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第二十話 白い森

 白い景色が一面に広がる『白い森』。

 緑の木々も、赤い林檎も、茶の地面も、ここでは全てが白だ。

 もちろん、色彩だけが白に変色したわけではない。

 ここにあるもの全てが石化しているのだ。要するに白色の石になっているのだ。

 俺達はそんな中を進んでいる。

 歩いている感じはただの石って感じだ。硬いのが靴越しでも分かる。


「凄いね、一面真っ白…」


 ユリアが周りを見ながら戸惑いの声音で言う。


「確かにな…」


 俺も釣られて周りを見る。

 一面真っ白の世界。これが雪ではなく、全部石だと言うんだから凄いもんだ。

 ここにある白以外の色は全部俺達三人のものだ。

 こんだけ白だけだと迷いそうだが、ユリアが方角だけは分かるから大丈夫だろう。

 ここは洞窟の中じゃないからな。


「これは魔人の能力でこうなったのよ」


「これが…?」


「っ…?!」


 俺とユリアが驚愕の表情でシャーロットを見る。


「私と同じ、魔王様に選ばれた四つの家系の一つ、アウール・ディドゥルによるものよ。別名『石化のディドゥル』。彼は『石化』の能力でありとあらゆるものを石にさせる能力を持つ魔人なの」


「石化の能力…」


「……」


 どうしてこんなことになったのかと思ったが、魔人によるものだったのか。

 『白い森』と呼ばれるここは相当な広さだった筈だ。

 これを一人でやったとするなら凄まじい力を持った魔人ということだ。

 魔王に選ばれたというのも分かるな。

 シャーロットの『魔性』の能力も俺とユリアには効かないみたいだが、目を合わせるだけでハイ、終わりってのは強い。

 しかも、その後、自分の味方として戦ってくれるとかいうおまけ付きだ。

 鬼に金棒って感じだな。

 そんなのがあと二家系もあるというんだから、勘弁して欲しい。


「確かここら辺で戦いがあって、その時にこうなったんじゃなかったかな」


「戦いというと?」


「ええと…ディドゥル対サミフロッグの騎士、それと龍人族〈サラマンダー〉の戦士が数名だったかな」


「じゃあ、その時から今までずっと石になってるってことなんだ?」


「そうね。だから、二千年ぐらいは石になってるんじゃないかしら」


 龍人族〈サラマンダー〉は確か、如何なる窮地も切り抜ける強い心と高い戦闘技術を持つ空の覇者とかサイラスが言ってたっけか。

 しかし、二千年か…途方もない時間だな。

 人魔大戦の戦跡が今もこうして残ってるってことか。


「因みにその戦いはどうなったんだ?」


「痛み分けね。ディドゥルは片腕を失って。サミフロッグ側は多くの兵士と龍人族〈サラマンダー〉の戦士を失ったわ」


「全然割に合わないな」


「まあ、そうね。結局、ディドゥルは失った腕を回復魔法で治してたしね」


 無駄…というわけではないんだろうが、腕一つと引き換えに多くの者が亡くなった。

 そう考えると、どうしても、うーんと思ってしまうのは俺だけじゃない筈だ。

 しかも、その腕も今は治っていると言う。

 つまり、殺さなければ『石化のディドゥル』はまた何度でも復活してくるというわけだ。

 多分、これは他の場合にもいえるだろう。

 例えば、魔王を追い詰めて、後一歩で殺せるとなっても、逃げられれば全てが水の泡。また最初からやり直しということだ。

 そんなの冗談じゃない。勘弁だ。

 まあ、その代わり俺達も回復魔法で治療できるってことなんだけどさ。


「もしかしたら、そいつと戦う可能性もあるのか…」


「まあ、一応ね。でも、そうならない為に私達は旅をするんでしょ?」


 シャーロットがそうでしょという顔で俺を見る。


「そうだな。そうならない為に頑張らないとな」


「そうだね」


「さ、だったらさっさと先に進むわよ」


「ああ」


「うん」


 なんか最近、シャーロットとも仲良くなってきて俺達三人に絆のようなものを感じる。


 仲間ってのはいいな。安心する。


 そういえば、魔王に選ばれし四つの家系って話についてもう少し聞きたいな。

 今日の夜にでも聞いてみるか。


 それから俺達は『白い森』を進んだ。

 どこまで行っても白、白、白。白一色だ。

 俺達を空から見たらめちゃくちゃ目立つだろうな。

 またドラゴンとか勘弁してくれよ?笑えないから。

 あれ?そういえば、魔人って魔物を従えられるとか書いてなかったっけ?

 それもシャーロットに聞いてみるか。


 なんて考えながら歩いていたらすっかり夜だ。

 俺達は晩御飯を既にすませて焚き火を囲み、休憩している。

 質問するなら今だろう。


「なあ、シャーロットに聞きたいことがあるんだけど」


「ん…?なによ?言ってみなさい?我が答えられることは答えてやろう」


 なんでまた我口調になってるんだ?頼られて嬉しいのか。顔にそう書いてある。

 じゃあ、まあ、お言葉に甘えて、


「じゃあ、シャーロットとディドゥル以外のあと二つの家系について教えてくれないか」


「えっ……!う〜ん……まあ、いいわよ。我の仲間として特別に答えてやろう」


 シャーロットは少し逡巡したが、答えてくれるようだ。

 流石、シャーロット様だ。


「それじゃあ、まず、パルデティア家、アウール家について少し追加説明してから後の家系の説明をしよう」

「最初は我のパルデティア家についてだ。元々の家族構成は両親と兄様、そして、私の四人。能力は父様は『籠絡』、母様は『焦点』、兄様は『傀儡』、私が『魔性』。でも、父様も母様も魔人大戦の時に死んじゃったから今は二人だけで兄様が当主な筈」


「へえ」


「ふんふん」


 ユリアと俺が関心して声を漏らす。

 魔人というのは、その魔人ごとに能力があるようだな。


 にして、シャーロットの両親は亡くなってるのか。何というか複雑な感じだな。

 まあ、魔人だから仕方ないといえば仕方ないのだろうが。

 その当時、いつ、誰が死んでもおかしくない世界だったろうしな。

 生きているであろう兄さんは、どんな感じなんだろうか?

 やっぱり、居丈高な感じで我と言うんだろうか?だとしたら、兄妹って感じだな。

 言い方から察するに、魔大陸ごと封印されたんだろう。

 魔人はほとんどが魔大陸にいたっぽいし。


「次はアウール家について。当主はアウール・ディドゥル。能力は『石化』。両親は魔人大戦で亡くなったって聞いたかな。私はディドゥルのことが嫌いでね。あいつ、人が嫌がることを平然とするし」

「それで、あと二つの家についてね。まずはザドラ家かしら。当主はザドラ・オシリス。能力は『雷電』。とにかく戦うことが好きな戦闘狂の家系で、それであるが故にザドラ家は短命な者が多く、現に今は当主一人しかいない。でも、彼が歴代ザドル家では一番強いんじゃないかしら」

「最後はネピア家。でも、ネピア家のことはあまり知らないのよね。私は会ったことが無いし。当主の名前がネピア・ナタリアということぐらいしか知らなくて、家族構成とかどんな能力かも分からない謎の多い女性」

「ざっとこんな感じかな。どう?これで満足かしら?」


「ああ。大体、満足だ」


「うん」


 魔王に選ばれし四つの家系が『パルデティア』『アウール』『ザドラ』『ネピア』。能力も様々のようだ。

 しかし、思ったより魔王に選ばれた家系の魔人は少ないようだ。

 事前に対策を講じればなんとかなるかもな。

 まあ、そうならない為にも魔王の封印か討伐は必須だ。頑張ろう。みんなで力を合わせて。


「最後に一つ。魔人は魔物を従えられるって聞いたんだけど?」


「ああ、そうね。うん、確かにできるわよ」


「でも、前に蒼龍が出てきた時は従えなかったよな?何でなんだ?」


「魔力が多すぎる魔物は使役できないのよ。あと、そもそも私は魔物を使役できないわ。この『魔性』の能力は人に対して絶大な効果を発揮するの。それと引き換えに魔物を使役することができないってわけよ」


「そういうことか…」


 確かに思い返せば、魔物に対して『魔性』の能力を使ったことは一度もないな。

 普通の魔人はある程度の魔物は使役できるが、人間は無理だ。

 シャーロットは逆に魔物を使役できないが、人間をいとも容易く操れる。

 その代償ということなのだろう。

 にしても、ドラゴンは魔力が多いのか。まあ、何となくそんな気はしていたが。


「私もシャーロットにちょっと聞きたいことがあります」


「ん?何かしら?」


 ユリアがシャーロットに質問か。

 大体、気になったことは俺が質問するから珍しいな。

 シャーロットも俺と似たようなことを思っている顔だ。


「シャーロットとのお兄さんの名前を聞いていないんだけど…」


 確かに。言われて気付いた。


「ああ……そうだったわね。兄様の名前はパルデティア・シグルドよ。いつも兄様と呼んでいたからついね」


「そっか。仲は良いの?」


「まあ、そうね。いつも私の心配している少し過保護なところがあるけど…………まあ、それは私の所為かな…」


 たまに、シャーロットは悲しそうな暗い顔をする。

 そして、この顔をする時は決まってシャーロットのことを話している時な気がする。

 前に、シャーロットは自分のことを出来損ないだと言っていた。

 そのことでやはり思うところがあるのだろう。

 彼女には彼女なりの悩みがあるということだ。

 何か言ってやるか。落ち込むなよって。大丈夫だって。

 それが仲間ってもんだろ。


「シャーロッ…」


「シャーロットは頑張ってるよ。大丈夫。だから、そんなに悲しそうな顔しないで?ね?」


 俺が言おうとしたらユリアに先に言われてしまった。

 でも、俺も似た感じなことを言おうとしてたし、いいか。

 要はシャーロットに元気になって欲しい。

 そう伝わればいいんだから。


「うん…自分ができる最大限をやれば、それでいいよね。よし」


 シャーロットが自分の頬を手でペチペチと叩く。

 すると、今までの暗い顔からいつもの顔に戻った。

 やっぱり、シャーロットはこの方がしっくりくる。

 彼女が萎れているのはあまり見たくないからな。

 仲間にはいつも笑顔でいて欲しいってもんだ。


「我はもう落ち込まないと決めた。其方らには感謝するぞ」


 シャーロットは居丈高に言い放つ。

 ユリアは満足そうに微笑んでいたが、俺はジト目になっていた。

 彼女が我と言う時は何かを隠している時に言う言葉だ。

 そして、今回の場合、それは”照れ”だろう。

 素直に言えばいいのに。仕方のない奴だな。


「いえいえ」


「どういたしまして」


 ユリアも彼女の癖には気付いているのだろう。

 何か面白いものを見ているような声音になっている。

 が、そんなことなんか気にせず、シャーロットは満足げな顔をして頬を紅潮させていた。

 俺達から励まされることがそんなに嬉しかったのだろうか。

 いや、嬉しかったのだろうな。

 俺がもし、ユリアとシャーロットに似たようなことを言われて励まされたら嬉しい。

 今回、俺はユリアに遮られて何も言えていないが、要は気持ちだな。

 そう思ってくれるだけで、考えてくれるだけで嬉しいのだ。


 それにしても、ユリアはよく人の名前を聞く印象がある。

 俺の時も彼女から聞いてきたし、バスクホロウの騎士の御者がハイルという名前というのも知っていた。

 今回のシャーロットの兄さんの名前だってそうだ。

 俺も彼女に倣って人の名前をもっと積極的に聞くべきだろうな。

 よし、これからはそうしよう。

 そんなことを考えてこの日は眠った。




 次の日。

 俺達は無事、『白い森』を抜けることができた。

 白の世界から彩り豊か世界になった。

 こうやって改めて見ると、世界には多種多様な色があるんだなと認識させられた。


 ここからあと一週間ぐらいでサミフロッグ王国だ。

 どんなところなのかと今から少しワクワクする。

 多分、二日ぐらいで旅立つとは思うが、それでもやはり初めての旅で、初めての国に行く。

 俺にとって初めてのことが多い。

 高揚もするのさ。機械でもな。心は人間なんだから。

見てくれてありがとうございます。

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