第百話 リヴァームへ
巨人族の村を出て1日目。
俺達は巨人族のみんなに運ばれながらリヴァームへと戻っていた。
最初はイリーナが俺達を運んでくれた。
だが、しばらくした後、他の男の巨人族に交代になった。
イリーナ曰く、ガルガンが増えたことによって一気に重くなったらしい。
「お願いします」
「ああ」
ユリアに男が返事をする。
「今日から大体二日ぐらいだったか。暇だな」
ガルガンが揺れる兜で寝そべりながら言う。
すると、そんなガルガンを見て、
「あのね。これから魔王様と戦うのはほぼ確定してるんだから、そんなリラックスしてないで少しはどう戦うか作戦を考えたりしないわけ?」
シャーロットがイラッとしたのか強めの口調で言う。
「はあ…分かったよ」
体を起こして言うガルガン。
「適当に考えてるフリしてやり過ごすか〜だって」
「は?」
いきなりのことにガルガンがバッとジブリエルの方へ振り返る。
「おい、どういうことか聞こうか?」
立ち上がったシャーロットが指をポキポキ鳴らしながらガルガンを見る。
「どうして俺の考えてることが分かったんだ…」
「私は人の考えてること、心の声が聞こえるのよ」
「マジかよ…」
「マジよ。だから、さっきからヒルダをチラチラ見てやっぱり綺麗でいい体してるな〜っていうのも聞こえてるわ」
「ああ…」
ガルガンは恐る恐るヒルダの方へ顔を向ける。
すると、そこには真顔で刀に手を掛けているヒルダの姿が見えた。
そして、
「シャーロット。わたくしも加勢しますよ」
そう言ってヒルダが立ち上がった。
「あらそう? それじゃあ、手伝ってもらおうかしら」
「分かりました」
「……」
ガルガンが俺に助けて欲しそうな顔を向けてくるが、正直俺は関わりたくないので知らないフリをする。
「さてと。今ならまだ間に合うわよ?」
「どうしますか?」
「っ…」
自分の目の前で腕を組むシャーロットと真顔で刀に手を掛けているヒルダを見て冷や汗をかくガルガン。
「ほら、早く謝っちゃいなさいよ」
「……なんか色々すみませんでした…」
ジブリエルに促されガルガンが軽く頭を下げた。
「なんか母親と妹に怒られてる兄みたいだね」
「そうですね」
「言われてみたら確かにな」
まあ、ガルガンも今回のことで懲りてしばらくはしっかりとするだろう。
「仲間が増えて賑やかになってきたね」
「ああ」
最初は二人だけだったんだけどな。
仲間が増えると毎回そう思ってる気がする。
「今回は許します。ですが、次はないと思ってください」
「ああ…」
「よかったわね」
どうやら許されたみたいだな。
と、その時、
「でも、俺のことだからすぐに自然と目が体に行くんだよな、ってことらしいわよ」
あ〜あ。
これアレだな。
ジブリエルが面白がってるな。
「おい!」
「なるほど…やっぱりダメみたいですね。一度斬りましょう」
そう言ってヒルダはガルガンに刀を向けた。
「ちくしょう! しょうがないだろう?! お前が魅力的なのが悪いんだ!」
ガルガンの逆切れ。
これにはヒルダも怒るかと思ったのだが、
「……まあ、気を付けることですね」
ヒルダはそう言って刀を鞘へしまった。
心なしかヒルダの声音が上擦っていたような気がする。
もしかして褒められて照れたのか?
ヒルダは案外そういうところがあるからな。
「ふう…危なかった…」
「ほんと。危なかったわね〜」
ジブリエルは満足そうなニヤニヤ顔を浮かべていた。
次の日。
俺は気になっていることを改めてみんなに聞こうと思い、まずはユリアへ話し掛けることにした。
「なあ、ユリア。聞きたいことがあるんだけど」
「ん? 何?」
「確か、二千年前に魔王を封印したのってブリキッドだったよな」
「うん」
「ユリアだったら何か知ってることがあるんじゃないかなと思って」
「私が? う〜ん……特に何か聞いたって覚えはないかな」
「そうか…」
ユリアだったら曽祖母から何か聞いてるかと思ったんだけどな。
もしかしたら、フィーベルならブリキッド本人から何か聞いてたりするんだろうか。
「分かった。ありがとう」
「うん。力になれなくてごめんね」
「いや、そんなことないよ」
俺はユリアにそう言って次の人物の元へ。
「なあ、ジブリエル。聞きたいことあるんだけど」
「ん? 何よ?」
「魔王が使っていた重力を操る魔法があっただろ?」
「うん」
「アレってどういう魔法なのか分からないのか? どの属性に属するとか」
「う〜ん。私も初めての魔法だったからね…でも、自分で喰らった感じあの魔法は今までのどの魔法とも違う気がするのよね。強いて言うなら重力魔法、みたいな感じかしら?」
「ふ〜ん…重力魔法か…」
今までのどの属性にも当てはまらない魔法。
そんなのが他にもある可能性があると思うと対策をしようにもどうやってすればいいのか決めれないな。
「魔力を使ってることは間違い無いと思うから、どうやってあの魔法を発動しているのかさえ分かればなんとかできるかも」
「そうか。分かった。ありがとう」
「ええ」
それから俺は次の人物の元へ。
「ヒルダ、今いいか?」
「はい」
「俺達が喰らったあの”水影”って剣術について聞きたいんだけど」
「アレですか。申し訳ないですが、あの剣技について私は何も知りませんよ?」
「ふむ。なら、何か気が付いたことはないか?」
「気が付いたことですか? …そうですね。前にも言いましたが、あれはカウンターの剣技だとは思います。そこで少し考えてみたのですが、もしかしたら”水影”と言っていたあの技は静流剣の一つかもしれないと思っています」
「静流剣?」
「ええ。カウンターを基本にしている剣の技です。ヒカリに今教えている剣術ですね」
「なるほど」
最近ヒカリが剣をヒルダから学んでいるのは知っていたが静流剣という剣術を教わっていたのか。
「師匠に聞けばもしかしたら知っているかもしれないのですが…」
「師匠って今どこにいるか分かってるのか?」
「いいえ。師匠は今もどこかを旅してるのと思いますから、誰にも分かりません。剣の技術は本物なのでそれが噂になったりすればもしかしたら居場所が分かるかもしれませんが、まあ、会うのは無理でしょうね」
「う〜ん、そうか」
「お役に立てずに申し訳ないです」
「いや、そんなことない。ありがとう」
俺はそう言って最後の人物の元へ。
「なあ、シャーロット」
「ん? 何よ?」
「魔王について聞きたいことがあるんだけど」
「魔王様? 何よ?」
「シャーロットが知っている魔王と戦った魔王には少し違いがあるみたいだったからそこら辺のことをシャーロットはどう思っているのかなと思って」
「う〜ん、そうね…確かに違いはあったけど、あれは魔王様で間違いない思う」
「そうか…」
だとすると、魔王は戦い方に少し違いはあれど基本的には昔から知っている魔王ってことか。
でも、だとすると、気になることがある。
あのクライシス神聖国のキリコの黒い右手。
アレは一体なんなんだろう。
勿論、シャーロットが気が付いていない、知らないだけで魔王の仕業という可能性はあるが…実際のところは魔王本人しか分からないからな。
「でも、あの黒いモヤってなんなのかしらね。魔王様だけじゃなくて使い魔たちにも影響が出てるし」
「そうだな」
分からないことばかりだ。
「私も色々考えてはいるから何かあったら教えるわ」
「ああ。分かった」
俺はそう言って自分が座っていた場所まで戻ってきた。
結局、魔王に関しては分からないことだらけってことになってしまった。
魔王が封印されてから二千年も経過してるからな。
情報が現在まで伝わってないのかもしれない。
「ソラさん」
と、俺が座って考えているとヒカリが話し掛けてきた。
「どうかしたか?」
「いえ、なんだかみんなに話し掛けていたのでなにかあったのかなと」
「いや、そういう訳じゃない。ただ、気になっていたことをみんなに聞いて回っていたってだけなんだ」
「そうだったんですか。お疲れ様です」
「このぐらい大丈夫だよ。それにリヴァームに着くまではどっちにしろ暇だしな。あ、そういえば、ヒルダから聞いたんだけど今静流剣って剣術を学んでるんだって?」
「はい。ヒルダさんに教えてもらってます。最近は静流剣の戦い方にも慣れてきて新しい技を教えてもらっているところです」
「へえ。それはよかったな」
「はい。早く強くなりたいです」
「そうか」
最近のヒカリは元気もあって何も心配することはないと感じている。
新しい技も教えてもらってるみたいだし、これからヒカリがどんな風に育っていくのか楽しみだな。
明日にはリヴァームに着くだろうから、それまでは魔王とどうやって戦うか色々と考えておくか。
見てくれてありがとうございます。
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今回でソラ達の話は一旦終わりになります。
今週は後3話、間話を投稿して四話投稿予定です。
そこまで投稿したら一度完結済にしてもう一つの作品を書こうと思っています。
なのでこの続きを書くのは数ヶ月(十二月には投稿したい)後になると思います。
それまで待ってもらえると嬉しいです。