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第百三十五話 龍騎士

 どういうわけかヒカリが居る。

 先頭を歩きどこかの部屋へと案内されている俺達。


「どうしてヒカリちゃんがここに?」


 当然の疑問を聞くユリア。


「実は皆さんと別れた後、オルファリオン師匠にお願いして旅に連れて行って欲しいとお願いしたんです」


 師匠ということはヒカリもオルファリオンに剣を習っているといことだろう。


「じゃあ、オルファリオンから剣を教わってるってこと?」


「はい。私だけだとどうしても限界があると思ったので」


「つまり、ヒルダは師匠であり、姉弟子ってことね」


 そう言ってヒルダへ視線を向けるシャーロット。


「そういうことになりますね。ヒカリ、嫌なことはされていませんか?」


 第一声がこれなことに逆に師匠への信頼を感じる。


「はい。大丈夫ですよ。ちょっと口はアレですけど、手は出されてないです」


「そうですか…そういえば、師匠は?」


「……案内します…」


「……」


 ヒカリの重々しい雰囲気に俺達は嫌な予感がした。




 ヒカリがとある扉の前に立つ。

 そして、ノックをして中から女の子の声がすると扉を開けた。


「ヒルダさん達が来てくれました」


 中に入ると部屋には四人いた。

 一人は窓際に姿勢良く立ち、エレノア達と同じメイド服を着た銀髪セミロングの美少女。

 空色の済んだ瞳に綺麗な顔立ちだが、どこか幼げな優しい雰囲気がある彼女。

 確か名前はフレイアだったと思う。


 そして、その隣には服を入れる為の大きめのクローゼットに背中を預ける赤髪、長身の若い男。

 琥珀色の瞳は三白眼で整った顔立ちとも合わさって迫力がある。

 だが、その整った顔立ちの顔には白い刺青のような感じで両頬に三本線がある。

 そんな彼の組んだ腕には一本の槍があった。

 その槍は柄の部分が赤く、矛の部分は艶のない黒茶色をしている。

 そんな男が俺達を観察するように見ていた。


 後は特徴的な赤紫色の綺麗な艶のある髪を持つ美少女が椅子に座りながら不安そうな顔で俺達を見ていた。

 潤んだエメラルド色の瞳と犬の垂れ耳が不安そうな顔を更に助長しているように感じる。

 前にオルファリオンが連れていた獣人族の村であった子だ。

 ここに居るということはまだ一緒に旅をしてるってことだろうか。


 と、思っていたが、そのすぐ側にあるベッドに横になっている人物に見覚えがあった。


「師匠!?」


 ヒルダが驚いて声を上げる。


「今は眠っているだけです」


「……一体何があったんですか?」


「二週間程前でした。魔王と師匠が戦いました」


「魔王と?! では、師匠は魔王にやられたということですか?」


「はい」


「魔王はどうしたの?」


「魔王は時間が無いと言って立ち去ってしまいました」


「そう…」


「もしかしたら、無理に封印を解いたことで魔王様の身に何か影響が出てるのかもしれないわね」


「そうだな…」


 と、その時、


「あの…どうして魔法で傷を癒してあげないの?」


 ユリアが聞く。

 確かに回復魔法があるんだから治療すればいい。

 だが、頭に包帯を巻いていてそれをやったとは思えない。


「実は回復魔法を使おうと思ってペトラにお願いしたんですが…傷を治そうとすると逆に傷が更に広がるみたいで…」


 そう言われて、俺は妖精族の村で会ったブラックキャッツのことを思い出した。

 やつの使っていた武器にもそんなような毒が使われていた筈だ。

 それと同じような感じなんだと思う。


「ペトラは呪いのようなものと言っていましたが、治るまでに時間が掛かるみたいで」


「そうですか…」


 ヒルダは複雑そうな表情でベッドに寝ているオルファリオンへ近付く。

 そして、近くの空いている丸椅子に座るとヒルダはオルファリオンの手を握ろうとして、異変に気が付いた。


「そうですか…利き腕が…」


 ここからでは布団に隠れて見えていなかったが、どうやらオルファリオンの腕がないようだ。


「ヒルダ…大丈夫か?」


 家が広かったことで入ってこられたガルガンが尋ねる。


「ええ…驚きはしましたが、大丈夫です」


「そうか…」


 ヒルダの声音はとても大丈夫そうな感じではないが、今はそれを指摘できるような雰囲気じゃない。

 と、


「入ってきて早々、しけた面してんな?」


 今まで何も話さなかった赤髪の男が喧嘩腰に言う。

 コイツは誰なんだ? 一体どうしてここに居るんだ。


「はい?」


 ヒルダが聞き返す。

 その声音は俺達には決して使わない低くて刺々しい言い方だった。

 ヒルダのやつ、怒ってるな。

 俺は今までの経験からそう思った。

 自分の師匠が傷だらけでベッドに横になってるんだ。

 しけた面と言われていい気分の者はいないだろう。

 すると、


「だから、そんなしけた顔するとこっちまでその感情が伝わってくるって言ってんだよ」


「……」


 男を睨むヒルダ。


「あんだよ。やんのか?」


 男がそう言うとヒルダからバチバチと紫色の電気が迸り始める。


「待って、待って! そんなに喧嘩しないの! ね?」


 リヴィアがヒルダに言って止める。


「ふん。俺は出てくよ。勝手にやってろ」


 そう言って部屋から出ていこうとする男。


「待ってください! あなたにはまだお礼もできていません!」


 ヒカリがそう言って男を引き止める。

 すると、男はヒカリヘ振り返り、


「ああ? 礼だ? んなもん要らねえよ!」


 そう言って部屋から出て言った。


「失礼します」


 今まで黙っていたフレイアも頭を下げて男の後を追い部屋から出ていった。


「……」


「なんなんですか! 全く…」


 ヒカリは気まずそうにしている。

 と、その時、


「っ……」


 オルファリオンが目を覚ました。


「う……」


 オルファリオンは体を起こす。


「師匠、大丈夫ですか?」


「っ…!? お前…!? 達、どうしてここに…」


「わたくし達はホーラル大陸へ向かう船があるかを尋ねにここまで来ました。そしたら、ヒカリが居て、更に師匠がこんなことに…」


「そうか、もうそんなに時間が経ったか。歳をとると時間の感覚が早く感じて困るわい」


「師匠…その腕…どうするつもりですか?」


 心配そうなヒルダ。

 こんな姿を見たのは初めてな気がする。


「呪いのようなものでな。回復魔法を使うと逆効果よ。全く、面倒なのに斬られたわい」


「……師匠が腕を斬られるなんて…」


「…ワシも歳かの…」


 オルファリオンは天井を遠い目で見つめる。


「師匠がそんなことを考えて思い詰めるなんて珍しいですね」


「ワシは何も思い詰めてはいない。ただ、ふとワシが剣を振るってきた意味はあったのかと思っただけだ」


「師匠?」


「大丈夫だ。ワシが剣を振ってきた理由はちゃんとあった」


「まるで死ぬ前の人の言葉ですね」


「馬鹿もん! ワシは死なんわ! いいか! ワシはな、可愛い子の腕の中で死ぬんだ! それがワシの夢だ! まだワシは死なん!」


「……いつも通りで安心しました」


「ここで終わりではない。更にワシは生まれ変わって綺麗で胸が大きい母親の子供に生まれて、美人で胸のデカい姉と美人な妹と仲良くニヤニヤが止まらんような家に生まれるんだ!」


「…あの…もしかして、頭がおかしく…」


「なっとらんわ! 馬鹿者! 誰がボケ老人だ!」


「アハハハハ…面白い人ね…」


 オルファリオンの話を聞いていたリヴィアが爆笑している。


「……」


「あ〜あ…涙出てきた…」


「こういう人なんです。すみません」


「ううん。面白くてあたしは好きよ。えっと…なんて名前だっけ?」


 そう聞くとオルファリオンはニヤリと笑い、


「さあな。ボケてて忘れてしまったわい」


 そう言った。


「フフ。そっか、忘れちゃったか」


「はあ…オルファリオンです。それが師匠の名前です」


「おい! 言うな!」


「オルファリオンね。面白い人だから覚えておくわ。ヒルダの師匠だしね」


 と、その時、


「お、なんだ。元気そうじゃねぇか」


 カリムが部屋に入ってきた。




 それから俺達は何があったのか話を詳しく聞いた。

 二週間ぐらい前のこと。

 オルファリオンとヒカリ、獣人の女の子、カーディナの三人はビビ砂漠を歩いてホーラル大陸へ向かっていたらしい。

 まず、ヒカリがオルファリオンと一緒に旅をしていることに驚いたが、そこは一旦置いておこう。

 そのビビ砂漠にて突如魔王が現れ三人を襲ってきたらしい。

 オルファリオンは最初は互角の戦いをしていたらしいが、戦っていくと段々と押されていき最終的には利き腕の右腕を斬られたらしい。

 が、オルファリオンも負けじとなんとか魔王の左腕と持っていた大剣を折ることはできたそうだ。


 その後、魔王は時間がないと言ってその場から消えた。

 それによって緊張が解けたオルファリオンが気絶。

 困っていたところをあの赤髪の男が助けてくれたらしい。

 あの男はアグナヴェルトと言い、あの龍人族なんだそうだ。

 彼は妖精族の村へと向かう予定だったが、それを変更してヒカリ達を助けてくれたんだそう。

 それには感謝だな。


 で、龍人族の能力で龍の姿に変身できるみたいでその能力を使ってここストライドまで連れてきてもらい、知り合いであるカリムの家に今はこうしてお世話になっているということだった。


「ていうのが俺が聞いた話だったんだが、合ってるか?」


「はい。その通りです。あのままだったら一体どうなっていたか分かりませんでした」


「ジジイが荷物になって申し訳ないのう」


「そんなことはありません。魔王の腕と武器を奪ったんですから凄いことですよ!」


「ハハ。なら老体にムチを打った甲斐があったわい」


「アグナヴェルトさんにお礼言った方がいいよね?」


 まあ命の恩人なんだしお礼は言ったほうがいいだろう。


「そうだな」


「この街から探すのは大変そうね…」


「ヒカリに頼めばいいじゃない。ある程度ここの地理も知っているだろうし、鼻も効くから意外と楽かもよ?」


「では、みんなで探しに行きましょうか」


 こうして、ジブリエルの提案によりヒカリと一緒にストライドの街でアグナヴェルトを探すことになった。

見てくれてありがとうございます。

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