第4話 普段もそんなに変わらないですよ
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「ルミナス、あれを見てみろ。」
俺達は今、モルリジューズさんの家を出発してから、約20分ほど経過していた。
まだ目的地には着かないようだが、モルリジューズさんは何かを見つけたらしい。
俺はモルリジューズさんの後を置いながら前方を眺めた。
するとそこには、巨大な塔のようなものがあった。
その高さは雲を突き抜けており、頂上はここからだとよく見えない。
一体なんの塔だろうか。
俺は気になり、聞いてみることにした。
すると、モルリジューズは答えてくれた。
なんでもあの建物は、魔法学校だそうだ。
あそこに入学すれば魔法使いになれるというわけだ。
「魔法学校があるなら、私はモルリジューズさんの家で魔法を学ぶ必要は無いのでは?」
「いや、あそこは魔法使いが通う学校だ。」
魔法使い……?
あれ?俺たちは魔法使いじゃないのか?
「なんか勘違いしてそうな顔だから一応言っておくが、魔女と魔法使いは別の種族だ。」
「えっ」
そうなのか…てっきり同じものだと思っていた。
モルリジューズはため息をついた。
「セレスティアはこんな常識でさえルミナスに教えなかったのか…」
い、いやまて! 母さんは悪くないぞ!! 俺は心の中で反論する。
確かに、この世界に来てから、母さん以外の人とあまり喋っていないから、世間知らずなのは事実だけどさ……
でも、母さんは俺のことを愛してくれているはずだ。
うん、それだけでいい。
とりあえず俺はモルリジューズに色んなことを教えてもらうことにしよう。
「すみません……無知なもので……。良ければなんですけど、色々とご教授願いたいです。」
「………」
モルリジューズまたしてもため息をついた。
「めんどくさい……」
「ほら!授業の一環だと思って!モルリジューズさんは私の先生でしょう?」
私が必死になってお願いしていると、ついに折れてくれて、渋々了承してくれた。
やったぜ。
それからモルリジューズは様々なことを教えてくれた。
まず魔女と魔法使いの違いはというと、魔女は魔族、魔法使いは人間、ということだ。
魔女は魔族の中の一種で、生まれながら魔力が宿っているそうだ。そして死にはするが不老らしい。つまり寿命が無いって事だ。
一方人間は、限られたものしか魔力が宿らない。魔力が宿った人間は ”魔法使い” や ”魔導師” と呼ばれていて、先程見た魔法学校で魔法を学べるようになるということだ。
「両者とも『魔法』を扱うということが共通点だが、その『魔法』も別物と捉えた方がいい。」
「どういうことですか?」
「これはややこしいから説明が難しいんだが…」
そう言いながらもモルリジューズは丁寧に解説してくれる。
要約すると、人間の扱う魔法は属性ごとに分かれていて、火、水、風、土、雷、光、闇などが存在する。
また、それぞれの魔法の効果も異なる。
例えば、火の魔法であれば、攻撃に特化したものが多く、逆に回復系のものは殆ど無い。
そして詠唱を唱えなければ発動しない。
しかし、魔女の扱う魔法は違う。
魔女の魔法は、属性関係なく自分の思い通りに発動させることができる。
そのため、詠唱も必要ない。
というとこらしい。
「なるほど…勉強になりますね…」
「それは良かった。ちなみに分別を図るために、魔女が扱うのは『魔法』、魔法使いか扱うのは『魔術』と呼ばれている。」
へぇー、魔法と魔術か。
覚えやすいし、分かりやすいな。
俺は感心しながら、モルリジューズの説明を聞く。
その後も、俺達は雑談をしながら、目的地を目指した。
***
10分後。
「見えてきたぞ。」
俺達は目的地に着いたようだ。
目の前に広がるのは、巨大な都市だった。大きな木に囲まれた街の中心には、一際大きい建物があった。
お城?のような建物だが…何か違う気がする。
街並みは非常に美しく、まるで中世のヨーロッパのような雰囲気だ。
そして街の上空を見渡してみると、魔女が至るところに飛び交っていた。
幻想的な風景だ。
やっぱり魔女の国の名の通り、魔女が沢山いるな。
油断すれば空中でぶつかってしまいそうな程だ。
モルリジューズは俺を先導するように前を飛ぶ。
「私の家はもうすぐだ。行くぞ。」
俺もその後ろを追うように着いていく。
しばらくすると、モルリジューズは一軒の家の前で止まった。
どうやらここが目的地らしい。
「着いたぞ。」
そう言うと、モルリジューズの家の扉が勝手に開いた。
これも魔法かな?
俺は家に入る。
玄関に入ると、そこには一人の女性が立っていた。
その女性は、背が低く、長い赤髪を後ろで束ねており、キラキラした目をしていた。
その容姿はとても美しかった。
彼女は俺を見るなりものすごい速さで抱きついて来た。
「むぎゅうっ」
ちょっ……胸が……苦しい……
死ぬ……
窒息死してしまう……
助けて……
モルリジューズはそんな光景を見て呆れた表情を浮かべていた。
俺はなんとか女性を引き剥がすと、呼吸を整えた。
すると女性は嬉しそうな表情で口を開いた。
「ボクねリーシャって言うの!君のことは知ってるよルミナスだね!モルリジューズから話は聞いたよ魔法を教わるんだってね!」
俺の手を掴みぶんぶん振り、ものすごい早口で喋りかけてくる。
なんだろう……すごく元気な子だ……
それにしても、この子は一体誰なんだ……
モルリジューズが紹介してくれるのかと思ったら、ずっと黙ったままだ。
俺はモルリジューズに視線を向けると、まだ呆れた表情だった。
「こいつはリーシャ、仕立て屋の魔女だ。」
仕立て屋の魔女…そんな風には見えないけどな。
まあこの見た目で手がすごく器用なんだろうな。
リーシャは再び早口で話す。
「ボクね君のために服作ってきたんだよ!すっごく可愛いの作ってきたんだから!」
そういうと、どこから取り出したのか、2つの紙袋を取り出して中身を見せてくれた。
ひとつの紙袋に中に入っていたのは、黒いローブと帽子。
これって魔女っぽい! 俺は感動して、思わず声が出てしまった。
もうひとつの紙袋の中は、ローブの下に着る衣服だ。
こちらもとても可愛らしく、フリルの着いたチェックスカートに黒いブレザー。
そしてリボン。
まるで女子高校生のようなデザインだ。
どちらもとても素敵だ。
「試しに着てみてよ!ボクね頑張って可愛くなるように作ってきたからすっごく似合うと思うんだ!」
「あぁ、そうだな。着替えてこい。」
「わ、わかりました。」
そう言われてしまい、仕方なく俺は部屋を借りて着替えてくることにした。
数分後、俺は全ての衣服を着て、モルリジューズ達に見せる前に、鏡の前に立ってみた。
「これは………」
か、可愛い……!
ものすごく魔女っぽい!!
まるで本物の魔女になったみたいだ。
いや魔女なんだけど。
「なんか初めて自分の顔見た気がする……」
そういや、思い返せば母さんの家には鏡がなかったな。
ってことは本当に初めて自分の顔をまじまじと見ることになる。
ふーん、これが俺の顔か……
金髪でで、目は青く、肌は白い。
そして整った顔立ちをしている。
やっぱり母さん似だな。
まだ5歳だから、身体が十分に育っていないが、このまま育てば母さんのような巨乳に……?
俺は無意識のうちに胸に手を当てていた。
しかし、俺はまだ子供。
これから成長するはずだ。
きっと大丈夫。
俺は自分に言い聞かせるように何度も心の中で呟いていた。
俺が一人で葛藤している間にも時間は過ぎていき、扉越しにモルリジューズか「まだ着替えいるのか?」と心配してきた。
おっと、そういやモルリジューズ達に俺の姿を見せるんだったな。
すっかり忘れてしまっていたぜ。
俺は急いで部屋の外へ出ると、モルリジューズとリーシャがいた。
二人は俺を見るなり固まったように動かなかった。
どうした? もしかすると、あまりの可愛さに言葉を失ってしまったのかもしれないな。
仕方ない、ここは俺から話しかけようか。
「ど、どうですか?かわいいでしょう!」
俺がそう言うと、モルリジューズはハッとしたように口を開いた。
「あ、あぁ。よく似合っているぞ。」
そう言うと、モルリジューズは目を逸らしてしまった。
モルリジューズは照れているようだ。
モルリジューズは褒めるのが苦手なのか?
俺はリーシャの方へ向き直る。
リーシャを見ると、彼女はこれでもかってくらい目をかっぴらいて俺を見ていた。
そしてよろよろと近づいてくる。
何やら様子がおかしいようだが……
「あ、あの……、リーシャさん?どうし……」
「やっぱり!!!ボクの!!想像通り!!」
「おぉう……」
リーシャはものすごい勢いで喋り始めた。
俺はその圧に押されて、一歩下がってしまう。
するとリーシャはさらに詰め寄ってくる。
ちょっ、近いって! 俺の肩をガシッっと掴み、リーシャはさらに興奮した様子だ。
「いやぁ寝る間も惜しんで作った甲斐があったよ!あっ、この服に使ってる生地はすっごい仕掛けがあってね!体の成長につれて服が伸びて……」
俺は、ものすごい早口で喋り続ける彼女に、恐怖を覚え始めていた。
なにこれ怖い。
なんでこんなにテンション高いんだ……
俺は助けを求めようとモルリジューズの方を向いた。
だが彼女は、なぜかリーシャに背を向けるようにして立っていたため表情が見えなかった。
だが後ろ姿を見ただけで何を考えているかはわかる。
絶対に「めんどくさい……」と思っているに違いない。
リーシャはようやく我に返ったようで、俺から手を離してくれた。
「やーごめんねぇ〜ボク服のことになると興奮しちゃって思わず早口になっちゃうの!」
リーシャは頬を赤らめて申し訳なさそうにする。
「いや、普段もそんなに変わらないですよ……」
***
それから何時間か時は経ち、夜になった。
ちなみにリーシャは帰った。
なんでも、明日の仕事の準備があるとかなんとか。
俺はというと、今は風呂に入っているところだ。
お湯に浸かる感覚はとても気持ちいい。
転生して、この身体も随分と慣れてきた。
最初は違和感しかなかったが、今ではもう当たり前のように感じる。
しかし、俺は前世では男だったのだ。
それが突然女として生きることになった。
正直不安もある。
これからの生活もそうだし、これから魔女になるんだ。
災厄の魔女の娘。
果たしてどんな扱いを受けるのか……
俺は、母さんのようになりたいと思ったことはある。
だけど、実際にそうなると怖くて仕方がないんだ……
それに、災厄の魔女の娘であるということがバレれば、他の魔女達からも狙われてしまうだろう。
それだけは嫌だ。
「いや待てよ…?」
それなら隠せばいいじゃないか。
別に俺が災厄の魔女の子供だと言わなければ、ただの女の子だ。
俺が災厄の魔女の娘だなんて誰もわからないはずだ。
うん、そうしよう。
俺は風呂から出て、身体を拭き、服を着た。
俺は部屋を出てリビングへと向かうことにした。
リビングにはモルリジューズがいるはずだ。
俺はリビングへと続く扉を開ける。
…………あれ? モルリジューズが見当たらない。
どこにいるんだろうか? 俺は家の中を探し回った。
しかしモルリジューズは見つからなかったので、試しに玄関を開けてみたら、そこにはモルリジューズがいた。
どうやら、空を眺めているようだ。
モルリジューズは俺に気づくと、少し驚いたような顔をしたがすぐにいつもの顔に戻った。
どうやら俺のことを待っていたようだ。
何か用でもあるのかな?
するとモルリジューズは神妙な表情で話しかけてくる。
「ルミナスは、母親が大事か?」
どういう質問だ?
もちろん大事だ。
母さんは俺にとってたった一人の家族だからな。
答えは決まっている。
俺は迷わずこう言った。
「当然です。」
俺がそう言うと、モルリジューズはさらに暗い表情になった。
どうしたんだろう?
俺が不思議に思っていると、モルリジューズは口を開いた。
「ルミナスは、もし自分の母親がいなくなってしまったら、どう思う?」
モルリジューズの言葉を聞いて、俺はハッとした。
確かに俺は今まで考えたことがなかったかもしれない。
母さんがいなくなることなんて想像もしていなかったからだ。
俺はどうする? どうなる?……きっとすごく悲しいと思う。
でも、それでも……
俺の母さんは一人しかいない。
「……分かりません。でもすごく悲しいと思います。」
「……そうか。」
モルリジューズはどこか儚い表情で、魔女の国の街並みを眺めていた。