわ」
「分かりましたわ。では、有り難く買わせて頂きますわ。店主さん、これはおいくらですの?」
ハートがジークに向き直り、言った。
すると、その時、そよ風が吹いた。
「ふむ……お代は要りません。差し上げます」
「あら?いいんですの?売り物なのでしょう?」
「ええ。ですが、その方がいいかと思いまして」
「そう…ですの?分かりましたわ。では、有り難く頂きますわ」
「はい」
「お二人とも、この御礼はいつか必ず致しますわ」
そう言うと、ハートは会釈した。
「では、参りましょうか」
「はい」
「はいにゃ」
「二人ともどこまで行ったど?」
それからハート達は向こうの方へと歩いて行った。
「なんか、嵐が過ぎ去ったみたいだね」
「そうね」
「ああ」
そんな会話をした後、シャーロットは結局、赤色のリボンを買った。
そして、俺達は用事も済んだので、ジークにお礼を言い、宿へ戻ろうとしたのだが、
「シャーロット様」
ジークに止められた。しかも、シャーロット一人だけ。
「何よ?」
俺達が不思議そうにジークを見る。
と、ジークが少し複雑そうな顔をして、
「シャーロット様、夜風にお気を付けください」
「うん…夜風ね?」
「よくない風が吹きましたので」
「分かったわ」
「では、またお会いしましょう」
「ええ」
そんな会話をして、俺達三人は宿へと戻った。
その日の夜、三人で晩御飯を食べ終えた俺は自分の部屋にいた。
シャーロットが仲間に加わってから、宿に泊まる時、俺は一人部屋をとっている。
ユリアとシャーロットは二人部屋をとり、部屋を分けているのだ。
少し寂しいと思うことはあるが、男が女と一緒の部屋で寝るというのはよくないだろう。
というか、俺が落ち着かない。
ドキドキして寝不足になってしまうからな。
ま、野宿の時は三人で順番に寝てるからな。宿に泊まる時ぐらい一人でいいだろう。
と、思っていたのだが、ドアをコンコンとノックされた。
こんな夜に誰だろう?と思ったが、
「ソラ……起きてる?」
どうやらユリアのようだ。
「ああ、今開けるよ」
俺がドアを開けると、寝巻き姿のユリアが立っていた。
「どうかしたか?」
「ううん。シャーロットが寝ちゃったから少しソラと話でもしようかなって」
「おお、そうか」
それからユリアを部屋に入れて、二人してベッドに座った。
この部屋にベッドは一つしかないので隣り合わせで。
「ごめんね、夜なのに」
「いや、全然いいよ」
「シャーロットが外に出れないだろうから早めに寝るって、寝ちゃったの」
「そうなんだ」
ジークの言っていた夜風に気を付けろってやつを守ってのことだろうな。
「……それにしても、こうやって二人だけで話すのも久しぶりだね?」
「ああ…そうだな」
最後にこうやって二人だけで話したのはエルフの森だったか?
あれからもう少しで一ヶ月ぐらいか?
時間が経つのは早いな。
それからは他愛のない話をした。
だが、他愛のない話でもユリアと話す時間はとても楽しかった。
心がドキドキして、高揚感を覚える。
そんな楽しい時間は直ぐに過ぎ去ってしまう。
気が付けばすっかり深夜になってしまった。
「もうこんな時間か」
「あ…そうだね。もう戻るね…」
「うん…」
寂しいが、まあ、明日また会えるんだから。
明日は何をしようか。
それも三人で決めないとな。
「じゃあ、おやすみなさい」
「ああ、おやすみなさい」
それから俺はユリアを見送ると、自分のベッドに横になった。
少し、というかかなりキモいが布団からユリアの香りがほんのりする。
いや、別に嗅いでいるわけではない。
ただ、香ってくるからだ。これは不可抗力なんだよ。
「ソラ!!!」
「はい!!!ごめんなさい!!!」
俺の部屋のドアが勢いよく開いた。
ユリアが慌てた様子で、青い顔をして立っている。
少し様子が変だ。
俺がそう思うと、ユリアが衝撃的な言葉を口にした。
「シャーロットが居ないの!!!」
「え?」
シャーロットが姿を消した。
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