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第九十九話 小さな巨人

 次の日の朝。

 俺達は再び村長の家へ来ていた。


「さて。早速だが、これからのことについて話していこうと思う」


 村長がそう話を切り出した。


「そなた達にはウンディーネのところへ行ってもらうという話をしたと思う。そこで我々はその真逆。ホーラル大陸のサラマンダーの元へ向かおうかと思っている」


 なるほど。

 確かにその方が効率がいいだろう。


「そこでイリーナよ。リヴァームにいるパメラとルドナと合流してサラマンダーの元へ向かって欲しい」


「私達がですか?」


 イリーナは驚いている。

 どうして自分がって反応だ。


「ああ。負傷した者達の看護とそれによって村の警備をしなければならん。それに戦力を整えるのに出来るだけ男の手が欲しい。子供達は何人か新たに戦士を向かわせるので安心してくれ」


「…分かりました」


「ふむ。苦労をかけるな。向こうへ着いたら魔王のことと今回のルーンのことを話せば力を貸してくれる筈じゃ」


「必ず伝えます」


 イリーナの言葉は力強かった。


「そなた達も、くれぐれも気を付けてくれ」


「ああ」


「ええ」


「ふむ。後はガルガンじゃな」


 ガルガンとは昨日から一度も会ってない。

 俺達と一緒に来るのかすら分からない。

 彼は一体どうするつもりなんだろうか。


 と、その時、家の扉がバンと音を立てて勢いよく開いた。

 全員が扉の方を向く。


「待たせたな。お前達の旅。俺も着いていくぜ」


 そこには武装したガルガンがいた。

 背中には大きめのリュックと戦いで使っていた両手斧が見える。


「あんた…あんまり乗り気じゃないように見えたけどいいの?」


「ああ。俺も最初は行く気はなかったんだがな」


「ガルガンよ。行ってもらえるのは頼りになるが、中途半端な覚悟で付いていっても邪魔になるだけだ。お前はそれが分かった上で付いていくと、そう言っているのか?」


 村長は鋭い眼差しでガルガンを見る。

 と、


「そうだな。俺には正直言って世界を守ろうとかそういう大きなことを言えるぐらい覚悟を持っているわけじゃない」


「それでは…」


「だが。俺は少なくともこの村のみんなぐらいは守りたいと思っている。もし、魔王が復活することでそれが脅かされるって言うなら、俺が自分の命を犠牲にしても魔王と戦う理由にはなる」


「……」


 村長は何も言わない。

 理由は少し村長の考えていたものとは違ったんだろうが、ガルガンはガルガンなりに理由を見つけて戦おうとしてくれている。

 それを村長は分かっているのだろう。


「ジジイ、俺はこの旅で自分の使命を見つけてくる。戦士として成長してくるつもりだ」


「……分かった。お前がそこまで言うならこれ以上は止めぬ。死ぬなよ、ガルガン」


「ああ。ジジイもくたばるなよ」


「ふん。余計なこと言いよって」


 この遠慮のない会話を聞いているとこの二人の仲の良さが分かる。


「ということで、急なことだがこれからお前達と一緒に旅をすることになったガルガンだ。改めてよろしく頼む」


 そう言われた俺達は顔を合わせ、


「こちらこそ、よろしく頼むよガルガン」


「前衛が増えたわね」


「そうですね」


「いじり甲斐がありそうね」


「ジブリエルさん…」


「…よろしくお願いします」


 各々そんな反応をした。

 これでガルガンが仲間に加わって七人旅だな。


「ガルガン! これから一緒に旅をしていくんだ。あまり困らせるなよ?」


「ああ。言われなくても分かってるよ!」


「本当かね。ガルガンはいつも適当だからな」


「そういうお前はいつもうるさいな」


「は?」


「なんだよ?」


 イリーナとガルガンが睨み合っている。

 二人の間に見えない電気がバチバチと打つかり合ってそうだ。

 すると、


「これこれ。その辺にしておきなさい」


 二人を見兼ねた村長が仲裁に入った。


「……分かりました」


「ふん。今回は許してやる」


「なっ…!」


「さて。旅に出る前に、話は変わるが、シャーロット。お前に聞きたいことがある」


「…?」


 いきなり言うガルガン。

 しかし、その表情は真剣そのものだ。


「お前、人間じゃないな。それも多分、魔人だろ?」


「っ…?!」


 そういえば言うタイミングがなかったから言うのをすっかり忘れていた。

 今更言ったって言い訳みたいになる。

 こうなるなら最初に言っておくべきだったな。

 イリーナが事前に知ってるからそこまで状況が悪くなるとも思えないが…、


「ガルガン。シャーロットは敵じゃない」


 イリーナが俺達を庇ってくれた。


「普通、魔王に様は付けない。魔王”様”と言った時、少し違和感を覚えた」


「それは…」


 シャーロットは少し動揺している。

 どうやって場を治めようか。

 と、そんなことを考えていると、


「今、ガルガンが言ったことは本当か?」


 村長がシャーロットを鋭い視線で見る。

 まずいな。

 状況がよろしくない。


「確かに、私は魔人です。でも、この平和な世界を守りたいという気持ちは本当で…」


 と、シャーロットが必死に訴えようとした時、


「まっ、お前が魔王の仲間ではないってのは今までの行動で分かってたんだけどな」


「へっ…?」


 ガルガンが言った。


「これもこれから仲間としてやっていく為の戯れだよ」


「……」


 シャーロットは目を細めてガルガンを見ている。

 ふざけんなって顔だ。


「まあまあ、そう怒るなよ。俺はお前のことを認めてる」


「……ふん!」


 あ〜あ。シャーロットが怒っちゃった。


「ジジイも気付いててあんなこと言ったな?」


「ハッハッハ。まあな」


 こういうところは流石祖父と孫。

 血が繋がっている感じがする。


「もう…心臓に悪いことしないでくれよ」


 イリーナが疲れたって顔をしている。


「悪かったよ」


「…なんとかやっていけそうだな。皆、これから大変だとは思うが頼む」


 そう言って村長は頭を下げた。


「「「はい」」」


 俺達はその村長に応えるように返事をした。


「うむ。もう少し経ったらリヴァームへ向かう戦士達が来る筈だ。それまでここで待ってくれ」


「分かった」


「少し時間があるみたいだし、今のうちに魔王について知ってることを教えてくれよ」


「そうね。私も少し気になることがあったし、共有しておくわ」


 気になることか。

 なんだろうか。


「私は戦闘が始まったら魔法を使ってこっちの様子を窺ってくると思ってたの。でも、魔王様はいきなり剣で襲ってきた。私が思ってるよりも近距離戦で戦う必要がありそうだわ」

「でも、かと思えば、戦いの中で守護魔法はよく使ってた。それに途中、私がユリアを庇った時も多分何かの魔法だったし…私が知らない剣の技もあった」

「なんか私が知っているより魔王様の使える魔法や技が増えてるわ」


 だとすると、対策が立てれないな。


「私に使ってきたあの重力を操る魔法。見たことも聞いたこともなかったわ」


 ジブリエルが喰らってた魔法って…確か、なんとかグラビティみたいな魔法だったっけ。

 確かに重力に関係する魔法かもしれないな。

 でも、それって俺が知ってるどの属性の魔法に当たるんだろうか。

 風魔法とも少し違うし…後でそこら辺のことも聞こう。


「それで言うと、わたくしも吹き飛ばされた技は知りませんでした。カウンターの剣技であることは間違い無いのですが…」


 ふむ。

 ヒルダが知らない剣術か…。

 俺も吹き飛ばされたけど、剣を薙ぎ払うタイミングは完全にズレていた。

 それでも俺達は吹き飛ばされていたからそういう剣術だとは思うんだが…なんか誰も知らないような技や魔法を魔王は多く持っているみたいだな。


「なあ、シャーロットはそこら辺のこと知らないのか?」


「残念だけど知らないわ。私は魔王様とずっと居たわけじゃないし、どちらかというと戦闘も避けていた方だったから」


「そうか…」


 まあ、仕方ないな。


「次に魔王と戦う時はそこら辺のことを警戒しながら戦わないといけないのが面倒だな」


「そうね。警戒しておいて損はないわ」


 そうだな。

 次に魔王と戦うまでに戦い方を考えておこう。

 と、そんなことを考えていると、


「最後の魔王の手にヒビが入ったのはなんだったのかな?」


 ユリアが言う。

 あの時の魔王の右手にできたヒビ。

 そのヒビからは光が漏れていた。

 なんか魔王自身も驚いていたみたいだし、もしかしたら封印から無理矢理出てきたことによる副作用かもしれない。

 それでもあの強さってのが困りものなんだよな。


「私もあれは見たことも聞いたこともないからなんとも言えないわ。もしかしたら、封印に詳しいノレイド族なら知ってるかもしれないけど…」


 ノレイド族か…。

 確か前に聞いたことあったな。

 あれはヴァイオレッドと話していた時に聞いたんだったか。


「ノレイド…確かセレニス大陸に住んでるんじゃなかったか? ちょうどいいじゃないか」


「そうなのか?」


「ええ」


「うむ。ここを出る前に伝えようと思っていたが都合がいい。ウンディーネのところへ向かうには特定の方法でないと行けないと聞いていた。セレニス大陸に長く住んでいるノレイド族ならその方法も知っているかもしれん」


 と、村長が言う。

 特定の方法ってなんだろうか。


「特定の方法ってなんなんですか?」


 ユリアが聞く。


「詳しいことは聞かなかった。なんでも我々にはウンディーネの村へ行くのは無理だと言われたものでな」


 つまり巨人族だと無理ってことか。

 でも、それだとガルガンはどうなんだろうか。

 種族的に無理なものなのか、それとも単純に大きさとかの問題なんだろうか。


「セレニス大陸に着いたらノレイド族の元へ向かってくれ」


「分かったわ」


「ノレイドですか…もしかしたら、ラーチェルに会えるかもしれませんね」


「ラーチェル…」


 確かヒルダとヴァイオレッドの妹弟子だっけ。


「ヴァイオレッドさんから少し聞いたことあったよね」


「ああ」


「会えるなら久々に会いたいですね」


 ラーチェルとの思い出を思い出しているのかヒルダの表情は物静かだ。


「ふーん…それじゃあ、これからの予定はセレニス大陸に向かってノレイド族に会うってのが第一目標ね」


「ああ。そこでウンディーネに会う為の方法とか水のルーンについて聞いてみよう」


「そうだね」


「よし。決まりだな」


 こうして、これからのことを話し合った。


 それから少しして巨人族の男達がきたので家の外へと出た。


「では、頼んだぞ」


「「「分かりました」」」


 村長へ男達が返事をする。


「うむ。それでは、皆も頼んだぞ」


「「「はい」」」


 俺達も村長へ返事を返す。


「それじゃあ、行くか」


「ああ。私達が運んであげた方が移動が早いだろうからみんな協力してください」


「分かった」


 それから俺達は巨人族に運ばれてリヴァームへ向かったのだった。

見てくれてありがとうございます。

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