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第百二十二話 送鯨

 村長に封印魔法を教わった俺達は家を出た。

 すると、ヒルダとガルガンが模擬戦をやっているところだった。


「ふう…ここまでにしましょう。話は終わりましたか?」


「ええ…まあ…難しいからすぐには出来ないからこれからコツコツ練習していくわ…」


「が、頑張らないとね〜…」


「そ、そうね…アレは慣れが必要だわね〜…」


「? なんかみんな変ですよ?」


 ぎこちない感じのシャーロット達を不思議に思うヒルダ。

 と、村長が、


「これは私の所為なのよ。ごめんね」


 そう言って手を前で合わせて謝る。


「封印魔法はそんなに難しい魔法なんですね」


「えっと…それはそうなんだけど、違くて…」


「ん? 何かあったんですか?」


 ヒルダが歯切れの悪いみんなに代わって俺に聞いてくる。

 どうしようか。

 ヒルダに村長とオルファリオンがそういう関係だったと言ったら怒るだろうか。


「何かはあったんだが、うーんと…」


 と、俺が返答に困っていると横にいたラーチェルが、


「どうやら村長と師匠が熱い…」


 そこまで言って俺がラーチェルの口を塞いだ。


「…? 何をやってるんですか?」


「な、なんでもないよ?」


「怪しい…」


 俺に疑惑の目を向けるヒルダ。

 と、その時、手が温い何かに舐められた。


「えっ?!」


 俺は咄嗟に手を離した。


「私を襲うとは、なかなか覚悟のある方ですね」


 ラーチェルはそう言って腰に挿していた刀を抜いた。


「ちょっと待て! 俺は別に襲おうとした訳では…」


 俺は咄嗟に言い訳するが、


「無駄です。師匠はそう言って私の胸を揉んできましたから。男の人はそうやって嘘をついて言い寄ってきます」


「本当に待ってくれ。あの師匠と同類にされるのは納得できない!」


「問答無用。死なない程度に斬ります!」


「おい!?」


 ラーチェルが刀を抜き、俺に斬り掛かる。

 ヒルダ程ではないが、流石師匠の弟子というところだろう。

 動きに無駄がない。


 俺は仕方ないと青い炎を纏おうとしたその時、


「待った!!!」


 村長がそう言って俺とラーチェルの前に立った。


「なんですか?!」


 ラーチェルは慌てて動きを止める。


「ラーチェル…私が悪いわね。いいわ。ハッキリ言う。私はあなた達の師匠とエッチなことをしました」


「えっ……」


「っ……」


 青弟子と黒弟子は見事に絶句した。


「だって彼が私のことを凄く褒めるんだもの…私だってその気になっちゃうじゃない? だから、この間までここにいた時も暇があれば会ってたし…」


「……嘘、ですよね? 村長?」


「本当よ。一番初めはあなたがこの村に帰ってきた時だから…」


「そ、そんな前から……」


 ラーチェルはショックだったのか刀を鞘に戻してしょんぼりと体を小さくしていた。


「彼れの剣術は誰でも憧れるものでしょ? それで私もやられちゃったっていうか。それに彼ってなかなか上手だからつい私も熱くなっちゃって…」


「あの…」


 今まで黙っていたヒルダが話を遮った。

 そして、


「師匠を"彼"って言うのやめて下さい。なんか生々しいので…」


「ああ…ごめんね?」


 この後、俺達は村長にお礼を言ってラーチェルの家に戻ったのだが、その時の空気はなんとも言えない感じだった。




「では、準備ができたので行きましょうか」


 俺達は村長の家から帰ってくると、ラーチェルが準備をするから少し待っていてと二階に行っていたのだが、背中には大きな荷物を持っていた。


「ラーチェルも着いてきてくれるのですか?」


「はい。じゃないと分からないと思うので」


「それはありがたいのですが、ご家族は?」


「父も母も買い出しに行っていてしばらく帰ってこないので大丈夫です。それにここから一日ぐらい南東へ歩いた森の中なのでそんなに遠くないですから安心してください」


「そうですか。では、お願いします」


「それじゃあ、七人旅と行きましょうか」


「ええ」


「よろしくお願いしますね、ラーチェルさん」


「任せて。森の中は何度も行ったことがある」


 ということで、俺達はラーチェルに案内されてここから南東にあるという湖まで行くことになった。




 次の日の夜。

 雪景色というのはとても綺麗で幻想的な雰囲気がある。

 しかし、それがずっと続いた場合はどうだろうか。

 歩いても歩いても雪景色。

 ここがさっき歩いたところなのか、それとも新しいところなのか。

 思い返してみれば子供の頃に行ってから行っていないと言っていたことをもっと考えれば良かったのかもしれない。

 そう、俺達は迷子になっていた。


「おかしいですね…」


「ラーチェル…それは何回も聞きました。迷ってますよね?」


「……」


「……あの…責めているわけではないんですよ? ただ、もう夜も遅くなってしばらく経ったので眠りませんか? わたくし、眠る時間が短いと機嫌が悪くなるので好きじゃないんですが…」


「それは知っています。本当にあと少しで着く筈なんです」


「…それも何回も聞きました…」


 俺達は数時間、同じような場所をぐるぐると歩いていた。


「私そろそろ休みたいんだけど…」


「私も少し疲れたわ。雪ってこんなに疲れるのね」


 シャーロットとジブリエルが言う。


「……ごめんなさい。私の所為でみんなに迷惑を…」


「そんなことないですよ? 誰にだって分からなくなることはありますよ。同じ景色ですもんね」


 落ち込むラーチェルにユリアがフォローを入れる。

 と、ガルガンが、


「エルフなら行っていない方角ぐらい分かるんじゃないのか?」


 そう言った。

 確かにユリアなら分かるかもしれない。

 すると、


「う〜ん…自信はないけど多分こっちの方かな?」


 そう言ってユリアは指を指した。


「それじゃあ、そっちの方に行ってみて何も無かったら今日はもう休みましょう?」


「そうですね。それでいいですね?」


「分かった」


 ということで話が上手く纏まった俺達はユリアが指差した方向へ進む。




「本当にあったわよ…」


「流石、ユリアね」


「ここだ」


 俺達は氷に覆われたそれなりの大きさの湖に着いた。


「ここからウンディーネの村へ行けるのですか?」


「うん。まずは迎えに来てもらわないと」


 そう言うとラーチェルはずっと持っていた杖とベルが合わさったベルスタックを掲げる。

 何のために必要なんだと思っていたが、今使う為に持ってきたのか。


 と、ラーチェルが掲げたベルスタックを揺らしてベルを鳴らす。

 何処にでもありそうなベルは予想通りの音を奏でる。


「今、何をしたんですか?」


「これで迎えを呼んだんです。朝になる前には来ると思うのでそれまでは休みましょう」


「分かりました」


「こんな変わった行き方をしないとダメなのね」


「外の人はこれじゃないと村には行けないと言っていました」


「ふーん」


「とりあえず飯でも食おう。腹が減った」


「そうだね。今作るから待ってて」


 それから俺達はユリアのご飯が出来るまで好きに時間を過ごした。

 封印魔法の練習や刀の手入れ。

 魔法の勉強に料理を見学する者。

 有意義な時間だ。


 ユリアのご飯を食べた後はラーチェルが呼んだ迎えとやらが来るまで暇だったのでたわいの無い話をして時間を潰した。

 内容は本当になんでもありだった。

 基本的にはラーチェルのことをみんなが聞いて、それに本人かヒルダが答える感じだった。


 後は迎えが来るまで少し休もうということになり仮眠をとることにした。




 そして、そろそろ夜が開けようという時間帯。

 それはいきなりやってきた。


「グオオオオオオオーーー!!!」


 空気が揺れるような鳴き声。

 かと思えば、湖を覆っていた厚い氷が砕ける音もした。

 寝ていた俺達は飛び上がり、状況を確認した。

 すると、そこには額に一本角を生やした大きな白い鯨がいた。


「来た。それじゃあ私はここまで。みんな気を付けてね」


「えっ?! ラーチェルも来てくれるんじゃないんですか?!」


 いきなりの告白で驚く俺達。

 しかし、ラーチェルはヒルダの問いに首を横に振ると、


「私はここまで。帰らないと親が心配するし。それに…」


 そこまで言って急に話すのを躊躇うラーチェル。

 みんなが何を言うのか次の言葉を待つ。

 すると、ラーチェルは口を開いて言った。


「私は私の出来ることをする。村は私が守る」


 その言葉には絶対にやり遂げるんだという思いが感じられた。


「……そうですか。ありがとうございます」


 だからだろう。

 俺達の誰もこれ以上ラーチェルを勧誘はしなかった。


「ううん。頑張ってね、みんな。応援してる」


「「「はい」」」


 と、鯨がその大きな口を開けた。

 食べられるということはこういうことを言っていたのだろう。


「私の友達が居ると思うから会ったら私の名前を伝えて。まあ、伝えなくても大丈夫だとは思うけど」


「分かりました。因みにその友達の名前は?」


 そう聞くとラーチェルは微笑んで、


「彼女の名前はリヴィア。魔法が得意だからユリア達とも話が合う筈」


 そう言った。


「リヴィア…分かりました。それではありがとうございました」


「はい。気を付けて」


 それから俺達は口の開いた鯨の中へと入る。


「これ大丈夫なんだよな?」


 ガンガンが不安そうに言う。

 と、鯨の口が徐々に閉じ始めたまさにその時、


「胃液で溶かされないように気を付けてね」


「「「えっ…?」」」


 笑顔で手を振るラーチェルの顔が見えなくなり、視界が真っ暗になった。

見てくれてありがとうございます。

気軽に感想や評価、ブックマーク等をして下さい。嬉しいので。

週一から三話投稿予定。

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