第十九話 再確認
サミフロッグ領に入ってから二週間ぐらいが経過しただろうか。
今、俺達はナターマという町の酒場にいる。
買い出しついでに、ご飯を食べる為だ。
「サミフロッグ王国までは後もう少しね」
「うん、この感じだと一週間ぐらいで着けそう」
「分かった」
頼んだご飯を待ちながらそんな会話をする。
俺とユリアは白のローブを着ている。これはエルフであるユリアを守る為の策だ。
町中で賊に目を付けられたら大変だからな。
それでだ。問題はシャーロットだ。
彼女は魔人であり、黒の翼と尻尾を持っている。
他は美少女の人族そのものなのだが、これでは自分が魔族であると喧伝するようなものだ。
今でこそ魔人に対する偏見は少ないかもしれないが、流石に町を追い出されることは明白だ。
と、そう思っていたのだが、彼女には現在、黒い翼も艶のある尻尾もない。
そこに居るのは人族の美少女、パルデティア・シャーロットだ。
これには一応、彼女の能力が関係する。
翼や尻尾を体内に隠すことができるらしい。だが、その代わりに魔人の能力は封じられるというもの。
長い時間を過ごす中で彼女が独自に編み出したものなんだとか。
色々と人間以外の特徴を持っていると不便なのだろう。それこそ賊に狙われるとかな。
希少性というのはそれだけで価値があるのだ。
そんな感じで、どうやって町や村に入ろうか考えていたのだが、彼女はその問題を自分自身で解決した。
でも、一応、俺達と同じようなローブを買っておいて損はないだろう。
魔法は問題なく使えるが、『魔性』の能力は使えないらしいから何かあった時の為に用意しておこう。
備えあれば憂いなしというしな。明日にでも買いに行こう。
なんて考えていたら、俺達の頼んだ料理が来た。
ここら辺は猪の肉が有名らしい。
野生だけじゃなく、飼育もしていて、一年中美味しい猪肉が食べられるんだとか。
「美味そうだな」
「ね〜」
「……ゴクリ」
美味そうな料理を前に俺とユリアが期待していると、シャーロットは舌舐めずりし、ゴクリと唾を飲み込んだ。
「「「いただきます」」」
ここの料理は美味かった。
猪の肉は少し癖があると聞いていたが、香辛料のおかげかそんな感じはしない。
甘い肉汁、旨味が口一杯に広がり、鼻に抜ける香りが心地いい。
もう一口食べたくなる料理だ。
「美味しいね」
「ああ、美味いな」
「うん……」
感動している俺とユリアにシャーロットは口一杯に肉を頬張りながら何とか返事をする。リスか、お前は。
「今度、香辛料でこの味になるように挑戦してみようかな」
「おお、頼むよ」
「ふんふん」
ユリアは俺達の料理担当みたいになってるからな。
俺はいまいち香辛料とかの組み合わせが分かってないし、シャーロットも俺と似たような感じだ。
なので、自然と料理はユリアの担当ということになっている。
「いや、マジなんだって!」
「嘘つくなよ…聞いたことねえぞ?」
俺達の隣のテーブル席でそんな会話が聞こえてきた。かなり酔っているようだ。
「本当に水竜と人が戦ってたんだよ!」
「海の水面でだろ?!そんなことあるわけないだろう?」
「いや、でも俺はこの目で薄ら見たんだよ」
「また酒の飲み過ぎで変なの見たんだろ」
「いや……」
水竜と人が海の水面で戦ったか。興味深い話だが酔っ払いの言ってることは話半分と思っておくのがいい。
俺は酒を飲んだことはないが、お酒を飲んで酔い潰れている奴なんかをたまに見る。
そして、そういう奴らは大体、何を言っているのか分からん。
出鱈目だ。ああはなりたくないな。
「それよりも空のアレだよ。気味が悪いだろ」
「え…ああ、まあな。何なんだろうな、あの空の亀裂…」
空の亀裂。
それは突然の地震と共に現れた、空を覆い尽くす大きなヒビだ。
ここ最近、町や村に行くとこの話題をよく耳にする。
まあ、当たり前だよな。上を見上げれば見えるわけだからな。
「アレは魔大陸の封印に関係してると思うんだけどね」
肉を食べていたシャーロットがそんなことを口にした。
「何か知ってるのか?」
「うーん、詳しくは分からないけど、昔、魔大陸は空に浮かんでたのよ」
「空に?」
それは聞いたことがなかったな。
でも、だとすると、あのヒビは封印が弱まってできたものということだろうか。
「魔大陸は元々はこの世界の北東に位置していたんだけど、魔王様が空に大陸ごと浮かせたのよ。そうすることで攻められなくしたの」
「そういえば、暫くの間、空に大地があったって曽祖母から聞いたような…でも、少しして大陸は無くなったみたいに言ってた気がするけど…」
「そう。魔大陸は魔力が豊富で魔人や魔物が多く存在してたんだけど、封印されたのよ。五つの種族にね」
ということは、魔大陸は元々この世界にあったってことか。
それを魔王が封印された後、大陸ごと封印した。
そう考えると凄いな。大陸を封印か。あまり想像できない。
「もし、魔王様の封印が完全に解かれたら、魔大陸の封印も解かれる筈。そうなったら、魔大陸の魔人や魔物が世界に解き放たれて、また争いの多い、血が流れる世界になる。私はそうなって欲しくない」
シャーロットが真面目な顔で赤裸々に語る。
彼女とは立場が違うが、目的は同じだ。
一緒に旅をし、世界を魔王の手から守ってくれる俺達の大事な仲間だ。
「私も同じ気持ちだよ。だから、力を合わせて魔王の完全復活を阻止しよう」
「ああ、そうだな。世界を守る為に」
「二人とも…………」
俺達は種族こそ違えど、志は一緒だ。
今日はそのことを再確認できた。
とてもいい日になったな。
翌日。
俺達三人は町でシャーロットの白のローブやらサミフロッグ王国までの食料やらを買い出しした。
後一週間ぐらいでサミフロッグ王国に着くということで必要最低限だ。
できるだけ無駄遣いはしない方がいい。無限にお金があるわけじゃないしな。
「よし、後はサミフロッグ王国に向けて南下するだけね」
「うん。でも、ここから南には『白い森』があるから、途中で薪を拾って進まないと」
「白い、森?何だそれは?」
初めて聞くけど、『白い森』って聞くと雪の積もった白銀の森を想像するが…。
「『白い森』は別名『灰の森』とも呼ばれていて、その地域一帯が白く石化していて、動物や植物はもちろん、地下深くまで土も石化して誰も住めない不毛の地として有名なところなの」
「不毛の地か…」
「今はその石化したものが崩れ始めて、宙に舞った灰で空気も最悪って話らしいよ」
「それ大丈夫なのか?」
「一応、ここナターマから南に『白い森』を通り抜けるのに一日半で抜けれるらしいし、そのぐらいなら問題ないんだって。ただ、住むのは無理って話だった」
「まあ、なら大丈夫か」
さっさと通り抜けたい場所であることに違いはないだろう。わざわざ空気の悪い場所に長くいる意味はない。
「因みに迂回はできないのか?」
「迂回したら一週間ぐらい遅くなるんだって。東西に広いって言ってたかな…」
俺とシャーロットがローブを買っている間に、ユリアには情報収集してもらっていたのだが、一週間か……流石にそれだけ違うと迂回は無しだな。
「そうか。じゃあ、まあ、突っ切るか」
「うん」
「分かったわ。にしても、灰ね〜……」
「なんか言ったか?」
「ん?いいえ。まあ、後で話すわよ」
「おお…」
それから俺達はサミフロッグ王国に向けて、ここナターマを出発した。
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