第十八話 出来損ない
現在、ドゥラーン山脈を無事に抜け、サミフロッグ王国に向けて南下をしている。
木々の間を縫うように、申し訳程度の舗装がされた街道を歩く三人。
俺達は復活したであろう魔王を封印する為、かつて力を合わせて魔王を封印したとする五つの種族の一人、妖精族〈フェアリー〉の協力を得ようとシレジット大陸へと向かっている道中だ。
歩いて三ヶ月は掛かるだろう道程。
途中でどこかの町や村に寄りながらでないと何かと不便だ。
ということで、ひとまず、サミフロッグ王国に向かうというのを大きな目標にし、少し寄り道のような形にはなるが町や村に立ち寄ったりしているのだが、
「ふぁぁ……少し眠くなってきたわね……」
俺の後ろでそんな声が聞こえた。
振り返ると、眠そうな顔をしながら翼をパタつかせて空中を飛んでいる少女がいる。
『魔性』のパルデティア・シャーロット。
彼女は魔人だ。それも魔王に選ばれた四つの家系のうちの一つだということだ。
俺はそんな彼女に対して少し思うところある。
それは、彼女が魔王側の人物だということだ。
魔人を従える存在、それが魔王だった筈だ。
ということは、彼女は俺達とは敵対関係にあるのでは?とそう思っているのだ。
監視をする為に俺達に付いて来ているという可能性もあるわけだ。俺達を邪魔する為に。
だが、その反面、彼女には信頼もしている。
というのも、彼女は神級魔法を使える。
俺達を殺そうと思ったら、直ぐにでも殺せる筈だ。でも、彼女にそんな素振りは無い。
それどころか、ここ最近はかなり仲良くなった気がする。
一度、俺が飯の入った皿を落としてしまったことがあったのだが、その時、彼女は「仕方ないわね…私の分あげるわよ。気を付けなさいよね?」と自分の分を俺に分けてくれた。
彼女はご飯を食べるのが好きなようなので、正直意外だと思った。
他にも、細かいところで俺とユリアに対して色々してくれている。
油断させる為だと言われればそうなのかしれないが、俺達に好意に接してくれるシャーロットをそんな考えで一緒くたにはしたくない。
まあ、彼女に聞いてみればいいか。
どうして俺達に付いてくるのか。魔王を封印しようとする俺達と一緒にいていいのか。そこら辺のことを話し合おう。
わだかまりは無い方がいいからな。夜にでも話するか。
「なあ、今日の夜、話し合いする時間をとってもいいか?」
「話し合い…?」
銀髪の美人エルフ、ユリアが不思議そうな顔をこちらに向けている。
「何を今更、話し合いなんて…」
シャーロットもユリア同様、何を話すんだって顔だ。
「まあ、ちょっとな。少し親睦を深めようって話だ」
「ふ〜ん」
「いいよ。じゃあ、今日の夜は親睦会だね」
「ああ」
シャーロットが微妙な反応だが、まあ、いいってことだろう。こういう反応の時はいいよってことだ。
それから夜になるまで歩いた。
今は晩御飯を食べ終え、ゆったりと過ごしている。シャーロットに聞くなら今だろう。
「さてと。それじゃあ、昼間に言った話し合いを始めていいか?」
「ええ」
「うん」
「うむ。それじゃあ、早速だが……俺が話したいことはずばり、シャーロットについてだ」
「シャーロット…?」
「……」
シャーロットは三角座りをして、顔を半分隠し、上目遣いで俺を見てくる。何よ?って顔だ。
「シャーロットは魔人だ。なのに俺達に付いて来てる。その真意というか…今の現状についてどう思っているのか聞きたい」
「……」
シャーロットは下の方に目線をやり、何かを考えているようだ。
俺とユリアは彼女が語るのを無言で待つ。
暫くして、彼女が目線を俺に戻すと、口を開いた。
「確かに、私は魔人よ。それも魔王様直属の部下と言ってもいい。…………でも、私はその…………魔王様のやり方には反対なの……」
「……」
シャーロットの言葉を待つ俺とユリア。焚き火の木が燃える音だけが聞こえ、時間が流れる。
「私ね…人を殺せないのよ。何というか、胸の辺りがモヤモヤするし、心臓も早く脈打って過呼吸みたいになるし……だから、私は出来損ないなの、魔人の。魔王様に選ばれた家の末裔なのに……」
彼女の語る顔はとても辛そうだった。過去に色々あったのだろう。魔人には魔人なりの悩みがあるってことだな。
だが、彼女のこんな顔は初めて見た。何か言葉を掛けてあげたくなる顔だ。
と、ユリアがそんな彼女を見て、俺と同じようなに思ったのだろう。口を開いた。
「きっと、シャーロットは優しい心を持ってるんだよ」
「優しい心…?」
「そう。人の苦しみだったり、悲しみだったり、そういう感情を理解できて、寄り添える。そんな人の心を持った、優しい心」
「……そう…なのかな……?」
シャーロットはユリアから目線を逸らし、何かを考えているようだ。
もしかしたら、ユリアの言う『人の心を持った、優しい心』というのは俺にも言えることかもしれないな。ユリアは俺に『人の心を持った人間』と言ってくれた。
ということは、俺も”優しい心”を持っているということだろう。
俺はそのことを忘れないようにしないとな。人の心を。優しさを。
なんて思っていると、シャーロットが口を開いた。
「私、魔王様に頼んでみる。人が死なない、血が流れない、戦争の無い、そんな世界にして欲しいって」
シャーロットは力強く言った。
「うん」
「そうだな」
俺とユリアはシャーロットに応えるように言う。
「まあ、俺とユリアは魔王さま…を封印するつもりだからそのお願いが聴かれることは無いと思うけどな」
「……それならそれでいいわよ」
俺の空気の読んでいない発言にシャーロットが不貞腐れながら言った。
「今はとても平和だもの。魔王様が封印されて直ぐは好戦的な魔人が多くいたけど、今この世界にいる魔人は穏健派だけだしね」
「へぇ〜」
シャーロット以外にも魔人はいるらしい。
「私も本来はひそひそと生活する予定だったし、魔王様の気配がしなければエルフの森までは行ってないから、そう考えると人生何があるか分からないわね…」
なるほど。だから、エルフの森にいたのか。謎が一つ解消されたな。
「シャーロットは今までどこにいたの?」
「私は適当に世界中を転々としてたかな」
「そうなんだ」
それからは三人でこの場所が良かった、ここの国の食べ物が美味しかったなどの会話に花を咲かせ、その日を終えた。
そういえば、どうして俺達と一緒に旅をするのか聞きそびれた。
まあ、話した感じ、魔王を封印することには反対じゃないみたいだし、魔王を説得するか、封印するかの違いぐらいで、似たような目的を持っているから一緒にいるみたいな感じかな。
魔人が味方っていうのは少し不思議な感じだが、似た目的を持っているなら大丈夫だろう。
それにシャーロットはもう俺達の仲間だからな。
三人仲良く旅をする。それで良いじゃないか。
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今週は金、土、日曜日の三話投稿しようと思います。




