第百三十二話 側近
馬車に揺られて三週間が経過した。
シレジット大陸の道は平坦な道が多くで進みが早く、すんなりとセレナロイグ王国近辺まで来ることが出来た。
乗り換えもなく、セレナロイグへ真っ直ぐ向かったことも早く着いた要素だとは思う。
馬車で移動している間、俺達は基本的に封印魔法の練習をしていた。
リヴィアに教えられながらユリアとシャーロットは魔王を封印する為の練習を。
俺は文字や配列を変えることで俺の青い炎と組み合わせることが出来ないか色々試していた。
「前から思ってたけどソラのその青い炎ってなんなの? 魔法?」
リヴィアが興味深そうに俺へ聞く。
「これは魔法に近いけど少し違う特殊な炎なんだよ。傷を癒す能力と逆に人を焼く能力もある」
「へえ……触ったら熱い?」
「火傷するぞ?」
「そっか…そんなものがあるのね」
「俺もどうしてこんな力があるのかは分からない。俺を作った人が必要だと思ったからこうしたんだろうけど」
「人を癒す為の力と人を守る為の力。あたしはソラが人の為になるようになって欲しいと願ってその能力にした気がするな」
「人の為か…俺は人の為になれてるのかな…」
「なれてるわよ。あなたは世界を救おうと魔王と戦っているじゃない」
「まあ、そうだな。俺を作った人の期待に応えられているといいけど」
「応えてるわよ!」
リヴィアに背中をビシッと叩かれる。
「ありがとう、リヴィア」
「どういたしまして」
と、その時、
「お客さん! セレナロイグが見えてきましたよ!」
俺達はセレナロイグに着いた。
セレナロイグの街中に着いた俺達は王城にいるであろうフィーベルに会う為に歩いて向かっていた。
「ここから歩いて向かったら日が暮れるわよ?」
「でも、ガルガンが置き去りになっちゃうよ?」
「俺は別に行かなくてもいい。そのフィーベルと面識はないしな。お前達だけ先に行ってルーンのことを伝えてくれ」
「ガルガンはどうするんだよ?」
「俺は歩いて王城へ向かう。幸い、王城がデカくて目印になるから迷うことはない。街中を見ながら向かうさ」
「では、わたくしもあなたに付いて行きますよ。一人だと何かと不便でしょうし、わたくしもフィーベルさんとは面識がないですから」
「それを言ったらあたしも…」
と、その時、
「まあまあまあ。リヴィアは私達と一緒に来てちょうだい。ね?」
ジブリエルがそう言ってリヴィアへウィンクをする。
すると、リヴィアはなるほど、という反応をした後、
「分かったわ。そしたら、ガルガンとヒルダは街中をゆっくり歩いて来てね」
「ああ」
「ええ」
リヴィアとジブリエルがお互いにグッジョブの手をする。
どうやら二人の企みは上手くいったらしい。
「それでは、何かあった時は王城を集合場所としましょう」
「分かった。それじゃあ、私達は王城へ向かおうか。フィーベル、元気かな」
ユリアは楽しみなのか微笑む。
前にフィーベルと別れた時は少しの間抱擁してたもんな。
「フィーベルさんってどんな人なの?」
「フィーベルはユリアと同じエルフで少し男勝りのカッコイイ感じなんだけど、実は寂しがり屋みたいな可愛いところもある女性よ」
「へえ…」
シャーロットの説明にリヴィアは舌舐りをする。
もしかして、リヴィアの癖なのか?
「この国の親衛隊隊長なんだから狙うのは止めておきなさい? 粗相したら首が飛ぶかもしれないわよ?」
「あたしも一応似たようなことやってたわけだし、首までは飛ばないでしょう。それにあたしも時と場合は気を付けるわよ」
「どうだかね?」
自信ありげなリヴィアにジブリエルは疑惑の目を向けていた。
それからガルガンとヒルダの二人と別れた俺達五人は街を走っている馬車に乗り王城へと向かっていた。
「馬車って結構早いわよね…」
馬車の窓枠から外を見るリヴィア。
その姿は初めて馬車から外を見る子供のようだ。
「なんか面白いものでも見えたか?」
「ううん。特に何も。でも、こんなに人が居るところは初めて来たからそれが面白くて」
「ふーん」
確かにここは人の数は世界一だろうからな。
久しぶりに村を出て旅をしたわけだし、興味深いのかもな。
「後で歩いてみるか?」
「そうね。少し歩いてみたいかも」
「そうか。いいよな?」
みんなへ聞くと快く返事をしてくれた。
そんな会話をしていて馬車に揺られてしばらくして、俺達は王城へと着いた。
「これがセレナロイグの王城か〜…大きいわね?」
「ああ」
少し興奮気味のリヴィア。
「ほら、子供みたいにはしゃいでないで早く中に入れて貰いましょう」
「子供じゃないわよ」
「行くわよー」
「ちょっと待って…」
俺達はジブリエルに遅れないよう門番へと近付く。
「あの…」
ジブリエルが声を掛ける。
と、
「ああ! これはこれはお久しぶりですね、ジブリエル様。それにユリア様達も」
門番が俺達に気が付いて声を掛けてくれた。
「お久しぶりです。実はフィーベルさんにお伝えしたいことがありまして、今大丈夫でしょうか?」
「そうでしたか。分かりました。今確認して参ります」
と、そう言って俺達から離れて行こうとして、門番の視線がリヴィアへとピタリと止まった。
「……あの…大変申し訳にくいのですが…」
「ん?」
それから門番に案内された俺達は王城の中へと入れた。
「あの服装のどこがいけないっていうのよ…」
リヴィアが不貞腐れた感じで言う。
実はさっき、門番からその格好だと肌の露出し過ぎで少し問題になるので服を着てくださいと言われたのだ。
が、荷物をガルガンヘ預けていたリヴィアは服がなく、仕方がなくユリアから寝巻きを借りている。
「アハハ…申し訳ありません…肌の面積が多過ぎて娼婦でも城に招いたのでは、と言われては敵いませんので…」
門番は申し訳なさそうに語る。
「これ…パジャマじゃないの…」
「パジャマ…? ごめんね、寝巻きしか無くて」
「いや、全然いいんだけどね。可愛いし…ほら、ユリアのいい匂いとかするし!」
「ちょっと!? あんまり変なこと言わないでよ…」
ユリアが恥じらいながら言う。
ユリアの匂いか…確かにいつも着てる寝巻きだもんな。
安心するユリアの香り付き寝巻き……。
「私のを貸してあげれたらいいんだけどね。背丈が…」
「シャーロットのは胸がキツくて着れないものね」
「なっ…!? あんた覚えてなさいよ…」
「えっと…シャーロットのが小さいと言ってるわけじゃあ…ま、間違えただけよ…」
「間違えた? 何を?」
と、そんな会話をしていると、
「お待たせしました。ここです。中に入ってお待ちください。今フィーベル様を呼んできますから」
「ありがとうございます」
それから俺達は扉を開けて中へと入る。
どうやらこの部屋は応接室のようで中は椅子と机が置かれていた。
「それじゃあ、座って待ってようか」
「そうね」
「後で覚えてなさいよ…」
「シャーロット、ごめんね? ね?」
それから少しして。
「すまない。遅れてしまった」
フィーベルが部屋に入ってきた。
「お久しぶりです」
「ああ。久しいな。そんなに固くしないでいいぞ?」
「…分かった」
「何か話があるそうだな。お茶でも飲みながら聞こう」
ということで、俺達はフィーベルに今までのことを伝えた。
「ふむ……では、残るルーンは後一つということか…」
「うん…だから、フィーベルには情報を伝えてもしもの時に備えて欲しいと思って」
「なるほど。分かった。このことは私から各国へ伝達しておこう」
「ありがとう」
「うん。ところで、いきなり本題に入ったので聞きそびれていたがそちらの女性は?」
フィーベルがリヴィアへ聞く。
「あたしはウンディーネのリヴィア。今はユリア達と一緒に旅をしてます」
「ウンディーネ…そうは見えないが…」
「あたしは人に近いので。一応、証拠はありますよ?」
そう言うとリヴィアは手の鱗を見せる。
すると、フィーベルは驚いたような反応を見せる。
「綺麗ですね?」
「へ? これが綺麗?」
リヴィアが上擦った声をあげる。
「え? うん」
「あっ…ありがとう…」
褒められていないのか照れるリヴィア。
「どういたしまして?」
そんな様子を見たフィーベルは困惑した様子で言う。
「よかったわね。綺麗だって」
「う、うるさい…! あんまりからかわないの」
「はいはい」
照れるリヴィアをニヤニヤ顔で見守るジブリエル。
「それでこれからみんなはどうするんだ? やっぱりホーラル大陸へ向かうのか?」
「うん。そこに最後のルーンがあるから」
「そうか…同じ道を通ることになるから大丈夫だとは思うが気を付けてな」
「ありがとう。フィーベルは優しいね」
「こ、このぐらい普通だ。ユリアまでからかってどうする…」
照れるフィーベル。
「なるほどね。少しジブリエルの気持ちが分かったかも」
「でしょ?」
「ほらほら。結託してないで帰るわよ」
「ええ〜もう少し城の中を見てみたいんだけど…」
シャーロットの提案に渋るリヴィア。
「構わないぞ。私も居るから案内しようか?」
「いいんですか!? だって。ねぇ、いいでしょう?」
「もう…しょうがないわね…少しだけよ?」
「サンキュ」
リヴィアはウィンクをしながらそう言った。
それからフィーベルに付いて城の中を歩く俺達。
城の中は豪奢な装飾がされていて、どこを見ても最高級の代物が使われていることは明らかだった。
ここにあるものを少しでも壊したら一体いくらぐらいするのだろうか。
サミフロッグの時もそうだが想像しただけで恐ろしい。
「私はもう見慣れてしまったが、外から来た人だと目新しいだろうな」
「はい。なかなかこれほどの建物の中に入ることはないですから新鮮です」
「それはよかった。是非楽しんでくれ」
城の中を歩くといくつも部屋があり、迷路みたいだ。
すると、
「あの…」
「どうかしたか?」
申し訳なさそうなジブリエル。
「えっと…お手洗いはどこですかね…」
「ああ…それなら案内しよう。そうだな…次いでに裏庭が近くにあるからそこまで行こうか」
ということで、フィーベルに案内されて移動する。
少し歩くと恐らく城の端の方まで来ていた。
案内されたそこには両開きの扉がある。
「ここから裏庭に行けるんだ。その少し先にお手洗いがある」
「ここまで来るのは大変ね」
「まあな」
そう言って扉を開けるフィーベル。
と、そこから見えた景色は花壇や池、樹木やガゼボなどがある庭園だった。
「綺麗ね〜…」
「うん…」
「私もここは気に入っている。なんというか心が落ち着くからな」
「確かに」
女性陣の評価はかなり高い。
実際、とても綺麗だ。
これだけ広いと手入れも大変そうだ。
「お手洗いはあそこの建物だ」
「ありがとう」
ジブリエルが向こうに見える小さな建物へ歩いていく。
「私達はここで待ってようか」
「うん。色々見てもいい?」
「勿論だ。自由に見てくれ」
と、その時、
「フィーベル、こんな所で遊んでる時間はあるのか?」
俺達が来た扉から男の声がした。
振り返るとそこには紫紺の長髪を後ろに一つで束ねている男が立っていた。
顔立ちは整っていて、片目の丸メガネを付けている。
「これはオスモール・ゼルグ殿。お久しぶりです」
「うむ。少し用があってここまで来たのだが、たまたまお前が見えてな。客人か?」
「ええ、まあ」
「……」
ゼルグと呼ばれた男は俺達をじっと見る。
一体誰なんだろうか。
「フィーベル。お前はこの国の王の親衛隊隊長だぞ? もう少し人付き合いは考えては如何かな」
こいつ、随分と失礼なやつだな。
「お言葉ですが、彼らは今魔王を封印する為に旅をしています。前にこの街がドラゴンに襲われた時も手伝って頂きました。そんな方々を蔑ろにはできません」
「魔王…そうか、前に聞いていたのはこの者達か…まあ、せいぜい頑張ることだな。私はもう行く。研究が忙しいのでな」
フィーベルは頭を下げるとゼルグは立ち去った。
「なんなのよ、あれ」
「あの方はカトリーナ様の側近でこの国の技術開発等の最高責任者だ。要はとても偉い」
「それであんなに高圧的ってわけ? どうなのかしら」
シャーロットは機嫌が悪そうだ。
まあ、あんな言い方をされて機嫌が良い奴はいないだろうが。
「すまないな。忘れてくれ」
「なんかあの人、怖かったね…」
リヴィアが言う。
「何が怖いんだ?」
「う〜ん…なんというか何も見てないというか…あたし達を人として見ていないような…」
結構怖いこと言うな…。
でも、実際あんなこと言うやつだからな。
あながち間違えじゃないかもしれない。
と、その時、
「お待たせ〜って、どうしたの? なんかあった?」
ジブリエルが帰ってきた。
「ちょっと…」
「嫌な奴にあったのよ」
「ふ〜ん…」
「気にしないでくれ。さっ、案内を続けよう」
それからしばらくの間、俺達は王城の中を歩いた。
夕方。
俺達は王城の門の前でガルガンとヒルダを待つ。
「フィーベル、元気そうだったわね」
「うん」
「寂しがり屋のフィーベルは今回は抱き付かなかったわね」
「ウフフ」
「あったわね、そんなこと」
「懐かしいな」
「なになに、なんの話?」
「前にここを離れる時にフィーベルが寂しくなっちゃって私に抱き締めてもいいって聞いてきたの」
「へぇ…あの感じなのに意外と寂しがり屋なのね」
「うん」
「そっか…でも、女の子なんてみんなそんなもんよね」
「そうかもね」
と、そんな話をしていると、ガルガンとヒルダの姿が見えた。
「お〜い」
「おう!」
俺が手を振ると気が付いたガルガンも手を振り返す。
「どうだった?」
「ああ。なかなか面白かったぜ。色んな奴がいてな。ただ…」
「ん? ただ?」
「ヒルダの奴が声を掛けまくられて追い返すのに大変だったよ」
「お、おう…ご苦労さん」
イライラした様子のガルガン。
ヒルダは美人だからな。
声も掛けられるだろう。
「そっちはどうでしたか?」
「うん。無事にフィーベルに会えてルーンのこととか伝えられたよ」
「そうですか。では、次の目的地はここより北、ストライドですかね」
「ストライドか…またビビ砂漠を通らないとな」
「暑いのは嫌なんだけどね…」
「仕方ないよ」
「とりあえず今日はどこか宿に泊まりましょうか」
「王都なら俺が泊まれそうな宿もあるかもしれないな」
「探すのが一苦労ね。まあ、いいわよ。たまにはガルガンに合わせてみましょうか」
ということで俺達はガルガンも泊まれる宿探しを始めるのだった。
見てくれてありがとうございます。
気軽に感想や評価、ブックマーク等をして下さい。嬉しいので。
毎日投稿中。