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第百二十七話 黒い稲妻

「ケホッ……」


 黒い何かが視界を覆ってから記憶がない。

 辺りは砂埃で何も見えない。

 ここはどこだ。

 みんなはどうなってる。


 俺は立ち上がり周りを見渡す。

 が、砂埃で何も見えない。


 と、その時、


「わあ?!」


「おお?!」


 目の前からユリアが現れた。


「無事か?」


「うん」


 どうやらユリアは無事みたいだ。


「みんなはどうなったんだ?」


「それは私にも分からない」


 と、その時、砂埃から緑色の光が見えた。

 精霊だ。


「あなたも大丈夫?」


 そう言ってユリアが心配すると精霊はくるくるとその場で旋回した。

 どうやら無事ではあるらしい。


 すると、


「よかった。無事だったのね」


 砂埃の中からジブリエルが現れた。


「ジブリエル! よかった…」


「他のみんなは?」


「分からない」


「そう。砂埃が邪魔ね」


 そう言うと、ジブリエルが風魔法で辺りの砂埃を徐々に吹き飛ばした。

 すると、それによってだんだんと状況が分かってきた。


「みんな大丈夫そうね」


 白く光る精霊の近くにシャーロットとヒルダ。

 黄色に光る精霊の近くにはネレヴィアとリヴィアがいた。

 どうやら全員無事らしい。


「そのようですね」


「精霊がいてくれて助かったわ。こんな力を持ってたなんて」


「精霊様様ね」


「ホンマやわ。一体、どうなってんねん…」


 と、その時…、


「そんな!!?」


 ネレヴィアの声にみんなが視線を向ける。

 すると、ネレヴィアはとある場所を見ていた。

 自然と俺達もそれに視線を向ける。


 と、そこにはヒビの入った水のルーンがあった。


「ルーンにヒビが…」


「嘘でしょ…? 封印魔法も改良して守ってたのに…」


「こんなこと出来るのは一人しかいないやろ…魔王やな…」


「でも、ここは大陸の地下ですよ!? 上から魔法なんて……」


 そう言って上を見上げたリヴィアが絶句していた。

 何に絶句しているのか俺も上を見上げる。

 と、そこに信じ難い、信じたくないものが見えた。

 そこには遥か彼方に小さく見える明かり、空があった。


「どうやら魔王っていうのはウチらが思っとるよりもバケモノみたいやな……」


 これを魔王がやったことは明白だった。

 というより、こんなことを出来るのは魔王しかいない。

 大陸に魔法で穴を開けて地下まで貫通させるなんて。

 誰が予想できただろう。


「ここまで来たのにこうも簡単に壊されると怒りを通り越して呆れるわね」


 ジブリエルが言う。

 と、その時、水のルーンの輝きが一層強くなる。


「っ?! このままじゃルーンが割れてまう!」


 ネレヴィアがそう言うと次の瞬間、水のルーンは弾け飛ぶように散らばった。


「そんな……」


 これで残るルーンは後一つ。

 火のルーンのみだ。

 なんとかしないと本当に魔王が復活してしまう。


「……ネレヴィア様」


「……」


 目の前で砕けたルーンを見て余程ショックだったのかネレヴィアは何も言わない。


「魔王様…こんな力を持ってるなら前に戦った時はどうしてこの力を使わなかったのかしら……それともルーンが壊されたことで力が戻っただけ……」


「どっちにしたってこれからはこれ以上の力を持った魔王と戦わないといけないってことよ。状況は最悪と言っていいわね」


「それでも俺達は戦わないといけない」


「…そうだね」


「わたくしも覚悟は決めています」


「……あなた達…」


 と、その時、


「お〜〜〜〜〜い!!!」


 頭上からガルガンの声がした。

 見上げるとガルガンが武装して落ちてきていた。

 次の瞬間、ドンという音共に地面が軽く揺れる。


「大丈夫か?!」


 いきなり来て早々俺達の心配をしてくるガルガン。


「ああ」


「そうか。いきなりで驚いたがどうなって…」


 そこで砕けたルーンを見たガルガンは絶句していた。


「もしわけありません。どうやら魔王によって水のルーンは破壊されたようです…」


「……そうか。これは魔王が……だとするなら急いだ方がいいな。魔王もルーンを後一つ破壊して復活できるとなれば多少の無理はするだろう」


「そうですね」


 と、その時、精霊達が砕けたルーンへ集まっていく。


「どうかしたの? …もしかして!」


 ユリアが声を掛けると砕けた水のルーンから青色に光る精霊が現れた。


「精霊が出てきた?!」


 驚くリヴィア。


「ルーンって精霊が必ず宿ってるんか?」


「分かりません。ただ、今までは全てのルーンに精霊がいました」


 と、精霊はユリアへ集まり旋回すると次々とユリアの中へ入っていく。

 最後に青に輝く精霊がユリアの目の前でゆらゆら浮遊すると他の精霊同様に体の中へ入った。


「……みんな助けてくれてありがとうね」


 自分の胸に手を当てて礼を言うユリア。


「こんなことってあるのね…」


「そやな。聞いたことないで…」


 驚くリヴィアとネレヴィア。

 すると、


「ネレヴィア様! リヴィア様!」


 慌てた様子で衛兵達が来た。


「ご無事でしたか!」


「なんとかな」


「そうでしたか…っ!? これは…!」


「魔王に破壊されたらしいわ」


「魔王に? では、さっきの黒い稲妻は魔王によるものだったのですね」


「あくまで憶測やけど、こんなことできるのが魔王以外にいるとは思えんやろ?」


「え、ええ…まさか大陸ごと消し飛ばすなんて…」


「みんなを村の広場に集めてくれへん? これからどないするか作戦を練るで」


「はっ!」


 衛兵は慌てて駆けて行く。


「ということやからリヴィア。しばらくは忙しくなるで」


「はい」




 それから俺達も村の広場へ集まった。

 ネレヴィアが今何かあったのか。

 それによってこれからどうするのか。

 という話だ。


 最初は皆困惑していたが状況を把握したのか徐々に冷静になっていった。

 それからの話し合いはいきなりのことなのにすんなりと進んだ。

 皆が意見を出し合い、こうする方がいいとか話し合った。


 結果、多数決で村の復興をしつつ、この場所の守りを固めるということになった。


「ほな、そうしよか。そうと決まれば各々働いてもらうで! まずは代表者が後でウチの家まで来てくれ。そこで打ち合わせをしたら決まったことを各々みんなに伝えてな。ほな、一旦これで終わりや」


 そう言うと皆が去っていく。


「あの空まで空いた穴どないしよか…」


「外気が入ってくるでしょうからここも寒くなるかもしれませんね」


「そうやな。寒さ対策もせなあかんかもな。可愛いからこれ気に入ってたんやけど…」


「家の中なら着れるかもしれないですし、そんなに落ち込む必要はないですよ」


「そうやね。それじゃあ、一回家に戻ろか」


「はい」


 それから俺達はネレヴィアの家へ戻った。

 すると、すぐに代表者が来たのでそのまま会議だ。

 俺達も一応部屋に残ってその内容を聞いた。


 会議の内容は天井の穴による村の警備や外気によっての村への影響などだ。

 天井が外と繋がっている為、飛んでくる魔物がいるかもしれないという可能性がある。

 どうなるかは分からないが問題は山のようにあるだろう。




「はあ〜……久々にこんなに喋ったんと違う?」


「そうですね。村の定期的にある会議ぐらいしか話すことなんて滅多にないですからね」


「ホンマやわ…もう…肩が凝るわ……」


「お茶入れますよ。みんなも飲むわよね?」


「お願いします」


 ということで、俺達は少し休憩することに。


「はあ…癒されるわ〜…」


「そうですね」


「そういえばここってどうやってこういうお茶とか手に入れてるの?」


 ジブリエルが質問する。


「定期的に買い出しに行くんよ。やから、新しいものがあったらみんな群がったりしてな。ホンマに楽しみがそれぐらいしかないからな」


「ふ〜ん。祭りとかはないの?」


「祭りか…そういえば無いな。その代わり子供が生まれたら盛大に祝うで」


「そうなのね」


「子供の誕生はいつになっても素敵なことやろ?」


「ええ」


「わたくしの故郷も子供が生まれたら盛大にお祝いしますね」


「あら、素敵やないの〜鬼族やもんね。ウチも一回行ってみたいな」


「是非いらしてください。わたくしの友人と言えば父がご馳走してくれますよ」


「ホンマに〜? ほな、機会があればお邪魔さしてもらうわ」


「はい」


「そういえば魔人ってどうなん? 子供が生まれたらお祝いとかするん?」


「いいえ。特にお祝いとかはないわ。魔人は戦果を上げてやっと一人前って言われるからその時ぐらいかしら」


「結構厳しいんやね」


「他の種族と比べたらね」


「そやな。みんな色々いい所、悪いところあるよな……」


 ネレヴィアはお茶を飲み一呼吸する。

 と、次の瞬間、


「リヴィア、あんたにお願いがあるんやけど」


「改まってどうしたんですか?」


「ん〜……これをお願いするのは少し酷かもしれんけど、これもこれから先のことを考えれば……リヴィア。あんたにこの子らと一緒に魔王を封印する旅に出て欲しいんよ」


「いいですよ」


「そうよな。だけどな、あんたのその左手にある紋様は昔……今なんて?」


 聞き返すネレヴィア。


「いや、だから、いいですよって」


「ええの?!」


「ええ。あたしもそろそろ外に出て男…世界を見てみたいなって思ってたので」


 淡々と答えるリヴィア。


「あんた今男って…」


「やだわ、もう! あたしがそんなこと言うわけ…」


「男漁りしたいから旅に出たいみたいよ」


「ジブリエル!」


 慌てるリヴィアを尻目にジブリエルがお茶を飲む。


「あら? どうかしたのかしら? 男漁りがしたくて旅に出たいリヴィアさん。旅のついでに世界を救う準備は出来たかしら?」


「……分かった。認める。認めるわよ。もう…! でも、世界はしっかり救うつもりだからお姉さんに任せなさい!」


 そう言って胸を張るリヴィア。

 どうやら言っていることは全部本当らしい。


「もう…本当に困った子やわ…でも、結果的に世界を救う為に頑張ってくれるんやったらそれでええわ。リヴィア、ホンマに頼むで?」


「はい。あたしがウンディーネを代表して必ず役に立ってきます!」


 そう言うリヴィアはとてもかっこよかった。

 いつものおちゃらけた感じとは全然違う。

 こっちが素だったりするんだろうか。


「ということなんやけど、みんなはええか?」


 そう言って俺達に確認をしてくるネレヴィア。

 が、俺達の答えは既に今っている。


「「「はい」」」


 皆がそう答えた。


「そっか…寂しくなるけどこればっかりは仕方ないな。リヴィア、後は任せたで!」


「はい! 任せられたで!」


 そう言うとリヴィアは親指を立ててニコッと笑った。




 この村に来て間も無い俺達だったが、先を急いだ方がいいだろうということになりすぐにここを出発することにした。

 なので俺達はリヴィアの旅の準備の為に彼女の家まで来ていたのだが……。


「これは……無くてもいいか。こっちはいるでしょ…後は…」


 リヴィアが持っていくものを決められずに時間が掛かっていた。


「なあ、色々持って行きたい物があるのは分かるんだが…そんなにいるか?」


 俺は服を選んでいるリヴィアへ聞く。


「何言ってんのよ! いるに決まってるでしょう! 服と化粧は女の武器なんだから。あっ、これもいいわね…」


「そうか…」


「リヴィア。ある程度置いてかんと持たれへんで?」


「分かってますよ」


「ホンマに分かっとるんか…」


「男への執着が彼女をこうさせるのね」


 と、ジブリエルが言うが、


「あら? 忘れたの? あたしはどっちもよ」


「……私はあなたが怖いわよ…」


「う〜ん……あっ! そうだ! いいこと思いついた!」


 どうせろくでもないだろうことは間違いない。

 すると、リヴィアは何かを確かめるようにユリアの全身を見つめる。


「よし。いけるわね」


「あの…一体、何がいけるんですか…?」


 ユリアは恐る恐るといった感じて聞く。

 と、次の瞬間、


「きゃっ?!」


 リヴィアがユリアの胸をいきなり揉み始めた。


「間違いないわ。あたしのサイズとほぼほぼ一緒ね」


「っ……!」


 いきなりのことでユリアは胸を隠すようにリヴィアから離れる。


「ごめん、ごめん。そんなに怒らないで? 一応、胸が大きくなる揉み方したのよ?」


「だからといっていきなりはビックリします!」


「本当にごめんね? 今度からはちゃんと言ってから揉むわね?」


 そういう問題ではないと思うが。


 と、


「リヴィア、そんなことやってたら嫌われてまうで?」


 ネレヴィアが呆れた様子で言う。


「それは嫌」


「そうやろ? だったら少しは大人しくすることやね」


「はーい。仕方ない。少し調整して…」


 それからもリヴィアの服選びは時間が掛かった。




 家の外へ出てここへ来た時と同じ場所へ着いた俺達。


「結局そんなに持ってくんやな…」


 ネレヴィアがリヴィアのパンパンになったリュックを見て言う。


「これだけは譲れないわ。なんとか減らしたんだから何も言わないでください」


「……はいはい。分かりましたよ〜」


 と、次の瞬間、ネレヴィアは手をパンパンと鳴らす。


「何をやってるんですか?」


「くーちゃんを呼んでるんよ」


 あの鯨って手を叩いても来るのか。


「そんなんで来るのね?」


「まだ近くにいる筈やからな。おっ、噂をすれば…」


 すると、鯨が水から勢いよく現れた。

 水飛沫が俺達に掛かり、少し濡れる。


「くーちゃん! 久しぶりやな。元気しとるか?」


「グオオオ〜ン!」


「そうか、そうか。ごめんなんやけど。この子らをシレジット大陸まで届けてくれへん?」


「シレジット? 上までじゃないの?」


 ジブリエルが聞く。


「それでもええけど時間が惜しいからな。少しでも早い方がいいやろ。本当はホーラル大陸に行けたら最高なんやけど、くーちゃんには少し厳しいやろうしな」


「この鯨ってどのぐらい強いの?」


「普通ぐらいやろうな。海の魔物は強い魔物が多すぎて並大抵の魔物やったら普通ぐらいの強さやしな」


「ふ〜ん。この見た目で意外と普通なのね」


 と、そう言うと、鯨は大きく鳴いた。


「この子って人の言葉が分かるの?」


「海の魔物は頭がええんよ。簡単なことやったら分かると思うで」


「凄いじゃない」


「グオオ〜」


「それじゃあ、少し長い旅になるけどくーちゃん。頼んだで!」


「グオオオ〜!!!」


 ネレヴィアに頼まれると鯨は口を大きく開けた。


「それじゃあそろそろ行きましょう」


「そうね。それじゃあ、また会いましょう、ネレヴィア」


「せやね。ジブリエルも元気でな。みんなもまた会おうな」


「はい。お世話になりました」


「邪魔したな」


「ありがとうございました」


「またね。お茶、ありがと」


「どうも」


「それじゃあ、ネレヴィア様。行って参ります」


「うん。任せたで!」


「はい!」


 こうして俺達はリヴィアを新しい仲間に加えて、ホーラル大陸へと向かうのであった。

見てくれてありがとうございます。

気軽に感想や評価、ブックマーク等をして下さい。嬉しいので。

今週は四話投稿します。

この話でソラ達の話は一旦終わりです。

次回は間話です。

そこで一旦、この章を終わりにして次の章を少し間を空けてから始めたいと思っていますのでよろしくお願いします。

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