第百三十七話 刃折れの剣
「こんなところに居たのね! アグナヴェルト!」
「どうしてここが…」
「アンタの魔力を感じたから何があったのか聞いて回ったのよ! 私に手間をかけさせるなんて死刑ね!」
「冗談言うなよ」
「冗談じゃないわ! 父様に言って死刑にしてもらうわ!」
「勘弁してくれ…」
どういう関係で、誰なんだろうか。
と、
「あっと…自己紹介がまだだったわね! ごめんなさい。わたくし、龍人族族長の長女、リュゼシナよ!」
「「「族長?!」」」
この人姫みたいなもんか。
これまた随分と偉い人が居たもんだ。
でも、どうしてそんな族長の娘がここにいるんだ?
「そう。私は偉いのよ! ふふん!」
自慢げに言うリュゼシナ。
と、そんな彼女にアグナヴェルトが、
「図々しいだけだろ…」
そう言葉を漏らした。
すると、
「あんた、打首よ!」
「悪かったですね〜」
「この馬鹿、私がそんなことしないと踏んでるんでしょ?」
「そりゃあ」
「甘いわね。今回はマジよ。あんたが居なくなってからずっと探して、お腹も空いて、寝るところもないしで散々だったんだから!」
「知らん! そのぐらい自分で何とかしろよ!」
「その態度! あんたは昔から口が悪い! いい機会だわ! 徹底的に直してやる!」
と、その時、
「是非、そうしてください。これは口が悪くて、態度も悪いみたいなので」
ヒルダが会話に入った。
「ん? あなたは?」
「わたくしはヒルダ。ついさっき、これと戦った者です」
「戦った?」
「っ…!!??」
話を聞いたリュゼシナがギロッとアグナヴェルトを睨む。
「どういうこと?」
「う、うるせえ! 俺は悪くねぇ!」
「どう悪くないのか、詳しく聞かせなさい?」
リュゼシナはニッコリと笑いながら言った。
「この大馬鹿者が!!!!!」
リュゼシナの怒号が響く。
「うるせえなぁ…」
「は? 何それ? 意味分かんないんだけど? ありえないんだけど? 謝るとかないわけ? どうしてあんたはそうなわけ? 馬鹿なの? ねえ? 馬鹿だよね?」
早口でまくしたてるリュゼシナ。
「なんであんたは……ヒルダさん、ごめんなさい! この馬鹿に代わって心から謝罪するわ!」
「いえ…」
頭を下げるリュゼシナにヒルダは若干戸惑っている。
「何ボケっと突っ立ってんのよ!」
「イデッ?!」
頭を叩かれるアグナヴェルト。
「あんたも頭下げんのよ!」
「なんでだよ…」
「人の心を考えない発言したからでしょうが…!」
リュゼシナは無理矢理アグナヴェルトの頭を下げさせる。
「これであなたの気は収まらないだろうけど、許してあげてください!」
「……いえ」
「頭触んな…!」
「黙れっての!」
なんというか、この人は自由な人だな。
「んと…リュゼシナさん、だっけか? あんた龍の姿になれるのか?」
カリムが聞く。
「ええ! 勿論よ!」
胸を張って自信満々に答えるリュゼシナ。
「実は、ホーラル大陸に行く手段に困っていてな」
「ホーラル大陸へ? なら、任せて! 私達が乗せてってあげるわ!」
「本当ですか!」
「良かったわね」
「ああ」
これで何とかなりそうだ。
「待てよ! 俺は…」
「何よクズ! 黙って私に従いなさい! これは命令よ!」
「……はい…」
アグナヴェルトは不貞腐れながら返事をする。
何はともあれこれで何とかなりそうだ。
「それじゃあ、早速向かうわ…」
その時、大きな腹の音がなった。
「……!!!」
すると、リュゼシナは顔を真っ赤にしてその場にしゃがみ込んだ。
そういえば、飯が食えなかったとか言ってたな。
「ご飯、食べるか?」
「……い、いただきます…」
リュゼシナは消え入りそうな声で言った。
それからご飯を済ませた俺達。
「よし! それじゃあ、行くわよ!」
「まあ、待ってくれ」
「どうかしたのかしら?」
止めてきたカリムに聞くリュゼシナ。
「気を付けてくれ。死ぬなよ」
カリムは俺達にはそう言った。
「ああ」
と、その時、扉がガチャっと開いた。
「ワシも少し休んだら後を追う」
部屋にヒカリに支えられながらオルファリオンが入ってきた。
その様子は後から追うことのできるようには見えない。
「師匠、安静にしていてください!」
「そうしたいのはやまやまなんだがな。そうも言ってられん」
「……わたくしは心配です」
「ハハ。弟子に心配されるとはな。ワシも年老いたわ。ところで、ソラよ。お前に渡したい物がある」
「ん…? 俺に?」
すると、オルファリオンは手に持っていた刃の折れた大剣を俺へ伸ばす。
「これは魔王が持っていた剣だ」
「魔王が…」
俺はオルファリオンから受け取る。
確かに前に戦った時と同じ剣だと思う。
だが、
「どうしてこれを俺に? 剣ならヒルダの方が使えるし、それに俺は剣術なんて…」
そう言ったがオルファリオンは首を横に振った。
「その大剣。何か特別なものを感じる」
「特別なもの?」
「ああ。その剣には特別な力があるとワシは思っとる。魔王が持っているのが不思議な程、なにか神聖な感じがする剣だ」
「これが?」
言われて剣をよく見てみる。
等身は銀色。
両刃の大きな剣で片手で振るには少し重いだろう。
柄の部分は紺色で鍔に当たる部分は金色に光っている。
正直、剣について素人の俺では何処にでもありそうな大きい大剣という印象だ。
だが、オルファリオンが言うにはこれが神聖な剣らしい。
「これはワシの感覚だが、ヒルダよりもお前の方が上手く扱えると思った。だから、ソラ。お前に託す」
「…分かった。でも、使えないと思うぞ?」
「それでも構わん。持っておくだけでも何か意味がある気がするのだ」
「……分かった」
剣士特有の勘みたいなものなのだろうか。
よく分からないが、一応持っておこう。
「さあ、もう大丈夫かしら? 何も無いならホーラル大陸に戻るわよ!」
リュゼシナがやけに急かす。
せっかちなのかもしれない。
「待ってくれ。ヒカリ、お前はどうするんだ?」
「私は……もう少しオルファリオン師匠と一緒に居ようと思います」
「そうか」
ヒカリが決めたならそれでいい。
ここから先は魔王と戦うことが決まってるからな。
「あの…」
と、そんなことを考えているとヒカリが言いづらそうにしている。
「どうかしたか?」
「実は…」
そう言って左手の包帯を取り始めるヒカリ。
包帯なんか取ってどうしたんだ。
すると、ヒカリの左手の甲にはユリア達と同じ紋様があった。
「まさか、ヒカリも選ばれたのか?!」
「はい…」
ヒカリはまだ幼い。
そんなヒカリを選ぶなんて。
なんでだ?
「へぇ〜若いのに凄いわね!」
「こんなガキが?」
「ヒカリは魔王の攻撃を一度受け流しておる。不思議ではない」
そうだったのか。
ヒカリ、本当に頑張ったんだな。
「へえ、なかなかやるんだな」
「どうするの? この子も連れてくの?」
リュゼシナの言葉に考える。
明らかに危険だ。
ヒカリはまだ若い。
魔王と戦う俺達と一緒に来て大丈夫だろうか。
せめて、万全になったオルファリオンと一緒の方がいいだろう。
「ヒカリはどうしたい? 変わらず、オルファリオンと一緒がいいか?」
「…私にはまだ実力が足りないと分かってます。なので、少しでも師匠と長く居て技を学びたいと思います」
「分かった」
なら、決まりだ。
「ヒカリはオルファリオンと一緒に居てくれ」
「はい!」
「そう。なら、行きましょうか! ホーラル大陸まで飛んだら一日ぐらいね」
「一日…」
かなり早いな。
「俺はその女は乗せねぇからな。リュゼシナが乗せろよ」
「あんたはまたそんなこと言って!」
「ふん」
アグナヴェルトは一人、部屋から出ていく。
「何とかなりそうでよかったよ」
「ありがとな、カリム。他のみんなにもよろしく伝えといてくれ」
「ああ、分かった」
「それじゃあ、行くか」
「出発よ!」
それから俺達はストライドの北にある船着場まで来ていた。
「それじゃあ、龍化するから離れてて」
「分かった」
龍化というのはやっぱり龍に変身するってことだよな。
と、その時、
「おい、女!」
アグナヴェルトがヒルダへ話し掛ける。
「なんですか」
ヒルダは明らかに不機嫌そうに返事をする。
「お前、この槍持ってろ。慎重に扱えよ」
アグナヴェルトはそう言って槍をヒルダへ渡す。
「どうしてわたくしが…」
「いいから持て!」
「…ほら、さっさと行くわよ!」
「はいはい」
次の瞬間、アグナヴェルトとリュゼシナの肌にヒビが入り、鱗のようなものが浮き上がる。
いきなりこんなことになったら焦るがこれが変身する上で必要なことなんだろう。
次は肌が段々と赤くなり、体も膨張するように大きくなっていく。
なんだが破裂でもしそうな感じだ。
すると、次の瞬間、二人は一気に翼と尻尾を生やし、そして、どんどん大きくなる。
「凄いね…」
「ああ」
「これが龍人族…」
俺達の目の前には二匹の大きな赤い龍がいた。
「さあ、早く乗って!」
リュゼシナの声が聞こえる。
どうやってこの龍の姿で話しているのか気になるが、まあ、後で聞けばいいか。
「さっさとしろよ? 龍化は体力の消費が激しいからな」
アグナヴェルトに言われて二手に分かれて龍の背中に乗る。
俺とユリア、シャーロットとジブリエルはアグナヴェルトに。
ヒルダ、ガルガンとリヴィアはリュゼシナに乗った。
「それじゃあとりあえずホーラル大陸まで行くわよ!」
次の瞬間、リュゼシナとアグナヴェルトが翼を羽ばたく。
すると、どんどん地面から離れていく。
「おお…」
「なんか不思議な感覚…」
「私は飛んだりしてるから慣れてるわ」
「私も」
シャーロットとジブリエルには羽があるからな。
ユリア、また酔ったりしないだろうか。
と、
「絶対に落とさないでくれよ?!」
「任せときなさい!」
「ガルガンは相変わらずね」
「ええ」
あっちはガルガンが騒いでいるらしい。
これから一日、空の旅だ。
魔王は今どの辺だろう。
早く追いつかないとな。
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