第百二十八話 初恋の王子様
リヴィアを新しい仲間に加えて再び七人になった俺達今、鯨に食べられて海の中をシレジット大陸へ向かって移動していた。
「初めてくーちゃんの中に入ったけどこんな感じなんだ」
「いつ水が入ってくるかドキドキしながら移動する俺の身にもなってくれ」
「大丈夫よ。くーちゃんが襲われたりしない限りね」
「……」
暗い中を魔法で何とか明るくして過ごしている俺達。
ガルガンは相変わらず心配している。
まだ、鯨の中に入って少しなんだがな。
「これからどのぐらいでシレジット大陸に着くの?」
「う〜ん…あたしよりは早いから…二週間掛からないぐらい?」
「そんなもんで行けるのね。思ってたより早いわ」
「あくまで予測だからね」
「はいはい。どうせこれから暇になるんだし話でもして親睦を深めましょう」
「それはいいけど面白い話なんてないわよ?」
「いいの、いいの」
それからみんなで昔話などをして時間を潰した。
俺は過去がないので話すことはなかったが、みんなは色々話をしてくれた。
ユリアは子供の頃に魔法の練習をしていた時に失敗して父親をびしょ濡れにしたことを。
シャーロットは兄と一緒に魔大陸を冒険した時のことを。
ジブリエルは弟のシェイクにどんな悪戯をしたのかということを。
ヒルダは鬼ヶ島での修行の日々を。
ガルガンは小さいと馬鹿にされて見返す為に武者修行に旅をしたことを語った。
みんな子供の頃は結構活発な子供みたいだ。
と、そんな感想を抱いていると次はリヴィアの番になった。
「あたしの昔か……みんなに話せそうな話なんてあったかしら…」
そう言って考え込むリヴィア。
「う〜〜ん…そうね…そしたら、子供の頃にあたしを助けてくれた王子様の話でもしようかしら」
「王子様?」
唐突な王子様という単語にシャーロットが不思議そうに聞き返す。
「そう。そもそも、あたしがどうしてこんな痴女と呼ばれるようになったのか。そのきっかけになる話よ。重い話だから話そうかどうか迷うところだけど…いつまで痴女、痴女言われてたらたまったもんじゃないし…少し長くなるけど聞いて頂戴な」
そこからリヴィアの昔話が始まった。
「あたしね、実は人族と魚人族との間に産まれたハーフなの。父親が人族で母親が魚人族。で、産まれた場所はあの魚人族の村らしいんだけど、すぐにシレジット大陸に移住したの」
「だから、あたしは人と変わらない生活をしてた。子供の頃は近所の友達と一緒に遊んだり、それが終わったら家に帰ってご飯を食べて、そんなごく普通の幸せな日々だった」
「でも、そんなある日。母親が不治の病に侵されてることが分かった。そこら辺からかな。あたしの生活が段々狂っていった」
「最初に壊れたのは父親。段々弱っていく母親の姿に耐えられなくてたまにしか飲まなかったお酒を毎日浴びる程飲むようになった。それでも酔っているだけだからどうってわけじゃなかった」
「だけど、その日が来てしまった。母が死んじゃったの。それから少しづつ父は変わっていった。余程ショックが大きかったのかあたしに当たるようになった。暴力なんてしなかった父がそうなってしまってあたしもとても悲しかったのを覚えてる」
「けど、それだけじゃあ終わらなかった。今まであたしと遊んでいた友達があたしをいじめるようになったの。理由はあたしの手の色が違うから。子供の頃はこの手の鱗を隠すことが出来なかったからね」
「それで、流石のあたしもショックで家に居ることが多くなった。当時はよく泣いてた」
「そんなある日。事件は起こった。家に居ることが多くなったあたしは父に暴力を振るわれてたの。そんな時、不意に父の手があたしの胸に触れたの。まだ、十歳ぐらいだったけどそれなりに発育が良かったからなのか、父はそれで何かのタガが外れたようにあたしを襲った」
「それってつまり…」
「そう。あたしの初めての相手は自分の父親ってわけ」
「「「……」」」
リヴィアの衝撃の告白に何も言えない俺達。
まさか、そんなことがあったなんて。
リヴィアはいつも明るい感じだからそんな辛い過去があるなんて思わなかった。
「で、そこからあたしは父との新たな"生"活が始まったわけだけど、そりゃあ最初はやだったわ。だって、抵抗すれば殴られるか遊ばれるかのどっちかだったし」
「でも、そんな生活を数ヶ月続けて普通の感覚が麻痺してきた頃、運命の人と出会ったの」
「運命の人ですか?」
「そう。あたしが父にお酒の買い出しを命令された時にたまたま声を掛けてきた人がいたの。その人はあたしと同じか少し年上ぐらいの少年だった。黒髪で腰には刀を挿してて剣神流の道場に通ってるんだってすぐに分かった」
「どうしてそれだけで分かるのよ?」
「あたしのいた場所がイグレアスっていう剣神流の聖地みたいな場所だったからよ」
「イグレアス…わたくしも前に行ったことがあります。懐かしいですね」
「んんッ。話を戻すと、その少年が結構イケメンであたしは声を掛けられただけで少しドキッとしちゃったわけ。でね…」
「イケメン…? ってなに?」
リヴィアがこれから語ろうとした時にジブリエルが止める。
「イケメンっていうのは、かっこいいとか男前とかそういう意味よ。聞いたことないの?」
リヴィアがそう聞くと皆が揃って聞いたことないという。
俺は知っていたので特に気にならなかったんだが、イケメンって方言だったのか? でも、なんでそんな方言を知ってるんだって話だし…。
「コホン。まあ、とにかく、声掛けてくれたその少年があたしに言うわけ」
『君、大丈夫?』
「めっちゃ優しいでしょ!? でね、その時のあたしはいきなり話し掛けられたってことと少年の顔でドキッとしてたから何も言わないで走り去ったのよ」
「あら、そこで何かあったわけじゃないのね?」
「そうなの! それが一番最初の出会いだったんだけど、それから少しづつあたしが彼のことを気にして外へ出る時間を増やしたの」
「すると、ある日また彼を見つけたの。その時の胸のドキドキを感じてあたしは確信したわ。あたしはこの人のことが好きなんだってね」
「それで、どうなったんですか?」
内容が気になるのか前のめりでユリアが聞く。
「うん。見つけることは出来たけどなかなか声は掛けられなくてね。それからも何回か頑張ろうとしたんだけどなかなか難しくて」
「でも、そんなとある日。あたしがいつものように父とそういうことをしているといきなり彼が現れたの。そして、こう言った」
『お前のやっていることは外道だ。俺がここでその腐った心を叩き斬ってやるよ!』
「それから彼は刀を抜くとあっという間に父を無力化させた。そして、そのすぐ後に警備の衛兵達が来てあたしは晴れて父から開放されたってわけ」
「それは良かったけどその彼とはどうなったのよ?」
「ええ。あたしはそれでもうメロメロよ。今まで踏み出せなかったけどそこからは猛アタックしたわ。そしたら、見返りの為にやったんじゃない。君の為にやっただけだ、とか言ってきたからもうヤバかったわね」
興奮気味の喋り方的に本当にやばかったんだろうな。
「で、あたしが猛アタックした末にやっと彼とヤれたのよ」
「え? いきなり?」
ジブリエルの当然のツッコミ。
「その頃のあたしは何かしてあげられることなんてそれぐらいしか無かったのよ」
「あんた、父親の所為で影響がもろに出てるじゃない…」
「まあまあ、それは置いておいて。でね、やっと体を重ねたわけだけど彼が言うわけ」
『リヴィア。君はもう俺とは会わない方がいい。君は君の為の人生を歩むんだ。いいね?』
「それから本当に彼とは会えなかった」
「会えなかったんですか?」
「うん。結構探したんだけど、最後まで名前を教えてくれなかったのよ。あたしが探すからって言って…酷いわよね? こんなに好きなのに」
「あんたの為を思ったんでしょ。今まで父親としてたんだから何か思い出すかなとか」
「まあ、それはそうなのかもしれないけど…あたしは一緒に居たかったのに…今頃は家庭を築いていいおじいちゃんか、死んじゃってるかだろうし…」
「あなた何歳なの?」
「あたしは…六十歳は超えてる筈だけど…」
「てことは、五十年は前だろうから確かにいいおじいちゃんかもね」
「会えるならまた会いたいんだけどね」
「会えますよ。いつかきっと」
「…そうね。ありがとう。で、どう思う? あたしはこういう経緯があって色々性に対して自由奔放になったわけだけど、こんなお姉さんは嫌い?」
リヴィアはなんとも言えない複雑そうな表情で言う。
理由には驚いたが、だからといって何かが変わるわけじゃない。
昔に父親に暴力を振るわれていようが、そういう行為をさせられていようが、リヴィアはリヴィアだ。
本人が今のままでいいなら誰も文句は言えないだろう。
「俺達の中にリヴィアを嫌いなやつなんていないよ。それがリヴィアみたいなところがあるしな。もっと自由気ままでいいんじゃないか?」
「……」
俺がそう言うとリヴィアがきょとんとした顔で俺の顔を見る。
すると、クスッと笑い、
「そっか…お姉さんはそう言ってくれて嬉しいよ。あたしもソラに惚れちゃったかも」
「えっ…?!」
「アハハハハ。半分冗談よ。でも、半分は本気」
「それはどういう…」
「ソラがあたしのことを好きって言ってくれたらメロメロになっちゃうってことよ。それぐらいあたしはあなたのことが好きってこと」
「いや、それはいくらなんでも唐突というか」
「恋はいつでも突然始まるのよ?」
「……」
俺は唾をゴクリと飲み込む。
ど、どうなっちゃうんだ?!
と、そんなことを考えていると、
「でも、お姉さんは身を引かないと。困る人が居るみたいだし」
「ん?」
「後で分かるわよ」
リヴィアはそう言って微笑んだ。
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