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第九十六話 魔王(中編)

「『ダークライトニングボルト!』」


 シャーロットの黒い稲妻が魔王へ迸る。

 しかし、


「ふん。それがお前の答えか」


 シャーロットの魔法は魔王の守護魔法によって消し去った。

 魔法名は言っていない。

 さっきもそうだった。

 もしかしたら魔王の魔法の扱いは俺達の想像を超えているのかもしれない。

 もしくは魔力の量が多過ぎて気にしていないか。

 どちらにしろ、警戒しなければならないのは確かだ。


「『ダークライトニングボルト』」


 と、今度は魔王が魔法名を言い魔法を放った。

 それは確かに『ダークライトニングボルト』の筈だった。

 しかし、魔王が放った魔法はシャーロットの魔法とは比べ物にならない程大きく、速く、強力な魔法だった。

 これが本当に同じ魔法なのだろうか。


「今のはほんの挨拶だ。巨人共が来る前に終わらせるとしよう」


 魔王のその言葉に俺達は気を引き締める。


「きます!」


 ヒルダのその声が発せられた瞬間、魔王が動いた。

 シャーロットと話をして、魔王の行動はいくつか予想してある。

 まずは面倒なヒルダを狙ってくる場合。

 次に魔法を使うユリアやジブリエルを狙ってくる場合。

 そして、最後に俺達の中で一番弱いヒカリを狙ってくる場合だ。


「よく間に合ったな」


「ある程度予想してたからな」


 魔王が狙った人物。

 それはヒカリだった。


「その獣人族の娘を殺せば動揺が生まれ隙ができると思ったが、分かりやす過ぎたか。こうなるならあのエルフの娘を狙うべきだったな」


「くっ…!?」


 魔王の大剣を受け止めている俺の体が地面へ少し沈む。

 明らかに人間の力ではない。

 これが魔王の力なのか…。

 魔力も筋力も桁外れだ。


 と、その時、魔王の背後に紫電の姿が見えた。

 ヒルダだ。

 彼女は魔王へ背後から刀を斬り付ける。


「速さは十分。しかし、やはり女は力が足りぬな」


 魔王はそう言って大剣でヒルダの刀を受け止めた。


「わたくしは女だからと言われるのは好きではありません」


「ふん。事実を言ったまで」


「はああああ!!!」


 ヒルダの刀を止めることで動けるようになった俺が魔王へ右拳を殴り付ける。

 しかし、その瞬間、魔王が左の掌を俺の右拳へ向けた。


 何かしてくる。


 すぐにそう分かったが遅かった。

 魔王は左の掌から炎の弾をいくつも俺の右拳へ放ってきたのだ。

 その威力は凄まじく、一弾当たる毎に俺の拳の勢いがなくなっていくのが分かった。


 が、ここで攻撃を止めるわけにはいかない。

 俺は構わず右拳を魔王へ伸ばした。


「『カオス・インパクト!!!』」


 自然と右拳から大きな青い炎が燃え上がる。

 そして、


「くっ…?!」


 威力は弱まったものの、魔王の脇腹へなんとか一発拳を入れることに成功した。


「よし」


 拳に少し鈍い感覚があった。

 もしかしたら右手がかなり損傷しているかもしれない。

 でも、初めて魔王に攻撃を当てることができた。


「まさかあの状態で攻撃してくるとはな。だが、その右手は使い物にならんぞ?」


 俺は自分の右拳を見る。

 確かに酷い状態だ。

 皮膚が焼け焦げて黒い灰になり、ミント大橋の時に見た鉄の骨が見えている。

 だが、


「『ロード・コアドライブ』」


 俺は『再生』の青い炎へ性質を変化させた。

 すると、見る見るうちに俺の右拳は治癒していく。

 と、そんな俺の様子を見た魔王が、


「分からぬ。我の知らぬもの…魔法か、それとも別の何かか。二千年の間でできたものか…」


 そう言いながら俺の方を見て考え事でもしているようだ。


「今のうちにみんなで叩くぞ!」


 イリーナの声だ。


「分かりました」


「はい」


「ええ」


「やりましょう」


 みんながそれぞれ魔王へ攻撃を仕掛ける。

 まずは、イリーナとヒルダ、俺が走り出す。


「『ライトニングボルト!』」


「『ダークライトニングボルト!』」


 俺達が走り出すと同時にユリアとシャーロットの白と黒の稲妻が魔王へ放たれた。

 しかし、魔王はその二人の魔法を最も簡単に防いだ。

 やはり魔法攻撃はあまり有効ではないのかもしれない。


「『祝福の舞』」


 ジブリエルが宙を舞って光る粒子を俺達に掛けた。

 すると、その瞬間、体が少し軽くなった気がした。

 なんかいける気がしてくる。


「支援魔法と同じ効果がある筈よ!」


 なるほど、だからか。

 ジブリエルは魔王へは魔法が効果がないと思って俺達を強化することにしたのだろう。

 後は俺達がその期待に答えるだけだ。


「『刹那の太刀!』」


 魔王へ最初に攻撃を仕掛けたのはヒルダだった。

 彼女の刀が目にも留まらぬ速さで魔王へ迫った。


「っ…!」


 これに魔王は反応して大剣で防いだ。

 しかし、今までの時とは明らかに違う。

 魔王がギョッと驚いたような反応をしたのだ。


 そして、更に追撃が魔王を襲う。

 イリーナがその大きな剣を魔王へ振り下ろしたのだ。


「くっ…」


 魔王の声音には焦りが感じられた。

 が、流石は魔王というべきだろうか。

 魔王はイリーナの剣を防いだ。

 しかも、持っていた大剣ではない。

 何か薄い琥珀色の壁のようなものが見えた。

 もしかしたら物理的な攻撃を防ぐことのできる守護魔法なのかもしれない。

 今までそういうのは見たことがないが、魔王ならばそんな魔法を使ってきてもおかしくない。


 ヒルダの猛攻に、イリーナの巨体から振り下ろされる剣。

 かなりこちらが攻めているように思えるがまだ足りない。


 そこで最後に俺が魔王へ攻撃を仕掛ける。

 俺は両拳に青い炎を集める。

 連続で魔王を攻撃する為だ。


 俺はヒルダとイリーナの攻撃を防ぎながら戦う魔王の隙を狙って次、また次と拳を振るう。

 これで三対一。

 ここまで来ると流石の魔王も苦しいのか今までのような余裕は感じられず忙しなく守りに徹していた。


 これはいけるかもしれない。

 あの魔王を倒せるかもしれない。


 そう思った。

 が、しかし、それは唐突に起こった。


「爆ぜろ!」


 魔王がいきなりそう言った。

 俺達三人と戦いながら意味のない言葉を呟くとは思えない。


 何かある。


 そう思った。


 と、同時に俺はあることに気が付いた。

 それは魔王の視線だ。

 俺を見るでもなく、イリーナを見るでもなく、ヒルダを見るわけでもない。


 何かがおかしい。


 そう思って魔王の視線の先を辿るとそこには一人の女性が立っていた。

 銀色の長い髪に青い瞳を持つエルフ族の女性。

 ユリアだ。

 そこにはユリアがいた。


「ユ…」


 俺は自然と声を出し、伝えようとした。

 手も勝手にユリアの方へ伸ばしていた。


「……」


 俺の目にはユリアが不安そうな顔をしているのが見えた。

 俺がいきなりユリアのことを気にしたから戸惑っているのかもしれない。

 でも、そんなことより逃げてくれ。

 俺はなんの根拠も確信もないがそう思った。


 と、その時、ユリアを押し倒しながらその場を離れようとする一人の女性がいた。

 シャーロットだ。

 彼女が異変に気が付いたのかユリアを庇ったのだ。


 次の瞬間、ユリアの居た場所が突然爆発した。


「これは…」


「なんだ?!」


「ユリア!?」


 煙で今の状況がよく分からない。

 心臓がドキドキする。

 もしかしてユリアは今の爆発で…。

 そう思うと怖い。


「『サイクロン!』」


 空を飛んでいたジブリエルが風魔法で煙を飛ばす。

 すると、ユリアに覆い被さったまま倒れているシャーロットの姿が見えた。

 シャーロットの背中はさっきの爆発の所為で服が燃え、火傷している肌が少し見えている。


 まさか……。


 俺は胸がキュッと締め付けられるような感覚に襲われる。


 もしかしてシャーロットは死んでしまったんじゃ……。


 そう思った。

 しかし、


「私なら大丈夫…」


 シャーロットの声が聞こえた。

 しかし、安心したのも束の間。

 俺の後頭部に鈍い感覚が走った。


「あ、れ……?」


 俺の視界がだんだんと傾いていく。

 ぼうっとして視界がぼやける。

 見にくい。


「ソラ!」


 ヒルダの声が聞こえる。

 どうやら俺は地面へ倒れたらしい。


「次だ」


 魔王の声が聞こえた。

 そこからは意識が朦朧として全てを把握しきれなかった。

 俺の次に狙われたのは多分、ヒルダだったと思う。

 ヒルダと魔王の一騎討ち。

 結果は魔王がヒルダに魔法と蹴りを入れて魔王の勝ちだったと思う。


「次」


 魔王が次に狙ったのはイリーナだ。

 どうやら先に前衛を潰すつもりらしい。

 三人で魔王を相手していた時は戦えていたが、一人になったイリーナは抵抗虚しく負けた。


「次」


 次に狙われたのはジブリエルだ。


「久しいな、妖精族の娘よ」


「そうね…」


 そんな会話をしていたのを覚えている。

 それからすぐに戦いが始まり、途中の、


「『……・グラビティ』」


 という何かの魔法が決め手となってジブリエルは負けた。


「次」


 次に狙ったのはユリアだ。


「自らを犠牲にし、私を庇ってくれたかの者の傷を癒やし、再び立ち向かう力を『ハイヒール!』」


 そう言うとシャーロットの背中の傷が一瞬で治った。


「やはり回復魔法を使うか」


「……」


 魔王が大剣をユリアへ向ける。


「ふん。分かるぞ。あの時、恐怖したことを思い出しているのだろう。そういう目をしている」


 と、その時、


「はああああ!」


 ヒカリが魔王へ斬り掛かった。

 しかし、魔王はその攻撃を軽々しく躱す。


「死にたいか? 獣人族の子よ」


「…私はもう守れないのは嫌なんです!」


 そう言って普通の剣よりやや刀身が短い剣を構えるヒカリ。

 その手や足は少し震えているように見えた。


「何があったかは知らんが、我の邪魔をするのならばここで死ね」


 そう言って魔王はヒカリへ大剣を振り下ろした。

 ヒカリは剣を構えてはいるが実力に差があり過ぎる。

 このままだと…、


「っ…!!!」


「ヒカリちゃん!」


 ユリアの声が響いた。

 次の瞬間、魔王の大剣の太刀筋通りに地面が斬れた。


「っ……」


「ふむ……」


 しかし、ヒカリは生きていた。

 何かしたわけではない。

 魔王が勝手に太刀筋を逸らしたように見えた。


「ガタがきているな」


 魔王が自分の手を見つめながら言う。


「シャーロット。我が戻ってくるまで逃げる猶予を与えよう」


「っ…」


「待ちなさい! どこへ向かうつもり!」


 ユリアが杖を構えて問う。


「土のルーンの場所がすぐ近くということは分かっている。後はルーンを壊すだけだ」


「それだけは…」


「それだけはさせないか? 我は今すぐお前達を殺すこともできるのだぞ? 勿論、甚振ってからゆっくりと悲鳴を聞かせて殺すこともな」


「……」


「どうだ? そこの丈夫そうな小僧でも試しに甚振って殺すか?」


「……」


 ユリアの構えていた杖が少し下がる。


「ふん」


 魔王はそうして土のルーンがある祠の方へと歩いて行った。


「体が怠いわね…」


 シャーロットが体を起こして立ち上がりながら言う。


「火傷が酷かったからね。回復魔法はその人の生命力も使うから」


「うう…」


 俺は鈍い体をなんとか起こして立ち上がる。

 すると、それに釣られるように倒れていたみんなが立ち上がった。


「結局、私達だけじゃダメだったわね…」


「申し訳ありません…」


「私も力になれなくてすまない」


 色々言いたいことはあるだろう。

 だが、


「とにかく、今の俺達だけじゃ魔王には勝てない。少なくとも巨人族のみんながきてくれないと無駄に死ぬだけだ」


「…今は逃げるしかないわね。巨人族のみんなと合流してどうするかを決めましょう」


「…分かった」


 雰囲気は重い。


「この匂いは…」


 ヒカリが唐突にそんなことを言い出す。

 と、その時、


「任せたな〜!」


 俺達の上空からそんな声が聞こえた。

 そして、ドンという音と共に人が降ってきた。


「ここからは俺に任せろ」


 そう言ってニヤリと笑う男。

 その男は大きな戦斧を両手で握っていた。

 そこには武装したガルガンがいた。

見てくれてありがとうございます。

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