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第百十話 師匠VS黒弟子?

 全員死んでいた。

 確かに男はそう言った。

 恐らく数百人はいるであろう賊の本隊は全滅。

 一体、誰が。

 何故。

 どうやって。

 そんな疑問が浮かんだ。


 が、すぐにそれは後回しにすべきだろうと思った。

 つまり、この近くに数百人を皆殺しにした者がいるということだ。

 そして、そんなことが出来る者で真っ先に思い浮かんだのは魔王だった。


 だからだろうか。

 俺達は男の言葉を聞いて異常に緊張していた。


「全滅ということか…」


 最初に沈黙を破ったのは族長だった。


「はい…私も何が起こったのか分からず混乱していて」


「ふむ……」


「ねえ…これって…」


 そう言ってジブリエルが俺達へ視線を向ける。

 ジブリエルも思ったのだろう。

 もしかしたらこの森に魔王がいるのではないのかと。


「なんとも言えないわね。この森はセレニス大陸へ向かうには少し遠回りだし」


 シャーロットが言う。

 確かにシレジット大陸からセレニス大陸へ向かうならここは遠回りになる。

 だから魔王ではない、というのは分かる。

 だか、だとすると、こんなこと出来る人物は一体誰なんだ……。


 と、その時、


「っ…! 因みにどうやって死んでいましたか?」


 何かに気付いたのかヒルダが聞く。


「どうやって…斬られていました。バラバラにされた断面があまりにも綺麗だったので…」


「……もしかして…」


「何か心当たりがあるのか?」


 ガンガンが聞く。


「はい。恐らくですが…」


 と、ヒルダがそこまで言って、


「! 誰か来るわ!」


 ジブリエルがそう言って森の方を見る。

 俺達は自然と警戒していた。

 何かあった時にすぐに対応できるように。

 すると、


「怖い思いをさせて悪かったの」


 そう言って森の中から出てきたのは男の老人と獣人の女の子。

 老人は腰ぐらいまである白髪の長い髪を後ろに一つに束ねている。

 ガルガンの髪型に似ているだろう。

 口髭に長めの顎髭。

 長めの眉毛。

 特徴的な薄く紫がかった左目と銀色の右目のオッドアイ。

 ゆとりのある白いマントに身を包み、背はそれ程高くない。

 恐らく女性に人気がありそうな顔立ちだが、その見た目、格好ともに老人という言葉がこの人を表すにはピッタリな言葉だろう。


 そして、その老人と一緒に現れた獣人の女の子。

 赤と紫が合わさったような綺麗な髪色と大きな犬の垂れ耳が印象的な六歳ぐらいの少女。

 身なりはシンプルで黒のフリフリの付いたワンピースを着ている。


 この二人を見た者はそのほとんどが祖父と孫が仲良く手を繋いでいる仲慎ましい場面と捉えるだろう。

 だが、今の状況はそうも言ってられない。

 この二人は村の西側から来た。

 つまり、賊の本隊をやったのは……。


 と、俺はそんなことを考えていた。

 その一瞬だ。

 そう、本当に一瞬。

 たが、この一瞬で見える世界が変わっていた。


「何のつもりだ…」


「それはわたくしのセリフです…師匠…」


 俺達の最後尾にいたシャーロットの前に庇うようにして手を広げながら立っているジブリエル。

 その更に前を今まで以上に紫電を体に纏わせたヒルダが刀を抜き、目の前の老人の刀を止めている。

 そう。

 いつの間にかあの老人が刀を抜き、ヒルダと剣を交えていた。

 全く気が付かなかった。

 何一つ見えなかった。

 瞬きの一瞬で視界に映る情報が変わっていた。


「ヒルダ…久しいな」


「お久しぶりです…」


 ヒルダは冷や汗を流している。

 今確かにヒルダは師匠と言った。

 つまり、目の前のこの老人が前に聞いた剣神、オルファリオンか。

 たが、だったらどうしてヒルダと剣を交えているんだ。

 二人の様子を見るにいつもこうしているようには見えない。

 その様子は本当に殺し合いをしているようだ。

 どうなってる。


「お前には分からんのか?」


「お言葉ですが、言っている意味が分かりません」


「ヒルダよ。この手の震えを見ろ」


「……師匠の刀を持っている手が震えているところを初めて見ました…」


 俺は言われてオルファリオンの手を見る。

 すると、確かに手は震えていた。


「ワシは八十年ぐらいの人生の中で無意識のうちに刀に手が伸びていたことが二度ある。最初はワシが師の元から離れる為に本気で戦った時」

「二回目は数ヶ月前の不気味で膨大な魔力を感知した時」


「「「……」」」


 息を飲むとはこういうことを言うのかもしれない。

 体が何かに押さえつけられているようなそんな感覚だ。


「…そして、これが人生で三回目だ。それも刀を抜かざるを得なかったのはこれが初めてだ。…もう一度聞く。ヒルダ、お前には分からんのか? お前の後ろ、その髪を二つに分けている女の化け物さが」


 ヒルダの後ろにいる髪を分けている女は一人しかいない。

 オルファリオンが言っているのは間違いなくシャーロットのことだ。

 しかし、シャーロットがどうしたというのだろうか。

 そんな手が震える程の何かをシャーロットから感じたということだろうか。


 そう思いシャーロットの方を見れば、本人もなんのことを言っているのかという反応だ。


「…申し訳ありませんが、分かりません」


「……そこにいる女の魔力。尋常ではない。人の形をしているのが不思議なぐらいだ」


「シャーロットが…ですか…?」


「ワシの左目は魔力眼。見た者の魔力を見ることが出来る。魔力自体の見た目は人の形に収まっているがその密度が異常だ。まるで魔力の人間爆弾。その女が本気を出せばこのシレジット大陸の半分ぐらいは消し飛ぶ」


「「「?!」」」


 この場にいた全員が驚いた。

 シレジット大陸は世界で一番か二番に大きい筈だ。

 それの半分ぐらいとなるとライザレンジ大陸は全て吹き飛ぶってことになる。

 それ程の魔力をシャーロットが秘めているとは思わなかった。

 というかそんなことが可能なのか?

 シャーロットはそんなこと一言も言わなかったが…。


「魔力の流れといい、そこの女よ。お前、人間では無いな?」


「……私は…」


 と、シャーロットが話そうとした時、


「師匠。申し訳ありませんが、彼女はわたくしの仲間です。今は事情があってここに立ち寄りました。ここまでにしてもらってもいいですか?」


 ヒルダがシャーロットの言葉を遮って言った。

 恐らく周りにいる獣人族のみんなに配慮してのことなのだろう。

 が、しかし、


「ヒルダ。いくら自分の可愛い弟子でもこればかりは譲れん。その女は危険だ。世界を滅ぼせるだけの力を持っている」


「そうですか……では…」


 ヒルダの紫電がより一層強い光を放つ。


「ワシとやるつもりか?」


「……そうです」


 戦いたくないのだろう。

 ヒルダは苦い顔をする。

 俺も戦いたくはないが、ヒルダ一人に戦わせるわけにもいけない。

 俺も戦わないと。


 俺は全身に青い炎を纏う。

 すると、みんなが武器を構え、オルファリオンへ向ける。


「……ヒルダ。いい仲間を持ったな」


「ええ」


「ふむ。分かった。可愛い弟子の為に手を引こう」


 そう言うとオルファリオンは剣を鞘にしまった。


「師匠、ありがとうございます」


 そう言うとヒルダも全身から紫電を無くし、刀を鞘へしまった。


「話を聞こうかのう」


 オルファリオンは顎髭を触りながらそう言った。

見てくれてありがとうございます。

気軽に感想や評価、ブックマーク等をして下さい。嬉しいので。

週一から三話投稿予定。

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