第百七話 真意
夕食は外で食べることになった。
アロマポークは丸焼きにして豪快に食べることに。
「どうした?」
俺の隣でアロマポークの肉を見つめるだけで食べようとしないヒカリ。
彼女には当事者ということもあり、本当のことを話した。
ショックだったんだろう。
浮かない顔だ。
「私は…この村に居てはいけないのかなとそう思って」
「…そんなことない。どういう理由かはまだ分からないが、あのアパンってやつが勝手にしたことだ。それでヒカリがそんなふうに考える必要はない」
「はい…」
「主役がそんな顔をしてどうすんのよ?」
ヒカリの隣に座っていたシャーロットが声を掛ける。
シャーロットはこういう時に意外と皆のことを見てるんだなと感心する。
「やっと村に帰って来れたんだから、美味しい肉でも食べて少しは元気出しなさい?」
「そうですね。分かってはいるのですが、どうしても考えてしまって…」
ヒカリも見た目は大人に近いが心はまだまだ幼い。
気持ちの整理が難しいのだろう。
「……まあ、私達に任せなさい。あのアパンってやつをどうにかしてあげるから」
「…ありがとうございます」
どうにかする、か。
さて、どうしたもんか。
それから夕食の時間が過ぎて完全に夜になった。
「さて。もう夜になった事だしそろそろ来る頃だと思うんだけど…」
「どうすんの? このままだと私達が悪者にされる可能性だってあるのよ?」
「そうなのよね。もしそうなったらここにヒカリを残していくのもちょっと…ね?」
「ああ」
自分を売ったやつと同じ村に住むっていうのは複雑だしな。
ここはヒカリの気持ちも大事になってくるが、もしここに居たくないのならヒカリを連れていくことも考えないとダメかもな。
と、そんなことを考えているとアパンが一人でやってきた。
「待たせたな。話がある。俺に付いて来てくれ」
「どう思う?」
俺はジブリエルに聞く。
これが罠である可能性は少なくない。
「大丈夫…だと思うわ」
「何かあればわたくしが斬ります」
「まあ、お前達の反応は尤もだが、そんなに警戒するな。何もしない」
ジブリエルがいなければアパンのこの言葉は信じられなかっただろうな。
「ヒカリ。君も付いて来てくれ」
「…分かりました」
それから十分程度歩いただろう。
周りに光源は無く、薄暗い森の中だ。
俺達はアパンに案内されて村の外れへと来ていた。
「ここまでくれば人も居ないだろう」
アパンはそう言うと手に持っていた手燭を地面へ置き、地べたへあぐらをかいた。
どうやらここで話をするらしい。
「では早速だが、お前達は気が付いていると思うがヒカリを誘拐させたのは私だ」
いきなりの告白。
だが、俺達の中でこれに驚く者は一人も居ない。
アパンも俺達のこの反応を見て半信半疑だった考えが確信へと変わったのだろう。
彼は淡々と語り始めた。
「最初に私が誘拐の手引きをしたのはもう遥か昔に遡る。私は毎年のように攫われる村の子供達がいることに怒りと、そして、不安を抱えていた」
それから語られたのは数十年前にとある組織と取引をすることで村の子供達には危害を加えないと共に他の賊から守ってもらうというものだった。
獣人族は一度に何人か出産する者が多く、子供の数は多いらしい。
なのでそれを狙って誘拐を企てる者が後を絶たないらしい。
そこでアパンは誘拐される子供を選んでその組織に売り渡していたらしい。
それによってこの村から子供が誘拐されることを阻止すると共に金銭を得ていたということだった。
「この取引をしてから数年に一度、子供達を誘拐させることで全体的な誘拐の数は大幅に減った。選ばれた子供のことを考えれば申し訳ないとは思うが、生きていけるだけの素質を持った者を選んでいるつもりだ」
「だからって許されることじゃないわよ」
「それは勿論だ」
珍しくジブリエルが怒ってる。
ヒカリの今までのことを考えてのことだろうが、俺だって怒りが募る。
「本当に分かってるのかしら? 上辺の言葉なんていくらでも言えるものね。ジブリエル、どうなの?」
「言ってることはホントよ。だけど、やっぱり許される行為とは思えないわ」
「ああ。私の行動によって命を落とした者も少なくないだろう。死なずともそれと同じような思いをすることも」
「だが、誘拐されて生きていけないであろう子供より少しでも生きる可能性が高い子供を選び、それによって資金とある程度の安全が手に入る」
「私も色々考えた。その結果、私はこうして売る子供を選別し、誘拐させている」
ということは、恐らくヴァイオレッドが誘拐された件も恐らくアパンが関わっているだろうな。
しかし、わざわざ自分の村の子供を選んで、その子供を売るっていうのは一体どういう気持ちなんだろうか。
俺だったら罪悪感で村に居られなくなりそうだ。
「だが、それももう少しで終わる」
「終わるってどういうことだ?」
「私がどうしてわざわざ村の子供達を誘拐させて資金を集めていたのか。それは賊の組織を丸ごと潰せるだけの資金が必要だったからだ」
丸ごとということは誘拐に関わる賊を元から根絶やしにするってことか。
「セレナロイグから賊を全滅出来るだけの討伐隊を組んで貰うつもりだ。勿論我々も手伝うつもりでな」
「それがお金を貯めていた理由ってわけ?」
「そうだ。自分達が渡した金で自らを滅ぼすんだから傑作だろう。勿論この私も例外ではない」
「私はこの件を片付けたら自首するつもりだ。今までの悪行を話し、そして、今まで苦しい思いをした、死んでいった子供達に懺悔する」
「それが私の罪であり、受けるべき当然の報いだと考えている。だから、ここでお前達に騒ぎを起こされるのは困る」
「「「……」」」
それで俺達にこうして話をしてきたわけか。
最初は悪事をバラされそうになって俺達を殺すつもりなのかとヒヤヒヤしたが。
でもそうか、自首か…。
どうしたもんだろうか。
確かにこの男の言うことが本当だとするなら余計なことはせずにセレナロイグの討伐隊を待った方がいいとは思う。
俺達が出来ることなんて限られているからな。
と、その時、
「お前はあの族長の息子なのではないのか? なら、次の族長になるのは普通お前の筈だ。それを捨ててまでしてやると、そういうことか?」
今まで黙っていたガルガンが尋ねる。
すると、
「そうだ。こんな私は族長になるべき者ではない。幸い、私には息子がいる。次の族長はアイツに任せる」
「…そこまでの覚悟が決まってるなら俺からはもう何も言うことはない。最期まで己の行いを振り返り、そして、それを背負って生きることだ。それがお前ができる償いだ」
「……肝に銘じておこう」
アパンは真剣な面持ちでそう言った。
「では、この男はこのままにしておく、ということでいいのですね?」
「う〜ん…そうね。今の話を聞いたら…ね?」
「うん…」
シャーロットとユリアが顔を合わせる。
「偽りはないから嘘の心配はいらないけど…」
ジブリエルがそう言ってヒカリの方へ視線を向ける。
確かに、これから同じ村で過ごすのだからヒカリの気持ちは大事だろう。
と、そう思ってヒカリを見ていると自分を落ち着かせるように深呼吸を一つ、落ち着かせてから口を開いた。
「私はあなたのことを一生許さないでしょう。今だってこの手が刀に伸びないようにするので精一杯です」
「ですが、私はこの村から連れ去られて辛いこともありましたが、それだけでなかったこともまた事実」
「ここにいる仲間や私を気にかけてくれたストライドのみんなと会えました。そして、私自身も成長することが出来ました」
「あなたが本当に自分の行いを背負って生きていくと言うのなら、私はあなたが成すまで目をつぶります」
ヒカリは俺が思っていたより心も大人になっていたのかもしれない。
ヒカリの言葉を聞いて俺は彼女がとても大人に感じた。
会ったばかりの頃は話すことも出来なかったのに、今こうして自分の意見を言って、自分の気持ちよりもこれからの村のことを考えて行動する。
俺が同じ立場だったらできるだろうか。
こんなに成長していたんだな。
「…感謝する」
そう言うとヒカリに対してアパンは深く頭を下げた。
「これで良かったのよね」
「うん」
と、その時、
「なんだ…村の方が騒がしい…」
言われて村の方を見ると明るくなっていた。
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週一から三話投稿予定。