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第百三十九話 ホーラル大陸

 アグナヴェルトの背中に乗ってはや一日が経過した。

 その間、俺達は各々好きなことをして時間を過ごした。

 俺は封印魔法の練習とそれを俺の青い炎と組み合わせられないかの練習をした。

 後はオルファリオンから貰った刃折れの剣を見てみたりした。

 特になんの変哲もない大剣なのだが、オルファリオンが言っていた通りなんとも言えない感じがする。

 なんというか、この剣のオーラみたいなのが伝わってくる気がする。

 不思議な剣だ。

 ヒルダが持ったらどう思うんだろうか。

 後で見てもらおうか。


「どっちに乗るか迷ったけど、今回はこっちで正解だったわね」


「……」


 俺の隣、封印魔法を練習しているジブリエルは実に楽しそうだ。


「ねえねえ。またご馳走用意してね?」


「ご馳走?」


 ご飯なんて用意してないが。


「私にとってのご馳走はソラの恋の行方よ」


「そういうことかよ。てか、声がデカい。みんなに聞こえるだろうが」


「いいじゃない。それに聞こえた方がいいこともあるのよ」


「なんだよ、それ」


「そうね…例えば…肉料理は好き?」


「肉料理? まあ、好きだけど…なんで?」


「いいから。へえー! 肉料理が好きなんだ! 美味しいもんね!」


 ジブリエルがいきなりユリア達に聞こえる音量で言う。


「そっかー、肩凝ってるんだー! ずっと封印魔法の練習してるもんね!」


「なあ、これになんの意味があるんだ?」


「まあ、いずれ分かるわよ。私の言っていた意味がね」


「そうか…」


 ジブリエルはキメ顔でそう言った。




 遂に大陸が見えた。

 アレがホーラル大陸だろう。


「もう着く。まずは近くの町に寄って休憩してからまた飛んで俺達の村まで戻る。いいな」


「分かりました」


「それじゃあ行くぞ」


 そう言うとアグナヴェルトは段々と高度を落としていく。

 それに合わせるようにリュゼシナも後に続く。


「しっかり掴まってろよ!」


「おお?!」


 一気に高度を落として加速していくアグナヴェルト。

 目的の町まで一直線って感じだ。

 すると、


「ちょっと! そんなに急いだら危ないでしょ!」


 後ろからリュゼシナの声が聞こえる。


「ノロマがなんか言ってんな!」


「おい、今なんて言った?」


「ノロマって言ったんだよ!」


「「「おわ?!」」」


 急にスピードが上がり思わず鱗を強く掴む。

 風が強く、目的の町が一気に近くなる。

 すると、


「待てや〜〜!!!」


 後ろからリュゼシナが追ってきている。


「怒らせ過ぎたか?」


「あんたなにやってんのよ!」


「遊びだ、遊び」


「私達まで巻き込むんじゃないわよ!」


「知ったことか!」


 シャーロットのことなど気にしないとばかりにスピードを上げる。

 すると、もう少しで町に着くところまで迫った。


「さ、降りる準備しろよ!」


 そう言うと、翼を羽ばたかせて一気に速度が落ちた。

 そして、家の屋根ぐらいの高さで滑空すると、空き地を見つけて着陸した。


「おい、ドラゴンが来たぞ!」


「レッドドラゴン…もしかして、龍人族か?!」


 着いて早々、視線を集める。

 騒ぎにならないといいが…。

 と、


「待てコラ〜!!!」


 リュゼシナも隣に着陸した。


「やべ…」


「おわ…?!」


 アグナヴェルトの体が段々と縮んでいく。

 俺達は強制的に地面へと下ろされた。


「アグナヴェルト!」


 リュゼシナが勢いよくこちらに走ってくる。

 その顔は鬼の形相だった。


「後で合流だ!」


 そう言ってアグナヴェルトは走って何処かに行ってしまった。


「あいつ…絶対許さないわ!」


 その後を追うリュゼシナ。

 何やってんだこの二人は。


「はあ…生きた心地がしなかったぜ…」


 疲れた顔でガルガンが近付いて来る。


「んん〜! なかなか楽しい空の旅だったわね」


「そうですね。貴重な経験でした」


 リヴィアとヒルダも近付いて来るがガルガンとは雲泥の差だ。


「さて、それじゃあ、これからどうしましょうか。あの二人が帰ってきてから決めてもいいけど、いつ戻って来るか分からないし…」


「先に今日泊まる宿を決めちゃった方がいいんじゃない?」


「そうだね。宿を決めて荷物を置いて、この町を歩いてみよう」


「分かった」


「では行きましょうか」


「そうね」


「おお…」




 それから俺達は町の中を歩いて泊まる宿を探した。

 ここはルメタールという町でホーラル大陸の一番南の町だ。

 ここはストライドからの船も来ているホーラル大陸に来たら必ず来ることになる為、始まりの町とも呼ばれているらしい。


 そんなルメタールの町に着いて真っ先に思ったのは、


「暑っつい!」


 歩いているとシャーロットが言う。

 服を掴み、パタパタと風を送っているがこうなる気持ちも分かる。

 ねっとりとした暑さがビビ砂漠とはまた違った暑さだ。

 こっちの方が暑く感じて、気持ち悪い感じがする。

 湿気が多いからだろうか。


「魔法で冷気を送りなさいよ」


 涼しそうな顔をしながらジブリエルが言う。

 どうやら手から冷気を出して涼しくしているらしい。


「魔法使うといざって時に後で後悔するかもしれないでしょ? できるだけ温存したいのよ」


「気持ちは分かるけどここは町中だし、魔王は多分もっと先にいる筈よ。ここの町にいる時ぐらい楽したら?」


「……」


 シャーロットが悩む。

 ジブリエルの言う通り、俺も魔王は先にいると思う。

 それにそんなにバカみたいに魔力を消費するわけでもないだろうし、少しぐらい涼んでもいいとは思う。

 熱中症になっても困るしな。


「……じゃあ…」


 納得させられたシャーロットは自分へ冷気を送る。

 すると、


「涼しい…」


 幸せそうな顔をしながらそう言った。

 そんな涼しいのか。

 俺も試しにやってみるか。


「おお〜…」


 確かに涼しい。

 俺も魔法の練習をしてかなり繊細なこともできるようになってきたからな。


「涼しそうですね」


 ヒルダが羨ましそうに見てくる。

 ヒルダはあんまり魔法が得意じゃないだろうからな。

 と、その時、


「ほら、これでどう?」


 リヴィアがヒルダにも冷気を送った。


「ありがとうございます」


「あの…俺は…」


 一人、体がデカいガルガンが言う。


「あなたは体大きいので我慢してください。あなたが涼むぐらいの魔法は魔力を消費し過ぎてしまいますし」


「…ですよね」


 ガルガンはカクっと項垂れた。




 数時間後。

 今日泊まる宿を決めた俺達はルメタールで有名だという飯屋で晩御飯を食べた。

 その時、ユリアが肉料理だったらこれがいいんじゃないとハンバーグを推してきた。

 どうして俺に肉料理を勧めたのか聞いてみるとジブリエルと話してたのが聞こえたからなんだそうだ。

 そりゃあ、アレだけ大きな声で言ったら聞こえていただろうが、それにしてもそれを覚えてて提案してくれるユリア。

 本当に優しくて、気配りができる。

 俺のユリアに対する評価は最高潮です。




「はあ〜…美味しかったわね〜…」


「そうね〜…」


 伸びをしながらリヴィアとシャーロットが言う。


「あの二人はどこまで行ったんだろう…」


 ユリアが言う。

 あの二人とは勿論アグナヴェルトとリュゼシナのことだ。

 後で合流とか言ってたけど俺達の場所分かるんだろうか。

 この町は結構広いが…。


「ねえ、ソラ! 久しぶりに肩揉んでよ」


 シャーロットが言う。


「なんで俺なんだよ。ガルガンでもいいだろ?」


 人数も多いので一階の大部屋に泊まったのだが、珍しくガルガンも中に入れたので一緒に泊まっているのだ。

 力はガルガンの方があるだろうし、俺じゃなくても…。


「何言ってんのよ? あんたの方が私の凝ってるところ知ってるじゃない」


「それはそうだけど…」


「それに…」


 そう言って顔を近付けてくるシャーロット。

 いい匂いが俺の鼻腔をくすぐり、更に顔を近づけてると俺の耳元で囁いた。


「私はソラにして欲しいの」


 その言葉を聞いた瞬間、俺はなんとも言えない感情が溢れた。

 なんと表現するのが正しいだろうか。

 俺の心臓がドクンドクンと鼓動を速める。


「そ、そうか…」


「ンフ」


 シャーロットは悪戯っぽく笑う。


「じゃあ…どうぞ、お客様…」


「はい、どうも」


 俺はシャーロットの肩に手を触れさせ、いつものようにマッサージをしてやる。

 どうしてこんなことになっているんだろうか。

 なんかさっきから心臓の鼓動が速くなってる気がするし。

 なんだよ、ソラにして欲しいって…。


「ん〜ずっと封印魔法の練習をしてたから効くわね〜」


 と、その時、


「いいわね。あたしにもやってよ!」


 見ていたリヴィアが寄ってきて言った。

 いつもだったらまた揶揄う為に言っているんだと思うところだが、今回は本当にやって欲しそうにしている。

 すると、マッサージをされていたシャーロットが、


「私専属のマッサージ師だから高いわよ?」


 そう冗談を言う。


「あら? じゃあ、体で払うしかないかしら」


「ダメに決まってるでしょ?!」


 リヴィアに冗談を言い返されたシャーロットは慌てた様子で突っ込む。


「はいはい、そうだよね。じゃあ、終わったら呼んでね? じゃあ、よろしく」


「もう……」


 リヴィアが俺の肩をポンと叩くと部屋から出てどこかに行ってしまった。

 もしかして、また漁りに行くんだろうか。

 リヴィアはたまにいなくなってるからそういうことなんだろう。

 もう少しで魔王と戦うかもしれないのに何をやってるんだか。


「んんっ! さあ、もういいわよ」


「ん? もういいのか?」


 まだ始めたばっかりだが、いつもならもう少し長くマッサージをやって欲しがっているのに。

 と、俺がそう思っていると、


「たまには私がマッサージしてあげるわよ」


「え?」


 思わず素のえ? という声が出た。


 なんで今日はそんな優しい…、


 そこで俺はジブリエルとの会話を思い出す。

 もしかしてこういうことを言いたかったのか?

 ジブリエルの方へ視線を向けるとほらね、とでも言いたげな顔をしている。

 どうやら彼女の思惑通りになったらしい。


「今回だけ特別だからね」


「はい…」


 シャーロットの手が俺の肩に触れる。

 小さくて、柔らかい手だ。

 俺のと比べて華奢な感じがする。

 でも、温かみを感じる、そんな手だ。


 シャーロットって意外と他の人の話を聞いてるんだな。

 ユリアもそうだが、あんなよく分からん話を覚えてるなんて。


「あんた…めちゃくちゃ硬いわね…」


「ん? まあ、機械だしな」


「これで合ってるのか不安になるわね…」


「ああ…まあ、でも気持ちいいよ?」


「そ、そう…ならよかったわ…」


 俺は不意にシャーロットの方へ振り返る。

 と、シャーロットは顔を少し紅潮させていた。

 か、可愛い…。


「な、なんでこっち向くのよ!?」


「ごめん」


 慌てて正面を向き直す。

 シャーロットってやっぱ可愛いよな。

 美人だし、体もすらっとしてるし。

 意外とあるというか。


 と、その時、


「ごめん! 遅れたわ!」


 勢いよく開いた扉から出てきたのは翼と尻尾が生えた人の姿のリュゼシナとボロボロになったアグナヴェルトだった。


「よくここが分かりましたね」


「リヴィアが見えたからもしかしてと思ってね」


「なるほど」


「それで、そのボロ雑巾はどうしたんですか?」


「ああ?」


 ヒルダの発言にアグナヴェルトが苛立ちを露わにする。


「これは私がボコしてやったわ! 私に攻撃したら問題になるからね! 絶対に勝てるのよ!」


 だとするなら、アグナヴェルトはなんで喧嘩売ったんだよ。


「俺が普通に戦って負けるわけねえだろ」


「なんか言った?」


「別に…」


 目を見てくるリュゼシナから目を逸らすアグナヴェルト。


「なんかお前らを見てるとイリーナを思い出すよ」


「イリーナ? 誰よそれ?」


「俺の幼馴染だ」


「ふ〜ん…」


 言われてみればガルガンもイリーナとこんな感じだったな。


「はあ…俺は走り疲れた。寝る」


 そう言うと部屋の端の方へ移動しようとして、


「おい、女。俺の槍は?」


 ヒルダに話し掛けた。


「その女って言うの止めてください。ヒルダです」


 そう言いながら槍を渡すヒルダ。


「…ありがとよ…ヒルダ…」


 そう言ってヒルダから自分の槍をバッと奪い取るアグナヴェルト。

 そのまま部屋の端に移動すると壁に背中を預けて目を瞑り始めた。


「ベッド使わないのか?」


「ベッド? 要らん」


 どうやらこのまま寝るらしい。

 だったら外でも変わらなくないかと思うが、今までもこうやってきたんだろうから気にしないでおこう。


「空いてるベッドはどれ?」


 アグナヴェルトとは対照的にベッドで寝る気満々のリュゼシナ。


「それならそこが…」


「そい!」


 ベッドに飛び込むリュゼシナ。


「おやすみ……」


「速いな…」


 まあ、明日からも空を飛ぶことになるだろうし、速く寝るに越したことはない。


「嵐みたいな人達よね」


「ああ」


「そうだね」


「私達も早めに寝ましょうか」


「そうだな」


 俺達はこれからのことを考えて早めに眠ることにした。

 因みに、夜中にリュゼシナのぎにゃ?! みたいな声で一度起きたのだが、リヴィアが間違って彼女のベッドで寝ようとしたらしかった。

 こんな夜中まで何をやってんだか。

 まあ、大体想像つくけど…。

見てくれてありがとうございます。

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