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第百四十四話 ターニングポイント1

「二千年前。今と違い魔人と人達が戦っていた頃、彗星の如く現れた一人の男がいた。そやつはヴァルクライト・アーサーといい、戦闘の技術は目を見張るものがあった」

「我らの中でもこの情報はすぐに広がった。遂に現れたのだ、勇者が。戸惑う者もいたが、たかが一人に何が出来る。そう思うものも少なくなかった」

「が、勇者アーサーは瞬く間に我らを追い込んでいった。今まで拮抗していた戦線もやつによっていくつも失った」

「我もこのまま野放しにはしておけん。そう思いアーサーを殺す為に色々と策を練った。が、結果的にはあまり効果はなかった。アーサーは一人ではなかった。やつには仲間がいたのだ」

「魔人にはない、絆や思いやり、他人を思う気持ち等が人間の心を、奴らを一つにした。統制が上手くとれない我々は拮抗しつつも、圧は感じていた」

「だから、我が動くことにした。魔人の指揮は任せ、我自ら戦場に立ち、戦った。そして、その日はやってきた。今でも忘れない我が封印される日」

「我はエルフの村がある世界樹へと来ていた。村の場所は分からなかったが、森ごと焼き払ってしまえば関係ない。そう思い魔法を使おうとした時、アイツらが来た」

「勇者と呼ばれた皆の希望、ヴァルクライト・アーサー。高い判断力で適切に戦場の指揮をとる妖精王、ティターニア。その巨体で全てをなぎ倒す巨人、ドゥルガー。多彩な魔法で皆を支える魚人の王女、メリュジーヌ。そして、銀髪のハーフエルフ。死人をも復活させる回復魔法と皆を支える支援魔法で我らを苦しめたブリキッド」

「この五人が我を待ち構えていた。たかが五人。が、油断はしていなかった。しかし、アイツらは上手く連携をとり、我と戦いながら封印魔法の準備を進めた。ノレイドの奴らから封印魔法を教わっていたのか、ブリキッドの封印魔法は無駄がなかった。我を殺せないと踏んで元々封印魔法を使うつもりだったのだろう」

「我は四人との戦いで苦戦していてな。何度もブリキッドに攻撃は仕掛けたが防がれた。そうしている内にブリキッドの封印魔法が完成した」

「ヤツの封印魔法は完璧だった。しかし、我は一つ確信していたことがあった。それは魔力だ。ブリキッドでは我を封印できるだけの魔力が足りん。そう思っていた。」

「が、ヤツらもそれは分かっていたようでな。策を練っていた。ルーンの力を借りて足りない魔力を補ったのだ。これには我も驚いた。まさかそのような荒業があるとはな」

「本来、ルーンとは世界の維持の為に存在しているもの。それを使うということは世界にどういった影響があるのか分からぬ。が、奴らは賭けにでたのだ」

「結果、我は封印魔法によって二千年という時間を封印されることになった。が、我もただでは封印されぬ。封印される時、世界から可能な限りのものを消した」

「魔法の知識、剣術や武術。言語に色々な技術。そして、最後にヴァルクライト・アーサー。"勇者"という存在も消した。勇者はいなくなり、アーサーを我の道連れにし、可能な限りを消して我は封印された」


 魔王から語られるそれが本当だとするなら納得のいくところがいくつかある。

 魔法も剣術も武術や技術も、二千年の間が空いたにしては確かにあまり発展が無かったように思う。

 それに言語。

 種族が違えば話す言葉が違ったって不思議じゃない。

 当たり前のように話していたが、言われてみればそうだ。


 俺は魔王の話に妙に納得させられた。


「封印されてからはこの世界のことは全く分からない。二千年の間、我はこの時間を新たな魔法や技術の為に費やすと決めた。勿論、封印魔法を突破する方法もな」

「ありとあらゆる魔法を考えた。が、それを実践することはできない。思考はできても、体がないのだ。それだけが唯一の悩みだった」

「そんな我は封印されて数百年、新たな魔法を考えるのを止め、封印魔法を破ることだけに注力した。なにか抜け道はないかとな。そして見つけた」

「我と一緒に道連れにした勇者、アーサー。こやつを利用しようと。我に掛けられた封印魔法は強力だが、それが故に我以外の人間相手には少し封印の力が弱いと分かった」

「そこからは勇者を利用する方法と封印魔法を破る方法を探すのに更に数百年の月日が流れた。そうしている内にやっと準備が整った。勇者の体を乗っ取り、自分の意識で体を動かす方法と魔法や技術の記憶の定着。そして、封印魔法を破る方法」

「全てを準備するのに二千年もの月日が経っていた。魔大陸はブリキッド達により封印され、我の配下もいない。ようやっと、他人の体を使って封印から逃れた我は一人で全てを行わなければならなかった」

「だが、問題は無い。一人でもこの我なら簡単にできる。そう思っていた。だが、物事というのはそう簡単にはいかない。我の予想より致命的なミスが二つ」

「一つは勇者の意識がほんの僅かにあるということ。体の自由が聞かない時があったのだ。それによって狂いが生じる。貴様らと一緒にいたあの獣人の娘。あいつを殺そうとした時もそうだ。勇者が腕だけを動かし太刀筋をズラした」


 言われて魔王と初めて戦ったあの時のことを思い出す。

 そうか、あれは勇者がヒカリを守ってくれたってことか。


「そして、それよりも致命的なことがもう一つ。封印魔法と勇者の力によって時間制限があったこと。時間を掛ければ封印魔法によってまた封印されてしまうと直感した」

「更に勇者の力も特別だ。こちらが疲弊すれば体の主導権を取られかねない。急がなければならず、しかし、急ぎ過ぎて疲弊すれば体を乗っ取り返される」

「これには我も焦った。自分の体でないとどのぐらい動けるのかが分からん。試行錯誤しながら旅をした。世界のルーンを壊せば封印魔法の魔力の源が切れる。だから、我は世界のルーンを壊した。封印を解く為にな」

「そして、今、封印は解かれた。我はこの通り復活した。二千年掛かったが、その間に得られたものもある。これからが楽しみだな? そうは思わんか?」


 魔王は不敵な笑みを浮かべる。

 まるで自分の勝利が確定しているような表情。


「我が考えた魔法の中でもこの転移魔法。これはかなり苦労した。だが、この魔法は素晴らしい。これを利用すれば様々なことができる」


「転移魔法…そうか、それでこいつはいきなりここに…」


「私達が思ってたより最悪な状況かもしれないわね。まさか、二千年も意識があったなんて…」


 リヴィアとジブリエルがそんなことを漏らす。


「最悪な状況か…確かに貴様らにとってはそうかもな。そろそろだろう」


 次の瞬間、再び空気が大きく揺れた。

 今までで一番大きい。


「時間は稼いだ。これで魔大陸も帰ってきた」


 魔大陸。

 魔王の封印が解けたということはそうなるか。


「さて、次は少し世界を変えてみるか」


「何をする気だ!」


「大陸を創る」


「何…?!」


 大陸を創るだと…? 本気で言ってるのか?


「なに、少し地面を底上げするだけだ」


「そんなことしてどうなるか分かったもんじゃないぞ!」


「そう喚くな。多少の犠牲が出たところで誤差だ。人が死んだらまた産ませればいい。土地が無いなら創ればいい。簡単なことだ」


「イカれてやがる」


「まあ、好きにしろ。止めれるものなら止めてみるんだな『グランドクエイク』」


 魔王は明後日の方向に手を翳す。

 魔王を使うつもりだ。

 何をするつもりなのか規模が大き過ぎてよく分からないが止めた方がいいのは分かる。


「くそ…『カオス・ロストハート!」」


 俺は青い炎を一点に集める。

 今こいつを止めないと世界が壊される。

 俺は全身全霊で青い炎の波動砲を放つ。

 と、魔王を飲み込み視界から姿が見えなくなる。


 これで殺せるとは思わないが魔法の発動を止められればいいんだが…。


「貴様のその力に我は興味がある」


「くっ…」


 魔王は琥珀色の壁の中から俺に視線を向ける。

 手は相変わらず明後日の方向に翳しているが、意識は俺の方へ向けているようだ。


「貴様は機械なのだろう? ならば分解すればその力の源がなんなのか分かる筈だ」


「俺を殺すつもりか?」


「結果的にはそうなるかもな。だが、一度壊してしまって治せなくても困るからな。お前の意識はそのままに体だけ解体するのもありかもしれないな」


 魔王は不敵な笑みを浮かべる。

 どうやらこいつに捕まったら俺は地獄を見ることになるらしい。


 と、その時、


「さあ、新大陸の誕生だ。海底に沈んでいた陽の光を浴びることの無い筈の大地。これから面白くなるな」


 魔王の言葉と同時に何度目になるか分からない地震が起こった。


「あなたは一体何をしようとしているの!?」


「新大陸。生まれたばかりのその大地にて魔人の理想郷でも作ってやろうかと思ってな」


「理想郷…?」


 魔王が語る魔人の理想郷なんてろくなもんじゃないに決まってる。


「魔人はその残虐性故に人から恐れられ、争ってきた。だが、殺す為の人間が入ればどうだ? 人を殺したいという娯楽に近い魔人の殺意を抑えることができれば争いは理想郷の中だけに留まる」


「あんた…何言ってるか分かってるの…?」


 リヴィアが聞く。


「人間を使い大陸を耕し、その人間が使えなくなれば魔人の殺しの為に利用し、子を産ませて管理すれば全て新大陸で完結させられるのだ」

「この大陸の人間は一部だけを我々に差し出し、後は放っておくだけでいいのだ。戦争をする必要などない。どうだ、素晴らしいではないか。少しの犠牲で戦争もなく、血が流れることもない」

「見たくないものは見なければいい。人間は欲望に忠実でいればいい。自分以外の誰かを自分の代わりに苦しめさせるだけでいいんだ。簡単なことだ」


「生贄を差し出せってことよね?」


 憤怒の感情が剥き出しのジブリエル。


「生贄? 話を聞いていたか小娘? 要は仕事をして、使えなくなったら死ぬ。その間に子を二、三人産ませれば人間が減ることは無い。貴様ら人間のやっていることと同じだ」

「寿命で死ぬのか、殺されて死ぬのか。ただ、それだけの違いだ。それで戦争を防げるのだ。素晴らしいではないか」


「ふ、ふざけないで!!!」


「ふぬ…分からんな…では、また戦争でもするか?」


「っ…?!」


「我は構わん。この世界の人間で今の我々と戦える者は少ない。数年でこの世界は我のものだ。それを手放して平和にやっていこうと言うのだ。それを貴様は…」


 と、


「そんなの…そんなのなんの解決にもなってない…なってないよ…!」


 ユリアが語る。


「自分達だけ助かって…他人はどうでもいい。そんなのってないよ…私はそんなの間違ってると思う!」


「エルフの女か…では、戦争でもするか?」


「どうしてあなた達はそうやって戦争、戦争ってすぐ殺し合いをするんですか? もっと…シャーロットみたいに優しく、同じこと感じて、同じことを共有して、笑いあって、時には喧嘩したっていい」

「もっと寄り添って、相手を思いやる気持ちを持てば、血が流れない。戦争なんてする必要のない平和な世界が手に入れられる筈なのに……どうして……」


 ユリアのその訴えは俺達には理解できる。

 誰だってそうだ。

 戦争なんてしたくない。

 殺し合いなんてしたくない。

 笑いあって、泣きあって、困ったら助け合って。

 そんななんてことない平和な日常。

 でも、そんな幸せな日々を共有できる世界がいいに決まってる。


 だが、魔王はキッパリと言った。


「それが無理な話なのだ」


「……」


「シャーロット。お前なら分かるだろう。我と貴様はまだ魔人の中でも話が通じる方だ。だが、他の魔人はどうだ? あいつらが相手を思いやる? 助け合う? 優しさ? そんなものがあいつらに本当にあると思うか? できると思うか?」


「それは……」


 シャーロットは言い淀む。


「我が居なければ統率など少しもできなかった奴らが誰かと共存? 片腹痛いわ」


「でも…だからって…」


「お前の言っていた血の流れない世界が本当に可能だと思うか? シャーロット、世の中にはある程度の犠牲の上に成り立っている。悪くない提案だろう。必要最低限の流れる血で平和な世界を作れるのだ」


「……私は…仮初の世界ではなく、本当に平和な世界が欲しいです」


「ならば戦え。でなければあいつらに飲み込まれるぞ? ただ平和を願うだけでは決して叶うことは無い。シャーロット。お前は我の敵か? それとも味方か?」


「私は…あなたの敵です! 私は私の追い求める平和の為に戦います!」


「そうか…まあ、いい。やりようはいくらでもある。それで、貴様ら全員殺しても構わんのか?」


「「「…!?」」」


 全員が警戒し構えをとる。


「ふん。少し遊んでやるか。今の世界の連中がどれだけの力を持っているか我が直々に相手をしてやろう。いつでもいいぞ。かかって来い」


 魔王はそう言うと空中から地面へと降り立った。

 俺達と魔王との戦いが始まった。




 最初に動いたのはやはりヒルダだった。

 『刹那の太刀』で魔王の首目掛けて刀を薙ぎ払う。

 しかし、鈍い音と共に刀は防がれた。

 魔王の周囲には防御魔法が展開されていた。


「まずはお前から死ぬか?」


「くっ…」


 嘲笑う魔王に苦い表情のヒルダ。

 と、その時、


「この防御魔法を何とかしねぇとな!」


「前に出過ぎるなよ?」


 龍人化したアグナヴェルトとゼルハルドが魔王の背後をとる形で速攻を仕掛けた。

 しかし、魔王の防御魔法はそれすらも防ぐ。


「ダメか…」


「『ミストデトネーション』」


 魔王の周囲に白い霧が充満する。


「離れてください!」


 次の瞬間、白い霧は一気に膨張し、爆発した。

 熱い…。

 熱風が俺まで届く。


 すると、


「速さがダメなら」


「力でどうだ!」


「喰らえ!」


 イリーナ、パメラ、ルドナが剣を振りかぶり同時に攻撃する。


「「「兜割り!」」」


 上から下へ剣が振り下ろされる。

 魔力で強化された力強い一振が魔王の展開した防御魔法に打つかる。

 轟音と地響きと共に魔王のいる地面に亀裂が入る。


「なかなかの攻撃ではないか。だが、大振りすぎて躱そうと思えば躱せるな」


「だったら躱せば良かっただろ!」


「それでは貴様らの力がどのぐらいか測れんではないか。我が試してやってるのだ。感謝しろ」


「こいつ…」


「完全に舐められてる」


「っ…!」


 三人の手に力が入る。

 地面の亀裂が広がり、力が加わっているのが分かる。

 と、その時、防御魔法にヒビが入った。


「力は腐っても巨人族ということか。なかなか強力」


「俺のことも忘れんなよ!」


 ガルガンが戦斧を大きく振りかぶる。


「『インパクトブレイヴ!』」


 戦斧が琥珀色の光を纏い、防御魔法に打つかる。

 次の瞬間、ヒビの入った防御魔法はガラスのように砕けた。


「ふん」


 それを見て笑う魔王。

 が、ガルガンの攻撃はこれで終わりではなかった。

 防御魔法を壊した戦斧から突き出るように鋭い岩の塊が魔王を襲う。

 タイミング的には完璧と言っていい不意の攻撃。

 魔王は少し関心した反応を示すと背後に魔法陣が現れ、そして、一瞬にして姿を消した。


「どこ行った?」


「向こうよ!」


「『ダークエンペラー』」


「『ダークエンペラー!』」


 次の瞬間、上空にいた魔王が放った神級魔法とシャーロットの同じ神級魔法が間で打つかり破裂する。

 それによる衝撃波で突風が起こるが被害はない。


「どんなカラクリか分からないけど転移魔法は瞬時に移動できるみたいね」


「ええ。あの魔法陣が怪しいわ。文字みたいなのも見えたし、もしかしたら、封印魔法と何か関わりがあるかも…」


「今はそれよりも魔王様に集中して! いつ襲ってくるか分からないんだから」


「それは分かってるわよ。でも、あの転移魔法ってつまり、あいつはいつでもここから逃げれるってことでしょ? なら、逃げられたら殺しようがないわ。仲間と合流されたりしても面倒だし…」


「それは…」


 ジブリエルの言葉にシャーロットは何も言い返せない。

 すると、


「おいおい。我が逃げる? 仲間と合流? すると思うか?」


 魔王は言った。


「我がここから離れる理由は無い。貴様らと戦って我が死ぬようなことは無いからな」


「言ってくれますね」


「こいつを殺すなら一気に攻めるしかないんじゃないか?」


「そうね…なんとかしてあの防御魔法を壊して、その後に本体を攻撃する必要があるわ」


「仲間と息を合わせることが大切ね」


「うん」


「因みに今から封印魔法をして間に合う?」


「無理ね。その前に多分こっちが殺られるわ」


「そう…ならやるしかないわね」


「みんなで力を合わせよう!」


「みんなでか…お前ら足引っ張るなよ!」


「アグナヴェルト、お前こそ張り切って空回りするなよ?」


「うるせぇ!」


「私達も息を合わせないとな」


「「うん」」


「皆は我が指揮する。基本はソラ達の陣形が崩れそうな時に支える。それでいいな?」


「「「はっ!」」」


「作戦会議は済んだか?」


「ええ。目にもの見せてやるわよ!」


「そうか。それは楽しみだ」


 魔王が手を翳す。


「くるぞ!」


「『ジャッジメント・ミラー』」


 魔王から無数の光魔法が放たれる。

 それも全てが俺達の頭を正確無比に狙った攻撃だ。

 何もしなければ致命傷は避けられない。


「『ハイネス・マジックバリア』」


「『ウォール・インパクト』」


「『蜻蛉返り』」


 各々が好きなように魔法を返す。

 防御魔法で受け止めたり、跳ね返したり、そもそも躱したり。

 俺は地面を殴って地面を隆起させて防いだが…またなにかしてくるつもりか?

 俺はまだ手を翳している魔王を警戒する。


 と、次の瞬間、魔王の翳している方の手首に小さな魔法陣が現れた。

 それはまるでブレスレットのようにピッタリで何かをしようとしていのは明らかだ。


「我の考えた魔法だ。存分に味わってくれ」


 刹那。


「ぐああああ?!」


 悲鳴が聞こえた。

 視線を向ければ体をさっきの光魔法が貫いていた。

 だが、確実に躱した筈だ。

 そうじゃないと死ぬのだから。


 と、よくよく周りを見てみれば掌より少し大きいぐらいの魔法陣が至る所にある。

 これが原因か?


「外れた魔法がそのまま戻ってきてるわ!」


 そういう事か。

 ジブリエルの言っていることを理解した。

 つまり、躱したらダメだ。

 受け止めるかして魔法を霧散させないとこの魔法陣がある限り半永久的に攻撃され続ける。


「なら斬ればいいだけの話です!」


 ヒルダが光魔法を二つに裂き、それを瞬時に何個もやってみせる。


「なるほどそういう事か!」


「皆、何とか受け止め数を減らせ! 躱しても意味が無い!」


 ゼルハルドの言葉に龍人族のみんなが行動で示す。

 何人かで防いだりし、工夫しながら確実に魔法の数を減らす。


「やっぱり…」


「何がやっぱりなんだ?」


 ジブリエルに聞く。


「聞こえる…魔王の心の声が聞こえるわ!」


「魔王の…?」


 どうしてだ? 今まで聞こえなかったのに。

 魔力がいくら強大でもジブリエルの能力は防げないってことか。

 だとすると、あの勇者を操っていた時は魔王本人じゃなかったから心の声が聞こえなかったって感じか。


「これで最後です!」


 ヒルダが最後の魔法の攻撃を斬る。


「いつまでも空中にいやがって…空はお前だけの領域じゃないぜ!」


 アグナヴェルトが勢いよく飛び上がる。


「忙しないやつだ」


 その後をゼルハルドが追う。


「ふむ。昔を思い出すな。あの時我は浮遊魔法を作ったばかりで慣れてなかったが…」


「はああああ!!!」


「今は思うがままだ」


 アグナヴェルトの速攻をひらりと躱し、手を翳す魔王。


「そうはさせん!」


 ゼルハルドが魔王へ攻撃を仕掛ける。

 槍と琥珀色の壁が打つかり睨み合う二人。


「ふむ…貴様が今の龍人族の族長か?」


「そうだ」


「そうか…では、お前が居なくなれば統率は乱れるというわけだ」


「……」


「転移魔法は移動させる魔法。貴様が居なくなれば皆混乱するだろう」


「まさか貴様!」


「さらばだ」


「クソ…」


 その瞬間、ゼルハルドが魔法陣に飲み込まれ姿を消した。


「「「族長!!!」」」


「これで貴様らはバラバラに動くただのコマ。いいカモよ」


「てめぇ!」


「『ヘルズ・グラビティ』」


「っ!?」


 アグナヴェルトが地面へ勢いよく叩きつけられる。

 何もしていないように見えるが、前にジブリエルに使っていた重力魔法だろう。


「這いつくばっているのが貴様らにはお似合いだ」


「ふざけんなぁ…」


「無闇に近付いてもダメよ! また魔法陣でどこかに飛ばされたら戻ってくるのにどのぐらい掛かるか分かったもんじゃないわ」


「ああ、貴様、封印魔法を使った女か。お前には仮を返さないとな」


「あたしも故郷を壊されてるから仮も何もないんだけど…?」


「そうか。なら、これは我からの贈り物だ。ありがたく貰っておけ『セレスティアルレイン』」


「またさっきの…」


 魔王が空に向かって手を翳す。

 すると、次の瞬間、光の雨が降り注いだ。

 前の時より速い。

 威力も範囲も大きいように感じる。

 これが魔王本来の魔力で放たれる魔法なのか。


 光の雨は所狭しと降り注ぎ、俺達を襲う。


「クソ…! どうすんだよこれ! 数が多過ぎる!」


「泣き言言わないでください!」


「いつまでもこんなことやってたら埒が明かないわよ…」


 何とか堪えているが決定打がない。

 まずは空にいる魔王をどうにかして地面へ下ろさないと。


「チッ…こうなったら俺が無理矢理アイツを地面へ引き摺り落とすから後は何とかしろ!」


 アグナヴェルトが言う。


「何する気よ!」


「力には自信があるからよ! 巨人族の女共! 援護頼んだ!」


 そう言うとアグナヴェルトは龍化し、赤い龍の姿へと変身した。


「お前を叩き落とす!」


「やってみろ」


 アグナヴェルトが光の雨を避けながら魔王へ飛翔する。


「パメラ! ルドナ!」


「任せて!」


「イリーナ!」


「ああ!」


 イリーナがパメラとルドナの踏み台になり、足を手で押して勢いよく飛ぶ。


「「はあああああ!!!」」


 魔力の籠った剣を振りかぶる二人。

 飛んでいる巨人族はかなり迫力がある。


「面白い。真っ直ぐ我に向かってくるか」


 魔王は防御魔法を展開する。

 次の瞬間、パメラとルドナは振りかぶる剣を振り下ろす。

 魔力の籠った剣は魔王の防御魔法に打つかると凄まじい衝撃波と音と共に魔王を防御魔法ごと地面へ吹き飛ばした。


「くっ…空中では受け止めるのに限界がありそうだ…」


 体勢を立て直した魔王はすぐに魔法を使おうと手を翳す。

 が、


「殺るなら今しかねぇだろ!!!」


 アグナヴェルトが牙で魔王の防御魔法に噛み付く。

 すると、今までのダメージの蓄積からかヒビが入り、そして、割れた。


「んぬ…」


 魔王はアグナヴェルトに噛まれないよう躱して距離をとる。

 その身のこなしは剣を使っていたあの黒いモヤの状態を想起させる。


「みんな! 殺るなら今しかねぇ!!!」


 アグナヴェルトの言葉。

 そうだ。

 殺るなら今しかない。

 地面にいる状態で尚且つ防御魔法はいま壊れたばかり。

 いくら魔王でもほんの僅かな隙がある筈だ。


 チャンスは今しかない!!!


「『カオス・ロストハート!』」


 俺は全身の青い炎を一点に集める。

 俺ができる最大火力を魔王に打つける!


「私達は魔王の右側を。イリーナは左側からお願いします!」


「おお」


「任せろ!」


 ヒルダ、ガルガン、イリーナが魔王の側面から攻撃するらしい。

 タイミング的には近距離で攻撃するみんなの方が速いだろうか。


「『刹那の太刀!!!』」


「『グランド・クロス!!!』」


「『双絶斬!!!』」


 ヒルダの瞬きより速い一撃。

 ガルガンの大地をヒビ割る程の強烈な一撃。

 イリーナの相手を容易に切断する力の一撃。

 それが同時に魔王を襲う。


「休む暇もないな…」


 魔王はそう言うと再び防御魔法を展開した。

 さっき破壊されたばかりなのにも関わらずだ。

 が、今回展開した防御魔法は今までと少し違っていた。

 全身を守る訳ではなく、攻撃がくる場所のみを守るように限定させていたのだ。

 それがそうせざるを得なかったからなのか。

 それともそれで事足りるからなのか分からない。

 だが、それはヒルダ達の攻撃を受けるには十分だった。

 防御魔法は粉々に砕け散ったが魔王は完璧に防いでみせた。


 が、これで終わりではない。


「喰らえええ!!!」


「『ハイドロノヴァ!!!』」


「『テンペストノヴァ!!!』」


「『ダークエンペラー!!!』」


「『ホーリーライトニング!!!』」


 俺の青い炎の波動砲。

 リヴィアとジブリエルの合わせ技で水と風の神級魔法。

 シャーロットの闇の神級魔法。

 ユリアの光の神級魔法。

 俺達もこの旅で成長した。

 魔王との戦いに備えて色々と試行錯誤し、こいつを殺せるだけの力をつけてきたんだ。


 負けるわけにはいかない!!!


「これ程とは…この世界でよくもここまで頑張ったものだ…」


 魔王は俺達の攻撃を真正面から防御魔法で受け止める。

 しかし、今までと同じ防御魔法ではない。

 俺達の方向に琥珀色の壁をいくつも展開。

 何重にもなった防御魔法の壁が魔王を守る。


 が、俺達の攻撃は魔王の作った防御魔法の壁を次々と破壊していく。


「なるほどな…」


 どんどん魔王へと俺達の攻撃が迫る中、魔王のそんな声が聞こえた。

 と、その時、


「俺も混ぜろや!!!」


 アグナヴェルトはそう言うと炎のブレスを魔王へ放つ。

 赤い色の炎から白い色の炎へその色を変化させていく。


「面倒な…」


 魔王は背後にも防御魔法を展開。

 アグナヴェルトと俺達で挟み撃ちの形だ。

 これ何とかいってくれ!!!


「認めよう。お前達は我の想像していたより強い…」


 次の瞬間、魔王の展開していた最後の防御魔法にヒビが入る。


「だが…」


 次の瞬間、最後の防御魔法が破れた。

 俺達の攻撃が魔王へ直撃する。

 あれをまともに喰らえばいくら魔王でもタダではすまない筈だ。

 俺達の攻撃が魔王へ直撃すると複雑な反応を示した。

 そして、轟音と共に大爆発する。

 突風の後に煙が辺り一体に立ち込める。


「どうなった…」


 周りがよく見えない。


「警戒して! まだ生きてるわ!」


 生きてる…。

 ジブリエルの言葉に軽く絶望しながらも警戒する。

 あれを直撃しても生きてるのか…。


「なるほどな…勇者の力を失うと我の心も聞こえるとそういうわけか」


 魔王の声がする。

 位置的にさっきまでいた場所だ。


「少し面倒だが…まあ、仕方がない。神の恩寵というやつだ。忌々しい…」


 次の瞬間、強風により風が消える。


「……!? あいつらはどこだ…」


 アグナヴェルトの言葉で周囲を見る。

 すると、今までいたはずの龍人族のみんなが消えていた。

 他にもイリーナ、パメラ、ルドナも居ない。

 まさかこの一瞬で殺したとでもいうのか?!


「ハハハ。安心しろ、死んではいない。ただここから退場してもらっただけだ」


「お前…」


「イリーナ達もいないのか…」


「ここには我の脅威になる者しかいない。つまり、今から死ぬ運命にある者達というわけだ」


 魔王の外見に傷はない。

 一体何をしたんだ。


「さて…ここに残った貴様らには死んでもらうわけだが。誰から死にたい? それとも全員で死ぬか?」


「どうやってあれを全部防いだの…」


「ふむ…まずは弱らせるところからか…」


 魔王の姿が消えた。

 魔法陣は見えなかった。

 どこだ、どこに…。


「まずは一人目…」


「っ…?!」


 魔王が現れたのはヒルダの背後だった。

 それに気が付いたヒルダは咄嗟に刀を使って魔王に斬り掛かる。

 が、しかし、


「生き物は微量でも魔力を有している」


「?!」


 ヒルダの刀は魔王の目の前で止まった。

 まるでそこに見えない壁があり、それ以上先には進めないような感じだ。


「その魔力を自分の体の中ではなく、外に纏うことができたら魔力はただあるだけで自分を守る最強の装備になる。我はそう考えこの有り余る魔力を自身を守る最強の盾にすることにした。我はこれを『魔装』と呼ぶことにしている」


「ぐっ…」


 魔王は片手でヒルダの首を握り締め軽々と体を持ち上げる。


「そして、この『魔装』の使い道は他にもある」


「くはっ…?!」


 ヒルダが血を吐き出す。


「魔力を纏えるということはそれだけ魔力を一点に集めることができるということだ。それを利用すればこのように魔力で押し潰すこともできる…」


「っ……」


 マズい。

 早く助けないと!!!


「貴様!!!!!」


 そう思った瞬間、ガルガンが飛び出した。

 戦斧を構え、殺気剥き出しで魔王へ斬り掛かる。


「人が弱くなる時がある」


 次の瞬間、魔王はヒルダをガルガンの前に突き出した。


「!?」


「それは決まって誰かを守ろうとした時だ」


 そう言うと紫色の光線がヒルダの体を貫き、そして、そのままガルガンも貫いた。


「くはっ」


「うっ…」


 地面へと膝をつく二人。


「こんなところだろう」


 ヒルダは腹を。

 ガルガンは左肩を貫かれた。

 傷はそれ程大きくないが、無理に動かせば出血が止まらなくなるかもしれない。

 今すぐ治療が必要な怪我だろう。

 が、今は治療している時間はない。


「まずは二人だ」


「そのヘラヘラして人をバカにしたような微笑が鼻に付くわね」


「それは申し訳ない。我も二千年ぶりに楽しんでいてな。貴様には礼を言わなければ。風のルーンの時は世話になった。お陰で楽にルーンを壊すことができた」


「村のみんなの命が大事だったのよ…」


「そうか、それもまた選択だ。だが、その選択が正しかったかと聞かれればそれはどうだろうな」


「あんたを殺せば良いんでしょうが! 『テンペスト…』」


 と、ジブリエルが魔法を使おうと手を構えて、しかし、徐々に集まりつつあった風魔法の塊は弾けるように霧散した。


「同じ魔法であれば妨害ぐらいできる。貴様が風の魔法を好んでいるのは前の戦いで知っていたからな」


「そんな…」


「我の知らない魔法はほとんどない。二度目はないと思え。まあ、お前に二度目があればだがな」


「うっ…かはっ…?!」


「ジブリエル!?」


 魔王の拳がジブリエルの腹部を攻撃した。

 速すぎて見えない。


「肺を潰すつもりで殴ったが…我の思考を読んで少しずらしたか」


「けは…」


「その血の量と体の大きさから見てもうまともに動けまい」


 ジブリエルが魔王を睨む。

 と、


「『ライトニングボルト!』」


「『トルネード!』」


 ユリアが魔王を攻撃し、リヴィアが風魔法で強引にジブリエルと魔王の距離を離す。


「ごめんね、ジブリエル。今、回復魔法を使うから」


 ジブリエルへ駆け寄り抱き上げるリヴィア。


「無駄なことを」


「……」


「ユリア!」


 ユリアの隣、俺は魔王と相対する。


「貴様ら二人を見ているとアーサーとブリキッドを思い出す」


「あの二人を?」


「ブリキッドの隣には常にアーサーがいた。封印魔法を邪魔させない為というのもあるだろうが、我はそれだけではないと思っている。もっと特別な感情。人間の持つ愛とやらの影響だとな」


「愛…」


「だが、愛とは実に脆いものだ。愛する者が死ぬと途端にその者は弱くなる。アーサーもそうだ。心の支えを忘れ、愛を失った奴は簡単に暴走した。後はそっと囁いて導くだけよ。ブリキッドを殺した奴らを殺せと、そう囁くだけでいい」


「それじゃあ…」


 つまりあのアーサーはブリキッドのことを忘れさせられて、唆されてあんなことをしてたってことか?

 思い返してみれば、ここで戦った時のアーサーは混乱していたように見えた。

 あれは魔王がアーサーの心を弄んだからか。

 趣味の悪いやろうだ。

 でも、ブリキッドのことは忘れさせた筈じゃあ…感情だけは残したのか…? いや、今は考えるな。


「しかし、アーサーも気の毒なやつだ。ブリキッドやかつての仲間には忘れられているというのに自分だけは仲間のことを覚えて、心の支えとしていた」


「そうか…だから消えた哀れな勇者ってことか…」


「奴の思いが届くことは一生ない。くだらぬ愛とやらの所為で心を蝕まれるだけだ」


「お前…!」


「ふん。たかが人間の形をした機械(ガラクタ)人形(うつわ)ごときが、人間の真似事か」


「確かに俺はただの機械(ガラクタ)かもしれない。でも、俺には心がある。俺を創ってくれた人は心があるように創ってくれた。人間のように生きて欲しいと願って、こうしてくれたんだ。だから、俺は人間として生きる。そして、そんな俺のことを肯定してくれた人がいるから」


 俺はユリアの方を見る。


「ソラ…」


「俺は仲間の為に…そして、俺自身が俺の人生を生きたと胸を張って言えるように一人の人間として生きる。一人の人間として、俺はお前と戦う!」


 俺は全身の青い炎を燃え上がらせる。


「…………そうか、思い出したぞ! 貴様あの時の…」


 俺は自然と背中に背負っていた刃折れの剣を両手に持った。

 どうしてそうしたのかは分からない。

 でも、そうしないといけないようなそんな気がした。


「フフフ…ハハハ!!! そうか、そういうとこか! どうして我が知らないその青い炎が存在するのか不思議に思っていたが…そういうことか…良いだろう。貴様が人間として戦うのならそうすればいい。どうせ結果は変わらない。それどころか貴様はそれを後悔するかもしれんぞ? 人間というのは弱い生き物だからな」


 何か気が付いたみたいだけど関係ない。

 今、俺がすべきことはこいつを殺すことだ。

 集中しろ。

 封印の解けた魔大陸のこととか、いなくなったイリーナ達のこととか。

 一旦それは忘れろ。

 今は目の前にいる魔王を。

 ガラムーアを殺すことだけ考えろ。


「ふう…」


 口から白い煙が出る。

 全身が研ぎ澄まされ、今なら魔王の些細な動きさえ捉えられそうだ。


「やる気か…どれ、あれがどのぐらいの物を創っていたのか試してやろう」


 魔王の姿がブレた。

 消えはしなかった。

 ギリギリ視界に捉えた。

 まだ、この感覚に慣れていないが大丈夫だろうか。


 次の瞬間、魔王の貫手が俺の剣と打つかる。


「その剣、アーサーの物か」


「俺が持つことになった」


「そうか」


 と、俺の周りに黒い球体がいくつか現れる。

 いつの間に魔法を…魔王はたまにこういうことをしてくるから気が抜けない。

 次の瞬間、黒い球体は破裂した。


「『ダークライトニングボルト』」


 魔王が更に追撃を仕掛けてくる。

 俺は青い炎でそれらを防ぐ。

 そして、魔王目掛けて剣を振り下ろした。

 青い炎はどこまでも伸びていき、魔王まで届いた。


「その力…我の『魔装』すら揺らぐか」


 ダメージは与えられない。

 だが、魔王を斬れる。

 そう思った。

 多分、これならあの魔装とかいうのを切断できる。


「ジブリエル、大丈夫?」


「ええ」


 どうやらリヴィアが回復魔法でジブリエルを回復させたらしい。

 後はヒルダ達もお願いしたいが…


「ふむ…仕方ない。貴様ら相手にこんなことはしたくだが…『アンチマジックボックス』」


 魔王の掌から白い正方形の光が周囲に広がった。


「我の魔力を干渉させ、魔法を使えなくした。後戦えるのは貴様とそこのトカゲぐらいだろう」


「魔法が使えない…」


 俺の青い炎は使えてるから魔法とはやはり違うのだろう。


「本当に魔法が使えない…」


「封印魔法みたいなものね。方法は違うみたいだけど…これじゃああたし達なんも出来ないお荷物じゃない!」


「……」


「俺をご指名か?」


 龍人化に戻ったアグナヴェルトが槍を構える。

 俺達でまともに戦えるのは俺とアグナヴェルトの二人。


「貴様が一人増えたところで何も変わらぬわ」


「そうかよ。おい、ソラ! 二人でこいつをやるぞ!」


「ああ」


「できると思うのか? 無謀だな」


「そいつはやってみないと分かんないぜ!」


 アグナヴェルトは両翼を使い、勢いよく魔王へ近付く。

 滑空に近い地面スレスレの飛行で勢いよく近付き槍を構える。

 そして、槍を突き刺そうとして、しかし、翼を使い瞬時に魔王の背後へ移動した。


「これならどうだ!」


「貴様では我に傷すらつけられん」


 次の瞬間、アグナヴェルトの槍が魔王の少し手前で止まる。


「クソ…ダメか…?!」


「貴様に我は殺せん。無意味だ」


「はああああ!」


 今度は俺が斬り掛かるが、魔王は琥珀色の壁でこれを防いだ。

 もしかしてと思ってたが魔王は魔法が使えるのか…状況はかなりまずい。


「言い忘れていたが我は魔法を使える」


「……!」


「さて、お前達はどうやって守る?」


 そう言うと、ヒルダとカルガンのすぐ近くの空中に魔法陣が現れた。

 こいつ手負いから襲うつもりか!


 俺は駆け出そうとして、しかし、


「お前は魔王をなんとかしておけ! 俺に任せろ!」


 アグナヴェルトが代わりに駆け出した。


「間に合うかな?」


 魔王はニヤリと笑う。


「くっ!?」


 アグナヴェルトはなんとかヒルダとガルガンを掴んだ。

 が、魔王の魔法がアグナヴェルトの片翼と足を貫いた。


「素早く小賢しいのがトカゲよな」


「お前…」


 と、魔王の下に魔法陣が現れた。

 また消えるつもりか…!

 俺は剣を振るう。

 しかし、一歩遅かった。

 俺の剣は虚空を斬った。


 そして、すぐに魔王が現れた。


「貴様が目障りだ」


「っ…」


 狙われたリヴィアが咄嗟に魔王から距離をとる。

 が、魔王は手を翳すと吸い込まれるようにリヴィアの体が引っ張られる。


「死ね」


 魔王の黒い光線がリヴィアの心臓目掛けて放たれる。


「誰が死ぬもんですか!」


 リヴィアの手の色が変わった。

 かと思えば掌で魔王の魔法を受け止める。


「吸収だと…」


「残念ね。さっきの貫手だったら殺せたのにね」


「癇に障る女だ!」


 今度は貫手でリヴィアを攻撃する。


「お前の相手は俺だ!」


 再び魔王の貫手と俺の剣が打つかる。

 魔王と目が合う。


「邪魔をするな!」


「っ……」


 力が強い。

 若干押されている。

 このままじゃダメだ。


 俺は青い炎で魔王を包む。


「面倒な…!」


 魔王が俺から距離をとる。

 魔王から距離をとったのは初めてかもしれない。


「『グラスプハント』」


 と、魔王はすぐに俺へ手を翳す。

 なにかの魔法か…。


「!?」


 と、そう思ったのも束の間。

 いつの間にか俺は魔王の目の前に来ていた。

 転移魔法か? 

 だが、魔法陣は見えなかった。


 俺は咄嗟に剣を盾にする。

 と、その時、俺の左手が握り潰された。

 とてつもない圧で左手が吹き飛び、激痛と共に血が飛び散る。


「あぐ…?!」


「死ね!!!」


 魔王が黒い波動砲を放つ。

 なんの魔法かは分からない。

 ただそれが自分を殺すことができる威力だということは分かった。


 咄嗟に剣を振り上げる。

 青い炎が黒い波動砲に打つかり一瞬止められたと思ったが魔王の魔法はすぐに青い炎を突破した。

 このままじゃまずい…!


 と、その時、黒い魔法が魔王の体に打つかり、魔王の攻撃がスレスレで俺の横を通過した。


「みんな、お待たせ!」


 声がした方を見ればシャーロットが手を翳している。

 どうやら助けてもらったらしい。

 が、シャーロットの体からは黒いモヤが溢れ出ていた。

 明らかに様子がおかしい。

 まさか…。


「その魔力量。我と同じかそれ以上だ」


「私はここであなたと一緒に死ぬことにしました」


「ほう…」


「私は仲間の為に死にます」


「だが、それではお前の大事なお仲間も巻き込まれて死ぬぞ?」


「それは考えています」


「その魔力に耐えられる策があると? にわかには信じ難いな。我でも生きてられるか分からない程の魔力量だ。でなければこの中で魔法は使えん」


「時期に分かりますよ」


「フッでは、楽しみにしよう」


「みんな、私はここで死ぬけど後のことはよろしくね」


「「「シャーロット!」」」


「みんなと過ごした時間、楽しかったわ」


 やるしかないのか? ほんとにシャーロットを犠牲にしないと魔王は殺せないのか? 俺にもっと力があれば……。


 と、シャーロットの黒いモヤがより一層多くなる。


「人一人殺せないお前がまさか我を殺そうとするとはな」


「そうですね」


「ふむ…では、我も足掻いてみようか」


 魔王はそう言うと貫手の構えをした。

 この距離で貫手の構えをするのは変だ。

 魔法を使うなら今まで通り手を翳す筈。

 なのに貫手……そうか…!!!


「何をする気で…」


 と、次の瞬間、シャーロットは魔王の目の前にいた。


「!!!」


「さらばだ!」


 間に合え…!!!


 俺はなんとかシャーロットへ近付く中でシャーロットが手を翳すのが見えた。

 なんとか魔王を退けようとしているのだろう。


 次の瞬間。


「っ……どう……して……」


「ぐはあ”あ”……?!」


 魔王の貫手が俺の心臓を貫く。

 口から今までにない程大量の血が噴き出る。

 心臓部分からも血が溢れ全身が震え出す。

 これはマズい。

 段々と全身の感覚が鈍くなってきた。


 と、その時、


「…! 貴様……機械ではないな?!」


 魔王の驚いた声音を初めて聞いた気がする。

 が、機械じゃないってどういうことだ? 何を言ってる?

 意味が分からない。

 俺はここで力が抜けて地面へ膝をつく。


「ソラ……ソラ!!!」


 シャーロットが俺の名前を叫んでいる。

 顔には俺の血だろうか。所どころ血がついている。


「まさか機械から人間に成ろうとは…こんなことができたのか…」


「ソラ!」


 シャーロットが俺へ駆け寄る。

 すぐそこに魔王がいるんだ。

 俺じゃなくて魔王を気にしろ。


 そう言いたいが声が出ない。

 全身の感覚が更に鈍く、遠いような感覚になってきた。

 このままじゃ…少しでも…。


 俺は青い炎で回復を試みる。


「無駄だ。その出血では致命傷だ」


「嫌だ! 死なないで!」


 シャーロットの涙が見える。

 泣くな。

 泣かないでくれ。


「待ってて! 私が今…」


 と、その時、地面が大きく揺れる。


「アーサーと新大陸を創ったことで噴火が起こるか……まあ、当然といえば当然か…ついてなかったな。噴火を防ぎながらエルフの秘術は使えまい」


「っ……私はそれでも…」


「我がそうはさせん。溜めていた魔法、貴様らにくれてやる。受け取れ『ブラックホール』」


 空中に黒い球体が現れる。

 すると、風がその球体に吸い込まれていきそれが段々と強くなっていく。


「そんな…」


「私の所為で…ソラが…」


「そうだ、お前の所為だ。お前の所為でそいつは死ぬのだ」


 違う。

 そんなことない!


「お前がそいつを殺したのだ。お前がいなければそいつは死ななかった」


 違う!

 違うぞ! シャーロット!


 そう言いたいが声が出ない。


「私を庇ったから……」


「そうだ」


「…………っ!!! 許さない!!! 許さない!!!!!」


 シャーロットの体から黒い稲妻が迸るように溢れ出す。

 その様子はまるで暴走しているようで少し危険な感じがした。


「ほう…我が憎いか」


「許さない!!!!!」


 シャーロットが魔王へ手を翳す。

 が、その時、


「シャーロットだめ!!!」


 ジブリエルの悲鳴にも似た声が響いた。




 気が付いた時、俺はシャーロットの目の前に立っていた。

 そして、俺はシャーロットの放った魔法で心臓、コアを更に大きく撃ち抜かれていた。

 目の前のシャーロットの動揺し、苦しむ表情が目に焼きつく。


「よくやったシャーロット。流石は我が認めた四つの家の娘だ。一度ならず二度までも。仲間を不意打ちとはなかなか…」


「かはっ……?!」


 俺はその場に力無く倒れる。

 全身に力が入らない。

 それもそうだろう。

 俺の心臓は大きな穴が空いており、誰が見て手遅れなことは明らかな程重症だ。


「そ…ん……な………」


「お前がいなければそやつは死ななかった。そう言っただろう? お前自らがそやつの心臓を貫いたのだ」


「貫いた…私が……私の所為で……私が…私…が…」


 シャーロットが過呼吸気味になっている。


「シャー…ロット…」


 なんとか振り絞った声でシャーロットの名前を呼ぶがそれ以上言葉が出ない。

 伝えたい。

 大丈夫だと。シャーロットの所為じゃないと。

 だから気にするなと……。

 俺は力を塗り絞って右手をシャーロットに伸ばす。


 と、その時、俺の右手の甲が光出した。

 なんだ? これ?


「アーサーが死んで勇者の証が移ったということか? しかし、まさか貴様になるとはな」


 勇者の証?

 霞んでぼやけるがよく見ると花のような紋様が見える。

 これが勇者の証なのか?


「このタイミングで勇者を選ぶとは神は一体何を考えているのか……シャーロット、貴様にはしてもらう仕事がある」


「…………」


「聞いていないか。まあ、いい。我のいいように使ってやる」


 次の瞬間、魔法陣が現れ目の前からシャーロットが消えた。


「せいぜい足掻け。ここから生きて帰られたらまた会おう」


「待ちなさい! 逃げる気?!」


「逃げる? 我は言った筈だ。逃げはしないとな。安心しろ。貴様らは何もしなくても死ぬ。ではな。魔大陸に変なのが混じってるようで先を急ぐ。御機嫌よう」


 そう言うと魔王の姿が消えた。

 シャーロット…大丈夫だろうか。

 聞いていた感じ殺されることは無いだろうが……。


「ソラ!!!」


 ユリアの声が聞こえる。


「待って! それより上のやつがヤバいわ! なんとかしないと!」


 上のやつ…そうか、そういえばなんかの魔法を魔王が使ってたか。

 なんとかしてやりたい。

 俺は全身から青い炎を燃え上がらせる。

 これで防げるもんなのか…?


 俺の青い炎をどんどん吸い込んでいく黒い球体。

 すると、俺の右手の紋様が強く光り輝き始めた。

 と、球体が所々歪な形になり不安定そうな見た目になっていく。


 俺ができるのはここまでだ……後はみんな頼む…。


「必ず助ける…ら…」


 ユリアの声が遠く聞こえる。

 まるで水の中で話し掛けられてるみたいだ。

 言葉が聞き取れなかったり、ぼわんと広がってよく聞こえない。


「みん…魔法を…」


「…ルダ…らな」


「…なた…ですか!」


「…は…んだ?」


「あれ……霊…」


 みんなの声がうっすらと聞こえる。


 ああ…死ぬ時ってこんな感じなのか……。


「ソラ…!!!ソラ…」


 ユリアの泣き顔が見える。

 俺はユリアの笑顔が好きだった。

 また君の笑顔がみたい……。


「ユリア……愛…し…」


 俺はそこで意識を失った。







 ここは……。


 目が覚めると知らない場所にいた。

 何故か木陰にいるらしい。

 何してたんだっけ?


「寝坊助さん、起きてる?」


 ん?


「ああ…起きてるよ…」


 誰だ?


「いつまでも寝てないで行くわよ」


「はいはい」


 視線が勝手に動く。

 すると、そこにはユリアが居た。

 いや、少し違う。

 似ているがほんの少し違う。


「返事は一回でいいの。いつも言ってるでしょ? こんなこともできないのかな? アーサー?」


 アーサー?

 なんで俺がアーサーって呼ばれてるんだ?


「悪かった。ブリキッドはいつもうるさいな…」


 ブリキッド?!

 確かにブリキッドって言ったよな。

 もしかして…。


「怒るよ?」


「ごめん。機嫌直してくれよ」


「もう…」


「さ、行こうぜ。旅の続きを」


 何故か俺はアーサーの過去を追体験しているらしい。

この話で一旦投稿を休憩したいと思います。

この作品かもう一つの作品か、どっちを書こうかまだ迷ってるので決まり次第活動報告で知らせたいと思います。

この作品に関して言うとここから過去編を書きたいと思っているのでよろしくお願いします。

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