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第一話 ありがとう

 ランプが辛うじて辺りを照らしている暗がりの檻の中に俺は居た。俺の周りには疲れ切った奴が既に床に就いていた。


 俺も早いとこ寝よう。明日もあるんだから。

 

 次の日。日の出とともに起き、まともな食事も摂らせてもらえないまま鉱石を採取する。それを夜中までやった後は美味しくもない飯をありがたく食べて今日を終える。横になって目を閉じ、目が覚めるとまた鉱石を採取するだけの日々。

 この生活を始めて一年近くは経っただろうか?外は日が登ってきている頃だ。暗がりの檻の中なので外の様子なんて見えないが大体起こされるのがそのぐらいの時間なのでいやでも体に染み付いてしまったのだろう。


 また今日が始まる。また楽しくない今日が……ミーシャは元気でいるだろうか。


 俺は眠い目を擦りながらあの村での日々の事を思い出していた。毎日が楽しく、次の日を待ち望んでいたあの頃の日々を。



〜今から1年ほど前の事〜


 俺が目を覚ますと目の前には真ん丸の目で不思議そうにこちらを見てくる少女が居た。


「あなたはこんな所で何をしてるの?」


「あ…」


 話そうと思っても上手く話すことが出来ない。それもその筈、俺は話した事が無いのだから。じゃあ、なぜ話そうとしたのかと聞かれれば、話してみたかった。ただ単純にそれだけだ。


「ちょっと待っててね!おばあちゃん呼んでくる!」


 そう言って走り去って行く少女。俺はその少女を右手だけで追いかけた。すると、俺の右手には苔が生えていた。


 どういう事だ?


 不思議に思い辺りを見てみる。すると、どういう訳か自分が木の幹の下に埋もれていた。


「…?なん…?」


 俺は拙い言葉が自然と口から漏れた。取り敢えず、ここから抜け出して辺りの様子を見よう。そう思い俺は全身に力を入れた。どうやら長い間、この状態だったらしい。上に土が大量に乗っていて動かし辛い。


「んっ…」


 俺はなんとか体を起き上がらせる事に成功した。自分の体を見てみると全身が土と苔で覆われていた。


 これじゃあ、土魔法のゴーレムみたいじゃないか


 そんな事を思いながら体に付いた土や苔を取っていると、


「ああ〜!!!自分で出て来れたんだ〜!」


 俺は声のする方を向くとさっきの少女がそこに居た。

 よく少女を見ると背丈的に見て四、五歳ぐらいだろうか?青色の目、金髪の髪をツインテールにしている少女。白のワンピースを着ているがかなり汚れている。あちこち走り回ったりしたのだろう。頬には土を手で拭ったような跡があった。


「おばあちゃん!早く〜!!」


 そういえばおばあちゃんを呼んで来るとか言ってたっけ?


 そんな事を思っていると森の方から少女の祖母と思わしき人物がやって来た。


「はいはい。待って頂戴ね」


 そう言ってこっちまで杖を突きながらゆっくりとやって来る。


「ほら!おばあちゃん、見て!人!」


「おや、まさか本当にこんな所に人が居るなんてね」


 そう言って驚いた反応を見せる少女の祖母。


「でも、何でまた全身裸なんだい?」


 そう言われてハッとした。


 確かに何で俺は裸なんだ?それに何で土に埋まっていたんだ?何かの魔法か何かで土を被せられたのか?そもそもここは何処なんだ?…だめだ、思い出せない。記憶喪失ってやつなのか?でも、それにしては覚えている事が多いような…


 そんな事を考えていたが祖母はそんな俺の様子を見て・・・


「まあ、取り敢えずウチまで来なさいな」


「だって!!」


 そう言って俺の手を掴んでくる少女。


 色々分からないことだらけだけど、今はこの少女の満面の笑みを見ていたい。


 俺は首を縦に振った。


「やった〜!!!」


 少女は嬉しそうにはしゃいでいる。


 村に着いてからは色々世話をしてもらった。まずは、体を綺麗に洗い、服を着た。それからテーブルの席に着いて色々話を聞かせてもらった。

 最初は俺の事をガン見しているこの少女について。名前はミーシャというらしい。もうすぐ五歳になるらしく、両親はお祝いをするために一番近い町まで少しの間、買い出しに行っているらしい。この村の人の分も買い出しに行っている為、馬車を使っているんだとか。

 因みにこの村はドーパンという名前の村らしく、ライザレンジ大陸の南西に位置しているという事だった。でも、それを聞いてもピンとこなかったので何で俺があんな場所に居たかは分からなかった。

 それから親切にしてくれるこのミーシャの祖母はドリアというらしい。数年前に夫を亡くしてからは自分の娘夫婦と孫の四人家族で暮らしているという事だった。今日は薬草が無くなったので村から少し離れた場所まで歩いていたらしい。そんな時に俺を発見したんだとか。

 もしあのまま見つからなかったら俺は途方に暮れていたに違いない。運が良かった。


「ねえねえ、おばあちゃん。ミーシャ、この村のこと案内したい」


「そうだね、そんなに大きい村じゃないから二人で行ってきなさい。私はご飯の支度をしないといけないから」


「わかった〜〜」


 ミーシャが笑顔で俺の腕を引っ張ってくる。


 ミーシャは元気がいいな。


 それから俺はミーシャに引っ張られながら村を案内された。

 この家にはどんな人が住んでいるのか、名前だったり、よく遊んでくれるとか、この家の人は怒ると怖いなど、ミーシャ目線の感想を交えながら村の家を全て見て回った。

 すると、家へ戻る途中にとある男の子がこちらに近付いて来た。


「よう、ミーシャ」


「あれ?レインじゃん」


 どうやらこのミーシャと同じぐらいの背丈の茶髪少年はレインというらしい。因みに俺を少し睨んでいる。


 子供でも睨まれると怖いんだけど…


「…?ああ、この人は……」


 ミーシャが俺の方を見て何か難しそうな顔をしている。


 どうしたんだろう。


「そういえば、まだ名前を知らない。教えてもらってない!」


 ああ、そういえばそうだった。俺はまだ名前を言っていなかった。……名前…?俺に名前はあるのか?覚えてないって事はもしかして名前は無いのかもしれない。


「名前が無いと色々困っちゃうよね…ん〜〜……」


 そう言って難しい顔をするミーシャ。


「自分の名前も分かんないのか?変なの」


 そんな怪しい奴を見る顔で俺を見るのはやめてくれ。俺だって分からない事だらけなんだから仕方ないだろう。


「よし!あなたの名前はソラよ!」


 俺に指を指しながら言うミーシャ。


 俺の名前を考えてくれたのか。こういう子の事を良い子と言うのだろう。


「今日は雲が一個も無くて晴れてて青い空が見えてたから名前はソラ。どう?」


 そう言って俺に微笑むミーシャ。


 本当にこの子には色々と助けられるな。


 そんな事を思いながら俺はミーシャの頭に右手を乗っける。そして、優しくミーシャの頭を撫でた。


「ふふん」


 満足そうに腕を組むミーシャ。


「ありがとう」


 それは俺の口から出た初めての言葉。


 今…ありがとうって…言った…?俺が…?


「「!?」」


 その場にいた全員が驚いていた。


「なんだ、喋れんじゃん」


「……なんか喋れた」


「良かったじゃん!」


 驚いている俺にミーシャは嬉しそうに言う。


 もしかしたら、時間が経ったから何かしらが治ったのかもしれない。


「見たこと無い人だったから来てみたけど変な奴なんだな」


「いや、そんな事は…」


 この子から見たら変な奴かも……


「そんな事言わなくても…」


「まあ、取り敢えず、俺はもう家に戻らないといけないから。じゃあなミーシャ。後、変な奴」


 それから俺とミーシャは家へと戻った。

 ドリアとは話す事が出来るようになったので色々質問をした。ざっくりと常識を教えてもらったり、この世界の事について聞いた。

 そして、分かった事がある。基本的には俺が知っている知識なんかはドリアの知識と比べて違いはほとんど無いという事だ。大きく違うのは地名ぐらいだった。ほとんどの地名が分からなかった。もしかしたら、俺の知っている地名を調べたら何か分かるかもしれない。でも、それには時間が掛かるだろう。今はもう少しこの家にお世話になる事になった。



 この村に来て一週間が経とうとしていた。

 俺はミーシャの相手をしたり、分からない事をドリアに聞いたりして過ごしていた。たまに村の人から若い手が借りたいと言われて木材を運んだりした。

 この一週間、実に楽しい日々を過ごしていたのだが、一つ気になる事があった。それはミーシャの両親が帰宅する予定の日を過ぎても戻って来ないのだ。


「パパとママはいつになったら帰って来るのかな…」


 少し遅めの夕食を食べていると、珍しくミーシャが元気無さそうに言った。


「大丈夫だよ。護衛としてダイラもついて行ったんだから。もうすぐ戻って来るよ」


「うん…」


 元気の無いミーシャを見ているとこっちまで元気が無くなっちゃいそうだ。それぐらいミーシャは元気な子だ。何か元気付けてあげる方法は無いだろうか……そうだ!


「なあ、ミーシャ」


「ん?なに?」


「明日さ、ちょっと遠くまで外に行かないか?」


「外に?」


「そう。最近、ミーシャ元気無いからさ。気分を変えるためにあんまり行くこと無い場所に行くのはどうかなって」


 俺に出来るのはこんぐらいしか無いしな。


「ドリアさん、良いでしょ?」


「ん…そうだね。行っといで。あんまり遠くに行ったらダメだよ」


「はい。だってさ」


「……うん。じゃあ、明日楽しみにしてるね」


「ああ」


 ミーシャの笑顔はやっぱり良いな。こっちまで元気になる。まだ、前ほどの元気は無いけど。それでも、何かしないよりは良いよな?


 それからは明日の約束に備えて寝る事にした。


 明日は出来るだけミーシャに笑顔になってもらえると嬉しいな。


 そんな事を考えながら眠りについたのだが、明日のミーシャの約束を守る事は出来なかった。



〜ミーシャのとある日の日記〜


 今日は大変な事があった。

 人が土に埋まっていた。助けなきゃ!そう思った私は急いでおばあちゃんを呼びに行った。それから急いで戻ると、そこには泥と苔だらけの人が立っていた。

 それから私の家に来る事になった。

 何でか声が出せないらしい。病気かな?少し心配。後、手が物凄く硬かった。触ったら柔らかいけど押すと硬い手だった。やっぱり病気なのかな?

 それから村を案内した。苔が取れたら髪の色が黒だったのでビックリ。緑じゃないんだ。

 身長はお母さんと一緒ぐらいかな?お母さんが百五十ぐらいって言ってたっけ?横で手を繋いでみると殆ど身長が一緒なのが良く分かった。

 村を見て回っているとレインに会った。いつも通り。

 それから、名前はソラって名前にした。かなり気に入っている。そこで頭を撫でられた。嬉しかった。そして、なんと、ありがとうって言った。初めて喋った。これには私もビックリした。

 そんな感じで今日は物凄く楽しかった。明日もきっと楽しい一日になりそう。

のんびり書いていきたい。

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