第百二十四話 リヴィア
「あなた達ここは初めて?」
「はい」
「そうよね。ここにはしばらく誰も来てないものね」
「あの、あなたは?」
「あたしはリヴィア。この村の管理を任されてる警備隊長ってところかしら」
「「「リヴィア!?」」」
俺達は彼女の名前を聞いて驚く。
リヴィアと言えばラーチェルが言っていた友達の名前じゃないか。
それがこんなに早く会えるなんて。
「んっ? どうしてそんなに驚いてるの? あたしの名前ってそんなに変?」
俺達の反応を見たリヴィアが不思議そうに聞く。
「いえ。ラーチェルさんからリヴィアというお友達が居ると思うから会ったら私の名前を伝えてって言われていたので、今リヴィアさんと会えて驚いて」
「ああ、なるほどね。ラーチェルか…懐かしいわね。もうしばらく会ってないけど彼女元気?」
「はい。ラーチェルさんにはお世話になりました」
「そっか」
リヴィアが懐かしそうな表情を見せる。
「あの子と初めて会った時はまだ子供の頃だったからおっちょこちょいな印象だったけど、立派になったのね」
と、リヴィアがそう言うとヒルダがすかさず、
「いえ、立派ですが未だにおっちょこちょいですよ」
悪戯っぽく言った。
「アハハ。あら、そうなの? 相変わらずなのね。でも、あの子と居るとほわほわして癒されるでしょ? マスコットっていうの? ぬいぐるみ、みたいな」
「フフ。昔からぼうっとしているところがありますからね」
「そっか…ラーチェルのお友達だったか。それじゃあ、あたしもそれなりのおもてなしをしないとね」
「そんなお気遣いなく」
「あんまり凄いのは期待しないでよ? あたしができる限りでもてなすわ」
「ありがとうございます」
「そういえば、あなた達どうしてここに来たの? 観光…て感じでもなさそうだけど…」
「……実は私達、魔王を倒す為に旅をしてるんです」
「魔王……それじゃあ、噂は本当だったのね…」
リヴィアは複雑そうな表情をする。
「ここにも情報が来るんですね」
「ええ。定期的に外の情報は入ってくるわ。だから、魔王が復活したかもって情報も掴んではいたんだけど…そっか…まあ、分かったわ。立ち話もなんだし、まずはあたしの家に来て」
「いいんですか?」
「ええ、勿論よ。あなた達の話も聞きたいしね」
それから軽く自己紹介した俺達はリヴィアに案内されて村の中を歩くことに。
「ここは村の中でもかなり外れの方で誰も来ないから見回りをしているあたしみたいな人しか来ないの」
「この村って広いの?」
「まあ、それなりにね」
「あの光ってる水晶ってなんなの?」
「あれは光を放つ煌光石っていう光を放つ石よ。お土産としても人気なんだけどそんなに数が取れないから希少な石なの。盗っちゃダメよ?」
「盗らないわよ」
「そっか。そうよね。盗らないわよね?」
「ちょっと…?!」
リヴィアがいきなりジブリエルに抱き付く。
「いいじゃない。女同士なんだし」
「……あなたどっちでもイけるの?」
「えっ…? どうして分かったの?!」
「「「えっ?」」」
お互い、違う意味で驚く。
今どっちでもイけるって言ったか?
つまり、リヴィアは女の子でもドキドキしちゃう女性ってことか?
だとすると、ユリアとかもその対象になるってことなのか?
と、そんなことを思っていると、
「誰でもいいって訳じゃないのよ? やっぱり可愛い子とかかっこいい子がいいじゃない? だから、本当に誰でもじゃないのよ?」
問題はそこじゃないのだが、リヴィアそれでもそこだけは分かって欲しいのか訴える。
すると、ジブリエルは反論するように、
「でも、私達全員イけるって思ってるなら同じようなものじゃない」
「えっ?」
「「「えっ?」」」
また俺達の反応が被る。
今、俺達全員イけるって言ったよな。
つまり、俺もその対象に入ってるってことだよな。
と、その時、慌てた様子のリヴィアが、
「な、なんであたしのことがそんなに分かるのよ! 心でも読めるわけ?」
ジブリエルにそう言った。
「ええ。私は人の心が読めるの。だから、さっきからあなたがどんなことを考えているのか全部お見通しってこと」
「やっぱりそういうことだったのね……」
リヴィアが不意に笑みを浮かべる。
すると、
「ちょ、ちょっと! あんた何考えてのよ!? この痴女!」
ジブリエルが珍しく狼狽えた様子で言う。
リヴィアは一体何を考えてるんだ?
「思ってることが全部筒抜けなら逆に利用してあげようかと思って。あたしが経験したことを元にあなた達で置き換えてジブリエルに説明してあげたのよ。あなたも興味あるでしょ? そういうことに」
「別に…全く無いことはないけど…とにかく! 変なことを考えるのは止めなさい! いいわね?」
「は〜い。もう、釣れないわね…」
そう言うと今度はシャーロットへ近付くリヴィア。
「な、なによ…」
シャーロットは緊張気味で言う。
すると、リヴィアは舌舐りをしたかと思えばシャーロットの肩に手を置いた。
「ねぇ、どう思う? あたしはただみんなと仲良くしたいなと思っているだけなのに、ジブリエルがバラしちゃうからあたしが悪者みたいじゃない。こっちはせっかく隠してるのに…」
そう言いながらリヴィアはシャーロットの肩を揉み始める。
「なんか、あんたの手つきがいやらしいんだけど…」
「ん〜? そんなことないわよ? それにこんなに可愛い子を触らないなんて損だわ」
「あんたの心情を知ってるから怖いわよ。私は女性に興味はないわよ」
「大丈夫、大丈夫。無くてもその気にさせ…じゃなくて、えっと〜…あなたの美貌にうっとりしてるの。美人だし、スタイルもいいし」
そう言うとリヴィアはシャーロットの顔に手を触れる。
こういう女性同士がそういう恋仲みたいになるのを百合とか言ったっけか?
と、
「勝手に私の肌に触れないの」
そう言ってリヴィアの手を掴むシャーロット。
が、リヴィアはそれを利用して、
「私はいつでも大歓迎よ? どう?」
そう言って自分の胸へシャーロットの手を触れさせた。
「なっ!? なにすんのよ!」
「どう? 柔らかいでしょう? 自慢の胸なのよ?」
ウィンクをするリヴィア。
シャーロットの手が沈んでいるところを見ると確かに本人の言っている通り柔らかいのかもしれないが、それを触らせながら自慢って、普通はしない。
「……」
「もし良かったら血流が良くなって胸が大きくなるストレッチ法があるんだけど知り…」
「教えてもらおうかしら」
「あ…ええ、良いわよ」
食い気味に答えたシャーロットに一瞬戸惑いながらリヴィアは返事をした。
シャーロットも別に小さくないとは思うが、ユリアとヒルダが大きいからな。
もしかしたら気にしてるのかもしれない。
と、そんなことを考えていると、
「あなた達もどう?」
ユリア達へ声を掛ける。
「わ、私は…お願いしようかな…」
「わたくしは大丈夫です。これ以上大きくなっても肩がこりますし、剣を振りづらくなりそうなので」
「あら、随分贅沢なお返事ね。ジブリエルは?」
「私は……まあ、一応お願いしようかしら。でも、変なことしたら怒るわよ?」
「そんなことしないわよ……少ししか…」
「コラ。もう…困ったお姉さんだこと…」
「そんなこと言わないでよ……ねぇ〜お姉さん、悪くないよね?」
そう言ってガルガンの手に触れながら聞くリヴィア。
「お、おう。悪いことはない」
挙動不審のガルガンが言う。
どうやら触られて緊張しているらしい。
というか、リヴィアの距離が明らかに近いのが問題だと思うが。
と、その時、
「ふ〜ん。なるほどね」
何がなるほどなのか、リヴィアはニヤリと笑っている。
なんか既視感があるような……。
「ねぇ、あなたの筋肉凄いわね? それにこんなにおっきいし。普通の人族じゃないわよね?」
「俺は巨人族だ」
「巨人族なんだ。通りで大きいわけだ。筋肉触らせてよ」
「いいが……」
「わあ〜凄〜い! 硬いね〜!」
「まあ、鍛えてるからな」
「そうなんだ。ねぇ、お姉さんをお姫様抱っこしてよ。歩くの疲れちゃったな…」
「ん? 別にいいが…」
と、その時、
「ガ、ガルガン…止めておいた方がいいかも…よ? ほら、えっと…ね? 女性に触れたらヒルダに刀で斬られちゃうかな〜なんて……」
ジブリエルが珍しくガルガンを止める。
いつもなら面白がりそうなもんだが…。
「抱っこしただけで斬られるわけ…」
「そうですよ。何を言ってるんですか、ジブリエル。わたくしは何でもかんでも斬り掛かるような野蛮なことはしませんよ」
ヒルダがニッコリと笑顔で言う。
なんか変だぞ。
もしかして、ヒルダのやつ怒ってるのか?
「……なあ、ジブリエル…ヒルダのやつ、本当に斬らないよな?」
「……私からこれ以上は言えないかも……」
「いや! それ斬られるじゃねぇか!」
「だから、斬らないと言っているじゃないですか。ほら、早くリヴィアのことをお姫様抱っこしてあげたらどうですか?」
と、その時、
「やだ、ヒルダちゃんったら怒ってるの? あなたもお姫様抱っこしてもらいたいならそう言えばいいじゃない」
火に油を注ぐようなリヴィアの発言。
すると、
「結構です…………浮気者…」
ヒルダはそう言って一人先を歩く。
二人に何があったのか分からないが、恐らくガルガンが馬車の時に口説きまくってる筈だからああ言ってるんだろう。
付き合ってたりとかはしないんだよな?
と、
「ま、待ってくれ! おい! ヒルダ! 聞いてくれ!」
ガルガンが慌ててヒルダを追い掛ける。
「あら〜揶揄うつもりがやり過ぎちゃったかな…」
「何してんのよ…」
「だって、私がガルガンに触れたらあの子、怒ってそうだったから、ついからかいたくなって…」
「気持ちは分かるけど…」
分かるなよ…。
「まあ、遅れないように二人を追いましょう。ね?」
「おお…」
今度は俺の手を握って歩き出そうとするリヴィア。
「ふーん。なるほどね。なかなか楽しそうな感じなのね…」
またニヤリと笑うリヴィア。
分かった。
これジブリエルが何かを思い付いた時と同じ顔だ。
どうやらリヴィアも悪戯が好きらしい。
「……あんた、程々にしなさいよ?」
「は〜い! じゃあ行こっか? ね、ソラ!」
「お、おう」
「ユリアとシャーロットもね?」
「は、はい…」
「……」
なんか嫌な予感がするが大丈夫だろうか。
それからリヴィアの家へと歩く俺達。
「だから、俺が愛してるのお前だけで…」
「へえー。そうですか」
後ろでガルガンがヒルダを褒めまくる。
その間、俺達はどうしてるかというと、
「それじゃあ、あなたって機械なの? そうは見えないけど」
「ああ。よく言われる」
リヴィアと会話をしていた。
主に俺が。
抱き付かれながら。
ユリアにこんなところを見られているのは不本意なのだが、リヴィアが俺から離れてくれない。
理由は分かっている。
それは面白いからだ。
絶対面白がってる。
ジブリエルと同じものを感じる。
「こんな精巧な機械なんてあるのね…」
そう言って俺の体を触ってくるリヴィア。
「あなたってそういうことできるの?」
「そういうこと?」
「気になって。機械でもできるのかなって。エッチなこと…とか」
「なっ…?!」
「「っ…?!」」
コイツ完全に痴女だな。
なんてこと聞いてくるんだ。
カリムじゃあるまいし。
「そういう機能は無い。他は別に普通の人と同じだ。これで満足か?」
何が悲しくて好きな人の前で自分の男の話をしないといけないんだ。
答えない方が良かったか?
「ふ〜ん…それは残念ね。でも、ドキドキとかしないの?」
そう言って俺に胸を押し付けてくるリヴィア。
それだけに飽き足らず上目遣いで俺を見つめてくる。
「しないこともないから止めてくれ…」
「え〜どうしようかな〜」
と、その時、
「スト〜〜〜プ!!!」
ユリアが俺とリヴィアを離す。
「あら? どうしたの?」
「どうしたのじゃないです! 近付き過ぎです! それに、なんてこと聞いてるんですか……」
ユリアが恥ずかしそうに顔を赤くしながら言う。
珍しいユリアの反応。
正直、可愛い。
「だって、そういうことするのも人生の楽しみの一つでしょ? みんな奥手過ぎなのよ。もっと攻めないと!」
「リヴィアさんは攻め過ぎですよ!」
「そうかしら?」
「そうですよ」
「でも、攻めないと…取られちゃうわよ?」
「あ〜〜!!!」
リヴィアがまた俺に抱き付く。
この人柔らかいのはそうなんだけどいい匂いするんだよな〜。
と、
「はいはい、そこまでよ。案内よろしく、リヴィア?」
今度はシャーロットが俺とリヴィアを離した。
「あらあら、怒らせちゃった?」
「なんで私が怒るのよ」
「なんでって…う〜ん…それじゃあ…」
次の瞬間、リヴィアが俺の頬にキスをする。
「おいっ?!」
「「あ〜〜!!?」」
「ほらね?」
何がほらねなんだよ。
ビックリしたな……。
「さあ、戯れはこの辺にして、行くわよ」
「ちょっと! あんたどういうつもりよ!」
「やっぱり怒ったじゃない。あなたが嘘つくからよ」
「嘘ついてたわけじゃないわよ! あんたが簡単に限度を超えたのが問題なのよ!」
「はいはい。大好きな彼にキスしちゃってごめんなさいね」
「コラ〜!」
早歩きするリヴィアの後を追うシャーロット。
すると、残されたユリアは、
「……」
なんとも言えない悲しそうな顔をしていた。
俺は悪くないのに心が痛い。
この間、エルフのおまじないをしてもらったばかりなのに。
足りないんだろうか。
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