第二十一話 サミフロッグ王国
サミフロッグ王国に着いた。
『白い森』からは六日掛かった。今はちょうど正午だ。
ここサミフロッグ王国は石の壁で街の外周をぐるっと一周囲われている。
これはバスクホロウ王国でも同じだった。
多分、特別な石なんだろう。石の材質が同じに見える。
魔物が寄りづらいとかそんな感じだろう。
でだ、ここにはもう一つ外周と同じ壁があった。
それは遠目からでも目立っている。
そう、王城だ。
円形の壁に囲まれた豪奢な城。
入り口にいる俺達でも見える。かなり遠い筈なんだがな。
バスクホロウの王城も豪奢な城だったが、こちらの方が心なしか大きいように見える。
「大きいお城だね」
「そうね」
俺の前でユリアとシャーロットがそんな会話をする。
二人とも俺と同じようなことを思っていたようだ。
ユリアは俺と一緒にバスクホロウの城を見たことがあるが、シャーロットはどうなんだろうか。
まあ、魔王城みたいなのがありそうだから見たことないってことはないと思うが。
それに、彼女は二千年も生きてきたんだ。
人生で一度も見たことがないってのはないか。
「これからの予定は?」
「とりあえず、今日泊まる宿を決めてそこに荷物を置いたら、その後は冒険者ギルドに行って情報を集めましょう」
「了解」
「分かったわ」
まずは、今日の宿か。
それが決まったら冒険者ギルドに行くと。
冒険者ギルドではいくつか知りたい情報を手に入れる予定だ。
一つ目はヒカリの行方について何か情報があるかだな。
誘拐されたヴァイオレッドの親友の娘さん。
人が多い分、何か情報が得られるかもしれない。
でも、猫耳の獣人族ってだけでどれだけ情報が集められるか。
あまり期待はできないだろうな。
二つ目はシレジット大陸へ行く為に通る大橋、『ミント大橋』行きの馬車がないかを調べる。
困ったら冒険者ギルドへとグラウスも言っていたし、教えてくれるだろう。
ミント大橋にはちょっとした町があるらしい。
橋なのに町と思ったが、町ができるぐらい大きな橋なんだそうだ。
シャーロットが言っていた。
なので、次の目的地はそのミント大橋になるだろう。
ここ行きの馬車があると早く着けるんだが、まあ、あることを祈るとしよう。
三つ目は魔王についてだ。
何か情報がないかを軽く聞こうと思う。
これは魔王が復活したかもということを知らせる為でもある。
まあ、流石に情報は届いてると思うがな。
後は適当に気になる情報があったら、それについて調べるぐらいだろう。
なんて考えながら歩いていると、シャーロットが後で行きたい場所があると言いだした。
なんでもこの国に知り合いがいるんだとか。
彼女の知り合いってことは魔人なんだろうか?
詳しいことは分からないが、その知り合いは商人をやっているらしい。
なので、魔石を買い取ってくれる筈だと言っていた。
ここに来るまでに道中で倒した魔物の分と蒼龍の魔石が二つある。
蒼龍の魔石は高く売れる筈よと嬉しそうにシャーロットが言っていたので、また暫くお金の心配は要らないだろう。
ということで、まず俺達は予定通り今日泊まる宿を決めた。
場所はこの街の中央から南東に少し移動した場所にある『猫の気まぐれ亭』というところだ。
ここの街はとにかく広い。馬車で移動した。
なんで、ここにしたのかというと、行こうとしている場所に近いからだ。
冒険者ギルドのある冒険者区とシャーロットの知り合いがいる商業区、それと中央にも近い為、料理屋が多いのも理由だ。
中央には城があるので街の中央付近は人通りが多く、騎士達もよく通る。
その為、料理を出す店が多いそうだ。
ともあれ、俺達は宿に荷物を置いて、遅めの昼食をとった。
店から出ると、時間は大体四時ぐらいだろうか。
少し急がないと日が暮れてしまう。
ということで、少し足早に冒険者ギルドへ向かった。
「ちょっと、早いわよ」
「ん?そんなに距離ないんだから頑張れよ」
「ええ〜」
途中、シャーロットが文句を言ってきた。
彼女は日頃、飛んでいることの方が多いからな。
今は街中なので翼と尻尾は隠している。
だから、こういう文句がでるのは仕方ないと言えば仕方ない。
でも、こうなることを見越して、常日頃から歩くことを意識したらどうだろうか。
運動不足かもしれないぞ。足が。
「普段から歩かないからだぞ?」
「空を飛べる鳥がわざわざ地面を走ってるところを見たことありますか?って話よ」
「いや、まあ…」
こいつ、なかなか頭のキレること言うな。
確かにいないかもな。
鶏も羽はあるけど飛べるわけじゃないし、空を飛べる鳥は地面をわざわざ走らない。
「でも、ほら、歩いた方が太らないで健康にいいかもしれないぞ?」
「は?」
シャーロットの怒気の籠った言葉。
俺は彼女に言ってはいけない地雷の言葉を言ってしまったのだと、直ぐに悟った。
真紅の目が俺を睨み付けている。
「何?私が太ってて、不健康だって言いたいわけ?」
「いや、そういうわけじゃあ…」
俺はそう言いながら右足を後ろの方に摺り足させる。
「あの、シャーロットさん」
「はい」
シャーロットはどんどん俺に擦り寄って来る。
「その…ごめんなさい!」
「あっ!?ちょっと!待ちなさいよ!」
俺が逃げ出すと、シャーロットが後ろから追い掛けてきた。
「ちょっと!二人とも、私を置いてかないでよ!」
そう言って、ユリアが俺達二人の後を追い掛ける。
冒険者ギルドには予定よりずっと早く着いた。
怒ったシャーロットを鎮めるのは大変だった。
最終的に俺が「シャーロットは綺麗だからそのままでいて欲しいって意味だよ」と言ってなんとかなった。
彼女は腕を前で組みながら、照れくさそうにしつつも許してくれた。
今度から発言には気を付けよう。
シャーロットだけでなく、ユリアや他の人に対してもな。
それはさておき、早速だが情報を集めることにする。
「私はミント大橋行きの馬車がないか聞いてくるね」
「ああ、分かった」
「じゃあ、私も適当に情報を集めてこようかしらね」
「ああ、頼む」
ということで、冒険者ギルドで情報収集開始だ。
俺はシャーロットに殴られてできた小さな頭のたんこぶを撫でながら受付のお姉さんに話を聞いたりして情報を集めた。
「どうだった?」
暫くした後、集まった俺達三人は情報を交換した。
まず、ユリアからはミント大橋行きの馬車の有無だ。
結果は三日後の朝にミント大橋行きの馬車があるらしい。
つまり、俺達はこの馬車に乗って行くことになるだろう。
ユリアから聞いた話だと、歩きと馬車で二週間ぐらい向こうへ到着する日数に違いがあるらしい。
ということは明日、歩いてここを出立するより、馬車の日まで待ってから向かった方がいいということだ。
急がば回れってことだな。
次は俺が手に入れた情報を言った。
ヒカリのことと魔王の情報についてだ。
ヒカリのことだが、残念ながらこれと言った情報はなかった。
ヴァイオレッドには申し訳ないが、こればかりは仕方がない。
これからも立ち寄った町や村では聞いていくつもりだ。
で、次は魔王について。
やはりというべきか、魔王が復活したかもしれないという情報は既に伝わっていた。
バスクホロウから連絡が来て、この国の王様がそのことを大々的に発表。
民に注意を呼びかけたらしい。
ということで、魔王について何か情報はないかと聞いてみたのだが、結果はダメだった。
でも、情報を伝える手段は限られるからな。情報が伝わっていたということを喜ぶべきだろうな。
最後はシャーロットだ。
彼女はこの国のことを聞いてくれたらしい。
でも、俺が聞いた感じ、特に有用な情報はなさそうだった。
唯一、シャーロットの知り合いの正確な場所が分かったぐらいだ。
「となると、俺達は三日後までやることは無しか」
「たまにはゆっくり体を休めるのもいいかもね」
「そうね。最近、ずっと移動してたしね」
「まあ、それもそうだな」
「とりあえず、今日は私の知り合いに会って魔石を換金したら宿で休みましょう」
「ああ」
「うん」
それから俺達はシャーロットの知り合いがいるという商業区へ向かった。
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