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第百二十三話 ウンディーネの村

「これ本当に大丈夫なのよね…」


「分かりません。ラーチェルを信じるしかありません」


 俺達が鯨に食べられて数時間が経った。

 たまに鯨の舌が動くのでそれがとても不安を煽るが、今のところは無事だ。

 だが、不安になるのも分かる。

 どうなっているのかも、どうなるのかもよく分からないまま、魔法の光を頼りにただただ立っているというのは精神的に中々疲れる。


「本人は行ったことあるって言ってたし大丈夫でしょう。私疲れたからそろそろ座るわ」


 そう言ってジブリエルが鯨の舌へ腰を下ろす。

 すると、彼女は微動だにせずに複雑そうな表情をし、


「温いわね……」


 そう言った。

 どうやら鯨の舌の温もりに違和感を覚えるらしい。

 生き物の舌の上に腰を下ろすなんてこと一生に何度もあるもんじゃない。

 当然の反応だ。


 すると、それを聞いたユリアが興味深そうにして手を鯨の舌に触れる。


「本当だ。なんか不思議だね…」


 そう言って手で撫でるユリア。

 と、その時、


「グオオオーー!」


 鯨が大きく鳴いた。

 体内にいるからかとんでもない音量だ。


「おい、怒ってるんじゃないか? 余計なことして鯨の口が開いたら水が入ってきて俺達は終わりなんだから下手に動くな!」


 ガルガンはそう言って仁王立ちをしている。


「それはそうだけど、ずっと立ってる気? 何日掛かるかも分からないのに?」


「…そうかもしれないが……」


「そもそもここでご飯を食べたり、生活しないといけないかもしれないんだからある程度のことには我慢してもらわないと。こっちがのたれ死んだら送ってもらってる意味ないもの」


「確かに、それはそうね。私も座ろうかしら」


「おい、シャーロット。お前まで」


「では、わたくしも」


「ヒルダ、お前もか」


 どんどん座っていく俺達にガルガンが不安そうな表情を見せる。

 ガルガンのやつ、意外と心配性なのか?

 まあ、なるようになれだ。


 俺はそう思って座った。


「ソラ…」


「じゃあ、私も失礼して…」


 これでガルガン以外の五人全員が座った。

 座ってみると不思議な感覚だが、暖かくて沈み込むような感覚が癖になりそうだ。

 意外と座り心地はいい。


「お前も座ってみろよ。なんともないから」


「いや…」


 俺がそう言うがガルガンは気が乗らないようだ。

 仕方がない。

 こう言う時はヒルダに頑張ってもらおう。


「ヒルダ、ガルガンが膝枕して欲しそうだぞ?」


「えっ? 膝枕ですか?」


 唐突のことに少し驚くヒルダ。

 すると、


「おい! 俺はそんなこと…」


 ガルガンは俺の言ったことを否定しようとするが、そうはさせない。


「あれ? ガルガンはヒルダに膝枕されたくないのか…そっか、そっか。ヒルダの膝枕は嫌か〜」


 どうだ。かかって来い。


 次の瞬間、


「おい、待て! 誰がそんなこと言った! 膝枕してもらいたいに決まってるだろう!」


 獲物が掛かった。


「あの…あなたは何を恥ずかしいことを言っているのですか…?」


 ヒルダが照れ臭そうに言う。

 嫌がるかとも思ったけど意外とそうでもないみたいだ。

 この二人本当に脈ありなのか…?


「頼む!!!」


 そう言ってガルガンは手を前で合わせる。


「……はあ……いいですよ。でも、あなたは重いでしょうからあんまり長くは出来ませんからね?」


 ヒルダはしょうがなさそうに言う。

 すると、それを聞いたガルガンが目を輝かせながら、


「おお! ありがとう! では、失礼して…」


 そう言ってヒルダの膝へ寝転んだ。

 あれだけ立っていると言っていた人は、今や俺達の中で唯一寝転んでいる。


「俺、今日が命日でいいかもしれない」


「何バカなことを言ってるんですか」


 ガルガンがヒルダに頭を軽くチョップされた。

 すると、その様子を見ていたジブリエルが俺に向かってよくやったと言わんばかりに親指を立てていた。




 鯨に食べられてから一日程が経っただろうか。

 暗いから時間の感覚が分からないが、ある程度長い時間こうしている。

 その間、各々好きに時間を潰したり、みんなでご飯を食べたりした。


「もうかなり移動していると思うのですが、今どの辺りなんでしょうか」


「ユリア分かる?」


「う〜ん…多分だけどかなり移動していると思うよ。馬車で一週間は移動したのと同じぐらいは」


「そんなに移動してるのね。ということは、そろそろ着いてもいいと思うんだけど…」


 と、シャーロットがそう言った瞬間、鯨の舌が少し動いた。


「おお…相変わらず慣れないな」


「奥に落ちないでよ? 胃酸に気を付けてって言ってたし……今思ったけど、なんでラーチェルは胃酸のこと知ってたのかしら…」


 どうして…あっ。


 俺はここでとある仮説を思い付いた。


「もしかして…」


「ラーチェル、多分落ちたのね…」


「「「……」」」


 ラーチェルは本当に抜けているところがあるな。

 まあ、でも、落ちても大丈夫ってことだろう。

 すぐに溶けるってことはなさそうだ。


 と、その時、


「グオオオオーー!!!」


 鯨が鳴いた。


「たま〜に鳴いてるけどどうしてなのかしら」


「さあ?」


 そんな会話をしていると、次の瞬間、鯨の口が少しづつ開き光が差し込んできた。


「なんで口を開けるんだ…」


「もしかして…」


 俺達はいきなりの明るい光に目を細める。

 すると、鯨の口が完全に開いた。


「着いたみたいですね」


「やっとね」


「ど、どんな場所だろう…」


 ユリアが恐る恐ると言った感じで外の様子を見る。

 と、


「うわあ〜綺麗……」


 ユリアは見惚れているような反応をした。

 その反応に気になった俺達も外の様子を見てみる。

 すると、そこには幻想的な景色が広がっていた。


「ここがウンディーネの村なのかしら…」


 俺達がいた場所は大きな洞窟の中のような空間だった。

 壁には光る水晶の光源があり明るく、それが地面にも至る所にある。

 他にも見えている限りで様々な色の珊瑚礁や貝殻が見えている。

 ここは一体どこなのだろうか。

 湖の先にあったということはここは水の中?

 でも呼吸はできているから洞窟みたいなところに着いたということだろうか。


「とりあえず着いたみたいなので降りてみましょうか」


「そうね。シャーロット、お先にどうぞ」


「な、なんで私なのよ!」


 誰も降りようとしない。

 と、その時、


「お先!」


 そう言ってガルガンが勢いよく地面へ飛び降りた。

 すると、ドスンという重そうな音と共に地面を踏んだ。


「ちゃんと地面みたいね」


「ふむ。みんな、大丈夫そうだ。来いよ」


「行きましょう」


「ああ」


 俺達はガルガンに続いて地面へと飛び降りる。


「どうしましょうか。とりあえず歩いてみますか」


「そうね。まずは誰か居ないか探してみましょう」


 と、その時、


「グオオオオー!!!」


 鯨が鳴いた。

 次の瞬間、口を閉じた鯨は勢いよく水の中へと入っていく。


「帰っちゃうの?!」


「帰りはどうするんだ?!」


 そんなシャーロットとガルガンの声など鯨に届く筈もなく、空中に舞った水滴が俺達を少し濡らした。


「帰りのことは後で考えましょう。魔王がここに来れるかは分からないけど、帰れない可能性だって……」


 ジブリエルがそこで話すのを止めた。

 そして、


「誰か来るわ!」


 そう言ってまだ誰もいない方向を向くジブリエル。

 俺達も釣られてその方向へ視線を向ける。

 誰か来るってことはウンディーネってことだよな。

 一体、どんな感じの見た目なんだろうか。

 体にヒレがあったり、エラがあったり、尾があったりするんだろうか。

 でも、尾があったら地面を歩く時に困るか…。


 と、そんなことを考えていると、誰かの姿が見えた。


「第一村人発見ね」


「てことはウンディーネってことよね」


「そう。まあ、まだ分からないけど。でも、ここに来てウンディーネ以外ってないでしょう」


 段々と見えてくるその人。

 近付いてくると女性であることが分かった。

 見た目は人の形だ。

 足が尾とかではないらしい。


 更に近付くと、その女性の体型が分かってきた。

 ヒルダ程ではないが、それに近いぐらい背が高くすらっとしている。

 それに加えて、出るとこは出て、引っ込むところは引っ込んでいる。

 女性の憧れの体型といった感じだ。


 というか、あの人下着みたいな格好じゃないか?


 俺がここから見えている限りだと布の面積が少ない気がする。


「おお…!!!」


 ガルガンが興奮気味に声を出した。

 どうやら本当に布の面積が少ないらしい。

 コイツの反応がそれを示している。


「ふん!!!」


「うっ…」


 ガルガンがヒルダに鳩尾を殴られていると、女性の顔が見えてきた。

 整った顔立ちに青いサファイアのような透き通った瞳。

 髪は銀と青が綺麗に混ざり合った特徴的で綺麗なボブカットだが、後ろはロングヘアで腰辺りまである。

 その人がクスッと笑っていた。


「綺麗な人だね」


「ああ」


「そうね」


 段々と近付いてくると、水着のような服を身に付けていることが分かった。

 それにしても、布の面積が少ないように思う。

 だからだろう。

 だだでさえ理想的な体なのにそれを更に魅力的に強調しているように感じる。


 すると、近付いてきた女性が口を開いた。


「あらあら。くーちゃんが久々に来たと思ったら、女の子が乱暴したらいけないわよ?」


 安心するような綺麗な声で言う女性。

 雰囲気からして大人のお姉さんという感じだが、それに加えて左の唇の下に黒子がありそれが妙に色っぽい。

 その人が悪戯っぽく笑いながら俺達を見ていた。

見てくれてありがとうございます。

気軽に感想や評価、ブックマーク等をして下さい。嬉しいので。

週一から三話投稿予定。

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