第3話 現実はそう甘くない
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翌日。
俺は朝食を終え、荷物をまとめて家の外に出た。
すると、そこにはモルリジューズさんがいた。
昨日もそうだったが、相変わらずの強面だ。
正直言って少し怖い。
そんなことを思いながらも、俺は彼女に挨拶をした。
「おはようございます、モルリジューズさん。」
「ああ、おはよう……」
ん? なんか彼女の様子がおかしいぞ? 何かあったのか? 俺は首を傾げた。
「どうかしたんですか?」
「いやな……、お前の後ろにいるセレスティアが……」
振り返ってみると、そこには鬼の形相の母さんが立っていた。
な、なんだ!?
そんな顔してる母さん1度も見たことないぞ!?
一体何があったんだ……!
「な、なんでお母さんはあんなに怒ってるんでしょう……?」
「いや、あれは怒ってる訳では無い。」
「え?」
どういうことだ?
あの怒り狂った表情が怒っていないだと? とても信じられないが、どうやら本当のようだ。
モルリジューズさんは続けて言った。
「あれは、娘が遠くに行ってしまう寂しさで泣きそうになっているのを我慢している顔だ。」
えぇ……マジかよ。
全然そんな風には見えないんだが……。
でも、よく見ると確かに目元が赤いような気がする。
なら本当なんだな。
俺は精神年齢30代ぐらいだし、そんな心配することも無いと思うんだがなぁ……。
まぁ、そんなことはこの人達は知る由もないか。
見た目幼女だし。
とりあえず俺は、そんな母さんに対して励ましの言葉をかけてみる。
しかし母さんは俯いて完全に黙ってしまった。
流石にちょっと可哀想になってきたな。
どうにかして元気づけてあげたい。
そうだ、これなんていいんじゃないか?
俺は考えた作戦を実行してみることにする。
俺は地面に膝をつけてしゃがみ、両手を広げて母さんにハグを求めた。
これで機嫌が良くなるかどうかはわからないが、何もしないよりマシだと思ったのだ。
俺がそうやって行動に移してみると、母さんは俺の方に近づいてきて俺のことを抱きしめた。
よしよし、と頭を撫でられる。
うむ、悪くない。
むしろ心地良い。
前世では、俺は親からこんな風にされたことは無かったからな。
しばらく俺は母さんにされるがままになっていた。
数分後、満足した母さんは立ち上がり、「落ち着いたわ、ありがとう」と笑顔で行ってきた。
「それならいいんです。」
母さんが落ち着いてくれたようで良かった。
だが、その数秒後にまた母さんの顔が曇り始めた。
なんだなんだ?
まだ落ち着かないのか?
今度はなんだ?
母さんはゆっくりと口を開いた。
その口から発せられた言葉に俺は耳を疑った。
「今までありがとうね」
……は?
今なんて言った?
『今までありがとうね』?
まるで、もう一生会えないみたいな言い方じゃないか。
俺は慌てて母さんに問いかけた。
……が、母さんはその問いに答えようとしない。
またなにか隠し事か……。
俺はこれ以上考えないことにした。
後ろからモルリジューズが「終わったか?」と聞いてきたので、俺は振り向いてその問いに答える。
「あ、はい。お母さん、安心してくれたみたいです。」
「なら良かった。」
「で、早速で悪いが、今から魔法を教える。」
「え、今からですか?モルリジューズさんの家で、ではなく?」
「あぁそうだ。」
早速か!
記念すべき1つ目の魔法はなにを教えてくれるのだろうか。楽しみだ。
どんな魔法なのか想像しながら、俺はワクワクしていた。
モルリジューズさんは何やら俺に向かって手をかざす。
え?まさかその魔法とやらを俺に当てるのか!?
「ちょ、まっ」
次の瞬間、俺の目の前は白い煙で包まれた。
「うわあああ……あ?」
目を開けてみると目の前には……箒?
があった。
あ、なるほど。
魔女の定番アイテムである箒だ。
まず最初に習うのは飛行術か。
「その顔は割かし察しがついた顔だな。」
モルリジューズさんはニヤリとした顔で言う。
そりゃそうだろう。
こんなもの見れば誰でもわかる。
だってアニメとか漫画でも普通に出てくるからなぁ。
「まず、魔女というのは箒で飛べなければ魔女と呼ばれる資格はない。」
「な、なるほど…」
ならばこれは見習い魔女入門試験、というか。
まあ最初に習うんだから意外と簡単だったりするんじゃないか?
モルリジューズは俺の顔を見るなり、再びニヤリと笑った。
「言っとくが、簡単そうだなと思っても、そう現実は甘くないぞ?」
「……え?」
「モルちゃん!いじわるしちゃダメよ!」
「モルちゃんやめろ。」
……なるほど?
***
───数分後。
「うおおおぉぉぉぉぉぉおおおああああああああぁぁぁ!!!」
俺は今何をしているかと言うと……
箒に必死にしがみつきながら、針を刺された風船のごとく飛び回っていた。
箒乗るのくそムズいじゃねぇか!!!
こんなの楽勝だろと思っていた数分前の自分が馬鹿らしく思えてきた。
一方その頃、モルリジューズは俺の姿を見て爆笑していた。
「あはははははは!!」
「笑ってんじゃねぇぇぇえええ!!」
俺は、なんとかバランスを保ちながらも空中で静止する。
「ハァ……ハァ……」
死ぬかと思った……
「ルミナス大丈夫?」
「だいじょばないです……」
「ふふ、お前……、ぐふっ……」
「いつまで笑ってんすか。」
「い、いや、すまん……昔の自分を思い出してな。」
「昔の自分?」
「最初に飛行術で失敗するこのはな、魔女なら誰もがとおる道だ。だから安心しろ。」
「なるほど、少し安心しました。」
モルリジューズに『まずは少しずつ箒に魔力を流してみろ』とアドバイスを受けたので、言う通りにして見た。
すると、箒がゆっくりと上がっていくのがわかる。
「お、おお…」
「箒の速度は流し込む魔力量によって変化する。少しずつ魔力を増やしてみろ。」
「わかりました。」
俺は言われた通り、徐々に流す魔力の量を多くしていく。
スピードが上がり、どんどん上昇していった。
そして遂には雲の上まで到達した。
しかしそこで俺が目にしたのは、太陽と青い空だけだった。
下を見てみると、母さんが住んでいる森が雲に隠れて見えない。
地面が見えない。
だが、不思議と『怖い』とは思わない。
それより、『楽しい』という感情が溢れてくる。
高いところなんて前世では飛行機ぐらいでしか行ったことがないからな。
あんまり長くいると心配されるので、俺は急いで地上に戻った。
コツを掴んだのか、降りる時はすんなりと降りることが出来た。
「おかえりルミナス!」
「はい、ただいまです。お母さん。」
「どうだった?随分高く上昇していたが。」
「とても楽しかったです!」
「そうかそうか。魔力の調整も上達もしたみたいだし、合格だ。」
「ありがとうございます!!!」
ふぅ、これで見習い魔女入門試験は突破できた。
「魔力の調整は様々なことで役立つ。これからも忘れずにな。」
「はい!」
***
これで俺は飛行術をマスターしたので、モルリジューズの家を目標に旅立つことになった。
それはそうと……
「ハンカチ持った?」
「持ちました…」
「鼻かみは持った?」
「持ちました!!」
「変えの洋服と下着はちゃんと持っていってるわね?」
「持ってますって…」
「杖は……」
「だからちゃんと持ってますって!!!」
母さんが心配性すぎる……。
この会話、昨日と今日合わせて5回くらいしてるんだが!?
どれだけ俺を心配してるんだ……
母親って言う生き物はみんなこんな感じなのか?
母さんは先程のような鬼の形相ではなく、餌を取られた小動物のような顔でこちらを見つめていた。
そんな顔されても困ります。
出発前にこんなやり取りをしてから、俺は家を出発した。
「セレスティアが住んでる森から北に進み、山をを超えると、魔女の国の中心部『ウィッチ・パウリオ魔導都市』という街に着く。」
「モルリジューズさんはそこに住んでるんですか?」
「あぁそうだ。」
モルリジューズさんは箒に座りながら答える。
俺もその後ろを追う。
「ちなみに後どのくらいで着くんですか?」
「約30分程だな。」
「うーん、長過ぎず、短すぎず……」
「話しながらなら、あっという間だ。」
「それもそうですね。」
そして俺とモルリジューズは、楽しく雑談しながら、魔女の国中心部に向かうのであった。